第8話3種の神器1


「土宮先輩!!!いい加減働いてくださいよ!部誌の締切今日なんですよ!!!」


「うるさいなあ!分かってるって!ほら書いてるじゃないか!」


「Wikipedia貼り付けてるだけじゃないですか!!!!!!!!!」


 私立加納学園高等学校 超常現象研究会。同好会と言えど、放課後にだらだらと話をしているだけの集まりなど学校が許すはずも無く、僕達は一応真面目に活動していますと定期的に部誌を発行しアピールをしている。


 今日はその部誌の締切、流石にその頃になるといつも幽霊部員としてまったく活動に参加しない土宮先輩も花水木先輩に連行され、強制的に部誌の発行を手伝わされている。


 今回の部誌のテーマは3種の神器、日本神話の時代に作られたと言われる伝説の神具なのだが、土宮先輩の記事は…


【三種の神器(さんしゅのじんぎ[1]、さんしゅのしんき[2]、ほか)は、日本神話において、天孫降臨の際にアマテラス(天照大神)がニニギ(瓊瓊杵尊、邇邇芸命)に授けた三種類の宝器[注 1]であるところの鏡と剣と玉(璽)、すなわち、八咫鏡(やたのかがみ)・天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ、別名:草薙剣、読み:くさなぎのつるぎ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の総称である[3][4]。


また、これと同一とされる、あるいはなぞらえられている、日本の歴代天皇が古代より伝世してきた[注 2]三種類の神器(神から受け伝えた宝器[6])を指す。


読みはほかに、大和言葉(和語)で「みくさのかむたから[7]」とその転訛形である「みくさのかむだから」「みくさのかんだから[8]」があり、「みくさのたから[7]」「みくさのたからもの[8][2]」もある。「みくさ」は「三種」を意味する大和言葉。加えて、異表記として「三種の宝[2](さんしゅのたから)」「三種の神宝[2](さんしゅのしんぽう)」「三種の三祇[2](さんしゅのさんぎ)」がある。】


「コピペ!!!!!」


 一目で分かる圧倒的な手抜き感!いくら同好会の部誌とは言えどこんなものが許されるはずは無い。


 ちなみに花水木先輩の記事は…


【実は古代日本人は妖力と言われる不思議な力を使うことができ、ムー大陸やアトランティス大陸とも親交が深かったとも言われている。ムー大陸からはダマスカス鋼、アトランティス大陸からはオリハルコン、それら伝説の金属を特殊な配合で調合し、そこに妖力を加えることにより、ヒヒイロガネと呼ばれる神秘の金属が作られた。そしてそのヒヒイロガネを使って作られたのが3種の神器。…しかしボクはそれだけではないと睨んでいる、アマテラスがニニギに対して授けた3種の神器はより特別なものだったのではないか、ボク独自の調査によればさらに幻の金属と呼ばれるミスリルとアダマンタイトを3種の神器に加えていたのではないだろうかと思う、なぜそこまでして作ったかその真実までは分からないが…もしかすると日本古来からある妖怪伝説古代日本には倒すべき強大な敵が存在していた………らいいなあ】


「妄想!!!」


 一行目から妄想入っちゃってるよ!…らいいなあって!最後の文なんて妄想ですら無くて願望になっちゃってるし!


 まあ、ちゃんと記事を書いてるし良いんだけどね。それよりも問題は―――


「あーもうめんどくさいなあ、部誌なんてどうせ誰も読まないんだから適当でいいだろー?私は家に帰ってゲームしたいんだよー」


 そういって一切やる気を出そうとしない、土宮先輩だ。先輩はその漆黒の瞳をジトっと細めつつ、だらーとテーブルに体を預けポチポチと自前のノートパソコンに文章を打ち込んでいる。


 こいつッ…やる気ねえ…


「あっはは!日向君!土宮も頑張ればできる子なんだから長い目で見てやろうよ」


「いや…その頑張ろうとする気が見えないんですが…てか先輩は土宮先輩の母親ですか」


 軽快な笑い声と共に土宮先輩を雑にフォローする先輩の甘さに呆れかえっていると、ため息混じりに土宮先輩が長い黒髪をなびかせながら席を立った。


「ふーやれやれ、私はお邪魔なようだ」


「いやいや!一番必要なんですって!それっぽいこと言って逃げようとしないでくださいよ!」


「ちっ!」


 うっわ…態度わる…



 その後も土宮先輩はことあるごとに逃げ出そうとした。


「あーもう!こうやって考えてても埒が明かない!日向君ちょっとスタバに行って抹茶クリームフラペチーノを買ってきてくれないか!ミルクはブラベミルクに変更してチョコソースとチップのトッピングも忘れるなよ!」


「ええー嫌ですよーめんどくさいなあ」


「はああ!?めんどくさい!?こんな超絶美少女の頼みをめんどくさいと断るのか!?大体後輩ってもんは先輩の奴隷みたいなもんだろう!いいから行くんだ!」


「ええ…」


「なんだよその目は!あーもう怒った!今の私はSNSで自分の気に入らない呟きにクソリプを送るやつらくらい怒ってるからな!」


「…それってこの世のすべてに怒ってるみたいなものじゃないですか…」


「ああそうさ!私は帰らせてもらう!」


「土宮…また帰ろうとしてるだろ」


「ちっ」



「あーもう!こうやって考えてても煮詰まっちゃって埒が明かないな!ちょっと外の空気を吸ってくる!」


「まあ、確かにずっと籠ってるとアイディア出てきませんしね」


「おー!なんだ日向君も分かってるじゃないか!そうなんだよ!休憩だ休憩!あーあ!休憩し続けられる世の中にならないものかね!あーあ!小説で一発当てて一生休憩してたいよ!」


「…別に一発当てたからと言ってその後休憩し続けられる人生になるとは限らないんじゃ…」


「うるさい!とにかく私は休憩するんだ!」


「土宮…何で外の空気を吸うだけなのに鞄を持つ必要があるんだい?」


「花水木ッ…」



「おっと彼氏から電話だ。ごめんちょっと席を外させてもらうよ」


「え…先輩彼氏いたんだ…」


「おおっとぉ!?残念なのかーい?私みたいな可愛い先輩に彼氏がいてショックだろう!?おやおや涙目まで浮かべちゃってぇー!わっはっは!可愛い奴め!」


「いえ…先輩みたいな性根の腐ってる人に彼氏が出来るのに、何で僕には彼女が出来ないんだろうって考えるとすごく悲しくなって…」


「ッ…!その思考回路っ…!キミの方が性根が腐ってるんじゃないかいっ!?おい!なんでそんなに泣いてるんだ!逆に失礼だと思わないのかい!」


「あっはは!土宮に彼氏なんていないよ!」


「おいっ!花水木!よけいなことを言うなよ!」



 そして遂に土宮先輩ははじけた。


「やだやだやだやだ!めんどくさい!!!私もう書きたくない!!!一生遊んで暮らしたい!!!適当にゲーム実況するだけでみんなにチヤホヤされて金貰いたい!!!」


 急にそう叫んだかと思うと先輩は鞄を片手に部室を飛び出していった。


「あっ!てめえ!待てこのやろう!ゲーム実況者も遊びでやってるわけじゃないんだぞ!」


 驚くほどスムーズに出ていく先輩とその人生舐めてるとしか思わない浅すぎる言葉にあっけにとられ、一瞬反応に遅れた僕は土宮先輩を捕まえようと部室棟から走り去っていく先輩の背後を追いかける。


「なんだよ!先輩に向かってこの野郎とは!口のきき方がなってないぞ!その件については明日説教だ!今日は帰らせてもらうよ!じゃあな!私は本○翼みたいになるんだ!!!」


 そう捨て台詞を吐いたかと思うと先輩は想像以上に早い逃げ足で僕の追跡を引き離す。


「○田翼だっていろいろ苦労したんだと思いますけど!!!ちっ…あいつ逃げやがった…」


 どうするんだよ…締め切り今日なのにこれじゃあ部誌が完成しないじゃないか…本格的に不味いな…


 そう思ってると背後からゆっくりと歩いてきた花水木先輩が僕に声をかけた。


「あっはは!心配しなくても大丈夫だよ日向くん!あいつを呼び出すとっておきの策があるからね」


 先輩は口元をニヤリと上げながらそう言った。

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