第2話 all for one


しるべー。三人大丈夫かなぁー」

 夏の蒸し暑さが満ちる夕暮れの街を歩く男女。

 ちょろちょろの落ち着きの無い様子のジャージを着た少女と人ごみの中でも頭ひとつ抜けた背の少年。

 少女が動く度に頭の小さなポニーテールが揺れる。

 少年の手にはビニール袋、中には食料品が詰められていた。

「大丈夫だろ」

「そうかな? そうかも」

「ちょっとした調査依頼だ。そのぐらいでしくじるわけないな」

「その調査対象がちょー強かったら?」

「……苦戦はするかもな。だが、上も考えて割り振ってる。あいつらで処理できる。お前もわかってんだろ?」

「そっか……だよねー!」

 そんな話をしながら人ごみを縫うように進んでいく。

「次どこ行くんだっけ?」

「メモ持ってるだろ」

「……忘れた」

「なんでだよ……」

 少年、御幣島みてじましるべはポケットの中に手を突っ込んだ。

 折りたたまれたメモ用紙を引っ張り出して手渡す。

「標持ってたの?」

「愛美が忘れた時のためのリカバリーだよ」

「いえーい。標、てんきゅてんきゅー」

 標からメモを受け取り、愛美まなみが歩く速度を上げる。

 器用に人の波をかわしながらずんずん進んでいく。

「おい、ぶつかるなよ! ……なんか落としたぞ!」

 ジャージの上着のポケットから落ちていったそれを拾い、標は少し大股で歩き始める。

 すぐに追いついて愛美の肩を叩いた。

「勝手に行くな、置いてくな」

「子供じゃないのに」

「ガキと変わらんだろお前は」

「ひどー! 姫流に言ってやる」

「姫流もガキだっていうよきっと」

「そうかな? ……そうかも」

「自分で言ってて悲しくならないか?」

「なるかも」

「なんでそこもかもなんだよ……」

 やいのやいのと会話をしつつ二人は雑貨屋に入っていく。

 落ち着いた曲が店内には流れ、人の良さそうな店主がレジに向かっていた。

 なんとはなしに標が店主に会釈をし、それを見た愛美も合わせるように頭を下げる。

「……晋、どれがいいかな」

 声量を落としつつ愛美が標に言葉をかける。

 標は自分の顎に手を当て思案する。

(晋はアクセサリーの類付けないし……マグカップとかそれ系の方がいいよな……あぁ入浴剤とかアロマキャンドルとかでも……)

 頭の中で絞り込みながら店内の商品と照らし合わせる。

「愛美は何がいいと思う?」

「え、私? なんで?」

「なんでって……俺一人で晋の誕生日プレゼントえらんでもしょうがないだろ……一応、全員の代表で来てるけど」

「そうだよね……えっと、えーっと……うーん……」

 店内をきょろきょろ見渡している。

「……あ、あれ!」

「こら走るな」

 ぱたぱたと棚に近付き、愛美が商品を手に取る。

「……なんだこれ」

「パンダの貯金箱」

 それなりに大きな一品だった。

 何とも言えない表情のパンダが愛美の手の中にいる。

「……いいんじゃないか」

「え、いいの?」

「いいと思ったから選んだんだろ。だったらいいじゃないか」

「でも、もっと他のやつの方が晋も喜んでくれるかも」

「じゃあ別のにするか?」

「そうしようそうしよう。私ひとりで選んでもしょうがないし!」

 パンダが棚に戻っていく。

 標はそれを見てため息をついた。

「ん」

 振動。

 出所は標のズボンのポケットの中。

 携帯端末を取り出すとメッセージが届いていた。

 差出人の欄には依羅よさみ姫流ひめるの文字。

 内容は『業務と報告終了、寮に帰還済み。戻る時はプレゼントがバレないようにすること』

 隣の愛美にも内容を共有し、了解した旨を返信する。

「……あんまりちんたらしててもなんだな。そろそろ決めるぞ」

「はーい」

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