第10話 作戦を、開始したいっ!

 ハルトのアドバイスを参考にして、俺は計画を立案した。

 目的は、イデアに俺が目指す英雄像----《カッコよく一撃で倒す》というのを認めてもらうため、である。


 今のイデアの考えは、俺の両極端の位置。

 一撃で終わらせるんじゃなくて、一つずつ相手の出来る事を潰しての完全勝利。


「(言うなれば、イデアの戦い方は王様の戦い方)」


 圧倒的な力を持つ王が、暇つぶしでもするかのように、相手の全てを潰す粛清のような戦い方。

 攻撃の手を潰し、防御の術をなくし、逃げる足をへし折る。

 そういう、権力者のような戦い方である。


 ゴースト・ビスクドールとの戦いだって、俺が火焔で手を斬り落とした後、彼女はその王様のような戦い方で、ゴースト・ビスクドールを潰していった。

 もう片方の手を落として攻撃手段を潰し、目を潰して視認することをなくし、足をなくして移動と回避手段の要を落とした。


 俺から言わせてもらえれば、あんまり俺が好きじゃない戦い方であった。

 倒れるか倒れないかのギリギリのラインを狙って、権力者が下々の者に対する戦い方。


 《姫騎士》というジョブではあったが、イデアの戦い方はどう考えても《騎士》らしさは欠片も感じなかった。


 ----俺は、彼女の戦い方は、好きになれないっ!


 だから、ハルトのアドバイスを聞いて、彼女の考え方を変えるため、輝くことを決意したのだ。




 まず、この作戦の重要な点は、3つっ!


 ひとぉーつ、"魅せて勝つ"!

 一撃で勝ったとしても、イデアが感動しなければ、自分もこうなりたいと思わせなければ、する意味がない。

 だから、見せ場は必ず必要だ。相手がカッコいいと思う、そういう見せ場は絶対に。


 ふたぁーつ、"命の危険に晒さない"!

 罠を張ってイデアの体力を削って、ボロボロの状態のときに、目の前で倒す。

 ……それもカッコいいかもしれないが、今回は使わない。

 俺は、俺の考え方を理解してもらうためだけだから。

 そのようなことはせずに、俺は彼女に自分の意見を分かって貰う!


 みぃーっつ、"無様な目は晒さない"!

 カッコいい英雄像を見せるのに、無様な真似を晒すわけにはいかないっ!

 だから、例えばユウキあたりにモンスターをギリギリまで弱らせてもらったのを狩るなんていう、バレたら恥ずかしいような作戦は使わないのだ!



 以上の3つの点を重点的にして、俺は4日間、作戦を実行できる機会がないかを伺った。


 その間、イデアは自分の方からダンジョン探索をしようと誘ってきた。

 いつもだったらユウキとダンジョン探索する日ではあったが、今回はちょっと遠慮してもらった。


 いまはユウキではなく、イデアをなんとかするための方法を考えているのだ。

 そのためにはイデアの行動を観察し、なにか弱点というか、弱い所を探さないとならなかったからな!

 まぁ、ユウキには後でちょっと謝れば良いだろう。うん。


 ----で、4日間の間、イデアと共にダンジョンに潜った結果、分かったのは、彼女が努力家だということだ。


 探索の基礎である警戒歩行とか、宝箱の鍵を開ける解除方法とか、そういうバトル以外のところも、積極的に学ぼうとしていた。

 また、戦っていないときでも、時折、剣を振ったりして、修行してたりして。


「(ほんと、努力家でいい奴なんだよな)」


 ただただ、戦い方が独裁者な戦い方なだけで。


 恐らく、初めに彼女の芯となった人物、ハルトが言う所の憧れの人物。

 彼女が憧れたのが、今の彼女のように独裁的な戦い方をする人物だったのだろう。

 そして、それに憧れたから、今はこういう戦い方をしている。


 けれども、人生ってのは長いもんだ。


 60とかの婆さんの生活習慣を変えるとかじゃないんだ。

 たかが十数年生きているだけの《姫騎士》のバトル方針を変えるくらい、カッコいい俺なら余裕だぜ!



 そうして、俺は悩みに悩みぬいて、1つの結論に達した。

 そう、ここでなら彼女のバトル方針を変えられるとね!


 《イデア・ラクシャーツのバトル方針変更計画》、始動だぜ!




☆ ☆ ☆ ☆


「ここが今日のダンジョン、ですか。スバル様!」


「あ、あぁ……そうだぜ」


 俺がイデアと共にやって来たダンジョンは、《悪戯邪霊の洞穴》。

 もっと分かりやすく言ってしまえば、《ゴブリンの巣》。


 そう、ユウキと一緒に冒険していたあのダンジョンに出てきていた、ゴブリンがたくさん出るダンジョンだ!


「イデア、このダンジョンに出てくるのはゴブリン……前に戦った、あの小さな小鬼達だ」


「ゴブリン~?」


 俺がゴブリンの名を口にすると、あからさまに彼女の顔が曇っていた。


 ゴブリンと聞くと、女性冒険者の多くはあの醜い外見が嫌いだと、だから顔が曇るだろう。

 けれども、イデアのこの表情は、「あんな弱いのと戦わなければいけないの?」というような表情だ。


 ----このバトルジャンキーめぇ……!


 だがしかし、そう言われるのは想定内なのだ!


「安心しろ、イデア。確かにただこのダンジョンに入るだけならば、英雄的に見ても面白くない攻略だ。

 ----ただ、このダンジョンは裏の、そう強々つよつよな道も存在するのだっ!」


「つよ、つよ……?」


 俺は真正面にある入り口を見せて、そのまま彼女の手を取って裏側へと回り込む。


 真正面にある、綺麗な赤い鳥居が特徴の正規入り口。

 それと違って俺が連れてきたのは、傷だらけでボロボロな青い鳥居が特徴の非公式入り口、といったところだろうか。


 ----まっ、この裏側も、普通にギルド公認の公式の入り口なんだけど。


「これは……2つ目の、入り口?」


 ちょっぴり気分を持ち直したイデアに、さらに彼女の気持ちを盛り上げる言葉を紡いでいく。


「さっきの正規入り口では、3階層程度で、ゴブリンと大きめのゴブリンホブゴブリンくらいしか出てこないんだけど、この非公式の方を進むと違う。

 同じ3階層であっても、出てくるゴブリンは多種多様。はっきり言わせてもらえれば、公式と非公式では危険度スリルは倍以上違ってくる」


「倍以上……!?」


「しかも中には、このダンジョンにしか出てこない特殊なゴブリン----スカルフェイスゴブリンが出てくるみたいだぜ!」


 別名、死神ゴブリン。

 どういうゴブリンなのかは、今ここではなっ、いっ、しょっ、だっ!


「さぁ、行くぞ! イデア!

 良いか! ただのゴブリンと侮って、気を抜くんじゃないぞ! もしかすると、この前のゴースト・ビスクドールよりも厄介な相手が出てくるかもしれないぞ!」


「はいっ、スバル様! 私、今日も頑張らさせていただきますっ!

 ----あぁ、見たこともないゴブリン。見たこともない、強敵。どういう相手と戦うのか、今から興奮しちゃいます……」


 大丈夫だろうか、イデア……。

 なんか鼻のあたりを押さえていて、今にも鼻血が出るのを押さえているような感じが。


 ----興奮しすぎて、本当に鼻血を出したりするんじゃないぞ。おいっ。


「(まぁ、第一段階は無事に乗り越えられた、って所か)」


 ここで興味を失くして帰ろうと言い張るのが、この作戦の穴……つまりは、どうしても越えなければならない部分だったのだが、ここを乗り越えてしまえば、あとはケセラセラ!

 つまりは、とんとん拍子的に、進んでいくっ!


 ----覚悟しておけよ、イデア・ラクシャーツ。必ず、俺と同じような考えに矯正してやるからな!


 《悪戯邪霊の洞穴》、正規入り口から入っての通称は、《ゴブリンの巣》。

 だが、今から入るこの非公式の入り口には、別の通称がついているのだ。


 その通称はと言うと----《女騎士の墓場》。


 《姫騎士》であるイデア・ラクシャーツの考えを変えるのに対して、これ以上ないくらい、良いダンジョンなのだよ。

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