夢の中のその日
QAZ
眠り
夢を見た。わたしは、夢の中で、歩いていた。砂浜みたいだ。向こうから、人が歩いてくる。誰だか、顔が見えない。真っ暗闇の空洞が顔の真ん中に空いている。ぎゅるっぎゅるっという音がして、空洞の中の黒い何かが蠢いた。不快な音だ。ぐちゅっぎゅるっと音を立てながら近づいてくる。わたしは振り返って走り出した。あの人間じゃない何かに近づいてはいけない気がした。
そこで目が覚めた。なんとなく、汗をかいている気がした。胸のあたりがズキズキする。怖い夢を見たからか、無理やり起きたせいなのか、良くわからなかった。起き上がって水を飲む。ごきゅっごきゅっと喉が鳴った時、不意にあの黒い空洞を思い出して吐き気がした。
このところ、時々同じ夢を見るようになった。必ず始まりは砂浜で、顔に空洞のある人間...人間と言って良いのかわからないけど...それが出てくる。それから、不快な音が夢を見ている間ずっと続く。頭がおかしくなりそうだった。夢占いにもそんな夢のことは載っていなかったし、霊能力があるとか言う友人も気に病みすぎだと言っていた。でも、この不快さはきっと見てない人にはわからない。
最近は同じ夢を見る感覚も短くて、夢の覚えもはっきりとしてきてしまった。おかげであの、不快な硬くてぬるぬるしたものが擦れているような音が耳から離れなくなってしまった。寝ても覚めても、あのぎゅるっぎゅるっという音が聞こえてくるようだった。
それにしても、あの顔の空洞はなんだろう。ここまで何度も見ていると、段々何かの意味があるんじゃないかと思えてきて、またその不気味な見た目の意味が、どうしても気になってしまう。顔のあの空洞の中、何が蠢いているんだろう?若干の怖いもの見たさもあってか、次にあの夢を見た時は、確かめてみたいような気にさえなっていた。
学校帰り、買い食いをして歩いて帰っていると、夕陽に照らされて暗がりになった路地に頭を突っ込む犬を見かけた。野良犬が飼い犬か、どちらにしても珍しいと思って近寄った。犬がこちらを振り返ると、ギョッとした。顔が無いのだ。いや、無いというか、空洞に、暗闇が広がっている。夢で見たあの顔だ。わたしは見間違えかと思って目をギュッと瞑ってもう一度見開いた。すると犬はもう後ろを振り返っていて、お尻をこちらに向けている。太陽はさらに傾いて、路地の暗闇はその黒さを濃くしている。確かめることも出来たが、現実世界のわたしは流石に確かめる勇気が無くて、そのまま家に帰った。これが夢だったならば確かめてみたのに、と多少の落胆を感じたが、まあ、噛まれて怪我でもしたらなんだしな...と自分に言い聞かせた。
家に着いた後は特別何をするでも無く、ご飯を食べてお風呂に入りすぐに布団に入った。何か遊んだり趣味に没頭したりする気にはなれなかった。いろんな意味で疲れていた。
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