第12話ツチノコ2


 この世で一番美味しいものは何か?おいおい、そんなのは人それぞれだろと言うもっともな意見はさておき、それが何か皆さんも考えてみて欲しい。カレー、ラーメン、寿司、まあこのあたりがパッと思いつくのではないだろうか?しかしそれは違った、インド料理の真骨頂のカレーより、中国料理を日本のセンスで魔改造したラーメンより、日本の食文化の神髄である寿司より圧倒的に美味しいものそれは―――


 ツチノコであった。


 後に勇者ヒナギクはその美味しさをこう語る


「私だって最初はただの蛇じゃないって思ったわ、正直蛇って苦手なのよね。ほら、一応私勇者だし良く道中野宿とかするのよ。その時蛇を捕まえて食べるなんて事は良くあるんだけど…固いし臭いし進んで食べようとは思わないのよね。だから最初このツチノコ料理が出てきた時は嫌な顔をしてしまったと思うわ。…だけど一口食べてみてなんて自分が愚かだったんだろうと思ったわ、このツチノコは蛇じゃないのよ!…もっと芳醇な香りと油と…弾力のあるけど柔らかい食感…そうねもうこれは言葉では言い表せないわ。あなたも一度食べてみた方が良いわよ」


 古代地球に置いてツチノコと言うのはかなりポピュラーな食材であった。アトランティス大陸だけではなくムー大陸にも、もちろん古代日本にもツチノコは広まっており皆その美味しさに舌鼓を打っていた。今回の物語はそんなツチノコ料理にフォーカスを当てたグルメ小説となる。


「ねえ、リーンまたツチノコ値上してない?」


 ここは古代アトランティス、勇者ヒナギクは小金持ちになっていた。先日ネロが提出したデザインコンペで見事金賞を勝ち取った彼女の元には大量の賞金と次の仕事が舞い込んできたのだ。そんな彼女は今やアトランティス大陸で押しも押されぬ新進気鋭の新人デザイナー、彼女はリーンやネロの元でデザイナーとして活動をしながらこの世界を満喫していた。…特にグルメ方面に力を入れて。


「そうなのよ!私もツチノコの蒲焼大好きなんだけど最近はツチノコも乱獲で数が減ってきちゃったらしくてね?年々値段が上がってきてるらしいのよ、もしかしたらこのまま行くとツチノコは絶滅危惧種になるのかもしれないわ。もしかしたら今後食べれなくなっちゃうかもしれないわ」


 少し残念そうな顔をしてそう語るリーンに対してヒナギクは少し悩んだかと思うとその蒼く輝く瞳でリーンを凛と見据えながら仰々しくこう言った。


「…食べて応援」


「はえ?」


 リーンは思わず聞き返してしまった。しかしそれも無理はない事だった、ツチノコが乱獲により数が減ってきていて将来の子孫のためにも自分たちが食べる数を減らしてその数を復活させようと言う話をしている時にヒナギクがいきなり【食べて応援】など理屈が通らないセリフを言いだしているのだ。リーンは自分が聞き間違えたと思っても仕方がない。


 ぽかんと口を開けこの人は何を言っているんだろうと言った顔をしているリーンに向かってヒナギクはゆっくりと、まるで今考えた言葉を無理やり口からひねり出したと言った様子で話始めた。


「…あえて逆に…食べて…食べて…応援するのよ…私達がたくさん食べることで逆に応援できる…そうだとは思わないかしら」


 その言葉に思わずリーンは息を飲んでしまった。異世界から来たヒナギクが紡ぎ出した今までの自分たちの文化では考えられない様な考え方。冗談を言っているのでは無いと言うことは、その瞳に映る覚悟を見れば分かった。ヒナギクは完全に【本気】で言っている。


「…何でか分からないけど…理屈は明らかに間違っているのは分かってるのに…その言葉を聞くとなんだかそれが正しいように感じるわ!そうよ!私が間違ってたわ!ツチノコは逆に食べて応援すべきなのよね!ヒナっち!良かったら今度それをツチノコキャッチコピーコンペに応募してみない!?」


「…もう一つ、土曜のツチノコの日って言うのも提案してもいいかしら。土曜日はみんなでツチノコを食べようと言う日を作りましょう。これで食べて応援がより浸透できると思うんだけど」


「…ッ!…やっぱりヒナっちは天才ね!!!なんだかヒナっちと話をしていると逆にツチノコを食べないのが失礼な気分になって来たわね!」


 その後、ヒナギクの提案は会議を通りアトランティス大陸で生まれた【食べて応援】と【土曜のツチノコの日】という概念は世界中に広まっていった。


「おい!お前ら!どう考えても食べて応援とかおかしいだろ!このままじゃツチノコがいなくなっちまうぞ!ツチノコは養殖化に成功してないんだぞ!将来俺らの子孫がツチノコが食えなくなっちまうんだぞ!?それでいいのかよ!」


 中にはこのような発言をする所謂ツチノコ警察と呼ばれる人もいたがその声はツチノコを負い目なく食べられると言うツチノコ過激派の発言により封殺されていった。皆なんだかんだ言って心の中ではうまいものなら絶滅しても良いとは思っていたのだ。美味しさと絶滅の天秤は美味しさの方へと振り切れていた。


 そして当たり前のようにツチノコはその数を減らしていきその後完全に絶滅した…唯一ウナギと言う代替食品を見つけた日本を除いて…


「ねえヒナっち、さっきニュースでやってたんだけどこのペースで行くとツチノコって後30年くらいで絶滅しちゃうらしいわよ?」


「…ならば逆にもっと食べて応援しなきゃね。今の内に食べておかないともう食べれなくなってしまうかもしれないわ」


「…………………………確かにそうね!!!」

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