目覚め
その日の夢も砂浜で始まった。夢の中だが、何度も同じ夢を見ていたことで、わたしの意識ははっきりとしていた。またアレが来た。わたしはあの空洞の正体を確かめようと決心していた。これは夢の中だから、万が一何かされようと、死んだりはしない。昔内臓が爆発する夢を見た時だって、目覚めれば何事もなかったのだから。
ぎゅるっぎゅるっと不快な音がする。アレが少しずつ近づいてくる。わたしは近づくこともできず、アレが近寄るのを待っている。ぎゅるぎゅるっごりっぐりゅっもう目の前に来るか来ないかする内に、音の正体がわかった。これは歯だ。色こそ黒くて、質感も貝殻のようにザラザラ、ヌルヌルしているけど、細かい歯が、様々な方向に蠢き、ぶつかり合い、擦れ、不快な音が響いていたのだ。巨大な歯軋りを立てながら、わたしの顔が、そのソレの空洞の中に入り込んでいく。わたしは恐怖に身動きも取れず、早く、起きなければと念じていた。
不意に天井が見えた。わたしは目を覚ましたようだ。全身に汗をかいて寝巻きがぐっしょりと濡れている。不快極まりない。心臓はわたしの胸から飛び出ようとしてずっと飛び跳ねている。深呼吸して、安全を知らせてやると、次第に鼓動は落ち着いてきた。ぐっしょり濡れた寝巻きが冷たくなってきている。わたしは起き上がってシャワーを浴びることにした。
' バスルームに入ると、ぎゅるっごりっと、あの音が耳に残っていて、耳鳴りのように聞こえてきた。また幻聴かと何気なく鏡を見るとわたしの顔に空洞が出来ている。思わずボディソープのボトルを落とした。がらんごろんと音がして、ハッとそちらに視線を向けると、その瞬間音も止み、わたしの顔も元に戻っていた。鏡の中のわたしはすっかり疲れ切っていて、長い間眠っていたはずなのに、目の下には隈が出来ていた。あの夢に、だんだんと現実が侵食されている気がして気持ちが落ち着かなかった。もし夢の中のアレと現実世界で会ってしまったらその時わたしはどうなるんだろうか?
わたしは次に夢の中に行ったら、あの空洞に何かを突っ込んでみようと思っていた。あれが蠢く歯ならば、たぶん、突っ込んだモノは咀嚼するんだろう。それがどうなるのか、試して確かめる以外の選択肢はわたしには無かった。もし、アレが現実にやってきたら、その時までにアレを撃退する方法を探しておかなければならない。せっかくの、繰り返しの夢なのだから、やれることをできる限りやっておかなくては。
わたしはそのうちに、もしかしたらその夢も見なくなるかもしれないと淡い期待も抱いていた。とにかく同じ夢に悩まされている今の状態から抜け出したかった。いろんな意味で、わたしは疲れ切っていた。
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