第2話 ダンジョンで、活躍したいっ!

 俺には、七ヶ峰スバルには、夢がある。

 あの『英雄王カッチョーエ』に出てくるカッチョーエのように、カッコいい英雄になりたいという夢が。


 『英雄王カッチョーエ』は、俺が7歳の頃に1年間やっていた子供向けアニメで、タイトル通り、カッチョーエの活躍を描いたバトルアニメである。

 たった1人で敵陣に斬りこんで、全ての者の悩みを真っすぐ受け止めて見事に解決する。

 そんな完璧超人にして、1人で世界を変えられるほどの力を持つカッチョーエ!


 俺はそんな、カッコよすぎる英雄!

 そんなカッチョーエみたいな、英雄になってみせる!


 それが俺の夢なんだから……!




☆ ☆ ☆ ☆


 俺が、神様から《盗賊》というジョブを受け取ってから、早4年。

 俺は、14歳となり、より一層、カッコいい英雄になる夢は募るばかりだ。


 俺はその日も、ダンジョンに居た。

 目の前で緑肌の小鬼、ゴブリンが棍棒を持って、迫ってくる。


「くらえっ! 必殺、《マエストロ・スラッシュ》!」


 長刀を背中で構えて、迫ってくる敵の前で、叩き落すっ!


《ギャイッ?!》


 振り下ろされた長剣は、ゴブリンの身体を真っ二つにする。

 いわゆる、ゴブ/リンって感じ?


 真っ二つになったゴブリンは、その身体が灰のように崩れてゆき、中から小さな魔石が落ちる。

 魔石を拾って、俺は「ふぅ~」と一息つく。


「流石の威力だな、《マエストロ・スラッシュ》! やっぱり俺の、カッコいい必殺技第1弾なだけはあるぜっ!」


 この技は、《盗賊》のスキルである《バックスラッシュ》を改良して生み出した、俺オリジナルな技!

 《バックスラッシュ》が背後に斬りつける技だとすれば、この技は敵の目の前で刀を勢いよく振り下ろして、相手に気付かれないうちに一刀両断する技だ。

 背面から斬りつける《バックスラッシュ》と対応して、前から攻撃するから《マエストロ・スラッシュ》だ!


「これからも頼りにしてるぜ、俺の必殺技!」


 背中の長刀に、これからの期待を込めていると、


「……前なら、《フロントスラッシュ》とかじゃないかな?」


 岩陰から、眼鏡をかけた地味な格好の女が現れる。


 ゆったりとした大きなフードに、どこぞの老木から作ったであろう樹の杖を手にしている彼女は、ゆったりとした歩きでこちらに近付いてくる。

 ゆったり、いやおどおどと怯えた様子といった方が正しいだろうか。


「不安ならば、ダンジョンの外で待っていればいいのに」


「それだと、スバルくんをちゃんと見守れないじゃないですか。だから、ユウユウはちゃんと着いていくよ」


 俺の姿を見るなり、彼女は、ぷくぅ~と頬を膨らませていた。


 彼女こいつは俺の幼馴染、【有明ありあけユウキ】。

 自らをユウユウと呼んでいる彼女は、神様に《魔導士》という、魔法を使うジョブの中でも上位のジョブを貰った者である。


「しかし、勿体ないなぁ。せっかく、ユウキは凄いジョブを貰ってるんだから、それを活かして英雄になるべきだっ!」


「でっ、でも怖くて……」


「怖いと言って、戦わなければ強くはなれないぞ。ひいては、英雄になれないぞっ!」


 そう、英雄になるためには戦って強くならないといけないっ!

 目指すは、全ての戦いを一瞬で終わらせる、英雄王カッチョーエみたいにっ!


「うぅ……スバスバは可笑しいよぉ~。普通、毎日のようにダンジョンに潜るとか頭がおかしいよ~」


 彼女が辺りをきょろきょろと様子を見るので、俺も辺りを伺う。


 ごつごつとした岩肌の洞窟のような場所でありながら、どことなく森のような自然な感じもある。

 魔石のクリスタル、炎の灯ったランプ、所々に巻き付いている緑の蔦たち、そして----なにか良く分からない巨大生物の骨。


「なにかあるのか? ユウキ? 別に、いつもと変わらないダンジョンだけど?」


「怖いのっ! 骨とかから謎の紫の液体とか出てるし、蔦からも変な声が流れてるしっ!?

 1週間に1日来るのでも多いのに、スバスバのように毎日来る方がおかしいの!」


「----そうか?」


 別にだけれども、そんなにおかしい事はないと思うが。

 わざわざ神様の方から、ダンジョンで夢を叶えよとか言われてるし、毎日のように入っても変ではないと思うが。


「そこまで怖いんだったら、ダンジョンに来なくても良かったのに……」


「けれども、スバスバを1人にするなんて……」


 ユウキはそう言うけれども、俺としては怖いのならばダンジョンの外に出といてくれ、って思うけれども。


「大丈夫だ! 俺は、英雄王カッチョーエのようなカッコいい英雄になる男! こんな中途半端なところで、倒れる訳がないだろうが!」


 そう、俺が死ぬとしたら、英雄王カッチョーエのようになってから!

 それまでは、負ける気がしない!


「スバスバ、まだあのアニメ、好きなの……? あんな取って付けた感じで、最終的にカッチョーエがなんとかしちゃうお話なんかが……」


「なにを言うんだ! あれ以上に、素晴らしすぎる神アニメがある訳ないだろうが!」


 まったく、ユウキはなにを言ってるんだか……。

 何でもできて、なんでも出来る、あんな完璧な英雄が他にいるわけないだろうが。


「英雄になるために、立ち止まっている時間は俺にはない! だから毎日のように、ダンジョンに潜って、英雄となるために経験を積まなければならない!」


 そう、英雄になるために近道なんてないんだ!

 目的をもって行動し、目標に向かって努力し、目印めがけて突き進むっ!

 それこそが、英雄になるための道なんだから!


「ん……?」


 そんな風に思っていると、ちょんちょんっと、俺の身体をなにかが掴む気配を感じる。


「すっ、スバスバ……? なっ、なに、その手?」


「……? 手?」


 ユウキがなにか騒いでいるので、視線の先を見ると----俺の足を、小さな手が掴んでいた。


 その手は空中から出ており、俺の英雄らしい逞しい足を掴んでいるのだ。


「ほほう、空中から手とは? やはりダンジョンでは、不思議なことが起きるんだな」


 しかもこの手、なんか小さくて、まるで小さな子供のような……。


 うむっ! 小さな子供の手は払いのけるではなく、差し伸べなくてはな!


 俺は手を払いのけるのではなく、ガシリッとこちらから掴み返す。


「スバスバっ?! 手を振りほどいた方が良いよ! 絶対にダンジョンの罠だよ!

 だってその手、空中から出てるし! それになんとなく金色に輝いてるし! 早く払いのけてよ!」


「嫌だね、ユウキ! 英雄は手を払いのけず、その手をしっかり掴み返して、英雄らしく対応しないと!」


「英雄らしくってなに?! 良いから、早く逃げて!」


 そうこうしているうちに、俺を掴んでいる手が俺を引っ張っていくようだ。

 俺の足が、透明な空間に引きずり込まれていくんだ! 多分、異空間って奴に引きずり込まれてんだ!


「ほら、なんか引きずり込まれてるよ!? もっと急いで払いのけて逃げないと、スバスバ!」


「断るっ! 俺は英雄のように、英雄らしく生きたいんだ!

 ヒロインの手を払いのける英雄は、俺の目指すカッコいい英雄ではないっ!」


「異空間に引きずり込まれるヒロインって、ユウユウの知っているヒロインにはないんだけれどもぉ~!」


 そうする中で、俺の身体はあの小さくてか弱そうな手に、異空間に引きずり込まれていく。

 もう既に身体の半分くらい、異空間の中に入って、見えない感じになってるっぽいけどね!


「じゃあね! ちょっくら、この手の持ち主であるヒロインを救ってくるさ!」


「ちょっ?! すっ、スバスバぁ~!」


 そうして俺は、異空間に引きずり込まれる。


 ちょっくら、ヒロインを救うために!

 七ヶ峰スバル、やってやるぜっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る