アインの伝説(9)
その日は夕食を共にして、いろいろと話した。
デプレさんからはやたらとガイウスさんやタッカルさんのことで謝罪を受けたけど、なんでだろうな? いっつもよくしてもらってんだけどさ?
それと、ガイウスさんが河南7か国において叩き出してる純利益がはっきりいって天井知らずで、おれの取り分がとんでもないことになってるらしいということも判明した。
フェルエラ村からの収入が十分利益になってることもあって、そもそもあれから純利益の取り分を受け取らずにそのまま追加資金として投資してたしな。そういうこともあるのかもな。
「自由に使えるものとしての財力では、オーナーは既に寄親たるケーニヒストル侯爵の5倍以上はあるでしょうな……」
そう言ったあと、デプレさんは、敵を作り過ぎてもよくないのでガイウスにはもう少し手控えさせましょう、とため息をついていた。
ちなみにケーニヒストル侯爵以上の財力があるということは、それは世界最高の財力だということらしい。
何ソレ? ビール・ゲロッツみたいな感じか、おい? あれ? おれの財力っていつの間にか限界突破してたんですね?
どうりでハラグロ商会に行っても一切支払いを求められないはずだよ。
アンネさんには貴族になるまでの経緯を順に説明した。
「養子になるどころか、爵位を、しかも子爵位を授かってるなんて……」
とか、アンネさんは目をくるくる回して驚いていたけど、でも、とても喜んでくれていた。
はじまりの村へと戻りたいのなら護衛を付けるけど、できればこの村で、この屋敷で暮らしてほしいとお願いしたんだけど、姉ちゃんも援護してくれて、いろいろ話した結果、レオンと暮らす家を一軒、アンネさん用に整えることになった。
すぐそこにデプレさんがいたからハラグロ商会に新しいアンネさんの家を発注しようとしたら、空き家で十分だからとアンネさんに止められた。めっちゃ止められた。なんでだろうか?
リンネも一緒に暮らすべきじゃないかって話もしたんだけども、これも、いろいろあって、リンネは今まで通り、おれと姉ちゃんの家で過ごすことになった。とはいっても、今年はほとんど学園だから聖都の屋敷になるんだけどな。実際は。
レオンはアンネさんと一緒に暮らす。ま、レオンも学園だけどさ。
「どうしてこのお屋敷があるのにそのへんの民家で暮らしてるの……」
あきれたように笑うアンネさんは、でも気持ちはわかる気がする、と言っていた。庶民の心はおれたちもアンネさんも同じなのだ。
レオンはおれと姉ちゃんと別れてからの修行の日々と、クソアスやイエモンを倒し続けた日々を語って、かなり強くなったと思ってたら、上には上がたくさんいたって、喜んでた。そこは喜ぶとこなのかな? どうなんだろうな?
何この修行中毒? 強くなりたいがこじれてレオンのヤツ、頭わいてんじゃねーのか?
姉ちゃんの鑑定でレオンのレベルは17と判明。あれから7もレベルを上げたということはかなり地道にクソアスとイエモンを狩ってたらしい。これはスキルの熟練度もかなりのものかも。あ、おれも鑑定持ちだけど、とりあえず使えることを隠してますので、ハイ。そゆことです。
もしもポゥラリースで洗礼を受けて辺境伯に取り込まれてたとしたら、いきなり最強騎士にされてたかもな。
明日からいきなり修行したいって言ってるから、遠慮なくレベル上げをさせようと思う。それにしても脳筋に育ったな、レオンのやつ。
フェルエラ村の周辺環境なら、学園に向かうまでにまだまだレベルを上げられるだろう。
寝る前にとりあえず木の枝で手加減しつつ叩きのめして庭にキッスさせといたけどな。させといたけども。あ、本人の希望にそってますので誤解のないように。
というか、久しぶりに打ち合って、叩きのめして、大地とキスして、なんでレオンは笑顔なんだよ?
Мか? こいつМに目覚めたのか?
いちおー義弟だしな、心配だよな? 大丈夫かな?
勇者となったレオンが義弟だと紹介したらイゼンさんが「さすがはアインさまです」とか言っててちょっとドン引きした。意味がわかりません。
どこがどのようにさすがなんだよ? ちなみに執事ィズはイゼンさんに同意するようにうなずいてたけどな。
セラフィナ先生は「アインさまの非常識はさらに磨きがかかってますね」って、しょうがない子だわって感じでクラスのいたずらっ子を見つめる担任の先生ような目でおれのことを見てた。
ちょっとゾクゾクしたけど、これって「ディー」ならフツーだよな? な?
あ、セラフィナ先生にはレオンの勉強をしっかりとお願いしておいた。学園で学ぶからには準備が必要だ。
アンネさんがいろいろと教えてきたとは思うけど、セラフィナ先生の方が教えるという意味では実績もあんだろ、たぶん。
フェルエラ村での生活は、狩りの日々だ。
戦闘メイド部隊やピンガラ隊はもちろんだけど、屋敷の、ジョブとスキルを持たない使用人たちもフェルエラ村では交代しながら狩りに出ている。
もともとは執事ィズとシェフのゾーラさんから始まった使用人の狩りだけど、今では全員が子爵家に割り当ててある狩場でモンスターと戦ってる。
セラフィナ先生でさえも「非常識です!」って叫びながら槍とか弓とかで戦ってレベルを上げてるからな。
まあ弱いと、聖都の屋敷の方で務めてもらう時に狙われたりして大変なもんだから、特にメイドさんで戦闘メイド部隊じゃない人たちが一番真剣にやってるかもしれない。
あ、村にやってくる人が増えたせいで、使用人はハラグロ商会を通じて前よりも増やしてます、はい。
もちろん、アンネさんにもレベル上げはしてもらう。
アンネさんさえよければ、弟子をとってもらって、太陽神系魔法の使い手を育ててもらってもいい。
まぁ、孤児たちの中でイゼンさんとセラフィナ先生の両方に認められる性格の上で、優秀な者ってことにはなると思うけどな。
アンネさんのレベルが上がって、これまでよりも上位の魔法スキルが使えるようになることも重要だ。そうなると指導できるスキルの格も上がるしな。
レオンはピンガラ隊と一緒に、着実にレベル上げを頑張ってる。まだ戦闘メイド部隊にも、ピンガラ隊にも勝ててないし、孤児で一番強い子と互角ってところだから、学園に行くまでにはなんとかしときたい。
おれとリンネは熟練度上げを戦闘メイド部隊と一緒にやってる。
おれは盾と槍で、リンネは太陽神系魔法と弓だ。
完全魔法後衛として育成してきたけど、『光の聖女』になっちゃったから弓のスキル熟練度が全然なのだ。
フェルエラ村に戻って半月ほどしたらケーニヒストルータからヴィクトリアさんがやってきて、ヴィクトリアさんもリンネと同じく弓のスキル熟練度上げに励むようになった。
学園に行くことが確定しているので、その合間となるこの2か月は、いろいろと忙しい。
例えば義父である大レーゲンファイファー子爵が夫婦でやってきて屋敷に滞在したり、とか。河南の有名商会が取引をしたいと交渉にやってきたり、とか。
ま、義父と義母をもてなすのは当然のこととして、河南だろうが河北だろうが、ウチはハラグロ商会以外の商会とは取引しねぇんだけどさ。
あきらめてハラグロ商会を通してフェルエラ村の産物はゲットしてくださいな。
ケーニヒストル侯爵家の寄子である貴族たちの使いもやってきて何か利益を得ようとしてくるし、侯爵家の寄子ではない伯爵家から執事がやってきたり、王家の使いが来たりもする。
他家……つまりケーニヒストル侯爵家グループではない方々は、お引き取り願って、ケーニヒストル侯爵を通じて話を持ち込んでくれ、という対応だ。
それは王家であっても。王家ならば尚更、かもしれねぇけどな。
ここ最近ではケーニヒストル侯爵家内で最強の武門として見られていることもあり、グループ内の領地持ちの子爵や男爵から、魔物討伐の依頼がくることもある。
そういうのは積極的にスラーとオルドガに回して、国境なき騎士団を派遣して処理してるんだけどな。
シルバーダンディから、寄子ではない領主や王家からの依頼として、魔物討伐を頼まれることもある。
もちろん、対価によっては引き受けてるし、ケーニヒストル騎士団の面子はできるだけ潰さないようにしてる。
でも、ケーニヒストル騎士団よりウチのんが強いってのはもう噂になってるらしくて、それを騎士団長のオッサンは積極的に肯定してるっていうワケわかんねぇ感じになってる。なんだあのオッサンは……。
領地経営はそんなこんなで順調なんだけどな。
スパイ大作戦は、うーん、なんというか、ちょっと減ったぐらいかな。
はっきり言えば、ケーニヒストル侯爵家グループ内ではウチに対して余計なことをするよりもとりあえず味方に付けておくべき相手と認識されたみたいで、ウチを探ろうとか暴こうとかって動きは激減した。
シルバーダンディに言わせれば「夏の夜会にほとんど顔を出さないからだ」とのこと。なるほど、それが原因だったのか。
その代わりってワケじゃねぇんだけど、スグワイア国内のグループ外の貴族たちとか、王家も含めて、間者を派遣してきてる。あと、トリコロニアナ王国とソルレラ神聖国からも。
大きく減って、そこから増えて、結果としてスパイさんの数は微減って感じか。
もちろん、領内において移動可能な範囲内で行動している限りはスパイさんだとしても手出しはしませんとも。ただし、立入禁止区域に入った場合は容赦なし。レベル10くらいでウチの村人敵に回して動けると思うなよ?
残念ながら、少しずつイゼンさんが届ける処刑執行書類にもサインする結果になってる。まあ、これも慣れていくしかないとは思うけどな。思うけども。
スグワイア王家から、捕らえていたスパイくんの行方の確認と解放の要求があったんだけど、ケーニヒストル侯爵家を通して改めて正式な要求が届くまでに、イゼンさんとハラグロ商会のタッカルさんが次から次へとそのスパイの罪状を追加していって、逆に王家を黙らせてしまうという惨事があった。
冤罪以外の何物でもないんだけど、スパイに人権はないらしい。怖い、マジで。
人権カムバック! どうしようか? おれ、「法の精神」とか「社会契約論」とか執筆した方がいいのか? いや、スパイが悪いっちゃ悪いんだけどな?
そのうち爵位持ちをスパイとして送り込んでくる可能性もあるだろうということでイゼンさんが執事ィズと一緒に対処方法を検討してた。
爵位持ちが立入禁止区域に突入して抵抗したら色々と面倒が起きる可能性があるんだと。わかる気はする。爵位って免責理由になるもんな。
爵位を伏せてやってくればそのまま処理しちゃえるけど、堂々と爵位をさらけ出してやってくるパターンが一番面倒なんだとさ。
この人たち相手が爵位持ちでも一歩も引かないつもりだよ。どんだけだよもう。そのための領内法整備が進んでてちょっと怖いと思ったのは内緒だ。
方法は簡単。入村時に爵位を確認して、長々と色んな条件が書かれた入村許可書にサインさせて、入村許可に反するという理由で逮捕、監禁、処刑まで一直線。
たとえ王子が相手でも問題のないしくみができましたと笑うイゼンさんある意味でプライスレス……。
そんな感じで忙しい日々はすぐに流れていくのだった。
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