アインの伝説(48)
姉ちゃんのかわいいアインであるところの正座置物状態のおれは、ゲロしました。はい。もちろん、隠してることもあるけどさ。ほとんどはゲロったよ、もう。
魔族の大地を目指してることとかはね、あと、一人で行くこととかはね、隠さないで理解を得た方が早いと思って。
もちろん、おれが転生したとか、ゲーム知識があるとかも内緒。
魔王を倒そうと企んでることも内緒。
あくまでもクィンを人質にしてビエンナーレを引っ張り出しての講和が狙いだと伝えてる。
実はワールドクエストが終わってないってのもまだ内緒。
……姉ちゃんの言葉責め。うん。何も言えない。
いや、ほぼ全部言ったけどな。言ったけども。ちょっと嬉しかったけども。うん。姉ちゃんが心配してるのが伝わってくる言葉責め。もちろん嬉しいだろ?
ゲロった結果として、トリコロニアナ王国ファーノース辺境伯領、領都ポゥラリースへ援軍として出陣するのは、商業神系魔法スキル・リタウニングフルメンのクールタイムが明ける5日後に決まった。
2日後ではなく5日後です、はい。というか、そう命じられた。
誰に? 姉ちゃんにだよ、そりゃ。
ケーニヒストルータにいる戦力をフェルエラ村に集結させて万全の体制をつくる指示を出すとなったら、そんだけのクールタイムが必要になる。
元々はイゼンさんに動いてもらって、必要人員だけ確保するつもりだったんだけどな。そのへんはめっちゃ言葉責めだったよ、うん。
陣容は、最高総司令官、アラスイエナ・ド・ケーニヒストル侯爵令嬢。つまりは姉ちゃん。
参謀長、フェルエアイン・ド・レーゲンファイファー子爵。おれ。
部隊長、戦闘メイド部隊からグロリアレーナ・ド・ゲルバディオ男爵令嬢。『聖騎士』レーナ。
参謀、ピンガラ隊から『冒険者』オルドガ。
以下、戦闘メイド部隊からは『火の魔導騎士』ダフネ、『聖騎士』ゼナ、『冒険商人』エイカ、姉ちゃんの護衛として、ケーニヒストル侯爵家騎士団序列1位ユーレイナ・ド・カンケルダー、『聖騎士』カリン、『聖騎士』エバ、そして護衛ではないけど『光の聖女』リンネと『勇者』レオンの双子。
以上12名という編成に落ち着いた。リタフルの転移が術者とあと5人という計6人なので、おれと姉ちゃんとオルドガとエイカが使えることで、行って、すぐ危険があっても戻ることができるという配置だ。本当はもう一人、欲しいんだけど……。
『聖騎士』が多いのも回復魔法で安全マージンを確保するため。
大軍相手では火力重視なので火の神系が使えるリンネとダフネは外せない。
レオンはまだこの中ではレベルが低いけど、だからこそこの戦いで自然とレベルが上がるのもレオンだろうと思う。
それと、レオンにはそのままみんなを率いて戦ってもらうという『勇者』プレーをさせなきゃダメだし。
村は騎士団長のスラーを中核として、それをキハナが支える。シトレが出陣したがったが、それを抑えるためのキハナでもある。キハナが一番、シトレをよく叱ってきたから、しぶしぶといった顔でもキハナにはシトレが従うからだ。顔で、というのがシトレらしい。言葉はいらない。
ケーニヒストルータのリアさんへ回す護衛にはピンガラ隊のナルハ。必要に応じてシトレと交代。
『錬金術師』のローラはポーション作りをはじめとする任務があるので村に配置。
まあ、村の方には成人前の子どもたちにそこそこの戦力があるし、ジョブなしの大人もレベルは高いからそう心配はいらない。
もめたのは傭兵団の名前。
なんでそこでモメるんだろうな?
国境なき騎士団を名乗るのは避ける。それは当然として、案を出せと姉ちゃんに言われたおれは迷わず「ローゼンリッター」と言ったけど、きょとんとした姉ちゃんに「よくわからないわ」と言われて即却下された。じゃあ言わせないで、姉ちゃん……。
みんなもいろいろ案を出したが、レーナが「メイド騎士団で」と言い出したから、今回はメイド服では出ないと宣言したらガーンって感じでショックを受けてた。
どうやら、メイド服で強い、が気に入っているらしい。
フェルエラ村に戻ってから、みんな、代わりばんこにクィンを叩きの……失礼、鍛えている。メイド服で。メイドに負けたと落ち込むクィンが気に入ってるらしい。頑張れ、クィン。
他のメイドたちも「メイド騎士団」を推すんだけど、おれが却下。姉ちゃんに却下された八つ当たりではない。
だって……メイドナイツなんて、こう、めくるめく夜のご奉仕みたいな感じがしちゃうからちょっと「ディー」にはドキドキがノンストップだし?
それならせめて『竜殺し』にちなんだものを、と懇願されたので「ジークフリート」とか「あめのむらくも」とか「アシュラムとパーン」とか「ドラまた」とか言ってたら、姉ちゃんが「ドラまた」に反応して、「どういう意味の言葉なの?」という質問に「あまりの強さにドラゴンがこそこそと避ける、みたいな意味がある」と説明したら、なんでかそれに決まった。
姉ちゃんの意思決定には誰も逆らわないのはなぜ?
なので、今回、派遣されるメンバーは「ドラマタ騎士団」だ。本当の意味はわかる人だけわかればいいさ。まあ、フェルエラ村では誰にもわかんないけどね……。
つまり「ハラグロ商会」の失敗再び!
……ということとならないようにしたいけど、どうだろ? 世界中に「ドラマタ騎士団」の名が浸透したらどうしよう?
とりあえず、学園が始まるまでに、辺境伯領の魔物はごっそり減らしておきたい。
不思議なことに、それができる力はそろってるしなぁ。
転移した先で、弱々しいけど、それでも喜ぶ声が聞こえる。
「ブエイ、さま……」
「おお、ブエイさま。よくぞ……」
「ブエイさまがお仲間とともにいらっしゃったぞ、領主さまに……」
これ、デジャブにしてはちょっと? かなり弱ってる? それともハラグロ四天王でもブエイさんはタッカルさんやハルクさんと比べてあんま人気がないとか、そんなことある? いや、ねぇよな。
ということはついに、壊滅した一軍の生き残りが戻ったか……。
そうなる前に乗り込みたかったけど、こうなってしまっては仕方がない。あのイケオジ最強騎士さんが戻ってたら、身バレはほぼ確実。
まあ、今回はもう、身バレしてもそこはソレだ。
「ナイエさま、ファインさま。みなさまを城へ、ということです」
兵士たちに囲まれていたブエイさんが戻ってきて、そう言った。
そう。
今回はハラグロ商会がどこかから雇った傭兵であって、決してケーニヒストル侯爵領の者ではない。
おれはあくまでもファインだし、姉ちゃんはナイエだし、リンネはリンだし、レオンはレオだ。レーナはレイ、オルドガはルドガ、ダフネはダニー、ゼナはニナ、エイカはアッカ、ユーレイナはユリィ、カリンはカル、エバはイブ。
とりあえず、わかってても、バレてても、偽名で押し切る。
力技あるのみ。
……まあ、向こうも当然偽名だってのはわかってる前提だから実は意味なんかねぇんだろうけどなぁ。
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