アインの伝説(50)



 現状報告。

 ドラマタ騎士団は森の中を進軍中。


 ただし、ファーノース辺境伯から付けられた軍監3人をオマケに連れてるけどな。






 作戦会議では、イケオジ騎士から、これまで以上に強い牛頭の魔物が現れたという報告があり、基本的にはポゥラリースの籠城戦という形をとることに決まっている。


 まあ、そりゃそうだ。


 ご自慢のファーノース騎士があっさりと蹂躙されたHP5000クラスの相手だもんな。まぁ、無理。


 これまでの相手は魔猪……イビルボアの数がもっとも多く、あとは人型に近い、緑鬼……ゴブリン系のいろいろ、犬頭……コボルド系のいろいろ、豚頭……オーク系のいろいろぐらいで、おそらく一番強くてオークウォリアー程度。

 それでもオークウォリアーとの戦いはファーノース騎士2人に大盾の兵士2人、槍の兵士2人という6人組でなければまともに戦えなかったという。まあ、そんなもんだろうな、と。


 この編成はおれが書いた『メフィスタルニア死霊事件に関する一考察』を元にして、ファーノース辺境伯領で応用したものだ。辺境伯領にはハラグロ商会からあの考察が配られていて、大盾や槍が大量に流れているからな。


 そういう地道な戦いでじわじわとファーノース辺境伯領の軍人たちはレベルを上げてきている。

 オークウォリアークラスはそれほど数もいなかったらしいので、鑑定で見たところ、レベル10台後半からレベル20台に入ったばかり、というのがトップクラス。


 洗礼を受けてジョブ持ちとなっている騎士はスキルもあるし、それなりに戦えるんだけど、残念ながら、初級スキルのカッターはともかく、中級スキルのスラッシュは予備動作が怪しくてうまく使えないし、上級スキルのトライデルがまともに使えるのは最強騎士のイケオジ騎士さんぐらいというのが現状。

 でも、それで世界最強を名乗れるってのが今のこの世界なんだよな。


 だから魔物に蹂躙されちゃうワケなんだけどな。なんだけども。


 協力はするけど指揮下には入らないおれたちドラマタ騎士団は、別動隊にするのが正解。


 その提案はそうだろうとすぐに受け入れてもらえた。


 そんで、地図の中の森にバツ印を5つ描いて、そこに敵の拠点があることを伝えたら、それだけでめっちゃ驚かれた。

 なぜ知ってるかと尋ねられたから、偵察して確認済みだと断言してそれ以上の質問は拒否。


 拠点にはだいたい魔物が1000くらいはいること、5つの拠点以外で、弓姫さまとともに動いた一軍が襲われたところでは、さらに大きな牛頭の魔物が率いる新しい魔物の軍勢が現れたことを話したら、さすがの辺境伯もむむむとうなるのみ。


 どうも、村や町が襲われても魔物は100程度だったらしくて……それでもまともな外壁がないところは持ちこたえられないんだけどね。一度ポゥラリースが300ぐらいの魔物に襲われたけど、外壁の上からの攻撃で撃退していたら、撤退したという。それでも死を覚悟したって……。


 それなのに魔物が1000くらいいる拠点が少なくとも森の中に5つあって、さらに強力な魔物が現れたと言われても対応ができない。


 それどころか「信じられぬ……」とつぶやく騎士すらいた。


 とりあえず、「ドラマタ騎士団は森の中の拠点をひとつかふたつ、潰しに行きます」と宣言。


 ファーノース騎士たちがあっけにとられる中、辺境伯が「1000もの魔物と12人で戦うつもりか?」と言ったので……。


 ふふんと鼻で笑った姉ちゃんが「問題ありません。お任せください」と一礼した。


 そこで辺境伯が戦果を確認するために軍監の同行を求めたので、それを受け入れて出陣。


 今は森の中、と。

 そんな感じ。


 軍監の3人の役目は、本当に拠点はあるのか、拠点に1000ぐらい魔物がいるのは本当か、ドラマタ騎士団はその魔物たちとどうやって戦うのか、戦った結果どうなったのか、そういうことをその目で見て報告するためにいる。


 一応、3人でぎりぎり森を抜けてポゥラリースに戻れるぐらいの力はあるらしいので、最後は放置してよいことになっている。


 おれたち、魔法で転移できるんだもんな。






 斬り倒した丸太がざっくりと積まれた簡易の防壁とも呼べない防壁の中、魔物がうろうろしている。


 出入口に扉があるワケでもなく、なんだろう、ここが拠点の境目ですよー、とでも教えてくれてるかのような丸太防壁だ。


 切り倒した木々を積んだだけ。でも、その切り倒したスペースの方が重要なのかもしれない。


 森の中で広い場所をつくろうとしたら、そんな感じだろう。


 ただし、丸太の防壁は階段状に3本、2本、1本と積まれているだけなので、簡単に乗り越えることはできる。


 本当に拠点を示す目印程度の役割なのかもしれない。


「それでは突入します。どうか、安全なところで見ていてください」

「で、ですがファイン殿、あの数を相手にするのはあまりにも無謀です……」


「とりあえず、魔物の数の報告は、信じてもらえましたか?」

「信じますとも。ですから撤退を……」


「ご心配なく。時間はかかるでしょうけどね」


 おれはそう言い残すと、軍監のファーノース騎士から離れて、レーナに向けてさっと手を動かした。


「突入する。戦闘箇所は敵拠点内入口付近。レオ、カル、イブは先に前へ。ユリィとニナは私と控えに、アッカは補助を、軽く引き付けて参謀とリンのトラマナからリンとダニーの火炎4を左右。生き残りを司令とルドガの弓で削りつつ、前衛で処理。作戦確認」


「了解」


「突入する」

「先行」


 カリンがそうつぶやいて、レオンとエバが続く。


 突然現れた人間に、拠点内部の魔物が騒ぎ出す。見張りを置いてない時点で、こんな森の中まで人間が来るとは思ってないのだろうとは感じていたけど、騒ぐだけかよ。


『トライマナイス』

『トライマナイス』


 おれがリンネに、リンネがダフネに魔力増強の月の女神系支援魔法スキルを使う。


 騒いでいた魔物たちが、ひとかたまりになって移動してくる。ゴブリンやコボルドなど、人型の魔物は武器も使う。矢がばらばらと飛んでくるが、カリンとエバが大盾で防ぐ。


『『ヒエンアイラセターレボルクス』』


 リンネが左方向に、ダフネが右方向に、火の神系範囲型攻撃魔法王級スキルを炸裂させる。半径20mの円状に見事な爆発炎上。


 範囲内の魔物がごっそり消えていき、残念ながら、消えた数からするときわめて少ないドロップが残る。火の神系魔法はドロップ率が下がるけど、地水火風の4属性ではもっとも威力が高い。今はドロップを求めてないので、残念だけどこれでいい。残念だけどな。


 範囲内でわずかに生き残っている豚頭のモンスターはオークウォリアーだ。動きは鈍くなっているので残りHPは少ないはず。


 姉ちゃんとオルドガが弓で狙って始末している。


 範囲外のモンスターで突進してきたものはカリンとエバが受け止め、レオンが倒していく。


「レオ、輝きの3!」


 レーナの指示が飛ぶ。


『ソルハンタ』


 レオンから光が扇形状に輝き、モンスターを消し去っていく。今度は消え去るほとんどのモンスターがドロップを残して消えていく。


 太陽神系魔法はドロップ率を高める。


 そして何より、この世界の人たちにとって、光魔法は勇者や賢者の使う伝説の魔法。


 ドラマタ騎士団の中に光魔法の使い手がいた。

 軍監はそれを必ず報告する。


 そしてそれは、辺境伯からすると、ケーニヒストル侯爵が自分のために勇者を派遣したという事実として受け止めるしかない。


 ケーニヒストル侯爵は最高の援軍を、ハラグロ商会を通して送り込んだ。

 そういう貸しを、大きな貸しをつくる。


 デプレじいちゃんの説得で王弟公爵が独立と講和を承諾したので、魔物の軍勢を処理できれば、トリコロニアナ王国からハラグロ御三卿が離脱して、大陸同盟を否定したケーニヒストル侯爵を支持すると表明してもらう。


 そこに姉ちゃんが積み重ねてきた教皇交代の流れをからめて、ユーグリークを後押しすることで聖騎士団を引き上げさせるか、遅滞させるかして、教皇を引きずり下ろして、完全に大陸同盟を潰す。


 あとは、魔族の大地……ガイアララってクィンは言ってた……に潜入したおれが、ビエンナーレみたいな講和交渉ができそうな将軍クラスを連れて、独立した新王国との講和を実現させる。


 最終的にはトリコロニアナ王国の降伏か、それとも滅亡か、どちらかで戦争は収束させる。






 レオンの魔法に耐えたオークウォリアーが剣を振りかぶるが、まぶしさに目を閉じているのでちっとも攻撃が当たらない。太陽神系魔法に付随する命中率低下デバフだ。


 レオンがあっさりと剣で始末して消し去ってしまう。


 最初に押し寄せてきた連中はこれで全滅だ。何体いたのか、数える気もない。


 だけど、もうその後ろから次のモンスターが押し寄せてきている。


 リンネとダフネはMP回復のためにマジックポーションを飲んでいる。


「……次は火炎の3で同じことを繰り返す! 生き残る魔物がさっきより増えると頭に入れて!」

「了解!」


 レーナの指示に明るい返事が応える。


「大魔法で……」

「信じられない。あれだけの魔物を、こんな短時間で」

「これがドラマタ騎士団のやり方か……」


 絞り出すようなつぶやきを残しつつ、戦況を見守る軍監のファーノース騎士たち。


 おれたちは彼らの目の前で、範囲攻撃魔法での大量虐殺と、残敵の掃討を、何度も、何度も、繰り返してやってみせた。






 次の日は、次の拠点を潰し、その次の日はさらに次の拠点を潰して、おれたちはポゥラリースへと転移して帰還した。


 軍監の3人は転移できないので、自力で森の中を踏破して戻ってくるだろう。だいたい3日後ぐらいに。


 ポゥラリースに戻ってきたおれたちに懐疑的な視線を向けるファーノース騎士団。本当に魔物と戦ってきたのか、と言いたげな視線。

 なるほど、目は口ほどにものを言うってのはこれかぁ。おれ、いっつも姉ちゃんたちの前でこんな感じなのかぁ、と。


 とりあえず、その目の前にかき集めたドロップ品をどっさりと積み上げてやった。


 まあ、毛皮とか、錆びた剣とか、錆びた胸当てとかがほとんどだけど、中には、はがねの大剣なんかも含まれている。


 火の神系魔法でかなりドロップ率は悪かったけど、それでも3000近いモンスターを倒したんだからな。けっこーな数のドロップが出てる。


 魔物を倒した戦利品を目にして、ファーノース騎士たちの懐疑的な視線は、とっても残念なことに、怯えた目へと変化した。


 ……狙ってやったワケじゃねぇーから!?


 おれは、そんな視線から逃げ出すようにポゥラリースの門を出て、ポゥラリースの外壁の外に、拠点から回収した丸太を並べて、簡易防壁のようにした目印を用意する。


 見た目、このままだと、ポゥラリースを攻めてきた敵を守るための防壁みたいになっちゃうんだけど、実はそうじゃない。


 拠点への奇襲では、最終的に逃走するモンスターを追いかけずに逃がしておいた。


 おそらく、3つの拠点が潰されたことはこれで伝わる。


 そうするとあのミノ王を擁する新手が、他の拠点のモンスターを率いてポゥラリースを攻めるはずだと考えてんだけどな。

 これまでにない人数……魔物数か? ま、とにかく、これまでにない大軍でポゥラリースの大規模な防衛戦が行われる、予定。


 その時に、この簡易防壁みたいなところがいい目印になる。外壁からの弓矢を避けられるというのがいい感じで罠だ。


 そんで、あのミノ王はレオンにやらせて、レオンのレベ上げ経験値にするとともに、英雄の誕生という一大イベントにしてしまう。


 おれはポゥラリース防衛戦で辺境伯領のモンスターを激減させたら、そのまま戦線離脱して、魔族の大地ガイアララへ潜入。


 勇者とはあえてこっちからは言わないけど、勇者が率いる……実質的には姉ちゃんとレーナが率いる……傭兵団がハラグロ御三卿の領地で暴れる魔物の軍勢を討伐していく。


 勇者の活躍に魔族の大地からの注目を集めて、その隙におれは魔族の大地でこっそり魔王を暗殺して先にゲークリしてしまおう。


 そういう陳腐な作戦。


 ま、なんとかなるだろ。うん。闇の女神さまがそういうスキルをくれたしね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る