第11話 英雄だって、罠を張りたいっ!
《悪戯邪霊の洞穴》、その非公式入り口から入った俺達に待ち受けていたのは、さまざまな種類のゴブリンのオンパレードだったっ!
「ゴブォォン!」
身体が火焔に包まれた、炎のホノブリン!
「シャァアアアア!」
何故かゴブリンの顔になってしまった突然変異、蛇のゴブジャー!
「アチャゴブゥ!」
弓を構えて放つ弓兵、ゴブリン・アーチャー!
「ゴブゥ~♪ ゴブゥ~♪」
歌うように襲ってくる歌姫、ゴブディーバ!
「シャァアアアア!」
あぁ! もう1体、ゴブジャーが現れ……いや、違うぞ!
アレは赤い! 通常の3倍速い、シャアジャーだ!
とにかくそれらを含めて、たった30分ほどで出会ったゴブリンは、これらを含めて10種類以上!
それら全てを、イデアたった1人で対処していたのだ。
これは別に、俺がずる休みをしているんとかじゃなくて、彼女が自分から提案したことなのだから。
そうっ! 自らのトレーニングとしてっ!
「さぁ! さぁさぁ! もっと、もっとかかって来なさいっ!」
初めておもちゃを貰った子供のように、剣を嬉しそうに振るうイデア。
バトルジャンキーな彼女にとっては、待ってもいないのに獲物がやってくるという状況なので、嬉しさしかないのだろう。
このダンジョン裏口からの通称である《女騎士の墓場》の名の通り、このダンジョンでは女騎士----つまりは"女性"と"騎士"に対して、強力なデコイを発生させる。
女性だったり、騎士だったりが入ると、対象の人物を狩るためにゴブリンが襲い掛かってくるのだ。
----《姫騎士》であるイデアにとっては、この裏口にとっては、格好の獲物なのだろう。
普通ならバッドステータスにしかならないのに、イデアは嬉しくて溜まらないみたいだ。
「さて、俺も仕事。仕事、っと」
俺は俺で、仕事を行っていく。
まぁ、彼女が倒して放っておいた魔石の回収という、案外地味な仕事だけど。
それと一緒に、彼女が気付いていないゴブリン----蝙蝠の身体を持つゴブリンなバッドゴブリンとか、後ろから迫ってくるアサシン・ゴブリンとかを倒している。
いくら一騎当千級の活躍をしてたからと言っても、やはり取りこぼしというのはどうしても出てくるし。
「(あと、観察も重要だしな)」
ちゃんと観察して、見極めないといけないしな。
そうじゃないと、今回の作戦を完遂出来ないじゃないか! うんっ!
----まぁ、一階層ではまだ効果は薄いらしい。
大丈夫だ、このダンジョンは三階層まであるし、それに三階層に居るボスは"絶対に倒せない"んだから。
☆ ☆ ☆ ☆
それから順調に、俺とイデアはダンジョンを進んでいった。
----ただし、イデアの不調を引き換えに。
「はぁはぁ……」
明らかに、ダンジョンを進むごとに、彼女の動きが鈍くなっている。
たくさんゴブリンを倒しているという疲れもあるだろうが、それでも明らかにおかしなくらいに、彼女の体調が悪くなっている。
三階層への階段を上がる時なんか、壁伝いじゃないとまっすぐ歩けないくらいに。
「(やっぱり、十分に呪いは効果を示しているみたいだな)」
そうっ! この《女騎士の墓場》の恐ろしさは、これなのだ!
女性と騎士がデコイとして誘因されるのも要因の1つだが、こっちの方が主な要因とされている。
----弱体化の呪い。
このダンジョンを進めば進むほど、対象となる彼らはまともに動けなくなる呪いを受ける。
弱体化、どんどん奥に行くほどに弱くなっていくのだ!
対処方法はただ一つ、"対象の人物以外は入らない"だ!
呪いを弱める方法も、呪いを止める方法も存在しないのだから、入るな! である!
「(そうっ! 俺の作戦は、イデアの危機的状況を意図的に作り出す作戦なのだ!
ダンジョンの呪いによって弱体化した、イデアをカッコよく英雄的に助け出す! それが俺の作戦なのだぁ!)」
どうだ! 完璧な作戦だろう!
これ以上はない、ってくらいに、完璧な作戦である!
これならばイデアも、俺と同じような考えを理解してくれるだろう!
そうっ、俺と同じように、《カッコよく一撃で倒す》という考え方を理解してくれるだろう!
「(しっかし、けっこう頑張るな。こいつも)」
女性で、なおかつ《騎士》なんだから、他の対象者よりも強めに弱体化の呪いがかかっているはずだ。
だというのに、まさか三階層までやって来れるだなんて……なんてタフなっ!
「(流石、俺の召喚した《姫騎士》だな! 俺の仲間として、すっげー相応しいじゃないか!)」
後は、この考え方さえ直せれば、言う事なしだ!
----安心しろよな、イデア! この奥の三階層のボスの間、そこにいるボスモンスターとの戦いで、俺が完璧に魅せてやるからな!
そして、辿り着いたボスの間。
----そこにいたのは、ゴブリンであって、ゴブリンではなかった!
【グォォォォン!】
部屋の中にいた怪物、それはゴブリンの顔を持つオーガ……そう、普通にそのままオーガだったのだ!
でっぷりとした大きなお腹を持っており、ゴブリンの上位種なんじゃないかって言われている、大鬼であるオーガ!
そんなオーガの顔の右半分にゴブリンの顔をくっつけた、なんとも微妙な姿!
棍棒を持った、《女騎士の墓場》のボスなのであるっ!
「(と言うか、普通にオーガとして出せよ……)」
蛇あたりから思ってたけど、無理やりゴブリンにしてる感が半端じゃない!
オーガはゴブリンの親戚みたいなのだし、普通にオーガがボスでも良かった気がするけどなっ!
----ともあれ、ここまでイデアには、つらい身体の中、よく頑張ってくれた!
後はそう、このボスオーガを俺の手で、カッコよく倒せば、俺の目的は達成だ!
俺は得物である剣を抜き、そしてイデアの前に立つ。
「さぁ、イデア! ここからは俺に任せろ! お前が頑張ってくれた分、ここからは俺のターンだ!」
そうっ! ここからの、俺の輝かしい活躍を、ちゃんと目に焼き付けておくんだ!
「《聖王都流剣術 聖刃斬砲撃》!」
----だというのに、彼女は踏み込んで俺の前に出ると、そのまま走っていく。
自らをまるで回転して放出される大砲の弾のように飛んでいき、オーガの腹に突っ込んでいく。
回転するごとに剣の威力は増していくようで、どんどんオーガの腹に傷が深々と抉られていく。
だがそれを補うくらいの速さで、オーガの傷が修復されていく。
実質的に、プラマイはゼロだなっ!
むしろ、やってるイデアの体力が削られてる!
【クキャ! クキャグギャ!】
オーガは不気味に笑いながら、ガシッと彼女を掴んでそのまま地面へと叩きつける。
叩きつけられたイデアはものすごい勢いで転がりながら、こちらへと転がって来た。
「おいっ、大丈夫か! イデア!」
なんでいきなりボスに突っ込むなんて、ばかげたことを!
何の策もなく、向かって行くだなんて、無謀以外のなにものでもないだろうが!
「あぁ……いい感じにダメージを与えられました……。まん、ぞく……」
「なにが、満足だっ!」
バシッ、と俺は彼女の頬を叩く。
なんか呆けた顔をしているが、もう知るか!
「----良いか! 俺はお前の戦闘スタイルが、気に入らない! そう思って、色々と策を練った!」
「えっ……スバル様、気に食わないって……」
「だけど、違った! イデア・ラクシャーツ、お前の戦闘スタイルを苦手だと思っていたのは!
----単にお前が、馬鹿な脳筋姫だったからだ!」
そう! 自ら危険なところに突っ込みたがるだなんて、バカ以外の何者でもないだろう!
人間がなんで危険を感じると、身体がこわばってしまうのか知っているのか!
危険なところに自ら、躊躇なく入っていくだなんて、そんなの怖いもの知らずでも、勇者でも、ましてや英雄でもなんでもない!
ただの、自分なら大丈夫だと勘違いしている、大馬鹿野郎だ!
「良いかっ! 俺達は2人もいるんだ! それだったら、2人で互いに協力して攻略すればいいだろう!
それなのに、バカみたいに1人で戦うわ! 俺がやるって言っているのに、1人で突っ込むわ!」
これを間違っていると言わずに、なんだと言うのだ!
「良いか! これから俺がちゃんとした、戦い方と言うのを見せてやる!
それを見て、ちゃんとした戦い方を学びやがれよな!」
これから見せるのは、俺の戦い方! たった1人での、ボス討伐だ!
イデアなんかとは違う、英雄らしい戦い方ってヤツをな!
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