アインの伝説(52)
ミノ戦士の顔面を踏み潰すように着地しつつ、クリティカル判定を狙ってバッケングラーディアスの剣をミノ戦士の首にぶち込む。
その一撃でミノ戦士は巨大な斧と特上肉3つを残して消える。
特上肉だけストレージに回収する。
レオンの方を確認すると、姉ちゃんたちに雑魚モブの掃討を任せながら、ミノ戦士とのパーティー戦に突入している。
レオンが突っ込み、スラッシュ・トライデル・カッターの連続技『サワタリ・トロア』を喰らわせて、クールタイムの技後硬直に入るとカリンが間に入ってミノ戦士の巨大な斧を大盾で受け止め、そのカリンのダメージをもう一人の大盾、エバが月の女神系回復魔法スキルで回復させる。
回復魔法を使ったエバにミノ戦士のターゲットが移ったところで、復活したレオンが再び連続技トロアをぶちかましていく。
割り込もうとする他のモンスターはリンネの魔法とエイカの矢で処理している。外壁の上からの姉ちゃんたちの援護射撃も効いている。
ミノ戦士はもうレオンたちの攻撃パターンに完全にハマってる。問題ない。もーまんたいだ。そんで、ミノ王が門を目指して侵攻中、と。
ミノ王を相手にする時にはタンクをカリンたちよりレベルが高いゼナに交代して、カリンとエバがヒーラーに専念、あとの基本は同じ。
HPがミノ戦士の倍ぐらいあるから、パターンを繰り返す回数が倍以上になるだけだし、必要ならリンネの魔法攻撃を追加すればいい。
エクスポも含めた4種類のポーションを十分に準備していれば、パターンにハマったボス戦なんて作業だろ。エイカのサポートは手堅いし、うん、大丈夫。
これで『勇者』を祭り上げる体制は整う。あいつらはミノ戦士とミノ王の特上肉で大喜びして焼肉パーティーでもするだろうしな。ゼナは肉大好きだし。肉食系ゼナ。
そんならおれは、っと。
門の前の戦いを避けるように、魔物の群れは左右に広がってポゥラリースを目指し始めた。
ほとんどが雑魚モブだし、範囲魔法一発では死なないオークウォリアーも、ミノ戦士ほどでかくはないのでポゥラリースの外壁の上まで攻撃はできない。あ、弓矢とかはのぞくね。
ファーノースの戦士たちも戦いたいだろうし、指揮下には互いに入らないけど、協力するんだもんな。
外壁へと近づくほとんどの雑魚モブを無視して、おれはバッケングラーディアスの剣を振るってひたすら走る。
自分の前の邪魔になってる雑魚モブだけを消し去るようにして丸太の簡易防壁の外側へと回り込むように走り続ける。
魔法でブッ飛ばすと目立つので、あくまでも剣で。
おれが丸太の簡易防壁を回り込む時には、ちょうどミノ戦士を倒したレオンたちが連戦でミノ王に向き合っていた。
ゼナが巨大な斧をうまく小盾で受け流しつつ、ミノ王の足に槍を刺す。
リンネが回復魔法の光をゼナに飛ばす。
その隙に、レオンとカリンとエバがエイカから受け取ったポーションを飲んでいる。
うん、大丈夫そうだ。
これがレオンの英雄譚のはじまりだとしたら、それはもうかっこよく、美しく、流れるように描かれなければならない情景なんだろう。
簡易防壁のこっち側には、もうそれほどモンスターも残っていない。
クールタイムが終わったダフネの火の神系範囲型攻撃魔法王級スキル・ヒエンアイラセターレボルクスが、おれが回り込んでいない方の簡易防壁に隠れたモンスターたちへ炸裂する。
奴らの視線はそっちに引き付けられるはず。
おれは雑魚モブの間に、バッケングラーディアスの剣を振るって抜け道を作りつつ、スタポを一本、頭からかける。
そうして、中央の最後方へと抜け出て。
『ヒエンアイラセターレボルクス』
置き去りにしてきた背後の雑魚モブに大爆発のプレゼント。
ここまで離れて魔法を使えば、雑魚モブの襲撃への対応でいっぱいいっぱいの辺境伯たちに、おれが範囲魔法を使ったとは気づかれない。
でも、目の前の奴らは、気付いて振り返る。
うん、君たちに会いに来たんだよな、わざわざここまで走ってさ。
そんじゃ、相手をしてもらいましょうか。魔族さん?
おれははっきりと音が聞こえるようにしてバッケングラーディアスの剣を鞘へとおさめ、三人の魔族に目と耳で理解させる。今、この瞬間は争う意思がないということを。
「ファーノース辺境伯からの講和の申し出をこの場で伝える!」
おれの叫びに面食らう長耳族が一人と、鬼族が二人。
「な、何者だ? 突然戦場に現れ、講和だと?」
「そうだ。おれは辺境伯に雇われた傭兵団『ドラマタ騎士団』の参謀長ファイン! ファーノース辺境伯領、ニールベランゲルン伯爵領、セルトレイリアヌ公爵領は、トリコロニアナ王国からの独立を宣言し、王国と袂を分かつ! その上で講和を願う! 聞こえたなら、講和交渉ができる偉いヤツに知らせて、連れてこい! 別にトリコロニアナ王国との戦をやめろとは言わない。独立する3つの領地のみが講和を望む!」
「ば、馬鹿な、講和などと……」
「トリコロニアナ王家に宣戦布告を行い、トリコロニアナ王国にだけ攻め込んでいるはずだ。独立して袂を分かつ新国家が講和交渉を望んで何がおかしい?」
長耳族とのやりとりを鬼族の二人が黙って聞いている。
「ニ、ニンゲンが交渉などと、我らを騙す方便でしかなかろう? このままポゥラリースが滅びるのを眺めておればよい!」
何か言ってくるけど、攻撃しようとはしてこない。
鬼族の二人は目を見かわしてる。
「繰り返す。辺境伯は講和交渉を望んでいる。はっきり伝えたぞ? このまま戦闘が続けばポゥラリースの勝利は間違いないと思うけどな?」
「牛頭王が敗れることなどない!」
「そうか?」
おれは視線をポゥラリースの門の方へとゆっくりと動かし、魔族の視線を門の前へと誘導する。
「ご自慢の牛頭王とやらは、門の前でずいぶんと足踏みしたままのようだけどな?」
「な……」
絶句する長耳族。
レオンが連続技を放ち、ゼナが巨大な斧を受け止め、カリンとエバが回復を担当し、リンネが攻撃魔法を炸裂させる。
地に足がついたボス戦が、崩されることなく進行していた。
「賭けてもいい。アイツは『勇者』が打ち倒す。ポゥラリースは陥ちない。そして、辺境伯や王弟公爵は講和がお望みだ」
1対3でのにらみ合い。
その沈黙を破ったのは長耳族。
「くだらん! 魔物の王が敗れたとしてもニンゲンを滅ぼすことに変わりはないわ! くら……」
『ララバイ』
闇の女神系阻害魔法スキルで、長耳族を眠らせる。長耳族はゆっくりと膝をついて、そのままぱたんと後ろに倒れた。ブリッジに失敗して崩れたみたいに。
「ニンゲンが闇の女神ララさまの寵愛を……」
「馬鹿な……」
鬼族の二人が剣の柄に手を触れる。
おれは、手のひらを前に出してその行動を止めるように訴えた。
「おれとやり合うんなら、どっちか一人はせめて講和交渉の話をお偉いさんに伝えてくれ。あと、やる限りは少なくとも、片目、片腕をなくす覚悟はしろよ?」
やっぱり長耳族はダメだったかと思いつつ、せめて鬼族とは話ができるといいなぁ、なんてちょっとだけ期待してみるのだった。
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