第9話 親友と、相談したいっ!
洋館ダンジョンのボスモンスター、ゴースト・ビスクドール。
そいつを倒したことで得られた魔石は、遥かに高額だった。
いつも俺がユウキと共にダンジョンで手に入れるのよりも、遥かに、だ。
----だが、あのダンジョン探索は、最悪だったと言わざるを得ない。
「(ちくしょう! 思い出すだけで腹立たしいっ!)」
学校に着くも、俺の怒りは収まらないっ。
思い返すだけでも、むかむかしてくる。
《姫騎士》イデア・ラクシャーツは有能ではあったが、無能であった。
なにせ、俺が腕を斬り落として、後は彼女が聖属性の攻撃をしてくれれば済む話だったのに、バトルジャンキーな彼女は、戦いを"長引かせた"。
わざわざ聖属性を纏わせずに、自身の剣の冴えを磨くためだけに、戦いを長引かせた。
別に剣の修行をすること自体が悪いとは思わないが、けれども他人に迷惑をかけては、ならないだろうが……。
彼女は、自分1人で戦うのではなく、俺にも戦わせるよう誘導していた。
戦いを、俺の技を見るために「是非に! 是非に!」とか言ってるくらいに。
そりゃあ、俺の必殺技の1つである《火蛇の型》がカッコいいのは分かる。
けど、だからと言って、長引かせるべきか?
それよりも、カッコよく、スピーディーに終わるのが、英雄っぽくないのか?
あいつとは、イデアと俺とは、考え方が根本的に違うみたいだ。まったくっ!
「おっ、スバル! なんだ、今日はえらい荒れてないか?」
「ハルト……」
むきっ、むきむきっ! と、今日も筋肉を見せるのに余念がない、ハルト。
その爽やかな笑顔は、俺の荒んだ心も洗い流すようである。
「昨日は、なんかえらい楽しそうにしてなかったか? なのに、今日は荒れている。これはもしや……」
むむむっ、と考え込む様子のハルト。
ふっ、流石は俺の親友だな。俺の変化にすぐに気付くとは。
この様子ならば、すぐに答えに辿り着くだろう。そう、昨日のダンジョンでなにかがあったんだって。
「(流石はハルト! 俺の親友!)」
「----分かったぞ! 筋肉が足りてないんだな!」
ニッ、と彼はそうやって、訳の分からない理論を展開し始めた。
「分かるぞ、気持ちはすっげー良く分かる!
お前がダンジョンに固執するのと同じくらい、世の中の人間はもっと筋肉を崇めるべきなんだ!」
腕に力を込めて、大きな力こぶを見せながら彼はそう言う。
「筋肉を育てると、ストレスが減る。なにせ、考えるからストレスが生まれるのであって、筋肉を鍛えてるときはただ無心だからな! 考えなんてケセラセラだ!
さぁ、今日はダンジョンなんかではなく! 俺と共にエクササイズをしようじゃないか! 筋肉を鍛える事、それがすなわち勝利、ビクトリーに繋がるんだぞ!」
「いや、変な宗教に入れないでくれ。ハルト」
俺はダンジョン教に入った訳ではないが、こいつは恐らく入ってしまってるんだろう。筋トレ教かなにかに。
「じゃあ、なにか? ダンジョン関係か? それなら筋肉を鍛えよう!
ダンジョンの問題を解決するのに、ダンジョンにばかり答えを求めてはならない! 時には別のまったく違う視点、例えば筋肉から答えを求めることも重要だぞ!」
いや、お前の場合、別視点にいってないじゃないか。
ただ単に、最終的に筋肉に行きついているだけじゃないかっ!
もうこのままじゃ、埒が明かない。
「ハルト、聞いてくれ。実は----」
☆ ☆ ☆ ☆
俺は、ハルトにイデアの事を話した。
謎のスキルで召喚され、そしてダンジョンで無意味に戦闘を長引かせたことを。
それに対して、俺が怒っていることも。
「ふむっ、なるほど。お前の言っていることは、俺の筋肉によく響いたぜ!」
響いたのは良いが、それだったら筋肉なんかじゃなく、耳とかで聞いてほしいモノだが。
「だがしかし、そう思うのならば、お前が輝くことだ!」
バシンッと、俺の顔に指を突き付けて、ハルトは俺にそうアドバイスを申し出た。
「えっ、輝く……?」
アドバイスの意味が分からないので、首を傾げていると、ハルトは筋肉をムキムキッと、力こぶを作る。
「俺は《格闘家》のジョブを貰った時、同じように《格闘家》として大成している人間がいないか調べた訳だ! やっぱり、成功例っていうのは必要じゃないか?」
「まぁ、確かにそうだな……」
逆に俺は英雄になりたいから、そういった《盗賊》ジョブの成功者を見ないようにしていた。
まぁ、軽く調べたところ、《騎士》や《魔法使い》などと比べると数は少なかったし、やっぱり悪人が多かったんだけれども。
「で、俺は----ダンジョンの外でも鍛えまくり、相手に隙すら与えない連撃の型の《格闘家》っていう奴がすっげー良いなぁって思ってな。で、それから筋トレを始めた訳よ」
「お前が誰に憧れようとも自由だと思うが、それが輝きとどう関係するんだ?」
未だにハルトの言葉の意味を理解できずにいると、「分かってないなぁ~」と何故かガッカリしたような顔をされてしまった。
「要するに、だ。お前がそのイデアなんちゃらに、一撃で敵を倒すのがカッコいいっていう手本に、そいつにとっての輝く目標になれって言ってんだよ」
「……! 目標!」
「そう、目標! なにがカッコよくて、なにが良いと思うのかってやつ。
モンスターを倒すと一言で言っても、お前のように一撃で倒すのがカッコいいと言う奴ばかりではないだろう? 俺はコンボが決まるほうがカッコいいと思うし、恐らくその騎士はギリギリの戦いってか、カッコいい技を使うのがカッコいいと思ってるんじゃないか?」
確かに、ハルトの言う通りかもしれない。
ゾンビやミイラを一撃で倒していた時に俺は興奮していたが、それを為していたイデアはあまり嬉しそうな様子はなかった。
むしろ、俺が《火蛇の型》を披露して斬り落とした時に、嬉しそうな顔をしていたような気がする。
なるほど、価値観の違いって奴か……。
「けど、価値観ってのは、変わるもんだ。すっげーカッコいい戦い方を見たプレイヤーが、その人の真似をしてゲームスタイルを変えるように。
イデアなんちゃらも、もしかすると"カッコいい技をいくつも出して倒すより、一撃で倒す"方向の方が凄いと認めれば、変わるんじゃないか?」
「なるほど、だから"輝く"か」
----彼女が憧れるくらい、キラキラとした何かになれ。
ハルトが言いたいのはそう言う事、なんだろうな。
「(《姫騎士》が考えを変えるほどの、素晴らしい戦い方か。なるほど、これは確かに俺が為すべき課題だな)」
たった1人の考え方を変える事も出来ずに、全ての人間に受け入れられる、カッコいい英雄になることなんてできないだろう。
少なくとも、俺がなろうとしている、カッコいい英雄にとっては朝飯前の課題だ。
「----分かった。参考になったぞ、ハルト」
「おぅ! アドバイスになったのなら、嬉しいぞ!」
それはもう、十分すぎるくらい、良いアドバイスになっている。
俺が今から為さなければならないのは、《姫騎士》イデア・ラクシャーツを魅了する、考え方を変えるくらいの凄いやつだ。
俺はバトルは一瞬で済むのがカッコいいと思っているから、やはり時間をかけずに倒さないと、俺の想いは伝わらないだろう。
そして、やはり見栄えが良くないとなぁ……。
イデアは見栄え重視だと思うのだが、英雄を目指す俺としては、別にそこは譲っても良いと思ってる。
大切なのは、戦いを無意味に長引かせる、カッコ悪いのを辞めさせること。その一点のみなんだから。
「よしっ! そのためにもまずは、ダンジョンの選定だ!」
待っていろよな、イデア!
必ずお前を、俺のパーティーに相応しい考えの持ち主に、変えて見せるぜ!
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