アインの伝説(58)
「またか……また現れたか人間よ。我が1000年の時を経てよみがえる度に姿を見せるとは。この生もまた人間がかき乱そうというのか。我は……」
……もうこうなったら好都合と思うしかない。
会話中に先制攻撃、禁断の『ミツハシ』解禁! ヒキョーと言うなら言えばいい! 言いたいヤツにゃあ言わせておけいっ!
おれはバッケングラーディアスの剣を抜いて、しゃべってる魔王に斬りかかる。もちろん、連続技『サワタリ・トロア』だ。サワタリ氏が最速クリアでもソロクリアでも魔王戦の中核とした最高の連続技! 剣聖サワタリ氏の代名詞!
HPバーは画面の半分程度! HP100000だな! ゲームと同じ! イケる! ドラゴン様より少ないからな! サワタリソロクリアにおれの魔法剣士ミックスアタックを絡めて決めてやる!
『ドウマロ、ドウマレ、ドウマル……』
地の神系単体型攻撃魔法スキルでの魔法攻撃をぶつけながら、スラッシュ、トライデル、カッターと連続技をつなぎ……。
「ぐっ……」
魔王の動きが鈍る。地の神系単体型魔法スキルの追加効果で、すばやさ低下デバフ! よし! ハマった! サワタリ氏が剣技だけでクリアしたソロプレイよりも、魔法付きなら難度は下がるはず!
ノックバックした魔王が体勢を戻すと同時に、ランツェを喰らわせてサワタリ・トロア1回目! だいたい3000から4000ダメージか? 魔法の分がちょっとわかんねえけどな?
そのままパターンにはめて、2回目のサワタリ・トロアをぶちかまし、さらに3回目に突入! 『ミツハシ』からだと先手が取れてナイス! やっば『ミツハシ』サイキョーっっ! サイキョーにはお好きな感じを当てはめてね?
だけど3回目のトロアの途中、三連撃のスラッシュの終わりで、魔王の足元に黄色の魔法陣が浮かんで、おれは後ろへと弾かれる。HP10000削って、1回目の変化だ。
「この、対話を無視して斬りかかってくるやり方……」
魔法陣が魔王の足元から頭上へと回転しながらゆっくりと上昇し、魔王の瞳の色が濃紫から黄色へと変化していく。魔王は腰の剣をしゃらりと抜いた。
魔法陣が回転している間は魔王に攻撃が通じない。無駄な抵抗はしない。
その間にクールタイムの技後硬直を消化して、エクスポ2本分でもろもろ回復させる。そして、タッパのファンクション操作で装備変更。風の剣を装備。
「その、おかしな左手の動きとともに変わる剣……」
風の剣は風の神の古代神殿でのダンジョンで入手した。考えてみれば、『全ての神殿を制覇せよ』ってワールドクエストは魔王討伐の準備に直結しているとも言える。
魔王はHPの減少によって瞳の色を変化させ、その瞳の色に応じた属性を魔王専用の魔法剣にのせて大ダメージを与えてくるんだけど、その属性の弱点属性の装備で対応することで、受けるダメージを減らして、与えるダメージを増やすことが可能だ。これが魔王戦の肝となる。黄色の目は地、つまり土属性で、対抗するには風!
魔法陣が黄色の瞳に変化した魔王の頭上に消え去り、指輪が光っておれの地の神系魔法スキルで喰らったデバフを解除して、魔王は黄色い光を放つ魔法剣を振りかぶった。
おれはすでにスラッシュの予備動作を終えて待機し、魔王が振り下ろす魔法剣に対して、スラッシュの二連撃のうち、1撃目をぶつけて防ぐとともに、2撃目をその体に喰らわせていく。
『ザルツロ、ザルツレ、ザルツル……』
今度は連続技と並行して風の神系魔法スキルをぶつけていく。弱点属性で攻め続けられるのも、『神々の寵児』ならではとも言える。『神々の寵児』になってなくてもできたけどな。できたけども!
防いだとはいえおれにも魔王の魔法剣のダメージが入るけど、そのままこっちは連続技トロアへとつないでいくから被ダメより与ダメが多くなる計算だ。しかもこっちの剣は今の魔王の弱点属性を持つ!
「ぐぅっ……そしていまいましい、ぐっ、その剣技……」
魔王がまだ何か言ってっけど、もう関係ねぇーーーっっ!
「何より……ぐふっ……我との戦いを、くぅ、まるで詰まら、ぬ、くっ、作業の、ように、ぐはっ、行、う、その、冷徹な目……」
風の剣でのトロアを続けて、カッターが決まったところでさらにHPを10000削ったので、また魔王の足元に魔法陣が浮かび上がり、おれの体が弾かれる。
おれはクールタイムの技後硬直中に魔法陣の色を確認して、タッパ操作で次の属性に対抗する装備変更をしようと……。
「……黒の魔法陣!? なんで? まだ4属性終わってねぇじゃん!?」
技後硬直の終了と同時に、予想外の事態が発生して思わず叫んでしまう。地水火風、4属性の変化を終えて、魔王のHPが半減したところで出てくるはずの黒の魔法陣が2回目でいきなり出てきたのだ。
「やはり! 我の秘儀を知っておるか!」
おれの叫びに、魔法陣にスキャンされてる魔王が叫び返す。
おれはエクスポとライポをとっさに準備して……。
「貴様はっ! シオンの同類だなっ!」
黒の魔法陣が回転しながら魔王の頭上に抜け、ふわりと舞った魔王の濃紫の前髪の下に隠されていたおでこ、そこに、なかったはずの3つめの瞳が開かれて……。
黄色、水色、赤色、緑色の光がねじれて回転するように魔王から発しておれを包み込み、爆発し、飛び散って、おれのHPを残り4分の1まで有無を言わせず削っていき……。
エクスポとライポでMPやSPとともにこのとんでも攻撃で受けたダメージを回復させつつ、光が消えた後の次の魔王の攻撃に備えようと思ったら……。
光が失われた後におれの視界がとらえたのは、東屋の向こうの池をばちゃばちゃと大きな水しぶきをあげながら全力で走って逃げる、魔王の小さく見えるくらい遠く離れてしまった背中だった。
「え? なんで……」
おれは思わず魔王の背中に向かって左手を伸ばすけど、もちろん、はるか向こうの魔王に届くはずもない。その間にも魔王の背中は小さくなっていく。マントが激しくたなびく感じからすれば、それは脅威の速度で走ってると理解できた。
あれ?
なんで?
なんで魔王が?
なんで魔王が全力疾走で最強変化したステータス使っておれから逃走してんだよっっっ!?
ラスボスがメタル種みてぇーに逃げ出すとか、これどんなクソゲー……? いや、あれは国民的RPGだけどな? だけども! でもこれ、何? どうなってんの!?
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