アインの伝説(21)
『見逃し仮面』ビエンナーレとの絡みは基本、負けイベントだ。
戦闘で最終的に負けるんだけどストーリーは進む。
ゲームなら。
ゲームに似ているけど、ゲームとは言い切れないこの世界なら?
本当に負けイベントで負けて、次に進めんのか?
そんな保証がどこにある?
ないだろ? ないよな? 死んだら誰が責任取ってくれるんですか総理! 総理! 審議の意味がないです! 審議の意味が! 委員会を何だと思ってるんですか総理! 答えて下さい! 死んだら誰が責任取ってくれるんですか!
いやいやいやいや、無理無理無理無理!
あん時はビエンナーレって知らなかったから無茶できただけで、今は無理だろ?
ゲームなら、負けイベでの見逃し条件はそろってる。
おれ、弟、姉ちゃん、姉。または、おれ、義兄、リンネ、義妹。
兄妹、または姉弟がパーティーにいて、規定値までビエンナーレのHPを削ればイベント発生。
なんだかんだでブッ飛ばされるけど、見逃されて生き残る。
何回目かのプレーの時は、もうスキップボタンでイベント総流しだったもんな。
でも、ここなら?
HP0までイケんのか? あのビエンナーレを?
誰か、これで勝つる! とか言ってくれぃ……。
「行くわよ、アイン」
「……ああ、聖都に転移して避難しよっか、姉ちゃん」
「……何言ってんの、アイン? 見たわよね? あれはアイツだわ!」
「いや、アイツって……」
「あの左腕! 間違いないわ。アインが斬り落とした左腕が義手だったわ!」
「え? おれ、ビエンナーレの左腕、斬り落としてたの……?」
それ、聞いてねぇーーーーーっっ! 初耳! 初耳ですけど? 姉ちゃん!? マジで? マジなの? ええ? それって、おれ、ビエンナーレに恨まれちゃってんじゃねぇの?
「アイン義兄さん……あの魔物と、あの人。お父さんとお母さんとおじいちゃんを殺して、リンネを見逃してくれた人だと思うんだぁ~……あんな仮面はあの時はなかったんだけど……」
「リンネ?」
「あの人ぉ~、このままにしたらぁ~、きっと、きっと、たくさん、たくさん、死んじゃうよぅ~」
「それ、は……」
……それは、わかる。でも、今さらだ。メフィスタルニアでどれだけ死んだ? 王都でどれだけ死んだとしても今さらだろ?
「アイツをいつかやっつけるために今までやってきたわ。ここで見つけたからには見逃せないわよ」
……ええと、あっちがおれたちのことを見逃してくれるのが本筋なんですよ、姉ちゃん。
「あの人を止めないとダメだよぅ~……」
……いや、あのビエンナーレを止められるのは確かビエンナーレの姉か妹だけだって話なんだよ。
その姉妹のおかげで『見逃し仮面』になってる設定のハズなんだよ。委員長が熱弁ふるってたからな、熱弁を。だからおれには止めらんねぇと思うんでスよね。
「行くわよ、アイン!」
「行こうよぅ~、アイン義兄さんぅ~」
姉ちゃんとリンネはやる気だ。
強引にリタフルで聖都へ転移するか? でも姉ちゃんならそのまますぐにリタウニングで王都に戻ってビエンナーレんとこまで行くかも。そうなったら? おれのいないところであんなのと戦わせるなんて考えらんねぇだろ……。
説得? 説得できるか?
「姉ちゃん、リンネ、アイツは、強い。とんでもなく強い。だから、聖都へ逃げよう」
「アイン……」
「アイン義兄さん……」
「アイツはダメだ。アイツだけは……」
何を言えば? どう言えばいい? 負けイベントって説明できる? ……無理! 表現のしようがねぇな? だってここ、ゲームに似ててもゲームじゃねぇし!?
「……一度負けたんだもの。わかるわ。怖いんでしょう?」
「姉ちゃん……」
「でも、あの時とは違うわ、アイン。あたしは、あの時とは違って戦えるようになったわ。魔法も使えるわ。それに、リンネもいるわ」
「うん、うん、リンネも頑張るよぅ~」
……だああああぁ、姉ちゃんもリンネも引く気がねぇ!?
ヤるのか? ヤらなくても、ヤれば・・・ヤれ? ヤる時、ヤろう、ヤります、何活用!?
いや、ビエンナーレとやるとして、策はあるか? あのどっかーん、ずっばーん、みたいな有無を言わせない攻撃をなんとかできんのか?
HP1にされて、しかも身動きが取れないってイベントの流れだから設定上は強制スタンかな? 訓練場とかと同じ? この魔物があふれる状態の王都で12時間身動きできない状態とか確定死亡遊戯だろ!?
「アイン!」
「アイン義兄さん~」
ううう、怖ぇぇ。マジでビエンナーレかよ。見逃してくれよ……。
「……とりあえず、装備を、最高の状態に」
おれがそう言った途端、姉ちゃんとリンネが目を輝かせた。
「早く出して、アイン!」
「うん! うん! すぐ準備するねぇ~」
……なんで死ぬかもしんねぇのに目ぇ輝かせてんの。
「姉ちゃん、これでもうダメだってなったら、すぐにリタフルで逃げるからな」
「……わかったわ。でも、絶対に負けないわ!」
ドレスをざばぁっと脱いで下着姿になって、ミスリルチェインメイルを着込んで、その上から旅人の服を身に付けながら、姉ちゃんが微笑む。死地に踏み込む人間の顔じゃねぇよ、それは。あと、淑女としてそのドレスの一気脱ぎはどうよ? いや、おれとしてはイイんだけどな? イイんだけども!
「ポーションは全部特上、弓は……」
「わかってるわよ、最上位装備着用、回復薬使用制限なし、でしょう?」
「……うん。それだよ、姉ちゃん」
「なになに~? リンネにも教えてよ~?」
「とにかく一番いい状態にしなさい、リンネ」
「うん、わかってるよ~」
……こうなったら相手がビエンナーレだろーが何だろーがヤるしかねぇ。
ゲームの運命に逆らってやろーじゃねぇか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます