アインの伝説(24)
物理攻撃スキルは攻撃力×2とか2連撃とか、攻撃力と与ダメージが高くなる代わりに、クールタイムという名の技後硬直によって動けなくなってしまう。
だからスキルを出したとしても、それで決められなければ隙だらけになる。
二人で交代しながらスキルをぶつけるクールタイムスイッチだと、技後硬直の間に攻撃を受けずに済ませることもできるけど、ビエンナーレがやってみせた剣受けのような裏技に近い防御ワザを使われたら効果がほとんど得られない。
そして、ビエンナーレのスピードは、すばやさ3倍の支援魔法を受けてようやく少しだけ上回れるというとんでもない速さ。
本当に3対1で相手をしてんのかと思ってしまうほど、ちょっとずつしかビエンナーレを削れてない。
そして今、トライアーギのすばやさ3倍効果が時間切れになったタイミングで、ビエンナーレが一度大きく距離をとった。追いすがろうとするけど、置き去りにされる。
「マジ速ぇ……」
追うのはあきらめて姉ちゃんとリンネに指示出しを、と思った瞬間。
ビエンナーレはタタンっと短いステップから床に手をついてロンダート、バク転、と動いて姉ちゃんに迫る。
やっべぇっっ!
体操選手のような動きで攻撃力倍化ができる体術系スキル。
おれははがねの盾を再び装備して、びっくりして動きを止めてしまった姉ちゃんの前に割り込みつつ、姉ちゃんを押し退けるように突き飛ばす。
バク転からの後方宙返りに入って……スキルの予備動作なし! でも1回……半ひねり! ガンバフライか!
空中殺法からのただの肘撃ちが、攻撃力5倍ではがねの盾に落ちてくる。
とっさにタッパを右手操作で手放したバッケングラーディアスの剣を収納、ぎりぎりでファンクションにはがねの大盾を設定。
肘撃ちを受けたはがねの大盾がエフェクトとともに消えていくと同時にファンクションにタッチ。
再度、いや、三度、おれの左手にはがねの大盾が姿を現す。
その3枚目のはがねの大盾も割れて飛び散るように消えて、肘撃ちを肩で受け止める。悔しいけどけっこうなダメージが入る。
「……いぃっっってぇなっ、こんにゃろぅっ!」
着地したビエンナーレの足を同時にローキックで払って倒す。
『拳聖』だぁ? 体術系スキルはおれだってここまで極めてきたっつーのっっ! 戦の女神の古代神殿で! 拳神の化身を相手によっ!
倒れたビエンナーレが右手を床に殴りつけるようにしてそのままさっと立ち上がる。
立ち上がったところにおれは左ジャブから右ストレートへとワンツーをかます。
肩でおれのパンチを受けたビエンナーレが回し蹴りをおれの肩へお返しとばかりに狙ってくる。
「月5!」
おれはリンネに回復指示を出しながら前進し、ビエンナーレの回し蹴りをヤツの膝を手で押さえて防ぎ、そのまま軸足を狙ってローキックを繰り出す。
ビエンナーレはおれのローキックをかわさずにそのまま喰らって、そのお返しに懐に入ったおれの腹にボディブローをかます。
「ぐっぼ……」
「レラソ!」
めちゃめちゃ痛い! 痛いんだけどな! 痛いんだけども! そのタイミングでリンネからの回復魔法の光が入ったので、逆襲のボディブローを叩き込む。喰らえ!
ビエンナーレはおれからの腹への一発を喰らいつつ後ろへと飛んで、そのままバックステップで距離をとった。
「……おもしろい。本当に見慣れぬ技だな? 盾が何枚もどこからともなく出てくるとは」
「うっるせぇな……」
今の攻防の間で姉ちゃんが立ち上がって態勢を立て直す。
「アイン義兄さん、回復は!」
「まだいい! それよりプランBだ!」
「え?」
「……リンネ、たぶん、Bプランのことだわ」
「え? ああ、それか~」
……なんか、ウチの義姉妹が意外と余裕あるんスけど?
おれはタッパ操作を右手のままで、四つ目のはがねの大盾を装備する。
「……あの時の左腕の仕返しのつもりだったが、中々やるじゃないか」
そういや、小川の村でやり合った時は、おれが最後にガンバで攻めたんだったっけ? 仕返しって、てめぇが使ったガンバフライはガンバより格上のスキルじゃねぇーか! 倍返しか!? 倍返しだ、とか言いたいとでも?
でも、さっきの体術の攻防でようやくビエンナーレのHPバーは1本目の半分を切った。
なら、体術での超接近戦が正解なのか?
いいや、違うね!
「トラマナ三角!」
姉ちゃんとリンネに魔法指示を出す。やったろうじゃん!! 三角からのつながりで! 誰にもわかんねぇかもしんねぇけどな! 誰かに伝わると信じて! いつでも夢を!
「「「トライマナイス!」」」
指示を出すと、おれが姉ちゃんに、姉ちゃんがリンネに、リンネがおれに、月の女神系支援魔法上級スキル・トライマナイスをかけ合って、魔力3倍魔法少女にくるりんぱ! おれは男だけどな! 男だけども!
ゲームでも『見逃し仮面』戦は、タンクと物理アタッカーで抑えて、魔法アタッカーが削るのが基本攻略パターンだった。ただし、ゲームだと物理でももっと削れてたけどな! こいつ、なんか強過ぎなんだよっ!
まともに物理攻撃を当てられない相手ならこっちが正解だろ!
喰らえ! 魔法ハメ!
「リンネ、土っ! 姉ちゃん、風っ! 5から1!」
「ザルツロ、ザルツレ、ザルツル、ザルツリ、ザルツラ」
「「ドウマロ、ドウマレ、ドウマル、ドウマリ、ドウマラ」」
姉ちゃんが風の神系、おれとリンネが地の神系の魔法スキルで攻撃し、風の刃や突風の刃が、岩や石が、一気にビエンナーレを攻め立てる。風には出血の継続ダメージデバフ、土にはすばやさ低下デバフが付く可能性もあるしな!
単体型攻撃魔法スキルは必中だ。自動であたるので範囲攻撃魔法と違ってフレンドリーファイアもない。そして、ビエンナーレがどんだけすばやかろうが一切関係ない。必中だからな! 単体型魔法がジャストミートだよ!!
姉ちゃんもリンネも、聖女として魔力に+200のステ値プラス補正がある。回復魔法についてはさらに補正があるけど、魔力+200だけで攻撃魔法スキルが抜群に活かせる補正だ。しかもトラマナでその魔力がさらに3倍となってのダメージ計算。爆裂魔法少女だぜ、こんニャろうがっ! 喰らいやがれ!
「ぐおおおおおぉぉっっ・・・」
ビエンナーレが苦悶の表情を浮かべて魔法を喰らいつつ、それでも突進してくる。でも移動スピードが少し落ちてる。うっすらと黒モヤがかかってるから地の神系単体型攻撃魔法スキルに付いてくるすばやさ低下デバフも効いてるみたいだ。
ヤツのHPバーもガンガン削れていく。
「リンネは火から風まで5から1! 姉ちゃん、衝突と同時に月5! 殴られて月4!」
おれは突進してくるビエンナーレの前に飛び込む。
「ヒエンゴ、ヒエンゲ、ヒエング……」
リンネが火の神系単体型攻撃魔法スキルでビエンナーレを火炎に包む。
それでも突っ込んでくるビエンナーレの拳に大盾ごと左肩から全身を預けるようにぶつけにいく。
青白い光がおれのはがねの大盾を包む。盾術系中級スキル・ショルダーチャージだ。物理防御×1.5が10秒、そのラスト2秒は技後硬直だけどな! でもスキル発動エフェクトに包まれてる間は武器や防具は破損しない! それを利用して破壊させねえっ!
衝撃がくる。
「レラソ」
姉ちゃんから回復魔法の光が届く。
「ヒエンゴ、ヒエンゲ、ヒエング……」
「ザルツロ、ザルツレ、ザルツル……」
「レラセ」
おれはビエンナーレの暴風のようなパンチをはがねの大盾で受け止めながら火の神系魔法を、リンネは火の神系に続けて風の神系魔法を、姉ちゃんは聖女の本領となる回復魔法を発動させ、耐えて、削り、回復する。
「ぬううううぅぅんっっ!」
風と炎の猛威に包まれ、焼かれて切り裂かれ、風の神系魔法のデバフである継続ダメージとして血を流しながら、ビエンナーレは気合の声を発し、右拳を腰だめしつつ、軽く手のひらを開いた状態で左腕をあごの延長線上前方に伸ばした。
「っ! でかいのくるぞっ! 二人とも月3頼むっ!」
おれは火の神系単体型攻撃魔法を上級スキルまでで止めて、指示を出しつつ、右手で旅人の服のポッケから特上ライポを取り出す。
「キョケン」
ビエンナーレが技の名前をつぶやいて、突き出した左拳を腰へと引きながら右拳を腰のひねりとともに突き出す。体術系上級スキル・キョケン。攻撃力4倍!
ドゴグラッシャーーッッ!
おれは大盾に喰らった一撃で後ろへ4歩ほど吹っ飛ばされる、ノックバック(大)効果。だけど、踏ん張ろうとする身体の力を抜くように意識し、吹っ飛ばされる流れに逆らわず、さらに2歩、後退してビエンナーレと距離をとる。
「っ……レラシ!」
「レラシっ!」
「ヒエンギ、ヒエンガ! ザルツロ!」
おれがかなりの威力がある攻撃を喰らったのを見て歯を食いしばった姉ちゃんと、同じくそれを見て必死な顔になったリンネが、おれに向けて回復魔法をかけてくれてる間に、技後硬直のビエンナーレへ火の神系魔法と風の神系魔法をおれは叩き込みつつ、頭から特上ライポを振りかける!
ビエンナーレの技後硬直が解けたタイミングでこっちは盾術のラスト2秒、技後硬直に入る。
ここでさらなる攻勢に出てこられたらどう対応すべきか、と考えを巡らせていると、ビエンナーレが飛びのくように後退した。
視界の端のHPバーを確認すると、いつの間にか残り2本、HP残り2000……いや残り1500を切っていた。
ドクンっっ!
ビエンナーレのHP残量1割以下……。
「……ククク、この私をここまで! ここまで追い詰める者がニンゲンの中にいたとはな!」
そう叫んだビエンナーレが両手を腰だめに構えて腰を落としつつ、右足をドシンっと踏み鳴らした。
……この決めゼリフとあのポーズ。間違いない。
ビエンナーレが踏み鳴らした足元から赤黒い魔法陣が回転しつつ大きくなっていく。
二重になっている円周の間には梵字? サンスクリットとかゆーんだっけ? そんな感じの文字が並び、円の中にはきれいな形の三角形……たぶん正三角形だと思われるものが外周の内側の円に接するようにいくつも描かれ、ビエンナーレの周囲に無数の頂点を作っていく。
そして、ビエンナーレを包むように半球状のドームが形成され、その中に黒い炎が揺らぎ始める。
「今からもっともっと追い詰めて、とどめを刺してあげるわ! ドウマル!」
姉ちゃんがビエンナーレの叫びに応え、地の神系単体型攻撃魔法上級スキル・ドウマルを発動、大きな石がビエンナーレに向かって飛ぶが、ビエンナーレを包む半球状のドームに触れるとそこで消えた。
「なん、で……」
……それは、負けイベントだから。
「それなら~、ヒエンアイラセターレボルクス!」
単体型がはじかれるなら、とリンネがビエンナーレの後ろに中心点を置いて、範囲型攻撃魔法スキルを発動……したにもかかわらず、爆発する火炎はビエンナーレを包む半球状のドームの後方だけで発生した。
「嘘だぁ~……」
技後硬直が解けたおれの左手からはがねの大盾がエフェクトとともに消え去っていく。
「………………姉ちゃん、今なら、まだここを離れれば転移で逃げられるかもしんねぇけど」
「ここまでやって逃げるわけないわよ! 勝つわ! アイツを倒すの!」
そういって姉ちゃんは女神の槍を振り回して前に出ると、ビエンナーレを囲む半球状ドームへと振り下ろした。
ガキンっっ!
女神の槍がドームにはじかれ、姉ちゃんが1歩、2歩とバランスを崩して後退する。
「何よ、これは!」
何と言われても、正直なところわからない。
ゲームでのそういう負けイベのご都合主義的な何かなんだろうけど、このことについてはおれもくわしくは知らない。
三つ編みメガネ委員長なら知ってるかもな。あと、運営会社なら説明できるかもしれねぇけどな。けども。
ただ、事前に予想していたことは姉ちゃんとリンネが実証してくれた。
ゲームでは、『見逃し仮面』のあのセリフが始まると、プレーヤーは自身のアバターを全く動かせなくなっていた。ピクリとも、だ。操作できるのは「Skipしますか Y/N」だけ。しかもクリア後再プレイでの2回目以降で……。
でも、今は、動ける。動けるんだ。
それだけでもゲームと違う。違うからには可能性はある。
もちろん、その可能性は『負けるけど生き延びられるイベント』というゲーム的な何かではなく、本当に死んでしまうという可能性ということもあり得るんだけどな。だけども。
でもさ、賭けるんなら、負けイベを動けることでひっくり返して勝ちイベにする方だろ? だって姉ちゃん逃げるって言わねぇんだモン! 逃げるって言わねぇんだよ、マジで! 言ってくれればどんだけ楽なんか、と思わなくもないけどな! ないけども!
それに、ここまできたらもう、やるしかねぇってのも、ある。あと、いちおー策も、ある。
半球状のドーム内に黒い炎が満たされ、その中心でずいぶんと見えにくくなったビエンナーレが動き始めるのがなんとか判別できた。
おれは目を細めてビエンナーレの動きを見極めつつ、旅人の服のポケットに左右両方の手を突っ込む。
「来るぞ、姉ちゃん、リンネ……防御姿勢っ!」
「っ……」
「ひゃっ……」
こんな時でも姉ちゃんはたくましくて、リンネはちょっとかわいい。
そんな二人を守りたい。だから本当はこんな賭けなんかしたくはなかった。でも……。
ドームの中の黒い炎がビエンナーレに吸い込まれていくように収束していき……。
ビエンナーレが大広間の床に向かって拳を打ち付け……。
とんでもない衝撃波がおれたちに襲い掛かったその瞬間!
おれは両手の握力を最大にして力をこめると同時に、ひとつの呪文の起句を唱えた。
ズッーーーードンガラグラッシャーーーーーーンッッッッッ!!!
王城の大広間があったその場には、球形に抉り取られた空間と、倒れかけて膝をついたおれたちと、背筋を伸ばして悠然と立ち、おれたちを見下ろすビエンナーレ・ド・ゼノンゲートが、いた。
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