アインの伝説(56)



 基本方針が強いモンスターのいる方に魔王がいるはず大作戦。


 しかも、虎穴になんちゃらって言葉もあるしな。

 ありゃ、とんでもなくでっけードラゴンだとは思うけどな。思うけども。


 我! 方針に変更なし! 突撃!






 そうやって突撃した結果……orzでした。すんません調子に乗ってました。本当に調子に乗ってました。どこまでも調子に乗ってました。おれが間違ってました。全部おれが悪いんです。マジですみません。どうにか勘弁してください。


 今、目の前にウルトラスーパー巨大な青いドラゴンが鎮座してて、おれは土下座の真っ最中ですが何か問題でも?


 ……いや、問題だらけなんだよ!? なんだあの基本方針は!? 誰が考えた!? そんでどうして間違った!?


 あの基本方針には元々「モブモンスター」という限定的な判断材料があったはずじゃねぇーか!?


 重要なことを忘れてるんじゃねぇーよ!? 誰だよ! おれだけどな! おれだけども!


 コイツは……いいえ、このお方は、どう考えても、ボスモンスターでいらっしゃるでございまするよ? 目の前がHPバーでいっぱいだよ!? 1本1000でそれが埋め尽くして視界を奪ってますけど!? 推定HP200000以上だよ!?


『……では、そなたは我に挑戦しにきた訳ではないと、そういうことかのう?』


 脳内に直接響く感じで届くドラゴン様のお言葉。


 対話ができる相手でよかった。『ミツハシ』最強とかいって飛び掛からなくてよかった。


 だっておれが鑑定できなかったんだからな!? ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』では見たことねぇし? めっちゃでかいんだから!? なんだ? 設定だけあって実装されてなかったレイドボスかよ!? 古き神々の神殿の向こうの『竜の庭』に出てくるヤツの5倍以上のサイズだと思うけどでかすぎてわかんねぇの!?


「はい。そうです。すみません。間違えました、すみません。大神殿に行きたかったんですけど、道がわからなくてすみません」


『……そなたからは数多の竜を屠ってきた気配を感じるのだがのう?』


 ひいいいいっっっ! 確かに『竜殺し』とか呼ばれてますけども!


「み、み、み、道を、道を間違えたんですぅぅっっ」


『……道など1本しかなかったろうに? どうして間違ったのだ?』


 ……はっ!? 言われてみれば? 確かに1本道だった? 迷子になりようもない感じの1本道だった気がする?


「ええと、その、何というか、潜入というかですね、魔王を倒そうと思って、こっそり大神殿を目指しててですね、道をそのまま進むと見つかりやすいから、見つからないようにというかですね」


『……魔王を? そなた、もしや人間か? 耳が長いように見えるが? 化けておるのか? その変化を解いてみよ?』


 おれは偉大なるドラゴン様に言われるがままに変身の腕輪を外して、ストレージに収納する。


『おおお、人間ではないか? ずいぶんと久しぶりに見たのう?』


「……? 人間に、会ったことが?」


『おお、あるぞ、ある。人間が二人、鬼族が一人、長耳が一人の四人組でのう。そのうち、人間の一人、雌の方が今のおまえのような姿勢で詫びておったぞ。そう思うと懐かしいのう』


 ……ガイアララに来たことがある人間がおれ以外に? いや、待て待て。それって、まさか、2000年前の魔王討伐で、勇者シオン? え? おれと同じ姿勢って、土下座!? ていうか、ドラゴン様、いったい何年生きてんだ? 少なくとも2000年? それが勇者シオンの話だったとしたら、だけどさ?


『あの後、しばらくして鬼族の一人がもう一度ここに来てのう。一族でこの地に住まわせてくれと言い出してのう。この草原はわしの縄張り、火山は『赤』の縄張り、砂漠は『黄』の縄張りじゃからのう、縄張りではないところなら勝手にすればよかろうと教えてやったのじゃ。あの森に沿って進む道を行けばあやつが一族で移り住んだ町があるぞ?』


 待て待て。何か思い出しそうな気がする。なんだ? あの子の顔が思い浮かぶな? 元気かなあのカップル? 文官三男坊と、眼鏡の歴女……あ! 『勇者シオンの仲間たちが人間ではなかったという俗説』って!?


「……あ、あのぅ、大変ご無礼ではございますが、そのぅ、その時にやってきた鬼族の方のお名前とか、ご存知だったりとかしちゃったりしないですかねぇ?」


『ふうむ。あやつは確か・・・バッケングラーディアス・ド・ブラストレイトと名乗りおったぞ?』


 バッケングラーディアス! 『ギルドマスター』バッケングラーディアスが鬼族? え? ブラスト、レイトって?


『そういえば、こうして誰かとしゃべるのもあやつ以来のことじゃのう。確か、最初に会った時は、あやつらもおまえさんと同じように魔王を倒しにきたと言っておったわい』


 と、とりあえず、勇者シオンのパーティーは、このドラゴン様に見逃してもらえたってことだよな?


「そ、そのう、道を間違ってしまって、縄張りに勝手に入ったりしちゃって、本当に、ほっんとうにぃ、申し訳ありませんでしたぁぁ。ですから、そのぅ、許してもらえたりとか、しますかねぇ?」


『ふうむ。それはそれとしてじゃな? 最近はどうかのう? 何かおもしろいことはあるのかのう? 前におまえさんのような姿勢で詫びておった人間の雌は、一緒におった人間の雄が巨人族の王と一騎打ちをした時のことを話してくれてのう。なかなか楽しませてくれたものよ。そなたは何か、話してはくれぬかのう?』


 お話? 偉大なるドラゴンさまは物語をご所望でござるか?

 ええと、話? 話だよな?

 おもしろそうなやつ……デスマはおもしろ、あ、ダメだ。あれは用意スタートでメテオ使って竜神さまを倒すような話じゃん!

 なら、のうきんは、これもダメ!? 古竜を小馬鹿にしてる感じが満載だった!? あれ、なんかない?

 ドラゴンリスペクトな感じのやつ? あれ? 意外とないな? ドラゴンって敵役が多いからか?


『別に難しく考えるでない。そなたが見聞きしてきたことを語ってくれれば良いのじゃ』


「えっと?」


『最近の出来事を教えてくれればよい』


 物語ではない、と? 出来事? 出来事かぁ……。


「では、今から5、6年前の話ではございますが、人間の暮らす地のひとつにメフィスタルニアと呼ばれる町がございました……」


 そうして、おれはメフィスタルニア死霊事件を偉大なるドラゴン様に語っていったのだった。


 ……でもなんか、ずいぶんと世界の秘密を漏れ聞いてしまったような?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る