第13話納豆1
「おえええええええ!!!!!!」
「おい!ヒナギク!またリーンがゲロ吐いてるだろ!いい加減それ食べるのやめろよ!くっさいんだよ!」
ここは古代アトランティス大陸、現在勇者ヒナギクは納豆にはまっていた。異世界には無かった食材であり、リーンとネロの反応から見て分かる通りこの時代でもまだ納豆は浸透していなかった。なぜヒナギクが納豆を食べているのかと言うと、それはシンプルな理由でたまたま市場に行った時に見つけたからである。市場の店主曰く海外からためしに仕入れた食材であるらしいのだがその匂い屋見た目もあり全く人気が無いとのこと、しかしなぜかこれは絶対に美味しいに違いないと感覚で理解したヒナギクは迷わずそれを買い、いつの間にか常食するまでになっていた。
「嫌よ、絶対に私は食べ続けるわ。ネロあなたも匂いと見た目で忌避してないで食べてみなさい、とても美味しいわよ」
そういうとヒナギクは自信の研究で発見した黄金混ぜ率。納豆を、深めの鉢に移してかきまぜること305回、さらに醤油を加え119回。計424回混ぜ、旨味が増加した納豆をネロの口の中に放り込んだ。ヒナギクには確信があった、長年の研究によってたどり着いたこの完璧な回数ふわふわの泡に包まれ濃厚な味わいになったこの納豆ならネロが抱いている納豆に対する偏見を払拭してくれるんじゃないかと。
「くっさああああああ!!!おろろろろろろろろろ!!!!」
「ちょっと!おえええええ!!!ネロも吐いちゃったじゃない!おええええ!!!もうそれ食べるのやめてよ!!!」
「…何で伝わらないのかしらこの納豆の素晴らしさが、…まあとりあえず私が言えることはこれを作った人は天才ってことね」
「ちょっと勝手に綺麗にまとめようとしてるんじゃないわよ!!!」
○
いつもの放課後。部室にて花水木先輩がパソコンを見ながらいつものように話しかけてきた。しかし、いつもと少し違ったのはそれが超常現象の話ではなかったことだった。
「ねえ、日向君。納豆は好きかい?」
「え?…うーんまあ普通に好きですけど」
昔は確かにあの独特な匂いが苦手だったけど小学校高学年になるころには普通に食べられるようになったんだよな。特別好きって訳ではないけど出されたら食べるってくらいかな?
「…ふと思ったんだけどさ…納豆を最初に食べた人って天才だと思わないか?」
あー良くそういう話って出ますよね。ナマコを最初に食べた人とかホヤを最初に食べた人とか、なんか海産物が異様に多い気はしますけど確かに納豆もそれに並んで凄いと思いますよ。
「いやいや、その中でも納豆は格が違うと思うんだよ。ナマコやホヤは魚が食べるから食べれそうと判断できるけど納豆は誰も食べないだろう?だって明らかに腐ってるんだからね、これは何度でも言うけどボクは最初に食べた人を尊敬するし逆に納豆を馬鹿にする人を許さないと思ってるよ」
…もしかして土宮先輩に何か言われたんですか?
「…ッ!…良く分かったね…そうなんだよ…あれは今日のお昼休みの事だったんだけどね…」
○
「花水木~一緒にご飯買いに行こうよ~」
私立加納学園高等学校では昼休みの間は昼ご飯を買うために生徒が学校を出ることを許可されている。花水木先輩はいつものように土宮先輩と近くのコンビニエンスストアに昼ご飯を買いに行ったらしい。
「お!今日はおにぎり100円セールだって!やったな!私はこのいつも120円のソーセージおにぎり買っちゃおうっと!コスパコスパぁ!」
焼肉の食べ放題に行ったらコスパを理由に絶対に白米を食べない土宮先輩がいつものようにしょうもない理由でおにぎりを選んでいる中、花水木先輩の目には納豆おにぎりが目に留まった。
(あ!納豆おにぎりだ、そういえば久しく納豆なんて食べてなかったな。今日は久々に買ってみようかな)
理由は何となく。久しぶりに納豆おにぎりを食べてみようとそのおにぎりを手に取った時、両手に120円のおにぎりを持った土宮先輩がこう叫んだらしい。
「うっわ!なんだお前そんなの人間が食うもんじゃねえぞ!花水木…お前…味覚大丈夫か?」
「…ボクは納豆美味しいと思うけどな」
「はあーーー嫌だ嫌だこれだから納豆信者は、いいか?良く聞け?それは腐ってるんだぞ?明らかに人間が食べるものではないのは分かってるだろ?あーあ全くメイドロボットの漫画が好きだったり納豆が好きだったり、まったくお前ってやつはマイナーな事がカッコいいと思ってやがる。遅れてきた中二病患者みたいだぞ?いい加減そういうの卒業しろよな?」
心底人を馬鹿にしたようにそう話す土宮先輩の顔を見て、その瞬間花水木先輩の脳裏には先日ウナギを食べに行った時の光景が浮かんだらしい。
○
「日向君知ってるか?ウナギってな雑食で人間の肉も食べるんだとさ!もしかしたら私達が今食べてるこのウナギも人間の肉を食べてたりな!わっはは!そしたら私たちは共食いだ!」
「ちょっ…ちょっと…今そんなことを言わないでくださいよ!」
「…あっはは…土宮…他のお客さんもいるんだから大きな声でそういう事を言うのはマナー違反だと思うよ…」
しかし花水木先輩におごってもらって上機嫌なのか土宮先輩はなかなかやめようとしなかった。
「良くウナギを食べて応援って言うけど私はあれの意味が全然全く持って分からないんだよね、だって殆ど絶滅危惧種になってるウナギを食べて応援って意味が分からないだろう?このままじゃウナギが居なく
なっちゃうじゃないか」
「土宮…今ウナギ屋なんだから…」
「そうですよ…しかも花水木先輩に奢って貰ってるんですし…」
「なんだよ!これは大事な問題だろ!?全く最近の若者ときたら社会問題に目を向けようとしないからたちが悪い!俺のメイドは機械仕掛けだっけ?そんな漫画を読んでるからダメなんだ!」
「土宮…それ以上俺メイを馬鹿にするなよ…?キミは自分の偏見を人に押し付けすぎだ」
「おっ…おお…分かったよ…ごめんごめん…」
○
あの時、言ったのにまったく成長していない土宮先輩、完全に自分の偏見で人の好みを馬鹿にしてくる姿勢に思わず花水木先輩は叫んでしまったらしい。
「はああ!?納豆美味いだろ!!!ボクは一生納豆を食べろと言われても食べられる自身があるし!!!あと!!!俺のメイドは機械仕掛けはどう考えたってカッコいいだろ!!!」
○
「…とまあそんな事があってさそこからなんだかぎくしゃくしちゃってるんだよ」
あーそれは完全に土宮先輩が悪いですね。あの人マウントとることに対して全力で生きてるような人ですからね。しょうがないですよ、SNSにも良くいるじゃないですかそういう人。逆に目の前にいるって良いもの見れてるって思いながら生きましょう?ね?あんな人逆にレアじゃないですか。
「…日向君の言うことは最もなんだけどさ、つい、けんか腰になってしまったけどボクは土宮がこのままじゃもっとダメ人間にならないかが凄く心配でね…なんだかんだ言ってボクと土宮は小学生の頃からずっと一緒にいてね…小学校2年生くらいの時だったかな、学校なんて行く意味がない!時代は動画配信者だ!って学校に行かずに動画配信者になるって言ったときからボクが土宮を何とかしなきゃと思ったんだ…」
小学校の頃から土宮先輩ってかなり完成してたんですね…その時点から学校いかずに動画配信者になるって…もしそうなってたら完全に今頃詰んでたやつじゃないですか…
「そうなんだよ…でも今でもあいつは目を離したらフォロー&リツイートしたら抽選で100万円が当たるみたいな呟きに引っかかるだろ?何とか早く仲直りしたいんだけど…なんだか引っ込みがつかなくなってさ…」
………土宮先輩…高校生にもなってそんな呟きに引っかかるのか…ん?待てよ?ってことは
「先輩!もしかしたらこの方法を取れば上手くいくかもしれません!」
○
次の日
「土宮先輩!」
「ああ~?なんだよ廊下で話しかけてきて、おお~?もしかして私に告白でもしに来たのか~?ひぃ~なたくぅ~ん」
くっそっ!ムカつく!でもダメだ…ここは抑えなきゃっ!
「とりあえずこれを見てください!」
「はあ~?なんだよスマホの画面なんて見せて…なっ!!!なにいいいい!!!」
○
いつもの放課後、いつもの部室。しかし少し違うところはいつもより花水木先輩が上機嫌なところだった。
「あっはは!日向君ありがとうね!まさか土宮が…うん…ここまで馬鹿だとは思わなかったけど…助かったよ…」
先輩は徐々にテンションを落としつつも僕に対して感謝を伝えてきた。
「僕は最初からいけると思ってましたよ」
僕が取った手段はと手もシンプルなものだった。ネットの情報を完全に鵜呑みにする土宮先輩の事だきっとあの人ならWikipediaに書いてあることなら精査せず簡単に信じる。僕は納豆のページを少しだけ編集した。
納豆(なっとう)は、よく蒸した大豆を納豆菌によって発酵させた日本の発酵食品[3]。様々なものが存在するが、一般的に「糸引き納豆」を指す[4]。【ちなみに納豆の良さを語れるものは情報強者としてアメリカでは尊敬されており俺のメイドは機械仕掛けも同様である】
「ふっ…ふーん…私はこんな事昔から知ってたけどね?じゃっ…じゃあ私は予定があるから失礼するよ!」
編集したWikipediaのページを見せた後土宮先輩はそういうとすぐに僕の目の前から立ち去った。花水木先輩によるとその後先輩の所へと来て―――
「おい!花水木知ってるか!?納豆を何回混ぜれば一番おいしくなるか知らないだろ?423回だ!わっはは!花水木は全然知らないんだなあ!私が懇切丁寧に教えてやろう!」
―――まるで先日の事が無かったかのように…というかその記憶を上書きするかのように意気揚々と花水木先輩の前で納豆をスマホ片手に語ったらしい。
「…実はさその話を聞いてる時にはもう納豆の事なんてどうでも良くてさ…それよりもこんな雑に編集したページを本気で信じてる土宮を見てボクはもっとこいつをちゃんと見守らなきゃなと思ったんだよ…」
花水木先輩はそうつぶやくと少しだけ遠い目をしながらため息をついた。
僕も同意します。
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