第9話3種の神器2


「ニホン?なんだそれは?」


 今日は農作業は休み、いつものようにベルゼは漫画を片手にだらだらとノックと雑談してる中、聴き慣れない単語が聞こえ思わずオウム返しをしてしまった。


「んー?ああ、日本ってのは北西にある小さな島国なんだけどなーそこでしかこのヒヒイロガネは作れねえんだよー」


 そう言うとノックは呼んでいる漫画から視線を外さずに自分の持っている金属のタブレットを指差した。


「あー…そのクソ硬い金属か…」


 ベルゼは小さく呟きながら先日の出来事を思い返した。



 夕暮れ時、今日の作業も終わり一休みをしようとノックのタブレットを借り漫画の考察サイトを見ている最中その出来事は起こった。


「げ、やべっ」


 ベルゼは誤ってノックのタブレットを床に落としてしまった。傷つけてしまったのではないかと恐る恐る持ち上げたが傷はなく安心していると、それを見たノックが話しかけてきた。


「凄いだろーそれー、特殊な金属で作られてて絶対に傷がつかないんだーたぶんお前さんが殴っても壊れないんじゃないかー?」


「がっはは!俺様が本気で殴っても壊れないのか!………マジでやってやるよ!歴代最強と言われた魔王の一撃をよおお!………いったあああああ!」


 ベルゼは全力で魔力を込め殴ってみたが、ノックの言葉の通りタブレットはビクともせずベルゼの手を痛めたのみだった。



「しかし、こんなに硬い金属を作るなんてニホンという国はこのムー大陸よりも文明が進んでいるのか?」


 ベルゼは、このムー大陸よりも進んだ文明があるのかと興味本位で聞くと、ノックはぼんやりとした様子で答えた。


「いや、そんなことはねーぞー。ムー大陸の方が圧倒的に文明は進んでる。ヒヒイロガネはなーダマスカス鋼とオリハルコンを日本人が調合しないと作れない金属なんだよーあいつらはお前さんみたいに不思議な力を持っててなー」


「不思議な力!?なんだそれ!」


 その時、ノックの口から放たれた不思議な力と言う単語がベルゼの好奇心を刺激し、思わず読んでいた漫画を放り投げながらノックに詰め寄った。


「確か妖力って言う力だったような…」



【これより先、強大な災厄がこの国を襲う。ヒヒイロガネを超えた金属を作り出せ】


 古代日本、神話の時代とも呼べる時代で一人の鍛冶屋が悩んでいた。


「くそっ!ヒヒイロガネを超える金属…一体どうすればいいんだ…」


 突如アマテラス大神から命じられた無理難題、千を超える試行錯誤を繰り返したが解決の糸口すら見えない難題は彼の頭を悩ませ続けていた。


(このままじゃダメだ…何か…何か新しいヒントが無いと…)


 日夜研究を繰り返す彼は既に気づいていた。恐らくヒヒイロガネを超える金属を作るには異世界の金属でも使わない限り不可能なことは。


 そんな馬鹿な事を考えるなんて遂に自分も限界にきてるなと思い、何か気晴らしにならないかと久しぶりに町の食事処に出かけた時、それは彼の前に現れた。


「おっ…おい…おやっさんこれは…」


「あーそれかー?さっきアマテラス様が来てお前が来たら渡すようにと頼まれた物だ」


 そこにあったのは3つの剣、鍛冶屋として日夜数々の金属を見てきた自分でも見たことも無い金属の剣、禍々しくもどこか気品が感じられる大ぶりの剣と淡く青白く光っている神聖な双剣がテーブルの上に丁寧に置かれていた。


「どうやら旅行客から巻き上げた剣だとさ」


 そう言うと食事処の店主は再び厨房に戻っていった。


「この金属さえ使えばっ…ヒヒイロガネを超える金属も…」


 そう小さく呟くと彼は食事もとらずに自分の工房へと剣を持ち駆け出して行った。



「がっはは!ニホン楽しかったぞ!黄金色に輝く稲穂の大地に何とも美味な食事!そして何よりもあの妖力と言う力!魔力とも勇者の使う力とも違うもっと根源的な力だったな!まさかこの俺様が手玉に取られるとは!あのアマテラスというやつはなかなかやるじゃないか!研究のし甲斐があるな!」


 飛行船で30分、日本からの日帰り旅行から戻ってきたベルゼは上機嫌でノックに話しかけていた。


「おいらもまさか日本の王子がお前さんの剣をかけて決闘を挑んでくるとは思ってもなかったよー…でもいいのか?お前さんの剣取られちゃったが…」


 ノックは、敗北の対価として剣を置いていく事になったベルゼに気まずそうに声をかけた。


「がっはは!あれは俺様には無用の長物だ、重すぎて使えん!」


 ベルゼは日本に置いて来たのは【魔剣エンセツ】。それは【月斬りの魔剣士】と呼ばれた先代魔王がベルゼに託したアダマンタイト製の魔剣であった。


 魔力を込めれば込めるほど切れ味が増す強力な魔剣だったが、魔法をメインに使うベルゼにはその剣は必要の無いものであり、殆どコレクションへと成り下がっていた。


「がっはは!先代魔王には世話になったがな!俺様よりあいつの方が上手く使えるだろう!すぐれたものにこそすぐれた道具はふさわしい!」



 その頃勇者ヒナギクは…


「…完敗だわ」


 旅行先で来た日本で一人の男との戦いを終えたところだった。目の前の男は傷一つどころかその場から一歩も動いた様子は無い。


「…最後に教えて…あなたのその得体のしれない力はなんなの?」


 そう言いながらヒナギクはミスリル製の双剣である【聖剣フタツキ】を目の前の男に手渡した。


「【妖術 森羅万象】私の血を受け継いだもののすべての力を使える。未来では私の子孫が世話をかけると思うが…わっはは!…頼んだぞ」


 目の前の男はそう言いながら漆黒の瞳を細め、にやりと口元を歪めた。

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