第8話 アンデッドボスだって、倒したいっ!
洋館ダンジョンの奥、廊下の突き当りの広い部屋。
そこが俺達の目的地、ボスの間であった。
古びた洋館には相応しくない銀色の扉、真ん中には青の薔薇が描かれている。
「ここが、ボスの間か。扉越しとは言え、なんか凄い圧力を感じるぜ」
なんか凄い圧力を、ひしひしと感じるんだけれども。
----いや、扉越しというのはただの英雄的ジョークなんだけどね。
「あぁっ! この先にまだ見ぬ強敵が! どのような敵かは分かりませんが、ワクワクが止まりません!」
うん、そうだね。圧力を放っているのは、横にいるイデアさんだね。
武者震いというか、戦闘に愉悦を感じてほくそ笑んでいる彼女は、騎士震いとでも言うべきだろうか。もしくはバトルジャンキーとでも。
「----では、早速っ!」
「ちょっ……!」
イデアが勝手に、ボスの間の扉を開ける。
開けるとともに、突風が俺達を覆い、部屋の中へと引きずり込む。
部屋の中に強制的に入れられると、扉ががっしりと閉ざされる。
----もう、逃げられないな。
試してはないが、ボスの間というのは、そういうモノだから。
"ボスからは逃げられないっ!"というヤツだ。
【クピピピピッ……!】
俺達が中に入ると、"そいつ"は急にやって来た。
いや、「部屋の中央に既にいるのを発見した」と言うのが正しいだろうか。
藍色ドレス姿の、美しい人形型のモンスター。
下半身を覆う長いドレスの下からは、人を閉じ込めるための巨大な鳥籠が見える。
【ピピククッ……!】
ガラスで出来た義眼が赤く光り輝き、くるくると頭を回転させる。
銀のクリスタルで出来た腕に、なにも入ってないはずの鳥籠の中から怨嗟の声と共に黒い手がうねうね揺らめいている。
「あれがゴースト・ビスクドール、か」
なるほど、今まで戦ってきたゾンビやミイラとは、まったく違うモンスターだ。
けれども、あのビスクドールからは彼らと同じように、強力すぎる死の気配を感じる。
「あぁ……! あれがこのダンジョンのボス! 確かに、アンデッドモンスターの気配を感じますが……あぁ、未知のモンスターとの戦いに、身体が、震え、ますぅっ……!」
がたがたと震えながら、未知の強敵との戦いに心を躍らせるイデア。
既に剣は抜いており、刀身に聖属性の魔法を付与していた。
「すいませんっ! イデア・ラクシャーツは、すぐさま向かわせていただきますっ!」
「おい、待て……!」
----この、バトルジャンキーがっ!
イデアは勝手に向かって行き、ボスの間の中央にいるゴースト・ビスクドールにいきなり斬りかかる。
【クピピピピ!】
それを受けるゴースト・ビスクドールはと言うと、クリスタルで出来た腕を身構える。
そして同じくクリスタルで出来た手を、くるりくるりと回転させ、そこに風の渦を生み出す。
【クピィー!】
そうやって回転させている手を、イデアの剣をぶつけて止めていた。
彼女の剣に宿っている聖なる光は、手が回る度にメッキのように剥がれ落ちていく。
「あぁ、もうっ!」
一人、突っ走ってしまっているイデアに対して、俺は長剣を出して向かって行く。
「----《マエストロ・スラッシュ》!」
ゴースト・ビスクドールの持つ手に対し、剣を勢いよく振り落とす。
クリスタルは剣で傷一つ付くことはなく、けれどもイデアと距離を離すことには成功した。
「距離を取るぞ、イデア!」
「……! はっ、はい!」
彼女の首根っこを掴み取って、そのままボスと距離を取る。
ゴースト・ビスクドールは逃げたこちらに追撃することはなく、ただゆらゆらと揺れている。
「ありがとうございます、スバル様!
しかしあのボス、アンデッドなのに聖属性が一切効果がありませんでしたね……」
と言うか、このバトルジャンキーな姫騎士ちゃん----全く反省してないんだけど!
助けたのに、未だに俺への感謝よりも、どうやってあのゴースト・ビスクドールを倒すかを考えているみたいだし。
「えぇい! このバトルジャンキーが! 入る前にちゃんと話しただろうが!
このダンジョンのボスは、人形のようなモンスターだって! つまり、あいつはアンデッドではあるが、ミイラやゾンビとは違うんだ!」
ミイラやゾンビなどの、俺達が今まで普通に倒してきたアンデッドは、肉体が変異したもの。
肉体自体が変異しているからこそ、聖属性の攻撃が普通に届いた。
けれども、このゴースト・ビスクドールは、人形の身体に仮の生命が宿ったタイプのアンデッドモンスター。
肉体自体は硬い人形のまま、その内部に魂が宿っている状態だ。
アンデッドモンスターを倒すには、"直接"、聖属性の攻撃を与えなければならない。
肉体が直接的に変異したミイラやゾンビなどに対しては剣を振るうだけで済んだが、このボスには鋼の肉体に阻まれて届いていない、というところだろうか。
「アイツに大ダメージを与えるには、あの身体に傷でもつけて、そこに直接与えないとならないみたいだな。
----イデア! どうにかして、2人でそういう傷をつけるぞ!」
この戦闘狂な姫騎士に距離を取るという選択肢は提案できないし、そもそも遠距離攻撃なんてこいつには出来ないし。
それなら、後は狙いを合わせる程度しか出来ないだろうが。
「なるほど、スバル様! それは良きお考えです!」
心の底から納得したような、いっそ清々しさを感じるような顔で、彼女は剣を構える。
そして、地面を蹴って跳び、ゴースト・ビスクドールの肩の部分に跳び乗った。
「《聖王都流剣術 聖刃斬円弧》!」
右足を軸にして、イデアはくるっとその場で回転して刃で斬りつける。
ゴースト・ビスクドールの肩辺りで回転することで小さな傷がつけられていく。
----だが、致命傷には足らない。
「俺も、負けれない、な……」
回避用の技である《逃げ腰ステップ》を使って、相手に気付かれないように近寄る。
そして下半身である鳥籠の前まで辿り着くと、ようやく俺に気付いたのか、うねうねと黒い手がこちらへと迫り寄ってくる。
「一撃で凹ませてやるっ! 《マエストロ・アックスラッシュ》!」
斧で薪を割るかのように、剣を大きく縦に振り下ろす。
大きく振り下ろすと共に、鳥籠の扉が歪む。
【クーピー!】
鳥籠の軸がごきりと歪んだ影響なのか、引きずり込もうとしている黒い手は鳥籠の中で出られずにいるみたいだ。
もっと高位のモンスターなら分からなかったが、どうやらこのモンスターはここいらが限界らしい。
「(厄介そうな攻撃手段は潰したし、次はイデアと同じように斬り落とすとするか!)」
長剣をしまうと、一対の短刀を構える。
ぶっちゃけると長剣の方がカッコいいんだが、やっぱり《盗賊》である以上、短刀の方が強いんだよな。
……あんまりカッコよくないのが難点なんだけど。
だが、これはカッコいいぞ!
英雄として活躍するために俺が編み出した、6つの至高なる技!
そのうちの1つを、今から披露してやろう!
「英雄志望な俺の最強戦技の1つ! 《
火打ち石を使って刀身に焔を灯し、そのままゴースト・ビスクドールに斬りつける。
火焔を纏いし斬撃は、ゴースト・ビスクドールの腕を焼き落とす。
ゆっくりと溶け落ち、ボスモンスターの切り口が露わになる。
「おぉっ! 流石は、スバル様の斬撃!」
「世辞は嬉しいんだけどっ! それよりも、せっかく斬ったんだから速く!」
切り口という、ゴースト・ビスクドールを倒す突破口を作ったんだ!
お前の聖属性の攻撃じゃないと、倒せないんだからな!
そんな所で、もっと技を見せろ的な感じでぼーっとしてるんじゃありません!
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