第3話 石化されてたら、助けたいっ!
「ほぅ、ここが俺を連れてきたかった場所、か」
俺は、可愛らしい手に連れられて、別空間に辿り着いた。
ユウキとははぐれた形になってしまったが、残念ながら俺の身体は1つしかないのだ。
誰かを救おうと思っても、俺が行けるのは1つの場所なのだから。
まぁ、ユウキには帰った時にでも、構ってあげればいいだろう。
「それで、俺の足を引っ張っていた、可愛らしい手の持ち主はどこかな?」
俺が今いるのは、どこかの中世風なお城の部屋みたいである。
豪華そうな装飾が施された部屋で、俺の学校の体育館よりも大きい。
豪華そうなカーテン、豪華そうな蝋燭、豪華そうな柱。
どれも、すっごく高そうだ。
一列に並んだ騎士。奥の玉座に座っているヒゲを生やした王様。その横に立っている宰相らしき人。
アニメとかでしか見たことがない、王様との謁見の間というのはこういう感じだろうかと、思ってしまうくらいである。
----そして、そんなヒゲを生やした王様の前。
そこにお目当ての人物が、俺を呼んだ人物が"いた"。
太陽のように光り輝く金色の髪を腰辺りまで伸ばし、白銀色の鎧を身に纏っている。
12歳くらいの幼い少女のようではあるが、その瞳には確かな意思も感じられる。
ただ、問題は----彼女が"石像"であることだ。
鎧を纏った女の子も、ヒゲを生やした王様も、優し気な顔の宰相も、そして騎士達も。
その全てが石像に、石となって動けなくなっている。
綺麗な王の間に、並ぶ石像と化している人々。
これはあれだな、何者かによって石化された説だな。
「これはきっと、あれだな。石像にされながらも心の一部を振り絞って、俺に手を差し出した、って奴だろうな」
俺の隠しても隠し切れないほどの、溢れんばかりの英雄性が、石像にされながらも助けを求める彼女の手を呼び寄せた。
うんっ! まさしく英雄らしい出来事じゃないか! 素晴らしい!
「しかし……問題は、どうすればこれをもとに戻せるか、だな」
どこぞの物語のように、キスをすれば石化の呪いが解けるのか?
いや、そうだとしたらこの愛らしい女の子はともかくとしても、大量にいる騎士や、ひげ面のおっさんにも、キスをしなければならないのか?
いや、それは俺が求めるカッコいい英雄ではあり得んな。うん。
だったら、ここは英雄らしい選択をしようではないか!
「ふんっ! はぁっ! ほぁっ!」
10分後、石化されたであろう人々に、変化はなかった。
おかしいな、ここは英雄的に、"俺の秘められたなにかが覚醒して、こんな呪いなんかをすぐさま解いてしまう!"的な展開だと思ったのだが。
意識して待てど暮らせど、俺の身体の中でなにかが覚醒する気配は、一切ない。
「(いや、もしかするとこの石像は、石化された人ではなく、元々、石像だったんじゃないか?)」
そうだっ! そうに違いない!
俺がこんなに頑張って祈っているのに、変化が一切なしなので、ちょっぴり奇妙だとは思っていた。
未来の英雄である俺が、こんなに望んでいるのならば、そろそろ変化があってもおかしくないはずだから。
「よしっ! この場所で出来る事はなにもないようだ! ならば、他の場所も探っておくべきだ!」
そうと決まれば、この部屋から出よう!
"善は急げ"とも言うし、さっさと別の部屋も捜索して、情報を集めようじゃないか!
後ろを振り返り、扉から部屋を出ようとすると、
「ん……? なんだ、こいつ?」
扉にへばり付く形で、紫色の蔦の化け物が張り付いていた。
☆ ☆ ☆ ☆
扉に張り付いているのは、紫色の蔦……荒々しい棘が生えているのを見ると、
扉の中央に円を描くような形で、蛇のとぐろのように巻きついている。
そして紫色の茨の中心に、黒い仮面を付けている。
「仮面……?」
この茨はなんなんだとじっと見ていると、黒い仮面の面----その瞳の部分が赤く、光り輝く。
【ピッ、キャアアアア!】
いきなり茨から奇声があがったと思うと、赤い光が俺の方へと矢となって飛んでくる。
この光からは嫌な気配を感じ、俺はその場で転がって、光から身を遠ざける。
----ピキキッ!
光が当たった場所から嫌な音が聞こえ、その場所から徐々に石化していっている。
「なるほど、嫌な予感は的中って事か」
もし身体のどこかに当たっていたら、先に石化させられた彼ら彼女らのように動けなくなっていた事であろう。
「(けれども、やはり俺は、未来の英雄になるべき人間なようだ)」
背中の長剣を抜き、俺は戦いの姿勢を取る。
「やいっ、茨野郎! どうやらお前がこの場にいる石化の犯人みたいだな!」
【キャハキャハ!】
「残念ながら俺に茨の言葉は分からんが、そんな俺でも分かる事くらいはある!
----お前を倒せば、この石化現象は治るって言うな!」
【ピキャッ!】
やって見せよ、とでも言いたげに、俺の身体にめがけて棘の生えた蔦がこちらに迫ってくる。
生えて、伸びて、俺の身体に棘を突き刺すように、10本ばかりの蔦がこちらに向かってくる。
斧で丸太を斬って薪にするように、俺は長剣を振って蔦を斬っていた。
「(思いっきり長剣を振り下ろせば、蔦を斬り落とすことは出来るようだ)」
けれども、それだけだ。
うごめくように迫る蔦が邪魔で、アイツの身体に近付けない。
あいつの身体には、まだゆらゆらと揺れる蔦が少なく見積もっても20本ばかりある。
俺が今、攻撃されている蔦を全部斬って動けなくしても、相手にはまだ倍のストックがある。
長期戦は不利、そもそも《盗賊》の防御力ではそんなに持ちこたえられんしなっ!
「(心臓がどこにあるかは分からんが、あの仮面は何か関係あるのは確かだろう)」
だから、俺が狙うのは、あの黒い仮面。
石化能力も、仮面さえ壊せば治るかもしれんし、どっちにしろあれを狙うのは既に決定事項だ。
「ここは、一か八かっ!」
俺は床を蹴り、黒い仮面。つまりは植物の身体本体に向かって行く。
【ピキャキャッ!】
自分に向かってくる獲物がアホにでも見えたのか、相手は全ての蔦をこちらに投入する。
合計で30本、先程の3倍の戦力の蔦がたった1人を踏みつぶすべく、迫ってくる。
蔦は同時に、俺にめがけて降り注ぐ。
----ドッシャァァァンっ!
【ピヒャ! ピヒャア!】
地震かと思わんばかりに揺れ、植物は気色が悪い笑い声をあげる。
「そんなに面白いのか、茨野郎?」
ぽいっ、と俺は"それ"を投げる。
途端、俺の目の前の、俺を叩き潰そうとした蔦達が大きな炎となって燃え上がる。
【ピヒャアアアア!】
「やはり植物だな、良く燃える」
追加とばかりに、俺は炎を投入する。
炎はいくらでもある、蝋燭が結構あるからな。
「----《バックステップ》。俺の磨き上げたこのスキルは、相手の距離感を狂わせる。
どうだった? 攻撃が決まる瞬間、その直前に攻撃の範囲外まで逃げおおせる俺の華麗な後退は?」
どんどん蝋燭を、じゃなくて火を浴びせ続ける。
【ギャババババ!】
「おっ、それはなんとなくわかるぞ。苦しんでるって、声だな」
そろそろ良いだろう。
俺は長刀を構え、茨野郎の黒い仮面を睨みつける。
黒い仮面は、いつでも俺を狙い撃とうとしているのか、さっきと同じ赤い光が宿っている。
「喰らえ、茨野郎!」
【キャハババ!】
前に向かって走り出す俺に、仮面から赤い光を連発する茨野郎。
光は苦しんでいるからか、狙いを外して俺の横を、上を、俺の身体に当たることはなかった。
【キャバ!】
----ピキキキッ!
「くっ……!」
しかし、近くまで来すぎた。
俺の肩に、赤い光は当たり、そこから徐々に石化が始まっていく。
「見事だぞ、茨野郎。最後の最後で、俺に石化の光を当てられたじゃないか!」
素晴らしい、素晴らしい敵である!
英雄に似合った敵だ、褒めたいくらいだ!
「だが、それまでだ!」
もう既に、俺は十分な距離まで近づいていた。
肩は石化し始めているが、痛みさえ我慢すれば、動かせないことはない。
「そして覚悟というなら、英雄なら慣れっこだ!」
そう、俺のなりたい、カッコいい英雄ならばお茶の子さいさいだ!
「《マエストロ・スラッシュ》!」
俺の斬撃は、黒い仮面を見事に真っ二つにして、ついでに扉ごと茨野郎を斬った。
黒い仮面が消え、紫色の茨も消えると共に、俺の肩も元に戻っていく。
「よしっ、これで元に……」
と、石化された他の人達の様子も確かめようと後ろを向く。
しかし、一瞬立ち眩みが起き、視線を戻すと、俺はユウキと別れたあのダンジョンに戻っていたのであった。
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