第5話 知らないのならば、学びたいっ!

 "学生の本分とは何か?"なんて無粋な質問をする者もいるが、俺は"学ぶこと"だと思っている。


 先生達から、知識を学び。

 友人達から、交流を学び。

 大人達から、ルールを学ぶ。


 それが学生の本分だと思っている。


 だからこそ、中学生である俺は、教室で情報を整理していた。

 これもまた1つの、学ぶこと、である。


 -----イデア・ラクシャーツ。

 謎のスキルである"特殊召喚【囚われの姫騎士】"を使って現れた彼女は、一晩明けても、目を覚まさなかった。

 水をぶっかけるといった非道な英雄的ではない行動はしなかったんだけれども、叩いたり、大声で呼びかけたのだが、返事はなかった。


「(無理もない。石化されていたんだ、きっと疲れてるんだろう)」


 俺はそう結論付けて、母に面倒を任せてきた。

 母は何も言わなかった、ただちょっぴり悲しそうな目で


『この娘まで、ユウキちゃんのようにしないでね。あの子も可愛い女の子なんだから』


 などと言っていたのが、気になったが。


 全く、我が母ながらなんて的外れな事を言うんだか。

 俺がユウキに何をしたって言うんだ?


 ユウキは立派な、非の打ちどころのない俺のパーティーメンバーだ。

 休日でダンジョンに行かない日はダンジョン装備を買ったり、装備の点検をしたりと余念がない、立派な女の子じゃないか。

 まぁ、世間一般的な女子と比べると、確かに変わっているとは言えるけれども。


「おっ、その顔は、まーた有明のことを考えていたのか? スバル?」


「むっ、近江か」


 友人らしく、俺の肩に手を回して親密度をアピールしている彼は、【近江ハルト】。

 クラスメイトで、俺の大切な友人の1人だ。

 時折、パーティーを組んで、ダンジョンにも潜るくらい仲が良い。


 赤みがかった髪をざっくりと切り揃え、袖を取らないといけないほど大きく発達した筋肉の腕。

 彼のジョブは、その筋肉から放たれる一撃必殺の技が冴える《格闘家》。

 ハルトは俺にはない一撃必殺の破壊力を持っているが、俺はハルトにはない器用さと素早さを持っている。


 互いに互いがない部分を持っている、尊敬しながら気楽に話せる友達。

 それが、俺とハルトの関係だ。


「難しい顔をして、《盗賊》ってのはそんなに考えないといけないもんなのか? もっと気楽に殴れば済めば、楽なのにな」


「俺からしてみれば、そんな簡単に考える方がどうかって思うがな」


 ハルトは笑いながら筋肉を見せつけるようにポーズを付けていたが、俺は無視しておく。

 これで、下手に反応すると、いつものように筋肉自慢が始まるため、である。


「----で、昨日はいつものように有明と一緒に、ダンジョン探索ってところか? で、有明に付き合わせる自分に嫌気が差したと?」


「いや、別にそんな事を考えてたわけじゃないんだけど」


 と言うか、いつもそんな事を考えてると思われていたんだろうか?

 ユウキには感謝しているが、そんな事を考えたことはないというのに。


「有明ちゃん、可愛いよなぁ……あと、すっごい良い肉体をしてるしさぁ~」


「まぁ、それは確かに」


 ユウキは《魔導士》というジョブを持ってるし、すっごい強い事は間違いないよな。

 ユウキの肉体は、魔法を使う良い肉体である事は確かだろう。


「あのローブ越しからでも分かる、あのダイナマイトなっ! 女らしい身体っ! 正直、辛抱溜まらんなぁ!」


 何故か胸のあたりで謎のジェスチャーをする、ハルト。


「あぁ、ダンジョンで活躍する素晴らしい肉体だ!」


 一方で俺も、ユウキの真似をして杖を握る仕草をする。


「分かるか! 友よ!」

「分かるぜ! 英雄たる兄弟よ!」


 互いにユウキは凄い奴との事で、気持ちが通じ合う俺達……やはり俺と気持ちが通じる同士だっ!


 ちなみにだが、ユウキは別のクラスだ。

 魔法を扱う彼女は、魔法を使うジョブ達専用の授業を受けているらしいとのことだ。

 やはりここでもジョブとして、分けられている弊害があるらしい。


「……と、まぁ、ユウキが良い肉体を持っているのは確かだが、今、考えているのは別の事だ」


「別の事? なんだ、俺に分かる範囲でなら聞くぞ」


 俺が気になっていることは、俺の部屋に突如、召喚されたイデア・ラクシャーツ-----のジョブだ。

 彼女のジョブは、《姫騎士》となっていた。

 恐らくは剣を得意とする前衛クラスの《騎士》に通ずるモノではあるだろうが……


「なぁ、ハルト。お前は《姫騎士》ってジョブを聞いたことがあるか?」


「姫……騎士……? いや、知らないなぁ。

 と言うか、ダンジョン狂いのお前が知らないことを、俺が知るはずがないだろうっ!」


 ガハハっと豪快に笑うハルト。

 ----分かる範囲でって言ったのはそっちなのに、その対応はなんだのだ。


 それに、だれが、ダンジョン狂いだと言うんだっ!

 俺はほぼ毎日くらいのペースで、ダンジョンに潜っている程度なだけだ!

 もっと凄い人は休みなしとか、それから遂にはギルドに無理行って住み込んでるとかだから、それに比べたら俺はそこまでではないはず……だよな?


「あるはずがないとは思ってるんだけどなぁ。なにせ、ジョブって神の加護だものな」



 神は万能ではない、なにせ英雄を望む俺に対して《盗賊》というジョブを与えるくらいだ。

 万能の存在ならば、本人にジョブを選ばせたりするだろうし、後から変えられるようにすると思うし。


 けれども、平等ではある。

 正義な人間も悪の人間も、男も女も、貴族も奴隷も、どんな人間でも平等にジョブを与えられている。

 

 そんなに平等な神様が、"姫"騎士などと、人間が定めた姫などという名がついたジョブを生み出すわけがない。

 だから、《姫騎士》なんてないと思う……。

 けれども、実際にステータスにはそう表記されていたし。


「あぁっ! くそっ!? 分からなくなってきた!!」


 くそっ! 考えれば考えるほど、頭が痛むばかりじゃないか!


「……あぁ、くそ。ダンジョンに潜りてぇ」


「やっぱり、迷宮中毒ダンジョンジャンキーじゃないか……」


 ハルトに何を言われたとしても、潜りたいんだから仕方がないじゃないか。

 考えて分からないのならば、なんか動いてすっきりしたいんだ!

 そして、そうならば、ダンジョンに潜るのが一番じゃないか!


「と言う訳で、ハルト! 今日、一緒にダンジョンに行かないか?」


「一緒に行きたいのは山々だが、今日はジムでさらにマッスルになりに行くんでな!」


「またジムか……」


 ハルトは迷宮の代わりに、ジムに毎日のように行ってるんだよな。

 人にダンジョンジャンキーとか言う前に、お前だってジムジャンキーじゃないか……。


「(うーむ、ユウキは今日は休むって言ってたし。

 仕方ないなぁ、今日は1人でダンジョンに潜るとするか……?! いや待てよ?)」


 よくよく考えたら、都合が良いんじゃないか?


 イデア・ラクシャーツは、ダンジョンで手に入れたスキルによって召喚された女。

 ならば、家の俺の自室ですやすや眠らせるよりかは、ダンジョンに連れて行ったらその真価を発揮したりするんじゃないだろうか?

 むしろダンジョンでしか、起きられないなどと言う制約があってもおかしくない?


「(そうと決まれば、今日のダンジョンはあいつの歓迎会……ならぬ歓迎ダンジョンをしようじゃないか!)]


 よしっ、今日の方針は決まった。

 あいつが何者だとか、どれほどの強さだとかは関係ないっ。

 一緒にダンジョンに行けば、交流も深まるだろう!


「よしっ! と言う訳でまずは----」


「----授業の準備をしようか、七ヶ峰スバルくん?」


 ぽんっと、頭を教務手帳で叩かれた俺は、あちゃ~と笑うハルトを睨みつける。


 くそっ! 教師に怒られるだなんて!

 こんなカッコ悪いのは、俺が目指す英雄ではないのにっ!

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