第18話 歳を知りたくば死を覚悟せよ
シャノンから引き剥がされたアリエは悪びれる様子もなく、軽快な足取りで窓際に駆けて外を眺める。そして、声を上げて両手を合わせた。
「いいこと思いついた!」
「言わなくていいわ! 絶対にろくでもないことに決まっているもの!」
猫が威嚇するように全身を使って牽制するファリレを放って、アリエはシャノンに微笑みかける。
「シャノンちゃん、あのゴーレムを倒したいんだよね?」
「はい。あの剣がないと一人で魔法を使えないので」
ニコニコと嬉しそうに頷いて、アリエは腰に手を当てた。スタイルの良い彼女にはその格好がとてもよく似合っていて、シャノンは思わず見とれてしまう。
「だったら、お姉さんが魔法の鍛錬に付き合ってあげるよ。ああ、安心して。今回は身体を要求したりしない。ただ、時間がもったいないから、それが終わるまではここに泊まること。明日は朝から特訓だよんっ!」
「なーにが、『よんっ!』よ。勝手に決めないで貰えるかしら? お前みたいなどこぞのビッチとも知れない女の教えなんて必要ないわ。私が――」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰いますね」
「何でよ! 私の何が不満だって言うのかしら!?」
「胸が小さいんだもん。俺はアリエさんの胸をパフパフしたいんだ!」
「声でまるわかりよクソビッチ! こいつがそんなこと言うわけないじゃない! お前のだらしない胸より、私の綺麗な胸の方がいいに決まっているわ!」
そうよね、と同意を求められたシャノンは頬を掻きながら曖昧な笑みを浮かべる。どちらの胸と答えても身の危険を感じた。かと言って、両方良いというのも同様に悲惨な結果を生みそうだった。そのため、シャノンは無理矢理に話題を戻した。
「いやさ、ファリレは魔法操作が下手だし、教え方が雑だからさ」
それを聞くなり、アリエは誇るようにして胸を反らした。その瞬間、二つの塊が上下に揺れる。ボヨンという擬音が聞こえそうなほどに弾んだそれに、シャノンとファリレは目を釘付けにされた。
「その点、あたしは魔法操作が上手いし、おっぱいも大きいし、教え方も上手だよ。伊達に歳は取ってないからね」
「それは心強いです」
「大船に乗ったつもりでいていいよ、おっぱいも乗せていいよ」
「ありがとうございます」
「あれ? おっぱい無視かな? おっぱい侵害じゃないかな? おっぱい揉む?」
「間に合ってます」
その途端、ファリレ顔を真っ赤にしながら自らの胸を隠すように抱き締めた。
「ほほん、シャノンちゃん、なかなかのやり手だったんだね! 揉み心地はどうだった?」
「そう言えば、アリエさんっておいくつなんですか?」
途端、緩い空気が吹き飛び、場が凍り付いた。恥じらっていたファリレですら、シャノンへ真顔を向けている。重苦しい雰囲気の中で、アリエはその顔に形ばかりの笑顔を浮かべ、シャノンの肩に手を乗せる。
「良く覚えておいて、シャノンちゃん」
温度の低い声で届いた言葉は、まるで耳に冷水を注ぎ込まれたかのようだった。
細い肩にアリエの指が食い込み、シャノンは顔を顰める。その手はシャノンの肩を握り潰そうとでもしているかのように力が込められていた。
「女ってのは自分で歳をいじるのはいいけど、他人にいじられるのは我慢ならない生き物なんだよ」
言うなり満面の笑みを咲かせるアリエ。だが、そこから感じられるのは殺気。石造りの巨人の拳が迫ったときより遙かに強くのしかかる重圧に、シャノンは冷や汗を流す。
その日、シャノンは二度と年齢のことは聞くまいと誓った。
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