1-1 調伏師・ダグラス

「『ダグラス・リード』。貴殿をドローミ村の『調伏師テイマー』として任命する。明日より出発し、村長との相談の上で任務に当たれ」


想像していたよりも簡素な辞令に、俺は少し拍子抜けな気分だった。


ヴァナルガンド王国の首都・リングヴィア。この国では古くから人々に災いをもたらす『魔獣』という存在がおり、特に農村に甚大な被害を及ぼしていた。しかし、神話においては害のない獣も魔獣も祖先は同じ『神獣』であるとされており、共存が望まれることから無闇な殺戮は禁忌とされている。

そこで、殺さずして無害化する方法として、ヴァナルガンドには「調伏テイム」という特殊魔法の体系が確立した。魔獣の精神に攻撃し、人間に服従する命令をかけて無力化する魔法、またはそれを遂行するための補助魔法などがあり、その独自の体系は外部の魔術師にとっては神秘そのものと言えるものであった。

そんなヴァナルガンドの首都にある、調伏テイムの魔法を扱うプロ、『調伏師テイマー』の養成機関。そこを首席で卒業した俺は、ついに初任務と相成ったのだ。四属性からなる基本魔法、護身用の棒術、サバイバル術。調伏テイム以外にも様々な技術を身につけた俺に、農村の護衛程度なら訳がないと思っていた。これは決して思い上がりではなく、今まで重ねてきた努力と熱量によってそう思えたのだ。


馬車で中央都市リングヴィアから揺られること4日。俺は馬車の揺れが収まったのを感じてから扉を開けた。


「…おお」


一面に広がる緑と畑。烈日に汗しながら鍬を振るう農夫。堆肥の臭いを乗せたそよ風に回る風車。どこか温かみのある農村の牧歌的な風景に、俺はしばし尻の痛みも忘れて見入っていた。


「ほっほっほ。こんな田舎が物珍しいかい、若い調伏師テイマーさん」


すると、日焼けした白髪の老人がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。俺はその人物が何者かをすぐに理解し、頭を下げて出迎える。


「滅相もありません。私はダグラス・リード。本日よりドローミ村の『調伏師テイマー』に着任する者です。村長とお見受けしましたが」


「如何にも。話は聞いておったが真面目そうだのう」


「恐縮です。ところで今後の方針についてなのですが…」


「まあ、こんな所じゃなんだ。仮の住まいを用意したからそこでしようじゃないか。ついてきなさい」


「は。ご足労おかけします」


村長の後ろを大人しくついていく。俺の調伏師テイマーとしての人生が始まる第一歩なのだと思うと、土の道を踏みしめる足取りも感慨深いものがあった。

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派遣テイマー~調査は村を追放されてから~ ふぁぶれ @Fable-26

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