第6話 《姫騎士》と、手を組みたいっ!
午後3時頃----学校で授業を終えた俺は、家に寄った。
家の自室で眠っている、《姫騎士》イデア・ラクシャーツを迎えるためだ。
携帯で母に連絡してダンジョンまで持ってきて欲しいという事も、伝えたには伝えたのだが、それが母には許せなかったらしい。
「あんなに可愛らしい女の子を、物扱いするだなんて! どういうつもりなの!」と、逆にお叱りを受けたくらいである。
……まぁ、その時に聞いたのだが、あの女の子は無事に目を覚ましたみたいである。
無事に目を覚ましたという点に関しては、俺はホッと胸をなでおろした。
という感じに、イデアをダンジョン前のギルドに送ってもらうという方法が使えないため、家に帰るという方法をするしかなくなってしまった。
----俺は早く、ダンジョンで気分転換したかったのに……。
「いっ、いけない! いけないな! 英雄は英雄らしく、過ぎたことを気にしすぎるのはよくないっ!」
気持ちを切り替え、俺は自室の扉を開けた。
ともあれ、第一印象と言うのは大切だ。
扉を開けて、俺は大きな声で自己紹介と共に部屋の中へ。
「----今、帰ったぞ! 俺こそが七ヶ峰スバルさまだぜ!」
堂々とした英雄らしい語り口で、俺個人としては非常に満足いく紹介だった。
----まさか、首元に剣を突き立てられるとは思ってもみなかったけど。
☆ ☆ ☆ ☆
「……なるほど、ではあなた様がわたくしをこの世界に召喚された、七ヶ峰スバルさんである、と」
首元に抜身の剣を突き立てながら、イデア・ラクシャーツは答える。
凛とした佇まいから発せられる、高貴なオーラを漂わせつつ、《姫騎士》イデア・ラクシャーツはそう答えた。
「あ、あぁ……ダンジョンから戻ったら召喚できるようになっていたから、魔石を用いて召喚させてもらった。
多分、仮面をつけた紫の茨を俺が倒したから、だとは思うが、確証はない」
それから、俺は可能な限り、彼女の質問に答えた。
ダンジョンのこと、ジョブのこと、異空間に引きずり込まれたこと、そしてそこで石化を引き起こしたであろう紫の茨を倒したこと。
「……なるほど、あなたの話はよく理解出来ました」
全ての話を聞いたイデアはそう呟くと、頭を深々と下げる。
その様子もまた堂々としており、やはり姫なんだなと思わせるくらい、しっかりとした様子だった。
「感謝の意と共に、剣を喉元に当てて脅したことへの謝罪を致します。
あなた様は、我がラクシャーツ王国を救った英雄。仮にここが王国でしたら、精いっぱいの礼節を持って持て成していたところです」
「英雄……」
なんだろう……やっぱり、こう英雄って言われると、嬉しいもんだな。
俺がその言葉の重みを噛みしめていると、彼女はあの紫の茨について語り出す。
「あなた様が倒したとされる紫の茨は突如として異界の穴から現れ、我が王国を一夜にして石化させた化け物、でしょう。こうして動けるのも、あなた様が化け物を倒してくれたから、でしょう。それについては、王家を代表して、感謝の意を表したいと思っております」
ぺこりっ、と頭を下げて、精いっぱいの感謝を表現するイデア。
「気にするなっ、イデア! たまたま俺が辿り着いて、やりたくてやっただけだからな!
まぁ、感謝を言われて嬉しくない訳じゃないが! もっと言って欲しいが!」
ハハハッと笑う俺に対して、彼女は「あなた様がそれで良いのなら……」と納得しているようだった。
「----そもそも何故、あなた様がダンジョンなる場所から我が王国に侵入できたのかはどうでしょうか?」
「そこはほら、あれだ! 英雄が呼ばれている、って奴だろう!」
「けれども何故、スキルによる召喚でこの世界に呼ばれたのかは分りかねますが」
……今、しれっと俺の言葉を無視しなかった?
まぁ、英雄と呼ばれて満更でもない今の俺は、そのような事で怒ったりはしないけどね!
「----とりあえず、俺と一緒にダンジョンを潜ろう! イデア・ラクシャーツ!」
「……? おっしゃってる意味が分かりかねます?」
キョトンとして、戸惑っているようにも見える彼女だが、俺には分かるぞ!
今、彼女は、ただ単に俺が手を出しているのを待っている! そういう英雄的シーン待ち、ってことがな!
だから、俺は彼女に手を差し伸べるっ!
「俺とお前が出会うきっかけとなった場所、それはまず間違いなくダンジョンだ!
そして、この出会いには絶対に意味があるはずだ!」
そうっ! 俺の英雄的な人生に、意味のないモノなんてない!
イデアを召喚したことだって、きっとなにか意味がある事なんだっ!
「確かに……仮面を付けた紫の茨が来たのも、異界の穴……。あなた様の話した通りのダンジョンと一致する部分も多い……。
----はっ! つまり、我がラクシャーツ王国を襲ったあの紫茨のようなのが他にも?!」
そうか! 確かにそういう考え方も出来るか!
流石は俺っ! ちょっと話していたら彼女を説得できる情報を見つけ出せるとは、流石だぜ!
「そう! ラクシャーツ王国を襲ってきたのが最後とは限らん! 原因を見つけない限り、あんなのがまだまだ王国を襲うかもしれない! この地球、俺の世界だって同じような目が起きないように、俺も協力する!
そのために、共にダンジョンに向かおうじゃないか! 《姫騎士》イデア・ラクシャーツ!」
……決まった、ぜっ!
鏡こそないが、今の俺は最高に輝いているドヤ顔をしているに違いないぜ!
写真に、映像に残すべき、最高に輝いている表情に違いないっ!
「俺は《盗賊》のジョブを神より与えられし、七ヶ峰スバル! 《盗賊》ではあるが、俺は未来の英雄を目指している!
今はまだ、英雄と呼ぶには頼りない男かもしれない! だが、俺は必ず英雄になる! その信念は、必ず成し遂げて見せる!」
ここで、グッと溜めて----ひとことっ!
「----俺の心の中の、神の加護に誓って!」
よしっ! 今の言葉も決まったな!
----流石は、3年前にベストセラーとなったファンタジー小説の一説!
あまりにも良いって事で、ワイドショーにも流れた、こういう場合の英雄的な決め台詞の一つっ!
すっげーカッコいい台詞ではあるんだが、残念ながら有名すぎてユウキやハルトなんかに言っても、相手も知ってるから、あんまり意味ないんだよなっ!
俺も使えるタイミングなんて、ないと思っていた。
使おうと思ったら、記憶喪失している相手くらいしか使えないと思っていた……けれども、今から俺が言おうとしているのは、この世界の知識が一切ない召喚獣……もとい、召喚姫騎士!
そういう相手ならば、俺のこの台詞だって、聞いてくるぜ!
「はー……」
ほらっ、見ろ! あまりにも良い台詞だったから、イデアのやつ……あまりにも良すぎて、光悦な顔をしているじゃ、あーりま、せんか!
それどころか、なんか泣きそうじゃないです?
「えぇ……あなた様の意見は、いえ、スバル様の意見はもっともでございます。
----分かりました。このラクシャーツ王国第七王女にして、《姫騎士》であるイデア・ラクシャーツ! あなた様のパーティーメンバーとして、誠心誠意、尽くさせていただきたくお願いしますっ!」
なっ! なななっ?!
なぜに、いきなり土下座?!
感動で泣かれるのは想定内だが、まさか土下座されるだなんて思ってみなかった!
と言うか、土下座をしないでくれ!
目の前で土下座なんかされたら、まるで俺が悪代官みたいに見えるじゃないか!
俺が目指しているのは、英雄であって、悪代官ではないんだ!
慌てて、俺は彼女の肩を掴んで、優し気な声で「顔をあげなっ」と。
「俺が求めるは、土下座して仲間に入るような、そういう卑屈な
俺と共に、同じ目的をもって、戦ってくれる
----お前は、どっちのメンバーになってくれるんだ?」
「わた、くしは……同士に、なりたいですっ!」
よしっ、それでいい!
ともかく、俺はパーティーメンバーとして、イデア・ラクシャーツという《姫騎士》を手に入れた!
----さぁ、2人でダンジョンだっ!
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