アインの伝説(66)
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』は基本、ソロプレイのRPGなんだけど、ネット上のMMOイベントとか、通信協力プレイ……LAN接続で最大6人までの協力プレイが可能な特別ミッションとかもあって、その特別ミッション『地獄級ダンジョンをクリアせよ!』の中でフロアボスとして出てくるのが『テラガラゲラ』……『極大危険デンガラデンゲラテラデンジャラス』だ。
突進、尻尾振り、噛みつき……というか食べられちゃうから口の中での拘束でしかも継続ダメージを喰らう、踏み潰し……足はないけど巨体で圧し掛かってくる、咆哮……叫び声で対象に恐怖を与えて動きを鈍らせるデバフのフィアーを付与、とか、まあそんな高難度モンスターだ。
何より、その通称の元となった2種類の極大天候魔法、黄色い潮を吹き出した時に使う轟雷雨『デンガラ』と緑の潮を吹き出した時に使う暴風雷『デンゲラ』という範囲攻撃魔法が強烈だった。
コイツに挑戦した協力プレイの友人たちの友人関係すら崩壊させてしまうというとんでもなく危険なモンスターなのだ。
中坊なんて役割を押し付け合って表面上は納得したフリしても内心は大荒れだかんな。しかもSNSでそういう内心はダダ洩れだし……。
通信プレイをする時って、マイキャラなんだけどさ、たいていみんな『勇者』キャラで集まるんだよな。
でも、『勇者』6人パーティーって、いいように見えてただの器用貧乏の集団だからさ。
誰がタンクで誰がアタッカーで誰がヒーラーでって、役割分担でけっこーもめる。
相手が弱けりゃ関係ないんだけど、絶対にサポートし合わないと倒せない強敵だと、器用貧乏の集団はなんでもできるけどどれも抜きんでてはいないんだからな。
あと、みんな自分が育てたプレーヤーにそれぞれかなりの愛着もあるし。
そんで気が付いたらコイツとの戦いのせいで友人関係にヒビが! 協力プレイと言いながらもめごとになるなんて!? なんて危険なモンスターなんだ!?
範囲攻撃が激しいから、ヒーラーのうまさが決め手になるけど、現状、姉ちゃんもリンネもリアさんもここにはいねぇ。ていうか、ソロで相手取るモンスターじゃねぇーだろ?
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
咆哮とともに急降下してくる極大クジラ。踏み潰し……足はないけどな! ないけども!
ゲームだとダンジョン内のバトルフィールドで戦うだけなんだけど、この現実では……。
おれは崩れた壁から飛び降りつつ、片手で壁の残骸を掴んで、一度ぶら下がる。
そこへ、バキバキドカドカと建物を破壊しつつ極大クジラのプレスが迫ってくる。
足元の壁を蹴りつつ掴んでいた手を放して、宰相府と将軍府の間の地面へ飛び、着地と同時にごろごろと回転して勢いを殺す。
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
今度は巨大な尻尾が振り上げられて極大クジラがエビぞりになり、そのまま尻尾が振り下ろされる。クジラのくせにエビぞりとは恐れ入る。
尻尾がぶつかったのは半壊していた将軍府の建物。
あれも、もうダメだろ。
ああ、コイツ、この現実の中で暴れたら、周囲のものを破壊しまくる生きた災害じゃん! しかもどんな原理かわっかんねぇけど空飛んでるし!? いや、浮遊魚だけどな! だけども!
尻尾を叩きつけた反動で飛び上がった極大クジラは意味不明なその巨体をくねらせつつ宙返りを決めると、まっすぐにその視線でおれを捉えた。
……魔宰相が召喚した時点でわかってたことだけどな! わかってたことだけども!
完全にターゲット認定されてんじゃんよぅ~~~……。
おれは王城の門の方へと駆け出す。
そこにいた門衛たちも驚愕の表情を浮かべた後、すぐに門の外へと逃げ出す。
おれは後ろを見ずに、門の直前で直角に曲がって、全力でヘッドスライディングをかます。
ドッッッッグワラグラガギィィィィィィンンンンッッ!!
極大クジラは外壁ごと王城の門を吹き飛ばして瓦礫に変えた。吹き飛んだ瓦礫は町の中の建物にも被害を与えている。
「めちゃくちゃだろ、これ。アイツに自由度を与えすぎだって……」
門を破壊しそこを抜けた極大クジラはまた宙返りを決めるとそのまま尻尾を叩きつけた。その反動で瓦礫が飛び散って、今度は王宮に被害が出る。
「うわぁぁー、これ、アイツの立場だったらある意味で楽しいんだろうなぁー」
……とりあえず、このままだと手に負えない。というかもう逃げたい。
これってタゲ取りしてんだけど、リタウニングでフェルエラ村まで逃げたとしたらどうなんだろ? まさか追ってくるとかないよな?
……ありそう。いや、そもそも、ここで転移したらワールドクエストがやり直しだし、またガイアララに侵入するってのも格段に難しくなるかもな。
だったら転移逃げはない。したいけど。でも、ない。ないわー。逃げたいけどな。逃げたいけども。
がらんっ、と音がして、そこを振り返りつつ、おれは立ち上がる。
「あっ……」
「おまえか……この騒ぎの原因は……」
「ビエンナーレ・ド・ゼノンゲート……」
とんでもないヤツに見つかってしまいました。
「いろいろと聞きたいところだが……」
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
「そんな余裕はなさそうだな……」
極大クジラがまた突進してくるけど、おれは崩壊した将軍府の瓦礫の方へと逃げる。
ビエンナーレはおれよりも遅れて動き、でも、それでも極大クジラをかわしつつ、そこに蹴りを一撃加えていた。
ちっ……かっこいいじゃねーか!
だけど、召喚モンスターとして呼び出されたせいか、あきらかなボスモンスターだというのに、この極大クジラにはHPバーが表示されてない。
せめてあとどれぐらい削ればいいのかとか、知りたいんですけど! 無駄に難度を上げないでほしいな!? 誰か運営にメールしてくんない!?
「おれのせいじゃねぇっ!」
「どの口が言う?」
「宰相が召喚したんだよっ!」
「リーズリース卿が?」
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
上空で大きく宙返りを決めた極大クジラがまた突進してくる。まるでレールのない一人ジェットコースターみたいだ。
「ふんっ!」
おれは余裕をもってかわすけど、ビエンナーレのヤツはぎりぎりまで待ってから、かわしつつ一撃を加えている。さすがはゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』のスピードスター。すばやさでは誰も勝てねぇ。
「呼び出すきっかけを作ったのはおそらくおまえだろう?」
「呼び出していいモンスターと悪いモンスターがあるだろ!?」
「それは、否定できぬか……」
あれ? なんだかんだ言って、まるで共闘してる形になってんの、これ?
「アンタ以外の連中は!?」
「残念ながら、みな、瓦礫の下にいるようだな」
「なんでそんな冷静なんだよっ!?」
「軍人とはそうあるべきだろう?」
「知るか!」
「生き延びた者がいればいいのだがな……」
……てことは、ビエンナーレもダメージ受けてる? いや、そりゃ、そうか。あれは完璧な不意打ち状態だったろうし。破壊力は表現不能なレベルだし。そもそも、ビエンナーレクラスでないと、コイツ相手に戦力にはなんねぇだろ。
おれは特上ライポをさっと投げ渡す。
「っ! 金のっ!」
「とりあえず頭からかぶって回復しとけっ!」
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
「急げよ! また来るぞ!」
「言われずともわかっている!」
何度目かの突進。またおれはかわして、ビエンナーレは一撃を加えた。すげぇな、マジで。
「周りに被害が出過ぎるよな……」
「何かいい手でもあるのか?」
「……どっか広いとこ、ねぇかな?」
「広い……? ここらでは闘技場ぐらいか?」
「お、それそれ!」
おれは上空を旋回している極大クジラを無視して、ここに侵入した経路を逆戻りするように駆け出す。
ビエンナーレがそんなおれに付いてくる。
確かに、あの闘技場ぐらいの広さがあれば、周囲の被害は最低限で済む。
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
極大クジラが逃げ出すおれたちを見て……いや、見たのかどうかは知らねぇけど、とにかく、ぶっしゅぅぅぅっっ、と緑の潮を吹き出した。
「やっべぇっ!」
「どうしたのだ?」
「雷と風がくるっ! 吹っ飛ばされるぞっ!」
「なに……」
『デンゲラ』
全ての視界を真っ白に染める電撃が降り注ぎ、さらには周辺の建物の屋根を吹き飛ばす台風のような暴風が瓦礫を巻き上げつつ迫ってきて、一気にHPを削っていく……。
逃げるように走っていたけど、あまりの風の強さにその姿勢を保てず、ごろんごろんと転がされる。ビエンナーレも同じだ。イケメンコロコロごろりとかざまぁ。ざまぁだけどな。だけども……。
『レラス』
「……月の女神系回復魔法か」
「今は、協力してくれんだろ?」
起き上がって再び闘技場へと走り始めつつ、ビエンナーレに問いかける。
「……この状況ではそうせざるを得まい」
ビエンナーレも立ち上がって走りながら、そう答えた。
……終わった瞬間にタイマンとかさせられそーだけど、とりあえず、この極大クジラと戦うのは共闘してくれるみてーだな。
「闘技場で何をするつもりなのだ?」
「怪獣大決戦だよっ!」
「は……?」
「怪・獣・大・決・戦! わかる?」
「いや、ひとつも理解できぬのだが……」
おれとビエンナーレが闘技場へと飛び込むと、そこへまた極大クジラが突進を仕掛けてくる。
おれは不格好に横へとかわしたけど、ビエンナーレはまたぎりぎりのところでかわして一撃を加えた。
アタッカーはビエンナーレ、おれはヒーラーか……。
「そんなら、タンクはこいつだろっ!」
絶対一生使い道なんてないと思ってた、メフィスタルニアのジャイアントスケルトンツヴァイシュベールト634号を倒した時に出たでっけー宝箱の中の特殊アイテムのひとつ!
『召喚の宝珠 巨人王の闘志』だ。
おれはストレージから宝珠を取り出し、闘技場の地面に叩きつけた。
「出てきて手伝え! いけ! 634号っ!」
宝珠が赤黒い輝きを放ち、砕け散るとともに、巨大な魔法陣が広がりつつ回転していき、その魔法陣がせりあがって上空へと消えていくと、そこには体長およそ6m、筋骨隆々の茶髪ウルフカットが立ち上がって腕を組んでいた。
……あっるぇぇーーーっっ? なんでホネホネじゃなくて肉があるのかなぁーー??
『我を呼び出したのはそなたか?』
しかもしゃべってるし?
「ええと? 634号?」
『我が名はムサシ。巨人族を統べる王、ムサシである』
「あれ? 634号じゃない? ちょっと予想外なんだけどな? 生身だし? 会話できるし?」
『主よ、何を望む? 我は戦うことしかできぬが?』
じゃあ聞くなよ!?
「アイツを、止められるか?」
おれが空飛ぶ極大クジラを指さすと巨人王ムサシは空を見上げた。
『ずいぶんと変わった魔物よの? だがあの大きさ、相手にとって不足なし。我が刀はいずこ?』
ああ、そういや、2本のバカでかい刀も宝箱ん中にあったよな。使えないからストレージの肥やしでしかなかったけど!
おれは2本の巨大な刀、『龍斬丸』と『龍砕丸』をストレージから地面に取り出した。
『かたじけない』
巨人王ムサシは2本の巨大な刀を手に取ると、ふぅーっと息を吐いてそれを構えた。息を吐くだけですんげぇ砂ぼこりが舞い上がるんですけど?
そんでもって、なんだかカッコイイポーズで2本の巨大な刀を舞うように動かし、それぞれに光のエフェクトをまとわせると、そのままその光を斬撃として上空の極大クジラへとぶっ放した。
『ブゥオオオオオオォォォォーーーンンンンッッ!!』
『図体ばかりで泣き言しか言えぬのか! かかってくるがいい!』
巨人王ムサシが叫んで極大クジラを挑発する。あ、なんか、おれからタゲが外れたみたい? それと、あれは泣き声じゃなくて咆哮な? 低レベルだとほぼ確実にフィアーでまともに動けなくなるヤツだからな?
急降下して闘技場へと加速してくる極大クジラ。
その急接近に対して、2本の巨大な刀をXの字にクロスさせて待ち受ける巨人王ムサシ。
そして、二つの巨体が衝突した。
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