第5話 teach for you


「標と一緒も久しぶりだね」

「そうか?」

「パカパカ依頼取るから」

「……どんな表現だよ」

 今日の任務は晋と標の二人だった。

 狭間に潜り込み、人のいないアーケードを歩いている。

「疲れないの、そんなに働いて」

「お前に言われたくないわオーバーワーカー。俺は仕事取っても単独とか少人数とかは少ないんだよ」

 霊力の減退も気になるしな、と標の言葉が零れた。

 彼らの異能力を行使するための燃料、霊力には限りがある。

 おおよそ二十歳がひとつの山場であり、そこが異能力者としての寿命になることがある。

 緩やかに霊力を失うもの、ある日を境に失うもの、完全には失わなかったがギフトを行使できなくなるもの。

 人それぞれだが、そんな風に分けられる。

 成人になってからもギフトが使えるものはそれだけで重宝される。

「今のところはまぁ、これもあるし何とかなってるが」

 そう言って腰に差した二本の刀を示す。

 霊装と呼ばれるそれ自体が特殊な能力を持った道具だ。

 「双子盃」と呼ばれる標の持つ霊装はそれなりに価値のあるものだ。

「……相変わらずすごい霊力だね、それ」

「その分強力だ。お前も霊装の申請したらどうだ?」

「はは、まだやれるよ。四速炎参の方が慣れてるし」

「……そうか」

 沈黙。

 なんだかやりにくいな、と晋は思った。

 ここ最近そんなことばかりだ。

 姫流も標も、自分との距離をはかるような態度をとる。

 傷口に触るように慎重に、その癖友達としての顔を忘れないから晋はなんだがムズムズとしてしまう。

 その理由というのも察しは着くのだがそれを真正面から言うと話はこじれるだろう。

 だから晋は保留する。

 この話はいずれのことにしよう。

 そんな考え方をしている。

「……今日は調査だっけ」

「あぁ、組合員が動いているらしい」

「……また組合か」

 前のことを思い出す。

 組合とはこちら側とは違うギフト持ちの人間たちの集団であり、敵対関係にある。

 化生をあの世から狭間、狭間からこの世に移動させようと企んでいる。

 侵攻し、統率しようとしている……が、その詳細は不明である。

「ん」

「どうしたの?」

「向こう、なんか通ったか?」

「ほんとに?」

 いつでも抜刀できるように標が手をかける。

 晋もギフトを発動しようと拳を握った。

「待て」

「?」

「見間違いかもしれない、まだ使うな」

「一速なら」

「使うな」

 閉口。

 握った拳を開く。

(隙見て発動する準備しとこ……)

 意識的に左胸を叩くのが発動条件だが、集中すればそれも簡略化できる。

 じりじりと標が何か見たらしい位置に近づく。

 商店と商店の隙間、人ひとり分の空間。

 そこに視線を投げ込んだ。

「!」

 標の体から汗が吹き出す。

 肌に触れる空気がやけに冷たく感じる。

 氷を貼り付けられたような錯覚。

 背筋をなぞるように汗が伝う。

「……なんで」

 一方、晋の顔には笑みにも似た色。

 心臓の鼓動が一段階早まる。

 ギフトを使ったからでは無い。

 そこにいるものを彼は待ちわびていたのかもしれない。

「……先生」

 二人の視線の先、ラフな格好をした女が立っていた。

「やぁ」

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one for the..........? 鈴元 @suzumoto_13

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