アインの伝説(67)
『むううううんんんんっっ!』
巨人王の気合が響く。
極大クジラの突進を真っ向から受け止めた巨人王ムサシ。
だけど、その勢いを簡単に止められたワケではなかった。
ズガガガガガガガガッッッ!
闘技場の大地を踏ん張った両足で削りながら、さらには観覧席を破壊しながら、巨人王ムサシが押されて下がる。
それでも巨人王ムサシは観覧席に下半身を埋め込んだまま、極大クジラを最後には止めてみせた。
「ビエンナーレ!」
「言われずとも!」
おれとビエンナーレが極大クジラの横っ腹目がけて飛び出す。
おれは左の腹に、スラッシュ・トライデル・カッターと、連続技トロアをぶちかます。
反対側にいるビエンナーレはよく見えないが、たぶん、連打をぶち込んでるんだろうという轟音が聞こえてくる。
巨人王ムサシがタゲ取りして、なおかつ極大クジラを受け止め、抑え込んでる今しか削ることはできない。タンクがいる。それがどれだけありがたいことか。
クールタイムの技後硬直以外は、ひたすらバッケングラーディアスの剣を振るう。
トロアを3回、繰り返した時点で、極大クジラの目が動いた。おれを見てやがる。
稼いだダメージが巨人王ムサシからタゲを奪ってしまったらしい。
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
極大クジラが尻尾を大地に打ち付けて、その勢いで巨人王ムサシを押し倒しつつ、上空へと逃れていく。ちらりと見えた頭にX傷ができていた。十字傷じゃねぇーのかよ……。
どうやらタゲ取りできるくらいのダメージは稼げたらしい。しかも、DPSならおれの方がビエンナーレよりも与えられるダメージはでかいとわかった。タゲ取りはおれだったんだからな。これはいろいろとありがたい情報だ。もし、ビエンナーレと再戦することがあるのなら、だけどな。
おれは巨人王ムサシを見た。
「もう一回、頼めるか!」
『おう!』
崩れた観覧席から起き上がった巨人王ムサシが闘技場の中央あたりまで戻ってくる。
『だが、あやつの狙いは主のようだの?』
「ああ、それは考えがある。任せてくれ。ビエンナーレ・ド・ゼノンゲート、準備はいいか?」
「ふん。ビエンナーレでよい。当然、準備はできている」
上空で大きく宙返りを決めた極大クジラが、また突進してくる。何度見ても、でっけージェットコースターのぐるぐる回るヤツみたいな感じだ。その分、勢いがすげぇけどな。すげぇけども。
『来るぞ、主よ!』
「わかってる!」
おれの後ろで、巨人王ムサシが2本の巨大な刀をXの字にクロスさせてかまえる。
突進してきた極大クジラがそのバカでかい口を大きく開いて、おれを飲み込もうとしてくる。まあ、そういうのも想定の範囲内だけどな。
『主!』
おれはギリギリのタイミングを見極めて、さっき巨人王が極大クジラに押されてえぐれた闘技場の穴へと飛び込んだ。
おれの頭上スレスレで極大クジラが巨人王ムサシの真正面へ飛び込んでいく。
見えないけど、たぶん、巨人王ムサシはまたあの2本の巨大な刀で極大クジラを受け止めて、押されて下がりながらも抑え込んだのだろう。
おれは仰向けになって、影となった極大クジラの腹の下で、ひたすら剣術系上級スキル・ランツェで極大クジラを突きまくった。寝転がっても可能な予備動作だし、3mの貫通攻撃だから、剣が直接当たらなくてもダメージは稼げる。なかなかいいアイデアを思い付いたと自分をほめたい。ただし絵面は最悪だ。
極大クジラが尻尾を振り回して暴れてるみたいで、大地がぐらんぐらんと揺れてるけど、微妙な隙間だからこっちにダメージはない。すんげぇ情けないポーズでの攻撃だけどな? 仰向けで寝ながらランツェ。絵面が最悪なのはこの際気にする必要はないだろ? ないよな?
10回以上は刺したけど、きっちり数えてはいない。そこで影が動いて、光が差し込む。また、極大クジラが上空へと逃れたらしい。
おれはえぐれた穴から飛び出して、巨人王ムサシを振り返る。
「もう一回、頼む!」
『主よ、どうやら限界だ……』
「えっ……」
よく見ると、巨人王ムサシは左膝を大地につけたまま、立ち上がることができないようだった。
「膝、か? そういや……」
サワタリ氏の日記で、膝を痛めてたとかなんとか、書いてあったような気がする。
『いや、膝の古傷もあるが、どうやら時間切れのようだ……』
「3分間ヒーローかよっ!?」
古傷関係なしかよ!?
巨人王ムサシがキラキラエフェクトとともに、消えていこうとしていた。
『わずかな時間とはいえ、実におもしろい勝負だったぞ、主よ……』
ガラン、ガラン、と2本の巨大な刀を残して、巨人王ムサシは消え去った。
マジで3分とか、どこの星からきた正義のミカタだよ? 確かに反則級のアイテムだとは思うけど、せめて戦闘終了までとか効果があってほしい。これも運営にクレームいれたい。いれてもどうしようもないけどな。ないけども。
とりあえず、巨大な刀はタッパ操作でストレージに収納した。いつかメフィスタルニアを奪還した時には、あの地下墓所のどっかに祭っといてやろう。どうせ使い道とかねぇしな。
「あの者は、消えたのか?」
「あー、まあな」
「どうするのだ? 打つ手はあるのか?」
「……とりあえず、闘技場の中央に」
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
上空を旋回し始めた極大クジラは、黄色い潮を噴き上げていた。あのハチャメチャな天候魔法がくる前兆だ。
「魔法攻撃がくるのではないか? 逃げた方が……」
「おれたちがここから動くと、被害範囲が拡大するぞ?」
「む……」
そう言っておれはビエンナーレに特上エクスポをぽいっと投げた。
「金の……回復薬ではないな? これはいったい?」
「まあ、毒じゃねぇーから、あいつの魔法攻撃喰らったら飲んどけ」
「……ふむ。ありがたく頂くとしよう」
『デンガラ』
真っ白な光が視界を奪い、降り注ぐ電撃に全身を痛めつけられながら、さらには大粒の雨に叩きつけられていく。もちろん、一気にHPが削られていく。
HP0までのダメージにはならないとわかっているから、痛みを我慢するだけなんだけど、これ、精神的に辛いよな。
「……なんという怖ろしい魔法だ」
「それ、アンタが言うか? あんな切り札あるクセに?」
「その切り札を乗り越えた者に言われてもな……」
エクスポを頭に浴びせながら、おれとビエンナーレが会話している。どうしてこうなった? 何がどうなったらこういう状況になるんだろーな? 誰か攻略ウィキを読み上げてくれ……。
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
極大クジラは上空を旋回し続けたまま、今度は緑の潮を噴き上げていた。
「マジか。連続でくるのかよ……」
おれは特上ライポを取り出して、ビエンナーレに投げ渡した。
「また金の回復薬か? 白亜の塔でも50年に1度しか見つからぬという貴重な薬をいったい何本持っているのだ……」
「ガイアララにも作れるヤツ、いねぇーんだな……」
「作れるのか? 金の回復薬を?」
「あー……次の魔法、くるぞ」
しまった。しゃべり過ぎだかも。
『デンゲラ』
また視界は真っ白だ。電撃の痛みに慣れたワケじゃねぇーけど、こうも繰り返し喰らうと感覚もおかしくなってくる気がする。耐性スキルとかあるゲームじゃねぇもんな。さらには暴風に襲われ、踏ん張るけどおれもビエンナーレも耐え切れずに倒れてしまう。
雷と風が止んだらポーションで回復しつつ立ち上がる。
「打つ手はないのか?」
「まあ、アレが気まぐれに突進してきた時に、ちょっとずつ喰らわせるしかねぇかなぁ……」
「打つ手はないのだな……」
「アンタはあるのかよ?」
「いや、思いつかぬな」
「ちっ……ま、一か八かなら、手はないこともないけどな……」
「ほう?」
ビエンナーレが、笑った。
あ、コイツ、こんな風に笑うんだ、とか、そんなことを思った。
「それを聞こう……」
ビエンナーレがおれの話に耳を傾ける。
そうして、おれとビエンナーレは、極大クジラ相手に、賭けに出ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます