第2話モアイ像2
魔王【ベルゼ・ウィーク】異世界でその名を知らぬものはいなかった。
つけられた異名は【歴代最強の魔王】その名の意味するところは単純な戦闘力だけではなかった。
その理由は彼の異常なまでの好奇心に合った。彼は物心ついた頃から自分の知らないものを知ることに至上の喜びを感じ、その欲求は魔法学に向けられた。日夜魔法を究めようと研究すること200年、気づくと彼はすべての魔法理論を極めた男と呼ばれていた。
そして彼はその力を当時の魔王に認められ魔王軍に入ることになる。そこでさらに100年、彼はいつの間にか―――
魔王と呼ばれていた。
そんな彼がなぜムー大陸にいるのかというと…
「あーもう!マジうっざい!魔王軍に入ればもっと魔法の研究が出来ると思ったのに!なーんでこう毎日毎日毎日毎日俺様の命を狙ってくるかな!!!」
「あなた達魔人が攻撃してくるからじゃない」
難攻不落の魔王城、その最奥の玉座にて魔王相手に剣を向けているのは勇者ヒナギク。蒼く澄んだ目を輝かせながら剣を向ける彼女の後ろには、山のように魔人の屍が積まれており、その屍の数が彼女の力を表していた。
「いや!だから何度も言ってるけど俺様たちは自己防衛してるだけだって!お前たち人間が何度も何度も何度も何度も侵略してくるから結果的に戦争になってるんだろが!!!俺様は先先代とは違げえんだよ!!!あと四天王!てめえら!役に立たなすぎなんだよ!今日も秒殺されてんじゃねえか!!!」
そう叫ぶとベルゼは山のように積まれた魔人たちの屍に蘇生魔法をかけた。
「ぷはっ!!!魔王様!いつもありがとうございます!」
「去れ!役立たず! 」
「はい!」
100人以上いる魔人を軽く蘇生させたベルゼは魔人たちに撤退を命じるとヒナギクに向けてその燃えるような紅い瞳を向けた。
「…いつみても貴方のその魔力は反則ね…まあいいわ…もう始まってしまった戦争はあなたが死ぬしか終わらせられないのよ、おとなしく死になさい」
一瞬で100人以上の魔人に蘇生魔法をかける、その常識はずれの魔力量に絶望を感じつつもヒナギクは勇者としてこの場を離れる訳には、戦わないわけにはいかなかった。
2000年以上続く魔人と人間の確執は根深く、ヒナギクがいかにベルゼが過去の魔王と違うと説明しても彼女一人の力ではどうにもできないものがあった。
ヒナギクは苦々しく唇を噛むと魔力を込めた蒼い目をより一層激しく輝かせ、強く聖剣の柄を握り直した。
「っ…くそっ…あー!!!もう!!!分からず屋だな!!!もういい!!!俺様の負けでいいよ!!!他の土地で静かにやるからほっとけよな!!!」
ヒナギクの蒼く輝く目の奥に強い覚悟を見たベルゼは、彼女を殺さなければこの戦いが永遠に終わらないことを悟り…数瞬悩んだ後【特異門】を開いた。
「なっ…転移魔法!?」
ヒナギクが驚くのも無理はなかった、目の前に作り出された巨大な門は潜ればいかなる場所にも行ける転移魔法。ヒナギクも古代の文献でしか読んだことが無かった神の時代の魔法。その力をベルゼはいとも容易く使ってみせた。
(もし…この力を戦争で使っていたら…)
人類は確実に負けていた。その考えを飲みこみヒナギクは全力でベルゼの元へと踏み込んだ。
「ッ!させない!」
ヒナギクの透き通るような澄んだ蒼い目とベルゼの燃えるように煌く紅い目が交差し合う。
踏み込むヒナギクと待ち構えるベルゼ、その視線上の死線は加速度的に距離を縮める。
魔力、気、仙術、覇気、霊気、勇気、オーラ、タオ、チャクラ、全身全霊全ての力を込めた聖剣をベルゼへと突き刺さんとヒナギクは雄叫びを上げた。
「ちょっ…!邪魔すんなって!この魔法めっちゃ制御難しいん―――」
ベルゼは知らなかった、自身が作り出した特異門が時間も空間も…そして次元さえも超える可能性を持っていることに…
それは神の悪戯だろうかそれとも悪魔の罠だろうか、ベルゼの膨大な魔力とヒナギクの力。
ぶつかりあった力は共鳴し融合し膨張し
ベルゼの特異門は―――
―――暴走した。
「ちょっ…なんだこれ!?はああああああ!?」
暴走した力の奔流、自分の力を超えた魔力の渦に巻き込まれたベルゼは時間を超え、空間を超え、次元を超え異世界へと漂着した。
そして―――
「ってなんで魔王の俺様がこんなことしなきゃいけないんだああああああ!!!」
鍬を投げ捨てたベルゼは、そのまま数秒地面に落ちた鍬をじっと見たかと思うと再び叫んだ。
「だあああああ!!!ダメだ!!!やっぱり農業が楽しすぎる!!!俺様植物を育てるのって初めてだ!!!この世界未知すぎて超楽しい!!!俺やっぱりここで暮らすわ!!!」
―――ベルゼはこの世界に定着していた。
目に映るもの全てが新鮮で好奇心をふつふつと刺激されるこの世界はベルゼにとって天国のようであった。
「なあ、ノック…俺様超いい格言考えたんだけどよ…【晴耕雨魔】ってどうよ?晴れの日は畑を耕して雨の日は魔法の研究をするってことなんだけど」
「あー魔力ってお前さんが使う不思議な力だろー?晴耕雨読って感じで雨の日は本を読むってくらいなら将来流行りそうだけどなー」
そんな雑談をするまで現地の住民と仲良くなったベルゼはこの世界を満喫していた。科学と呼ばれる自分が知らない学問、今まで漫然と口にしていた食糧を自分で作って食べると言う喜び、そして何よりもヒナギクに命を狙われることの無い解放感、彼は長い人生の中でも1番この生活を気に入っていたといっても過言ではなかった。
「ところでよ…兄ちゃんこのでっかい石像は何なんだ?」
一通り畑を耕した後、2人は休憩をしながら雑談をしていると、ノックは畑の周りに大量に設置されてある石像に目を向けながら言った。
「おう!これはな、畑に害獣が入ってこないように作ったゴーレムなんだ。これくらい作っておけば大丈夫だろ?」
畑の周りにズラリと並んでいる石像を見ながら少し自慢げにベルゼは語る。
「まあ、正確に言えば俺様たちに害があると認識した物を守護するように作ったんだけどな?泥棒とか入った時でも警備員代わりに使える奴なんだぜ?」
「あーなるほどなーありがとな…兄ちゃん…でもなー…」
ノックは煮え切らないように相槌を打つと、ポケットから小さなタブレットのような物を取り出し、気まずそうに操作した。
するとブウンと言う小さな音と共に畑の四隅に置かれた円盤状の機械から半透明な光が畑を包み込むように照射された。
「害獣駆除ならこの素粒子バリアで充分だしなー…あとそのゴーレムって言うのか?ちょっと脆すぎるんだよー」
そう言うとノックはタブレットを操作し銃のように変形したかと思うと、ノックはその銃口を石像に向け…青白いビームを発射した。
「いやーこんな今時子供でも使える加粒子砲で壊れるようじゃなあーちょっと使えんよー」
ノックは加粒子砲で破壊された石像を目線で示しながら唖然とするベルゼに向けてボソリと呟いた。
「いっ…いや、でも!コスパはいいから!コスパは!!!1万2千年後も動くくらいの魔力は込めたから!!!」
ベルゼは何度目かのこの世界の常識に驚かされながらも、科学はやはり面白いと思いながらも、200年以上研究した自分の魔法の力が馬鹿にされたような感じがして少しだけ抵抗をしてみたが―――
「そんなに使わないでしょー…って言うか邪魔なのよー」
「はい…その辺の海にでも捨てときます…」
―――邪魔、その言葉がとどめとなったのかベルゼは肩を落としながらゴーレムに向かって海中に移動するように指示を出した。
「そういえばーアトランティス帝国にも兄ちゃんみたいに変な事する蒼い目をした女の子がいるらしいぞー」
そんな彼を見ながらノックは話題を逸らそうと、知り合いの貿易業をしている友人から聞いた話をふと思い出し、呟いた。
「はっはは!蒼い目か!そういえば俺様が前にいた世界でもそんな奴がいたぞ!前の世界では無理だったが、このしがらみが無い世界ならあいつと仲良く出来るかもしれんな!」
ゴーレムたちが海へと歩いていく姿を確認しながらベルゼは冗談めいた口調でそう言った。
特異門に巻き込まれたのは自分だけとは知らずに…
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