第7話 アンデッドだって、倒したいっ!
俺と、仲間になったイデア・ラクシャーツはダンジョンに入る。
ユウキと一緒にやって来たダンジョンとは別の、スケルトンやレイスといったモンスターが多く出るダンジョンである。
洞窟というよりかは、黒い洋館のような形のダンジョン。
天井や床などを古めかしい模様の壁紙で覆われていて、壁には等間隔で燭台が付けられている。
ゲームで言うと、お化けモンスターが出てくる古めかしい洋館、という感じだろう。
ユウキと一緒に行ってたダンジョンは、低層ではゴブリン、奥に進めばゴーレムやらドラゴンといったモンスターが出てくる、奥へ進めば進むほど厄介になるタイプのダンジョンだとしたら。
今回、イデアと共にやって来たのは、特定の種類のモンスターのみが出てくるダンジョン。
この場合は、
「ケケケッ……!」
「クキケケケ……!」
俺達の前に現れたのは、十数体のミイラ。ミイラの、集団。
薄汚れた包帯で全身を巻いたソイツらは、ふらふら揺れながらも、俺達2人に向かってくる。
手には何も持たず、生者を求めて向かってくるだけ。
「《聖王都流剣術 聖刃斬鉄撃》!」
そんなミイラの集団に対して、イデアは剣を回転させる。
回転と共に、距離があったミイラ達がイデアの近くまで強制的に引き寄せられて、そのままその場に倒れ伏す。
アンデッド、死を乗り越えたはずのミイラ達は、イデアの一撃によって、真っ二つに。
スパンっと斬れて、ミイラ達はゆっくりとその場で崩れ落ちて、魔石となる。
「凄いな、流石は《姫騎士》。《騎士》クラスのジョブの剣術は流石だ」
「お褒めにあずかり光栄です、スバル様」
魔石を拾いつつ、俺は素直に彼女の技を褒めたたえる。
実際、アンデッドなモンスターってのは、他のモンスターと比べると倍以上に面倒くさいと言われている。
なにせ、死を乗り越えているからな。普通の攻撃では倒されない訳だ。
倒すには肉体に聖属性の光的な攻撃を直接与えるか、もしくは再生ができないほどに細切れにするしかない。
俺だったら《マエストロ・スラッシュ》を連発して細切れにするしかない。
けれども、イデアはたった一回の斬撃で倒せるだなんて……やはり、攻撃的な《騎士》系ジョブの強さは、良いなぁ。
彼女の場合は聖属性の力も加わっているのだろうか、余計に羨ましいぞっ!
「(ダッ、ダメだ! 羨んだところで、ジョブは変わらないんだ!
----出来る事を極める! 広げる! それが、俺の英雄としての道なんだ!)」
「キャキャッ……!」
「……う、ん?」
そんな事を考えていると、俺の背後にスケルトンがいた。
動き出す骸骨というべきスケルトンが数十匹、いきなり現れていた。
洋館型のダンジョンらしく部屋の扉を開けてではなく、いきなり壁からすり抜けるようにして、だ。
これだから、ダンジョンって……たまんなく、面白いんだ!
「良いぜ、骸骨野郎! 喰らえ、《マエストロ・スラッシュ》!」
スケルトン達に、俺の斬撃が炸裂する。
俺の大剣による斬撃は、的確にスケルトンの首の骨を叩き折る。
叩き折り、スケルトンの頭が吹き飛び、空中で魔石へと変わっていた。
「やっぱ、モンスター退治はこうでないとなぁ~」
一撃で倒して、カッコよく魔石へと変える。
これが、やっぱり英雄らしい姿だよなぁ!
なんて言うか、居合切りで敵を一撃で倒すのって、憧れない?
何百、何千と相手に地道に攻撃を与えて倒すのよりも、なんというか派手さがあるって言うか、カッコが作っていうか。
「凄いですね、スバル様! 一瞬で頭を飛ばして、スケルトンを倒すさま! 凄く綺麗でした!」
パチパチッと、拍手をして俺を褒めるイデア。
そうっ! 良いなぁ、やっぱり素直に賞賛されるって事は!
この辺は、ユウキにも見習ってほしいぜ! あいつはそういう事はなくて、むしろディスってくる方が多いしな!
「お前も凄かったぜ、イデア! その《姫騎士》ってジョブ、すっげー威力なんだな」
アンデッドを倒すのが得意だと、イデアが進言したので、いつもは来ないこのダンジョンに来たんだけれども。
----いやはや、凄いな!
イデアの力は、俺の想像を遥かに超えていたとしか言いようがないぜ!
攻撃力の件は問題なく、光属性と言う
敵を自分に近づけて斬るという、かなりの近接戦闘タイプのようだが……まぁ、関係ないだろう。
その辺のところは、このダンジョンで戦うアンデッドモンスターに対しては特に問題ではないし、魔法など遠距離を使う相手に関しては、俺の方が気にかけていれば良いっ!
つまりは、まったく、問題なしっ!
「----ふむっ、このあたりの敵でこれなら、もっと行けるな!」
今日は肩慣らし程度に済ませる予定だったけど、こんな簡単にアンデッドを倒せるのならば、もっと奥へ行けるだろう。
それこそこんなありふれた雑魚ではなく、強敵たるボスにも。
「よしっ、イデア! 今日はこの辺のアンデッドを倒して終わりとするつもりだったが、予定変更だ!
このまま、ボスに挑戦するぞ!」
俺がそう言うと、イデアは剣を腰に戻して大きく頷く。
ダンジョンには試練の間と呼ばれる、いわゆるボスの間がある。
入ると出られなくなり、中にはそのダンジョンの代表格となるモンスターの強化個体がいる。
このダンジョンだと、アンデッドのボスモンスターだろうか。
そいつを倒すことでダンジョンの奥に進むことができ、俺の英雄としての道もさらに高みへと進むことが出来る、ってわけだ。
「今から俺達が戦うボスは、ゴースト・ビスクドールと呼ばれているらしい。藍色のドレス姿の美しい人形のようなモンスターで、アンデッド系モンスターの中ではかなり素早さが高いから気を付けろ。
空洞な身体の真ん中は鳥籠になっているのを良いことに、中に人を捕まえようとする非道なモンスターだ。捕まらないのを前提だが、捕まった場合は鳥籠を壊して脱出だ」
ギルドで聞いてきたボスの情報を、俺はイデアへと伝える。
今回、戦うボスは初見殺しはなく、対策がなければ勝てない相手ではない。
けれども、知っているというのはそれだけで安心できる。取り乱さなくなる。
それが"ある"のと"ない"のとでは、変わってくるだろう。
「----了解です。案外と速い、のですね。
それでは早速、参りましょう!」
ワクワクと、目を輝かせながら、イデアは今か今かと待っているようであった。
「(……あっ、れ~?)」
そんな風な目でこちらを見るイデアに対し、俺はなんとなく気付いてしまった。
俺も一切、情報を知らない謎のジョブ----《姫騎士》。
一国の愛し子として大切に育てられた姫が、騎士として戦いの場に身を投じる。
ぬくぬくと育ててくれる温室なんかではなく、己自身の力のみがモノをいう世界へと。
それが《姫騎士》なのだとしたら、彼女のこれもそのジョブのせいなのだろう。
「あぁ……! ゴースト・ビスクドール!
我がラクシャーツ王国では聞いたことがないモンスター! アンデッドということは死体なのでしょうか、いえ人形ならば命が宿った?」
いつの間にか抜いていた剣の刀身を見ながら、うっとりとした表情を浮かべるイデア。
「確かに、スバル様がおっしゃっていた通り、この召喚には十分、意味があるのだと思います。
なにせ、わたくしはこの召喚を、いえ、ダンジョンで戦えることを嬉しく思っているからです」
王国を助けてくれたことを知った時よりも、分かりやすく嬉しそうにして、彼女は----
「さぁ、今すぐまいりましょう! えぇ、すぐにでもこのダンジョンのボスを倒しに行きましょう!」
----戦闘狂だった。
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