アインの伝説(55)



 森のモンスター強すぎ問題について。


 はっきり言おう。

 この森の中でモンスターの強い方向を目指そうなどと考えたヤツは馬鹿だ。


 姉ちゃんに馬鹿と言われる前におれでもわかる。本当の馬鹿だ、そいつは。


 ……いや、おれなんだけどさ。


 だって、1体でエンカウントするのがHP10000クラスなんだもんな。


 マンティコア、バジリスク、フェンリルと、ワイバーンクラスのモンスターが移動しても移動してもやってくる。HP10000クラスってミノ王とかだからな。


 ちなみに複数同時エンカウントは、ミノ戦士と同じHP5000クラスのケルベロスがHP3000クラスのオルトロスを3頭引き連れてたんですけど、これって、ソロプレイだとHP10000クラスとのタイマンよりも厳しいんですけど?


 とにかく方向を定めようとぐるぐる動いた。タッパのマップ機能がせまい範囲はカバーしてくれるから方向を定めるまでは迷わないだろうって。そう思ってさ。いや、それは正解だったけど。迷わなかったけどな。


 でも方向は決められなかった。


 そりゃそうだ。どっちに向かってもHP10000クラスなんだから。もしくは首だらけの犬軍団。


 だったらと、だーっっと横に動いて、森の果ての断崖絶壁みたいなとこまで行って、ちょっとだけ縦に進んで、逆方向に横にだーっっと動いて、という感じで狩場をジグザグにしらみつぶしにしてみることに。


 でも、やっぱり基本はHP10000クラス。


 いや、いいんですけどね。一応、HP10000は経験値を稼げる雑魚モブだし。雑魚とは言えないけどさ。1対1なら弱点属性の単体型魔法からの連続技でこっちは無傷だもんな。エンカウントで不意打ちしてくるヤツはいなかったし。


 オルトロスはもう経験値が0だからケルベロスから1しか経験値が稼げないという一番経験値効率が悪い首だらけの犬軍団がブレス攻撃で一番ダメージを喰らうってどうよ? 一番MP消費が大きいってどうよ? いや、群れだから範囲型魔法を使った方が速いけどさ。


 気づいたのは、どれだけ森でモンスターを狩って動き回っても、魔族には一人も出会わなかったという事実が、あれ? 森じゃなくて、洞窟の関所につながる森の中の細道をたどるのが正解ルートなんじゃねぇの? 森は危険過ぎて魔族も近寄らない、みたいな感じで?


 ……常識だろ? って? ええ? おまえ実はあっちじゃ珍しいモンスターにエンカウントしてドロップがウハウハだったからつい狩りに夢中になったんじゃねぇのかって?


 そ、ソンナコト、ナイヨ?


 いやいやいやいや、一番効率が悪い首だらけの犬軍団なんて、やったらめったらキバをたくさんドロップしやがるんだけどな?

 正直、キバなんてもういらないワケですよ? 毛皮はハラグロ商会がいい感じで買ってくれるけどさ。肉は並肉だし? 経験値もドロップもダメとか運営にクレームもんですよ、これは。


 HP10000クラスのドロップは? え? いや、その、そりゃあ、このクラスだとドロップは、ねぇ? もちろん、ねぇ? いろいろとおいしいけどさぁ?


 ……あー、すんません。ちょっと、ウハウハだったので、夢中になったことは否定できねぇ。うん。確かに。そういうところはあった。


 でもさ、道を進むってのは、魔族とのエンカウントがね、怖かったんですよ、はい。そういうことです。潜入ですからね?


 というワケで、タッパのマップ機能を活用して、森の小道に併進して森の中を北上していくこと5日。まだ森を抜けられない。


 というか、HP10000クラスが時々2体でエンカウントするようになったんですけど?


 この森、雑魚モブ強過ぎじゃね? 魔族が近づかないとか? どういうこと?


 あ、いや、モンスターが強い方向が魔王への道のりだって理論は正しいと証明されたんだけどな? されたんだけども!






 ひたすら森を進みながら、魔族の大地ガイアララの神話を思い出す。


 クィン女史いわく。

 かつて北の果ては太陽神の力が強すぎて、太陽が沈むことのない大地だった。

 太陽は恵みでもあるが、それが沈まぬとなると、生きていくことが難しい地となる、とのこと。

 大地は干からび、草木は枯れ果て、生き物は飢えて死に絶えようとしていた。

 そこに夜を与えてくれたのが闇の女神ララさまだった。

 ララさまは北の果てに夜をもたらし、太陽神の力を抑えた。

 そうして、北の果てにも水が保たれ、緑が育ち、生きていくだけの糧を得ることができるようになった。

 ララさまは北の果てに生きる全ての者にとって大恩ある神さまなのだ、と。


 うーん。高緯度地帯の白夜がそんな風に解釈されたのかな? この世界も地球みたいな惑星なんだろうか? それとも、とにかくそうなんだ的な設定なのか。

 そういや、太陽神の古代神殿とか風の神の古代神殿とかからは水平線が見えて、カーブしてたな? 惑星で決定か?


 マンティコアを2体相手にしながら、ぼんやりとそんなことを考える。


 さすがにHP10000クラスを2体相手にして、ノーダメで勝つる! とは言えない。でも、被ダメは最小限で、与ダメは最大限で倒すというのは大前提だろう。


 強毒攻撃だけは避けて、あとは1体を始末するまで耐える。1体を始末してしまえば、そこから後はノーダメだ。強毒攻撃を受けてなければ特に問題なしのもーまんたい。


 ウチの村の近くにこの森があったら、もっと村も稼げるんだろうか? あーダメか。さすがにジョブなしのレベル25とかじゃ、大盾と槍でHP10000の相手は効率が悪過ぎるか。でも、倒せばレベルは上げられるし、最初にコストを払えば最終的にはペイできる?


 ちょっとぼーっとしてんのは、森の移動が10日目に入ったからだ。


 リタウニングの転移ポイントは見つからないから、あっちとこっちの行き来ができねぇし、もう姉ちゃんたちと別れてから18日? 19日? あっちはどうなってんのか、信じて任せるしかないとはいえ、心配になる。


 姉ちゃんの下でレーナが指揮をとってあの程度のモンスター軍団に負けるとは思わないし、イゼンさんに鍛えられたオルドガがついてるから、王弟公爵とか伯爵とかとの交渉もそんなに心配はいらない、はずだよな。うん。そのはず。


 イゼンさんならシャーリーの学園行きの準備も完璧にやってくれるだろうけど……。


 ファーノース辺境伯領は、あれだけのモンスターを潰したんだから、実質的に講和したのと変わらねぇ状態のはず。


 王弟公爵のところとニールベランゲルン伯爵のところも、レオンを前面に押し出してモンスターを駆逐して追い出してしまえば、トリコロニアナ王国が追い詰められても、ハラグロ御三卿のところは持ち直す。


 ……でも、レオンも、リンネも、その先もなんとかしたいって言っちゃいそうなタイプなんだよなぁ。

 姉ちゃんはそういうところは政治的に考えるけど、特にリンネが、いろいろと見捨てられないっつーか、なんつーか。優しいというか、理想主義というか。

 レオンもそれに近いけど、どっちかというと、このレオンは自分が強くなること自体に強い目的をもってる。だからあれだけ学園でモテモテになっても、その興味と関心は屋敷に戻っておれに叩きのめされることにしかなかった。

 ミノ王みたいなボス格を狩って、レベルアップで強くなっていくことを自覚したら、そっちの方でコントロール不能になるかも。


 ぐだぐだと考えながらさらに2日。


 ようやく森を抜けた。


 でも、森を抜けたら、まばらに背の低い木がある草原っぽいところに出た。


 あれ?


 これ、森と違って隠れるところがなくない?


 しかも、森を抜けても町とか村とかねぇし? 確か、闘技場とかもある大きな都がある感じなんだけどな? クィンいわく、ポゥラリースよりも大きい町だとか。いや、クィンのやつ、ポゥラリースとフェルエラ村しか知らないんだけどさ?


 ええ? 潜入ロールの隠密プレイは強制終了ですか?


 よく見ると、道はどうやら森と草原の境目に沿って北西へと向かっているらしい。


 というか、あの草原、優雅に飛んでる青い竜がとおーーーくに見えるんですけど? 獲物を探して周回してる感じで? いや、とおーーーくなのに見えるって、どんだけでかいの、あれ?


 何この危険地帯? いや、わかってたけどな? わかってたけども! 知らなくても理解はしてましたよ、そりゃ? これが危険なことだってのは?





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