第2話:移り変わりて広まりて

熱源から発せられている波を追跡し続けたアタシはいつしか夜ノ見駅前に来ていた。時間が時間という事もあり、会社帰りのサラリーマンや街の外にある学校に通っている学生達がそこら中を歩いていた。


「……み、みやちゃん。本当にこっちなの?」

「その筈だが……アイツこんな所で……?」


 間違いなくこの周辺から波は来ており、それがとにかく不自然だった。口裂け女は主に子供を狙うとされている。もちろん例外はあるのかもしれないが、自分から率先して大人が多い場所に来るという事はかつての資料を見るに不可解だった。こんな所で刃物を使った殺傷事件を起こせば確実に騒ぎなってしまう。口裂け女にとっては犯行がしにくい場所の筈なのだ。


「でも何でだろ……今まで会ってきた怪異って、あんまり人が多い所は好まなかったみたいなのに……」

「そこだよな……ここにわざわざ来る理由は何だ……?」


 アタシは波の移動を察知し、そちらへと歩みを進める事にした。方向は駅の構内からであり、増々人の数が多くなる場所だった。翠は周囲を警戒しキョロキョロとしていたが、他におかしな波は感じない以上、この一帯には口裂け女しか居ないと確信出来た。


「みやちゃん、こっちだと……」

「ああ、分かってるよ。どうも妙な感じがするぜこいつァ……」


 熱源から出ている波を追跡していくとついにホームへと波が移動しており、仕方なく適当に近場の駅行のチケットを購入しホームへと向かった。ホームへと続くエスカレーターを降りていくと、他の駅へ向かおうと待機している人々の姿があった。ひとまず近場の開いているベンチに腰を下ろす。翠は気を遣ってか立ったまま警戒していた。


「みやちゃん……」

「妙だよな……何で駅だ? 駅にまつわる奴ァ他にも居たが、アイツはこんな奴じゃあ……」

「ね、ねぇもしかしたら、私達を撒くためにここに来たのかも……」

「なるほどな、確かにその線もあるか。この人数なら紛れるのに最適だしな……」


 アタシは腰を上げ、黄色い線の前で立ち止まっている人々の前方を通る様に歩き出した。後方からだと気付かない可能性もあり、その場合逃げられて新しい被害者が出る可能性もあったからだ。

 人々のほとんどは携帯を見る事に夢中になっているのか、アタシの視線に気が付いている者は少ししか居なかった。最悪の場合、翠の『万年亀の功』で記憶を封じればいいが、それでもやはり不審者を見る様な目で見られるのはあまりいい気分ではなかった。

 おかしい……アイツどこに隠れてる? いくら人型って言ってもあのコートにマスク姿の人間を見逃す筈がない。一度目の前で見たんだから忘れようもない。瞳ですらも特徴的なアイツを見逃す筈が……。


「あっみやちゃん!」

「?」


 翠の声に反応し正面を向いた瞬間、アタシの膝に衝撃が走った。どうやら前方からベビーカーを押している女性が近付いてきていたらしかった。女性は携帯を見ながら歩いていたのか前方をしっかり見ていなかったらしく、同じく口裂け女を探す事に集中していたアタシとぶつかってしまったらしい。


「っ!?」


 バランスを保とうとしたものの、左足が上手く動かせないアタシにとっては困難な事だった。杖を使う事も間に合わず、よろめく様にして線路へと転落してしまった。幸いにもレール部分に落ちる事は避けられたため、必要以上の負傷は避けられた。


「みやちゃんっ!」

「だ、大丈夫ですかっ!?」


 女性は動揺した様子で声を上げ、ホームに居た人々は何事かとこちらを覗き込んでいた。

 正直線路に落ちて大丈夫かもクソも無いが……まァ前を見てなかったのはアタシも同じだし、人の事は言えねェか……。しかし何で正面から来たんだ? あっち側には階段もエスカレーターも無い筈だが……。


『間もなく、電車が参ります』


 いつも通りのアナウンスが電車の到着を予告する。翠は慌てた様子で屈み込んでこちらに手を伸ばした。女性は動揺し過ぎているのか特に行動を起こそうとはしていなかったが、突然こんな状況になって動ける方が稀と言うものだろう。


「みやちゃん早く! 電車が!」

「ああ、頼む」


 そう言い手を掴もうとした瞬間、鈍い音と共に翠がアタシの方へと飛び込む様にして転落してきた。翠が胸元で抱えていた鶴入りの瓶も線路の周囲に敷き詰められている石の上に落下した。


「え、え……?」

「何だ……?」


 何とか翠を受け止める事に成功したアタシがホームを見上げてみると、そこにはスマホを構えている人だかりが立っていた。丁度翠が立っていた場所であり、どうやら後ろからぶつかられて突き落とされたらしかった。


「何してるんだ! 誰か駅員に!」


 ホームに居た少年がそう叫ぶと、その人物は人混みを押し退けながらこちらに近寄り手を伸ばした。見た感じ普通の学生といった風貌であり、体格の良さから何かスポーツでもやっている様だった。


「俺に捕まってください!」


 何だ、何が起きてる……? 今のは事故って事でいいのか? 口裂け女の仕業? それとも別の何かに引き寄せられた……?


「どうしたんですか早く!!」


 アタシはその声にハッとし、翠を支えたまま立ち上がり翠の手を掴ませた後、下から押し上げる様にしてホームに戻そうとした。


「み、みやちゃんは!?」

「アタシは後でいい! 先に行け!」


 後少しで上れるといったところで、今度はドカッと大きな音が響き、少年だけでなくホームに居た十数人程の人間が線路に転落してきた。大量の人間が一度に落下した衝撃を受け、倒れ込んでしまい石が身体に食い込むのを感じた。ホームからは悲鳴が上がり、向かいのホームに居る人々もスマホをこちらに向けたりひそひそと話したり、階段を慌てて上って行ったりと各々の反応を見せていた。


「み、みやちゃん……」

「っつ……翠、怪我は?」

「な、何とか……でも、いったい……」

「分からねェ。アイツのやり方にしちゃ妙だが、今はそれよりも……」


 再び電車の到着を予告するアナウンスが響く。後数分もすれば電車が到着し、このままならアタシも含めた大人数が死亡する事になる。そうなれば口裂け女どころの騒ぎではなくなる。


「翠、その人達に退避用のスペースに入る様に言ってくれ」

「み、みやちゃんは!?」

「もしもに備える……」


 アタシは気を失っているものと思われる利用客を体から押し退けると杖を拾い、それを二つあるレール部分にそれぞれ接触させた。杖を通して触れたその部分には熱源を発生させ、それをレール上で滑る様に移動させて遠くへと離していった。

 後ろを見てみると気を失っていた人間も含めて退避スペースに避難する事は完了したらしく、翠は瓶を抱えてこちらを見ていた。


「みやちゃん!」

「翠、もう一個頼めるか?」


 翠がこちらに来るまでの間に駅内部の方を見上げてみると、窓越しに利用客と駅員が話しているのが見えた。客の方は相当慌てた様子であり、こちらの方を指差している様子が確認出来た。


「な、何?」

「多分駅員が車両に停止する様に指示を出す筈だ。だがアナウンスが流れてもう結構経つ……分かるよな?」

「う、うん!」


 翠はショルダーバッグから青い折り紙で出来た亀を取り出すと、先程熱源を伝わせた方向へと4匹飛ばした。踏切が鳴り響き、遮断機が下りる様子が遠目にも確認出来た。電車は間もなく到着する様だ。


「陣を作っとけ……念のためだ」

「分かった。『亀甲の陣』だよね?」

「ああ、それだ」


 2匹が線路脇に立ち、残り2匹はそれぞれの数メートル上に浮遊した状態で停止した状態で青く発光し始めた。電車がこちらに迫ってくる様子が見える。熱源が僅かに動いた。ホームの方からだった。

 そういう事かよ……なかなか小賢しい事するじゃねェか。だが、ちょっとアタシらを甘く見過ぎたんじゃねェのか。

 強く念じ、熱源を移動させ終わってから能力を発動させる。熱源が存在している部分のレールが赤熱し、やがてドロドロに溶けていく様子が遠目ながら確認出来た。この距離から見えるという事は運転手からも見えるという事だ。

 耳によろしくない金属音が響き、電車の速度が落ちていく。そしてその音に混じる様に甲高い女の声が響き渡った。もっとも、他の人間には聞こえていない様だったが。

 アタシは杖でホームへと触り、そこから熱源を伝わせ先程ぶつかってきた女性の体へと登らせた。その後、加熱を行うと女性の後ろから口裂け女の姿が現れ、悲鳴を上げながらホームへと転がり落ちてきた。


「あっ!」

「翠、追加だ。『玄武陣』!」

「う、うん! あと『玄武ノ陣』ね……?」


 翠は人除けの陣を敷く中、顔を押さえてのたうつ口裂け女の前へと立つ。相変わらず耳障りな悲鳴が響いていた。


「やっと見つけたぜ口裂け女さんよォ」

「グィィィィィ……ギギギ……!!」


 口裂け女は恨めしそうな顔をこちらに向ける。顔には熱の影響で出来た火傷痕が至る所に出来ており、皮膚の随所からグスグスとくすぶる音が上がっていた。




「おーおー綺麗な顔とやらが台無しだなァ?」

「オ、オマ、エェェェ……!」

「へっ……喋れるのかよ。長い事封印されて言葉も喋れねェくらいに耄碌もうろくしたのかと思ったぜ?」


 ゆらりと立ち上がり袖元から包丁がヌルリと姿を現す。それを見て杖伝いに石へと熱源を伝える


「テメェもう諦めろよ。すぐに封印してやっからよ」

「みやちゃん、電車止まった!」

「ああ。……だとよ。残念だったな? 巻き添え増やして魂取り込む気だったのか? そうすりゃ力が増すもンな?」

「ウラメシキ……ウラメシキ、ヒマツリィ~~……!!」

「……そうかよ。まァ、そう思えるのも今が最後だろうさ。次は無いだろうぜ」


 そう言った瞬間、口裂け女は化け物としか言いようの無い声を上げながら飛び掛かって来た。それを合図に一斉に熱源の加熱を開始した。バチッバチッと火花が散る音や「あちっ!」と叫ぶ声が聞こえ、アタシの顔に包丁が刺さらんとした瞬間、口裂け女の右腕や下半身は包丁と共に塵の様に消滅した。


「ギ……アガッ……!?」

「確かにな、テメェの方がアタシよりも素早い。どうやってもそこだけは敵わねェンだよ」


 後ろから駅員の救助する声が聞こえ始める。


「だがテメェはアタシを甘く見過ぎた。確かに斬新なやり方じゃあったが、もうちょっとこっそりやるんだったな」

「グウゥゥゥウウ……! ウラメシキ……ウラメシキ……!」


 怨の籠った目で見上げてくる口裂け女の口に杖を押し込む。しかし、実在する存在に触れているといった感覚は無かった。


「翠」

「う、うん!」


 翠は折り鶴で作った黒い亀、白い虎、青い龍、赤い鶴をそれぞれ決まった形で配置して口裂け女を囲った。そして翠が念じ始めるとその囲われた領域内が発光し始め、やがて口裂け女の姿が見えなくなるまで光が強くなると周囲から冷気がふっと消え、発光が終わった後にはもう化け物の姿はどこにも無かった。


「お、終わったんだよね?」

「翠がミスってなきゃな?」

「わ、私はちゃんとやったよ!?」

「ふっ……ああ、よくやったよ、ありがとう」


 翠の頭をわしわしと撫で終えホームへと目を向けると丁度救助が終わった頃合いだったらしく、転落した人達は皆各々の様子を見せていた。


「み、みやちゃん、もう解除していい?」

「ああ、いいぞ」

「分かった。……えっと、さっきの何やったの? 私陣を作るのに夢中で……」

「ああ、あれか」


 アタシは退避スペース内に落ちていた、破損したスマホを杖で引っ掻き出した。熱の影響で一部がドロドロになっており、もうきちんと使うのは不可能そうに見えた。


「これだよ」

「スマホ?」

「ああ、さっきぶつかられた時に妙に思ったンだよ。いくら人が線路に落ちたからって、そンな集まってスマホで撮るかってな」

「口裂け女が操ってたの?」

「その時は推測だったけどな。でもあいつに付けた熱源を移動させてレールの熱源と一緒に加熱した時に確信に変わった」

「違和感?」


 熱で溶けたレールの方を杖で指す。


「アタシは三つ同時に加熱させた。その内の一つは口裂け女に付けたやつだ。その熱源の反応はあのベビーカーの女性の近くから出てたンだ。ホーム上の人間が減って初めて気付けた。それでもしかしたらと思って、試しにスマホを加熱してみたンだよ」

「え、えっと……よく分からないんだけど、あの人がぶつかって来たのは口裂け女が操ってたからって事?」

「本人は無意識にやってたのかもしれねェけど、多分間違いないだろうな。アイツは時代に合わせてやり方を変えたンだ」


 自分のスマホを取り出し、SNS上で『駅 事故』と入力し検索をかけた。すると先程起こっていた事故を示しているものと思われる投稿がされていた。中には写真も添付されているものまであり、その写真の一部にはホームに立つ、コートを着たマスク姿の女が映り込んでた。

 キョトンとしている翠に写真を見せる。


「アイツはネットを利用しようとしたんだ。これを使って『口裂け女』の噂を一気に拡散させて、より自分の力を強めようとしたンだろうな」

「で、でも口裂け女にはそんな力無い筈だよ? そんなの資料のどこにも……」

「当時はネットが発達してなかっただけだ。時代が変われば人は変わる。それはもちろん怪異もだ。昔と同じなんて舐めた考えは捨てるべきかもな……」


 アイツから魂の波の様なものを感じなかったのはこれが原因かもしれない。口裂け女は既に一体の怪物ではなく、噂によって広まり力を増していく情報生命体へと変化していた。情報そのものが本体だから実像が無い。アタシ達の前に姿を現したアイツも噂によって作られた虚像に過ぎないのかもしれない。


「じゃあスマホを壊したのは……」

「アイツの力の源を断った。今のアイツは人の悪意やネットでの拡散力を自分の力に変換してた。厄介だが、その源が無くなっちまえば……」

「存在出来なくなる……」

「そういう事だ。あくまで応急処置だけどな」

「もう封印したよ?『四神封尽』で封じ込めたし……」

「あれはここに出てきた虚像だ。本体は情報そのもの、そっちを断たないと完全には消せないだろうな」


 ホームに居た駅員がこちらに気付いたらしく、急いで駆けてきた。人除けの陣が無くなった事でアタシ達を認識出来る様になったのだろう。


「お客様! そんな所に居らっしゃったのですか! 早く上がってください!」

「……ああ、すみません。ちょっと出るのに手間取って」

「い、今行きます!」


 翠を先に引き上げてもらい、その後翠にも手伝ってもらいながら何とかホームへと脱出すると、翠にすぐに人除けの陣を発動させてもらい、二人で駅から脱出した。あのまま付いて行けば、確実に事情聴取が行われる事が目に見えていたからだ。日奉一族が表に出る事は良くない。アタシ達が表にはっきりと出るという事は即ち、怪異や超常存在の実在を証明する事になってしまうからだ。


「な、何とかなったかな?」

「取り合えずはな。こっからはアタシらじゃどうしようも無ェ。姉さんに頼んでネット専門の人間に話通してもらうしか無ェだろうな」

「みやちゃんはやらないの? 何か凄いの作ったり出来るパソコン博士でしょ」

「ありゃ本読ンだりして何とか作ったやつだ。ネットから一つの情報をまとめて消すとかアタシには出来ねェよ」

「そっかぁ……」


 翠が周囲を漂っていた人除け用の折り紙を仕舞っている中、スマホを取り出し姉さんに繋げる。


「みやちゃん?」

「報告だ報告。ネットの話もそうだが、情報改竄もやってもらわねェと……」


 心臓が高鳴り、体温が上がっていくのを感じる。仕方がなかった事とはいえ、自分でも緊張しているのが分かった。

 念のためとはいえ、レールぶっ壊したのはまずかったよなァ……普通に考えて大事件だし、絶対叱られるよなァ……。でも言わない訳にはいかねェし、しょうがねェよなァ……。


「あ、姉さん……?」


 アタシは口裂け女を一時的に封じ込めた安心を得る間もなく、怒られる事を覚悟して事情を話す事にした。

 姉さんはアタシが話し終えるまでいつもの様に黙って聞いていたが、話し終えると小さく溜息をついた。思わず体が小さく跳ねる。


「……話は分かりました。まずはよく頑張りましたね。雅が頑張ったから被害者を増やさずに済んだのですよ」

「あ、ありがと姉さん……えっとそれでさ……」

「怯えなくてもよろしい。線路の事はこちらから一族各人に連絡をして対処してもらう様にします。話を聞くに故意にやった訳では無いのでしょう?」

「そ、そりゃもちろん、うん!」

「それなら結構。ただ、今後は他に打開案が無いかよく思案する事。その上で行動する様にしてくださいね?」


 姉さんの言葉は厳しかったが、声色は優しいものだった。


「うん、今度は気をつける」

「結構。では口裂け女の件は電子関連の一族に対処させます。他に話す事はありますか?」

「え、えっとじゃあ翠と代わるよ」


 翠にスマホを渡す。


「あ、あか姉。うん、何とかなったよ。……うん、うん。み、みやちゃんがちょっと眉毛切っちゃったくらいかな。うん、大丈夫って言ってたよ」

「…………翠余計な事言うなって」

「あ……ふふっ。うん……それじゃあね、ばいばい」


 翠は通話を切るとこちらにスマホを返した。姉さんが最後に代ろうとしなかった理由には大方想像がつく。


「怪我の事ァ言うなよ……」

「でもあか姉すっごく心配してたよ?」

「かすり傷だろこんなの……いちいち言う程の事じゃねェよ」

「そうかなー? ホントに痛くない?」

「痛くねェって。未だに痛がってたらそれは別の負傷だろが」


 翠はクスクスと笑った。こっちの気を知ってか知らずか分からないが、心配し過ぎだ。

 家へと帰るために歩みを進める中、ふと腹の虫が鳴き声を上げた。緊張が解けたからだろうか。


「お腹空いたね」

「……だな」

「みやちゃん」

「ン~?」

「あそこ入ろ!」


 翠が指差したのは駅前に建っているカフェだった。若者の間ではパフェが美味いだの何だのと話題になっているらしいが、行った事がないためあくまで噂程度の知識しか無かった。


「あんまそういうガラじゃねェだろアタシは……」

「そんな事無いよ。ね、ね。一緒に分けっこしようよ!」

「食いたいなら二個食えばいいだろ、金くらい払うぞ」

「そーじゃないんだよ……」


 むくれた顔をした翠はジトーっとした目を向けてきた。こうなったらこの子は絶対に折れない。気弱な事が多いが変なところで頑固だ。下手に断っても無駄な事だろう。


「……分かったよ。分けよう」

「やった!」

「ただし、あんましデカい声で喋るなよ? 特にアイツの事ァな」

「もう……ふふっ。分かってるよ。口が裂けたって言えないよ」

「……それなら良し」


 アタシははしゃぐ翠と共に噂のカフェへと足を運んだ。世の中ろくでもない噂も多いが、まァこういう噂なら悪くはないのだろう。

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