アインの伝説(68)
極大クジラの突進をかわして、ビエンナーレが一撃を加える。それを3回繰り返して、また2種類の魔法攻撃を受ける。
もちろん、ポーションで回復をはさむ。
極大クジラのターゲットはおれのままだ。
上空で宙返りしている間に魔法攻撃とかはまだるっこしいのでパス。
狙いはひとつだけ。
ループコースターみたいな迫力の宙返りから、地表スレスレのラインへ向けて再度の突進。
そして、おれを狙って、極大クジラがその巨大な口をかばぁっと開いた。
噛みつき攻撃。というか、消化攻撃か? 口の中で継続ダメージあるからな。
「来たぞ!」
「わかっている!」
おれの合図にビエンナーレが応える。
そう。
クジラといえばコレだろ?
喰われてからの内部攻撃!
おれとビエンナーレは、打ち合わせ通り、極大クジラの口の中へと逆突進をかまして飛び込んだのだった。
腰には魔法のランタンを付けてある。商業神ダンジョンで入手したアイテムだ。
極大クジラが口を閉じたらたぶん真っ暗だろ?
それじゃ、困るしな。
とりあえず斬りつけるか、と思ったけど、いきなりバランスを崩して、ごろごろと奥の方へ転がってしまう。
上下がはっきりしなくなる。
これは……。
「……宙返りしてるからか?」
「足場が悪いが、作戦通りでいいのか?」
ビエンナーレもおれと同じように奥へと転がってきたらしい。
「まともに立っているのも難しいようだが……」
「斬りつけるのはあきらめて、杖がわりに剣を使ってグサグサ刺すか……」
タッパでステ値を確認すると、継続ダメージが入ってる。これ、消化液で溶かされてるって設定なんだろうな。
『レラシ』
ビエンナーレに回復魔法をかけながら、おれは自分にポーションをかける。
そして、ふらふら、ごろごろ、どうしようもなくクジラの腹の中で揺らされながら、バッケングラーディアスの剣をあちこちに突き入れる。
グサグサグサ、ごろごろ、グサグサ、ふらふら、グサグサ……。
近くでビエンナーレは殴る蹴るを繰り返している。
ボカボカボカ、ごろごろ、ズバンズシン、ふらふら、バンバン……。
……なんか、一気に緊迫感のない戦闘になってしまった。
「これは……本当に……効果があるのか?」
「さあな? 少なくとも、剣で刺されて、ダメージがない、ってことは、ねぇだろ?」
そんなこと言われても、この作戦に乗ってきたのはそっちだからな?
グサグサグサ、ごろごろ、グサグサ、ふらふら、グサグサ……。
ボカボカボカ、ごろごろ、ズバンズシン、ふらふら、バンバン……。
おれとビエンナーレはひたすら、突いたり殴ったり蹴ったりを繰り返す。たまにおれは回復魔法を使い、ポーションを浴びる。
「こんな、奥に入って、大丈夫、なのか?」
「口の、ところ、だったら、空の上で、吐き出され、て、危ない、だろ?」
「なる、ほど」
グサグサグサ、ごろごろ、グサグサ、ふらふら、グサグサ……。
ボカボカボカ、ごろごろ、ズバンズシン、ふらふら、バンバン……。
……全身全霊で頑張って攻撃してるけど、たぶん史上最高にかっこ悪ぃよーな気がする。
そうやって攻撃を続けていると、もうまともに立てないどころか、その場にいる、ということすら難しいくらい、激しく揺さぶられるようになってきた。
「こ、れは、効い、てい、る、から、なの、か」
「さ、あな、わか、んねぇ、けど、くそっ、も、う、ねら、って、刺、せ、ねぇっ」
自分の意思で狙って剣を突きたてることが難しくなってきたので、しゃがみ込むような姿勢のまま、剣を固定してかまえて、極大クジラの動きに揺さぶられるまま、たまに剣が刺さる、という状態になった。ビエンナーレもおれを真似て剣を抜いている。
苦しんでるからこその激しい動きなんだと思うけどな。思うけども。
……それよりも、コレ、周辺の被害がマズいんじゃね? 全部上空での動きとは限んねぇだろ、コレは? いや、ビエンナーレには言えないけどな? 言えないけども!
とにかく、相手の動き次第だけど、ひたすら、剣は内部に刺さっていくことだけは間違いない。内臓の直接攻撃なんだから、クリティカル判定でもおかしくないのでは?
いや、だからこそ、この激しい動きになったのか?
そこから突然、ぐわーーーんっ、とめちゃくちゃな浮遊感をともなって一気に上空へ連れ去られる感じが、なんというか、高速エレベーターに乗ったような? あの感じ?
そして、さらに、そこから一気に落下していく、内臓がせりあがってくるあの、急降下の感じがやってきて……。
ドカンっ! という強い衝撃。
続けて、ビタン、ビタン、ビタン、というどこかに叩きつけられるような感覚が3回ほど。
そして、動きがなくなっていく。
「どうしたのだ、これは?」
「倒した、のかな?」
さっきまではまともに立てない状態だったのが、今は、普通に立ち上がれるようになっている。
そこへ、グサッ、ザクッ、という音とともに、外からの光が入ってきた。
「……今、とてつもなく鋭利な何かで切り裂かれるような音が聞こえたのだが?」
「あ、やっぱり? 気のせいかと思ったけど、気のせいじゃねぇんだな?」
「あれは、外の光ではないか?」
「そんな気がするよな?」
『……小さき者よ? 聞こえるか? そなた、こやつの腹の中におるのではないか? 喰われるところを遠目に見たのでな? どこかはわからぬが、聞こえたらそこから出てくるがよい』
「え……」
この声は……あれ? 草原で出会ったあの……。
『おらぬのか? もう喰われてしまったか? それとも別のところを裂くべきか……』
うわぁ、それはヤバい気がする!? 巻き添えでこっちまで切り刻まれそうだ!?
「ドラゴン様? もしかしてドラゴン様ですか? いますいます! 小さいのはここにいますから! やめて! 危ないからやめてください!? すぐに出て行きますから!?」
「ド……ドラ、ゴン、様……?」
「たぶん、草原にいた青い巨大なドラゴンだと思うんだけどな・・・」
「『草原の青』だと?」
あ、そんな名前だったっけ?
とりあえずおれは驚いた顔をしているビエンナーレを置き去りにして、光が入ってきている裂け目に顔を出した。
ちょっと首をかしげるようにしたドラゴン様がその裂け目をのぞいていらっしゃる。
いゃ、サイズが巨大でなければ、ちょっとかわいいしぐさかもしれねぇんだけど、このサイズでは無理がある。ありすぎる。
『おお、無事であったか。よかったのう。喰われて消えたかと思うたわ』
「ええと、ドラゴン様が助けて下さったんですか、ね?」
おれはおそるおそる、仰向けの状態でドラゴン様に踏みつけられている極大クジラの、横っ腹に開いた裂け目から外へ出た。
極大クジラはまだかろうじて生きているようで、微妙な震えが見えた。
『そなたを探しに来たら、ちょうどこやつに喰われたように見えたからの。慌ててこやつをひっ捕まえて、高空へ連れ去り、そこから急降下で叩きつけ、腹を裂いてみたのじゃ』
……マジで怪獣最終決戦だよ? ん? あれ?
青のドラゴン様の両サイド、斜め後ろに、同レベルの巨体がふたつ見えるんですけど、それはひょっとして、ひょっとすると……。
片方の巨体は赤く、もう一方の巨体は黄色い。サイズはまるで三兄弟のように青のドラゴン様と同じぐらいにしか見えない。つまり問答無用で土下座したくなるサイズというやつだ。
……あれ?
「探しにきた、とおっしゃいましたか?」
気になって周囲の状況を確認する。潜入した町の外壁が遠くに見えた。よかった。少なくとも、ドラゴンさまは極大クジラを町に向けて叩きつけたワケではなさそうだった。
『ふむ。まずはこやつにとどめを刺してはどうじゃ? 小さき者よ、そなたがこやつを追い詰めておったのじゃろう?』
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