アインの伝説(11)
学園生活はいろいろあるっちゃ、あるんだけど、まあ、それなりに平穏無事に過ぎていく。
レオンをめぐって女の子が牽制し合ったり、ケンカしたり、いじめしたり、とかな。あれ? レオンの周りだけ平穏無事じゃない感じか?
やっぱ主人公効果なのか? あいつのモテは留まる所知らないみたいだよな。かたやわき役のおれはモテ期などやってくることもなく日々は過ぎていく。
今年もユーグリークのヤツは聖騎士を警備として学園に派遣してるし、色々あっても問題はそこまで大きくならずに解決できている。その解決におれとヴィクトリアさんが動くんだけどな。動くんだけども。
教皇は意地になってんのか、学園への不介入の方針は継続してる。だから、学生間のもめごとは学生で解決するってのが基本方針。
そんで、学生での最上位者たる現役子爵が頑張らなければならない、と。
……マーズのヤツ、この大事な役割をほっぽり出して姉ちゃんに押し付けた上で、姉ちゃんへの求婚でトラブル量産してやがったのか。そりゃ、姉ちゃんもぶっ潰しにいくだろ。
あ、いや。
正直なところ、おれ、というよりもフォローしてくれてるヴィクトリアさんが実質的に色んなトラブルを解決に導いてくれてんだけどな。くれてんだけども。
おれはマーズみてぇにはなりたくないから頑張るけど、正直、大人よりも未熟な学生のトラブル処理って、領地経営より難しいんじゃね?
頑張ってるけど、ヴィクトリアさんのフォローなしではうまくいかなかったという自覚はある。
そして問題が一番多いのがレオンの周辺というのも面倒だ。はっきり言って、レオンにチョップを入れて全てを終わらせてやりたい。でもそれでは解決しないので……。
結局はヴィクトリアさんの強力な協力でなんとか解決していく。
「ヴィクトリアさま。いつも、助けてくださって、本当にありがとうございます」
「……いいんですの。アインさまのおそばにいるために、ずっと頑張ってきましたの。その成果が出せているのであれば、私は嬉しいんですの」
……か、か、かわいいじゃねぇーか。
「それに、私だけでなく、リンネさんや、レーナたちの協力があってのことですの」
しかも謙虚だ! 何コレ? どこが悪役令嬢なんだよ? いや、元々ヴィクトリアさんに悪役の要素とかねぇけどな? 侯爵令嬢だけど悪役ではねぇけども!
「いや、レーナのことでも、大変な思いをさせてしまいましたし……」
実は、戦闘メイド部隊の隊長レーナは男爵令嬢で、その実家の男爵家はトリコロニアナ王国のメフィスタルニア伯爵家の寄子だったりする。
そんなレーナのことをたまたま知ってたトリコロニアナ王国の別派閥の男爵令息が、レーナにイチャモンつけてきたっていうトラブルがあって……。
いや、正確には夕方のダンジョンアタックでレーナたちがイチャモンつけてきた男爵令息を追い込んで逆に脅しをかけてトラブルになったんだけどさ。あの子たちの方がはるかに強ぇモンな。
色々とその解決に動いていると、実はその男爵令息がレーナのことを覚えてたのは少年の頃の淡い恋心だったりして、でも最終的にその恋心はレーナにぶった切られるんだけどな。だけども。
「うふふ。あの一件では、さすがのアインさまも動揺なさってましたの」
「本当に助かりました。ウチの子たちのことも、しっかりと守ってくださって、ありがとうございます。本当に助かってますから!」
ヴィクトリアさんが、ちょいとだけ、上目遣いでおれのことを見つめてきた。
「……それでは、その、あの、ちょっとだけ、ちょっとだけ、ご褒美をくださいませんか、アインさま?」
……かわいい。かわいいな。かわいいんだけども。
だが、忘れてはいないし、忘れてはいけない。
ヴィクトリアさんは姉ちゃんの許可が下りたら、デートの買い物でドレスを何着もおれにプレゼントさせちゃうことが当たり前の感覚で動く、動いてしまう、動いちゃう侯爵令嬢というスーパーセレブリティガールだ。油断するなよ?
ちょっとだけ、という言葉を信じて安請け合いすると、どんな高価な物が動くことになるのか、想像もできない。いや、どんな高価なものでも対応できなくないんだけどな、財力的には。できなくはないんだけども。
「その、アインさま?」
……だが、かわいいというのもまた事実。この上目遣いって何コレ? どんな凶器だよ!? まるで致死のナイフで刺されたかのような感じ?
あ、いや、それにダンパで告白されたこともあるし、正直なところ憎からず思っているのも事実なワケであり。
ああ、もう、こういうのってどうすりゃいいんだ? 「ディー」には解けない難問としか思えねぇ!?
「……ちょっとだけ、なら。私にできる範囲でのことであれば」
「よろしいんですの!」
花が咲いたように笑う銀髪美少女ヴィクトリアさん。か、かわいいじゃねぇーか。
い、いかん。グラっときちまうぜ、この破壊力! まだブレストプレートは肉まん段階を限界突破してねぇけど、これまでに何度も押し当てられた記憶がおれを攻め立ててきやがるし!?
は!? 待て待て、気が付けばオッケーの返事しちまってねぇか、おれ!?
落ち着け、落ち着け、おれ。あの放課後の日直の日を思い出せ。勘違いするな、するなするな。冷静に、クールだ、クールにいくんだ。
あせったヤツから屍になるんだぜ。学校は恋の墓場さ。実った恋の何倍も敗れ散った恋があるのが学校さ。
恋愛小説で主人公とヒロインがうまくいったとしても、ひとつのクラスにゃ30人くらいの人間がいて、うまくいってないヤツが大多数だぜベイベー! 火傷に気をつけな!? 恋の炎は温度が高ぇんだよ!?
「……それでは、その、アインさま。あの、その、リア、と。リア、と呼んで頂くことは、お願いできませんでしょうか? あの、もう、初めてお会いしてから何年も経っておりますの。そろそろ、リアと呼んで頂いてもよろしいのではないかと思いますの」
ホントにちょっとしたお願いだったーーーーーっっっ!!
あ、いや、これ、名前呼び? 名前呼びってヤツか? ヤツですか?
友達から友達以上恋人未満へと至る尊き道程、甘酸っぱい恋の儀式、名前呼びでござるか? ござろう? ござれば?
あれ? でも元々「ヴィクトリアさま」って名前呼びじゃね? あれ? あ、いや、愛称か? 愛称呼びか! 特別に許される関係だけのあの愛称呼びか!?
うおっ、ハードル高いね? 高いよね? り、り、り、りあ……って、ハードル高くね? ええ? 一気に距離感縮まる感じあるな?
いや、肉まん押し付けられる距離感の時もあるっちゃあるけとな? あるんだけども? パーティーとかお出かけとか限定だけどな? 限定だからな?
「り……」
「り?」
「リア、さま」
「リア、と」
「……リア、ん、さま?」
「もう。アインさまはいじわるですの」
いや、リアさまはかわいいですの……。
でも、さすがに呼び捨てはできねぇーーーーーっっっ!! ヘタレと言いたきゃ言えばいい! おれには無理だーーーーっっっ!
「ですが、一歩前進、ですの」
そう言って笑ったリアさまは、おれの腕をとって歩き始めたのだった。
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