第6話黄金ジェット3


「でね!ヒナっちは異世界から来たんだって!」


「へー!そりゃ面白いな!今少しデザインが煮詰まってる作品があるから何か創作のヒントになるかもしれん!」


 リーンによるヒナギクの説明が終わるころには、ヒナギクはこの世界でのフェニックスの扱いについて何となく理解が出来てきた。


(まっ…薪扱い…私は…勇者であるこの私は…こんなものに負けたって言うの…)


 ネロは目の前の巨大な炉にフェニックスを投げ込みながらリーンと話していた。そして長い棒で炉の中を弄ったかと思うと、おもむろに立ち上がり横にあった扉を開け、そこに大量に積まれてあったフェニックスを一掴みし火力の調整をするかのようにさらに何匹か炉の中に投げ入れた。


「うーむ、もう少し時間がかかりそうだな。リーンとヒナギクはそっちでくつろいでいてもいいぞ」


 リーンと話しながら炉を弄りつつもネロはそう言い、作業台の様なスペースを指さした。


「…ありがとうございます」


 薪扱いのモンスターに負けた、その事実がヒナギクの勇者としてののプライドを著しく傷つけ一瞬涙が出そうになったがヒナギクはぐっと我慢し、とぼとぼとその作業台の近くの椅子に座った。


「私は強い私は強い私は強い私は強い…」


「え!?どうしたのヒナっち!暗すぎでしょ!」


 元の世界では明らかに手加減している魔王に何度も負け、この世界では薪扱いのモンスターに惨敗。心の闇に飲みこまれそうになっているとリーンの明るい声が聞こえてきた。


「いっ…いえ、何でもないわ…」


 私勇者の才能無いのかなって思って。その言葉を勇者のプライドでギリギリで飲みこみ彼女は続けた。


「ところでリーンは何をしてるの?」


 気づくとリーンは、ヒナギクの横で何やら粘土細工のようなものをしているようだった。


「あーこれね、実は私芸術家を目指してるんだけど、私のおじさん…じゃなかった師匠がまずは粘土で立体の感覚を掴みとれって」


 おじさんと言いかけ、ギロリと睨むネロの視線が気になったのか師匠と言い直したリーンは続けた。


「私のおじさん凄いのよ!?絵だけじゃなく彫刻もデザインも何でもできるオールマイティの芸術家で鍛冶だって先月覚えて、もう金属の加工も自由にできるようになったんだから!」


「せっ…先月…」


(伝説の聖剣が先月鍛冶を覚えたばっかりの素人に直されてる…)


 キラキラと目を輝かせながらリーンは続ける。


「だから弟子入りしたんだけどね!…私まだまだ下手なのよ…」


 急にどんよりとテンションを落としたリーアはヒナギクに作っていた粘土細工を見せてきた。


「私にはとても上手に見えるけど…」


 リーアが見せてきたのは先ほどヒナギクが戦っていたフェニックスの手のひら大の粘土像だった。その造形は羽の1本1本まで忠実に再現されており、まるでミニチュアのフェニックスがその場にいるようだった。


「でもこれじゃあだめなのよー前に師匠に見せたんだけど・・・」


【ダメだダメだ!本物そっくりに作るなら立体複製機を使えばいいだけだろ?芸術家って言うのはもっと形に自分らしさを出さなきゃダメなんだよ!】


「って言って、ダメだし食らっちゃったのよねー」


 そういうとリーアはぐしゃりと粘土を握りつぶしてため息をつく。


「まあ、師匠の言うことも最もだし私もそう思ってるから何も言えないんだけどねー…あっ、そうだヒナっちも作ってみる?結構楽しいよこれ?」


 リーアは聖剣が出来上がるまでの暇つぶしになればと言った様子で、ヒナギクに話しかけた。


「えっ?でも私物心ついた頃から戦闘ばっかりでこんなのしたことないし…」


「もしかしたら案外才能あるかもよー?いいからやってみなって!あ…金色の粘土しか手元に無いけどこれでいいよね?」



「おーい!ヒナギク!剣直し終わったぞー…って何だこりゃ!」


 40分後、ネロが直し終わった聖剣を持って作業台の前に行くと、そこで見たのは―――


「ほら…だから言ったじゃない…私粘土細工の才能は無いのよ」


「いや!これ凄いわよ!」


「なんだこりゃ!スゲエじゃねえか!」


 ―――前衛的でアーティスティックな形をした粘土細工だった。


「なんだこれ!今まで見たことねえ形だな!もしかして亜音速飛行船をデフォルメしたものか!?」


「違うわよ!プレコをアーティスティックに表現したものに決まってるじゃない!」


 ヒナギクは自分の作品を見て盛り上がってる2人を見てそれが実は…


(フェニックスを作ったつもりだったんだけど…言えないわね…)


 転移した際に見たフェニックスを作ったものだとはどうしても言えなかった。


「ヒナギク!お前デザインの才能があるよ!」


 そういう、ネロの片手にはフェニックスを使って直した聖剣が握られており…


(わっ…私は…勇者よりもデザインの才能があるって言うの…)


 静かにそれを受け取りながら、ヒナギクの勇者としてのプライドはどんどん傷つけられていった。


「うおおおお!テンションあがって来たぜ!ヒナギク!ちょっとこれ借りていいか?俺!このデザインを次の飛行機のデザインコンペに出してみたいんだ!もちろんヒナギクの名前は出すぜ!?期待の新人現るってな!」


「…どうぞ好きにしてください…」

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