第4話 MPなしでも、召喚したいっ!

「スバスバ! スバスバ、大丈夫なの?!」


 俺の身体をゆっさゆっさと揺らしてくるユウキの揺れに身を任せつつ、俺はゆっくりと起き上がる。


「う、う~ん……」


「あっ! スバスバ! 目が覚めたんだね、良かったよ!」


「あぁ、心配かけてすまないな、ユウキ! 王国を眠らせる紫色の茨を黙らせてきたぜ!」


「……うん、ごめん。相変わらず、なにを言ってるか、分からないんだけど」


 バカなっ! あんな強敵たる紫の茨との戦いを終えた俺に対し、"分からない"だなんて!

 いくらなんでも、酷すぎる対応なんじゃないか!

 こう、「すっげー良い戦いをしてきたんだね! 流石はスバスバ!」的な反応を期待していたんだが……。


「だって、スバスバが消えてたのって、ほんの30秒くらいだったし……」


「30秒?! ハーフミニッツってことか?!」


「なんで急に英語? けど、うん……多分だけど、ユウユウが感じたのはそれくらいだったよ」


 おかしい……少なくとも、あの紫の茨に気付くのに10分は探していたはずだから、そんな30秒しかたってないだなんて事はあり得ないんだが……。


「(いやっ! ダメだ、ダメダメ!)」


 パンパンっと、頬を叩いて気合を入れる。


 英雄を目指す俺が、周りの意見に耳を傾けないだなんて、そんな事はいけないだろう!

 カッコいい英雄ってのは、そういう事に耳を傾ける度量を見せなければならない。

 人の、しかも大切な幼馴染の言葉を疑うだなんて、あってはならぬことだ。



 ユウキ----有明ユウキは、俺の英雄道に合った、すごく出来た幼馴染だ。

 俺の《盗賊》とは違い、神から《魔導士》というジョブを貰ったユウキは引く手あまただった。


 そりゃあ、そうだ。《魔導士》ってのは、魔法を使うジョブの中でも最高位のジョブ。

 初めから強い魔法が使える彼女を、多くの人が仲間に引き入れようとした。


 ジョブは永遠に変わらない、これは神がダンジョンで戦うためにくれた加護。

 そもそもジョブを変えられるなら、俺は《盗賊》ではなく、《英雄》というジョブになりたかったくらいだ!


 ジョブが変わらないのだとしたら、最高位の魔法を使うジョブである《魔導士》という彼女は、とーっても魅力的だろう。

 俺がパーティーに彼女を留め続ける権利はないため、俺はいつでも出て行っていいとしている。

 その事は、ユウキには初めから伝えてある。


 ----それでもなお、俺のパーティーメンバーとして一緒にいてくれる。

 その事に感謝しない日はないし、だからこそ俺は彼女の言葉を疑ってはならないのだ。



 そんな彼女が、俺は30秒くらいしかいなかったというのならば、その通りなのだろう。


「あっちの世界では、時間の流れが違っているとか……そういう考えだったり? スバスバ?」


「おぉ! 流石はユウキ! 多分、そういう感じ!」


 流石は、ユウキだな! やはり頭が良いぜ!

 多分、その通りだろうしな!

 俺が考えていたら、「なんかそれっぽい英雄の試練!」とか考えていただろうしなぁ……。


「でもさ、スバスバ……今日はもう帰らない? いきなり虚空に消えるだなんて、今日のダンジョンは一段と変だよ」


「まぁ、確かにそうだな」


 いくら俺でもこれ以上、ユウキを悲しませるべきではないと考える。

 それに、あんなのともう一回、戦うべきではない。


「ユウキの言う事はもっともだ、あんなのともう1回戦おうだなんて----俺の英雄の章が、この章だけやけに分厚い不格好なのになってしまうからな!」


 俺の英雄としての書物は、カッコよく、そしてエレガントであるべきだ。俺と同じく。

 それなのに、このダンジョンで2度も、3度も、英雄的行為を、それも同じ日に行うだなんて、あまりにも不格好なページになってしまう。

 それだけは避けないと、な。


「……相変わらずだね、スバスバ。消えても、あんまり変わってないみたい」


「当然だ! それが俺、七ヶ峰スバルだからな!」


 「はいはい」と、何故かおざなりにそう答えるユウキと共に、俺はダンジョンから帰還する。




☆ ☆ ☆ ☆


 ダンジョンから出た俺とユウキは、ギルドで魔石を換金してもらった。

 

 いつもよりも査定額が低かったが、それは仕方がない話だ。

 今日は早めに切り上げたんだし、取って来た魔石の絶対数が少ない以上、査定額が下がるのは当然だろう。


 ----もっとも、別の要因もあったみたいだが。


 それはさておき、ユウキに


「真っすぐ、家に帰る事! そうしないと、おじさんとおばさんに頼んで、ダンジョンに入れる回数を減らしてもらうんだから!」


 などと、恐ろしい事を提案してきた。


 心配なのは分かるが、なんて恐ろしい事を提案するんだ、ユウキは。

 俺の父と母に気に入られている彼女の助言があれば、あの両親はすぐさま彼女の提案を受け入れて、俺からダンジョンを、英雄になる道を遠ざけに決まっているというのに!


 ……まぁ、"ダンジョンに行ってはならない"、ではなく、"ダンジョンに入れる回数を減らす"という事からも、彼女の優しさが伝わってくるのだが。


 ユウキにも諭されたし、俺は真っすぐ家へと帰った。


 母に帰宅の挨拶をして、早々に自室にこもる。

 14歳の男が、母親と仲が良いだなんて思わないで欲しいな! 普通に会話するくらいには仲が良いが、それくらいである。


 自室に入った俺は、すぐさまステータスと唱える。

 いつもの日課、どれほど強く、英雄にどれだけ近づけたのかを確かめるためだ。


「ステータス、オープンっ!」


 俺の目の前に、10歳の時に神様にジョブを与えられた時から見られるようになったステータス画面が現れる。


==== なながみね すばる =====

 14さい 

 せいべつ;おとこ

 ジョブ;とうぞく

 HP;320

 MP;0


 スキル;

 盗む

 かすめとる

 きけんさっち

 トラップ解除

 バックスラッシュ

 特殊召喚【囚われの姫騎士】 

===== ====== ======


 いつものように見慣れたステータス画面……ではないようだっ。

 見慣れていないスキルが、"特殊召喚【囚われの姫騎士】"と言うスキルが追加されている。


 とっ、とりあえず説明を見て見ない事には、どういうスキルかも分からないよな。



===== 特殊召喚【囚われの姫騎士】 =====


 特定の召喚人物【囚われの姫騎士】を限定して召喚するスキル

 召喚された後は、維持MPや再召喚MPを必要としない

 召喚必要MP;1


===== ===== ===== =====


「【囚われの姫騎士】を限定して、召喚するスキル……?」


 なんだ、この《盗賊》と全く関係がなさそうなこのスキルは……?

 もしかして、あの紫色の茨を倒して、王国を救ったからこそ手に入るスキル、だったりするのだろうか?


 なにはともあれ、このスキルは使えないな。なにせ、維持や再召喚はともかくとして、召喚に必要なMPがないのだから!

 なにせっ、俺が持っているMPは-----ゼロっ!

 たとえ召喚に必要なMPが1なのだとしても、ないモノからでは引くことが出来ない。


「無用の死にスキル……いや、待て」


 MPが0な俺でも、このスキルを発動する方法があったはず……。

 確か、どうしても英雄らしい魔法を使いたくて憧れてたまらなかった頃に、ユウキから聞いたことがあったな。


「えっと、確かこの辺りに置いてあったはず……あったっ!」


 机の中から、記念にと取っておいた魔石を取り出す。

 11歳の時、初めてゴブリンを倒した記念として取っておいた魔石----小さいながらも、俺の憧れの第一歩として取っておいた記念品だ。


「"MPが足りなくても、魔石を代替品として用いれば発動できる"だったか。ゴブリン程度の魔石で魔法を発動できる訳ではないとして、やらずにおったが、どうやら使うべき時はこの時だったようだなっ!」


 ユウキから教えてもらった方法を、俺は試す。


 魔石を手で握り潰して、同時にスキルを発動する。


「"来いっ、囚われの姫騎士よ! 我が力となるべく馳せ参じたまえ! 特殊召喚【囚われの姫騎士】!"」


 やってから思ったのだが、こういうのはダンジョンですべきだったのではないか?

 いや、ステータスが見えるからといって、今すぐ使うべき時ではなかったと。


 発動できないんじゃないかと思ったのは一瞬だったが、俺の手の上で青白い光が現れる。


 天井近くに奇怪な文様が現れたかと思うと、その中心から白銀色の鎧に身を纏った女騎士が現れる。

 12歳くらいの、俺よりも少し年下くらいに見える彼女は、そのままゆっくりと下へ落ちてくる。


「あの時の……」


 ゆっくりと青白い光の中から現れたのは、紫色の茨に囚われ、石化されていた姫騎士ちゃんだった。

 落ちてくる彼女を抱きとめて、俺はベッドに寝させる。


「すぅーすぅー……」


 寝息を静かに立てる彼女を見て、無事なのを確認する。

 そして、そんなはずないのにと思いながら、口に出していた。


 本人以外が言っても発動しない、「ステータス」という言葉を。



===== イデア・ラクシャーツ =====

 キャラクター/守護まもる者

 せいべつ;おんな

 ジョブ;ひめきし

 HP;S

 MP;F


 スキル;

 剣術スキル

 槍術スキル

 盾術スキル

 姫の一声

===== ===== ===== =====


 俺の前に、彼女のステータスが現れた。

 それは、今まで俺が知っている、どのステータスとも異なっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る