第3話 money for eating


 蛇柳学園じゃやなぎがくえんは一般的には私立の高等学校として認識されている。

 自然が多く、少しばかり交通が不便な土地に巨大な敷地を持っている。

 しかしその実態は化生に対抗するギフトを持った人間を統括する組織でもある。

 学生たちは寮で生活し、学問とともに化生に対抗する技術を学ぶ。

 それは晋たちも例外ではない。」

「はい、お疲れ様……めでたしめでたしって感じじゃなさそうねぇ。治療は受けてきたかな?」

「はい。服も直してもらいました」

 蛇柳学園学生寮、名は不破寮。

 その管理人室には学生たちに与えられた任務を統括する箕面典子みのおてんこがいる。

 報告の時間である。

「組合員がいたぞ」

 姫流は単刀直入にそう伝え、箕面は眉をひそめる。

「それは悪かったねぇ今回の件には組合が噛んでない、そう判断したのはこっちの落ち度だね」

「感知出来てなかったんですよね」

「結乃くんの言う通りだね。こっちは微弱な化生の気配を感知しただけで、人の存在は感知していなかった」

「アクシデント、ということでいいんですか?」

「そうなるねぇ、申し訳ないけど……晋くん。全体の報告をお願いできる?」

 箕面の言葉に晋が頷く。

 若干顔に気まずさを滲ませながら。

「狭間内での調査中に見られている気配を姫流が察知。ギフトで感知して抗戦に入りました」

 思えばあそこで引くことも視野に入れるべきだったのかもしれない。

 敵を倒すことを第一に考えるくらいには彼らは真面目で任務に忠実な人間だった。

「……組合員はギフト持ちでした。腕の動きに連動して斬る攻撃を。斬撃を飛ばしたりもしてきたので拡張技術も使えるかと」

「ふむふむ……歳の程は?」

「成人していました……それで、一応撃退……しまして、それから依頼にあった化生を退治しました」

「化生はどんなのだった?」

「え……」

 思わず口ごもる。

 箕面は微笑みを浮かべて晋を見ていた。

「小さい鬼みたいなのだったでしょ晋。ボケてるじゃん」

「え、あ……!」

「んー……なるほどねぇ。分かったよ。こっちでも調査しておくよ……下がってもらっていいよ」

「失礼します……」

 頭を下げ、三人は管理人室を後にする。

 疲労の残る身体を引きずりながら寮の共有スペースへとやってきた。

 机を囲むように置かれたソファーには標と愛美が座っていた。

 もちろん、先程二人が買ってきたものは標の部屋に保管され隠されている。

「お疲れさん」

「どうだったどうだった?」

「まぁなんとか……」

 三人もソファーに座る。

 柔らかな感触が体に伝わってきて、息とともに疲労が出てくるようだった。

「休んだら飯でも行くか?」

「飯って……食堂でしょ?」

「標の奢りで街に出るか」

「おい、なんで俺の奢りになるんだ」

 一番稼いでるからと姫流がいうと標は閉口した。

「……いいよ、行くか。ただし、ファミレスとかそういうのだぞ」

「やったぞ愛美、勝ち取った。好きな物食わせてもらえ。何がいい?」

 勝ち誇ったように笑いながら姫流が腕と足を組む。

 言葉を投げられた愛美は指にはめた九つの指輪をテーブルに並べている結乃の方を向いた。

 慌てた雰囲気の瞳を結乃の瞳が見ていた。

「え……えーと、結乃結乃! 何にする?」

「……ハンバーグのプレート十枚」

「そんなに頼むな馬鹿」

 やいのやいのといつもの空気が満たされていくのを感じ、気付けば晋は笑みを浮かべていた。

 報告をしていた時のような緊張や気まずさはどこにも無い。

「晋。お前も来るか?」

 姫流がそう耳打ちする。

 標や愛美はどこの店にするのかを会議している。

「行くよ? 何で? 足も治してもらったしね」

「あぁ、いや、お前がいいならいいんだが……かなり疲れてるだろ」

「平気だよ。なんてことないって、四速で長時間戦った訳でもないしね」

「……そうか」

「よし行くぞ。箕面さんに外出と転送の許可とってくる」

「僕も行くよ標」

 標と結乃が立ち上がり、管理人室へと歩いていく。

「……標」

「なんだ?」

「晋。霊視乱れてた」

「……歳だな」

 ポケットの上から放り込んだ指輪の感触を確かめつつ、結乃が言葉を返す。

「本気で言ってる?」

「冗談に聞こえたか?」

「いや、聞こえてないからそう言った」

 二人の背を見送る三人にその会話は届かない。

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