アインの伝説(7)
古き神々の神殿で、姉ちゃんと鍛冶神、医薬神、商業神、農業神のダンジョンを1層から順に4層のボスまで全て制覇して、タッパのクエストの表示に『(達成率25%)』というのが追加されたことを確認。つまりこれまでに制覇したことがある古代神殿も全てもう一度制覇しないとクエストクリアにならない、ということが判明。
タイムリミットはまだ余裕があるので、おいおい古代神殿は姉ちゃんに協力してもらいつつ、クリアしておこうと思う。
そんで、聖都の屋敷に一度戻って、撤収準備。
ガイウスさんからは会頭のデプレさんがレオンとアンネさんを連れて大河を渡り、河南に入ったという連絡を受けた。
こっちもそろそろ聖都を転移して離れるタイミングだろう。
まあ、それはそうなんだけど……。
「……アイン、ねえ、アイン? ちょっと、聞いてるの、アイン!」
……目の前に姉ちゃんの怒り顔がドアップ……頂きます。そんでごちそうさまです。怒った顔もカワイイぜ姉ちゃんラヴ。
「姉ちゃん? どした?」
おれは至近距離の姉ちゃんに返事をする。
「どした、じゃないわ! もう! 何回も呼ばせないでって、何回言わせるの! この前から腑抜けてるわよ! いい加減になさい!」
腑抜けてる?
誰が?
……おれが? なんで?
こつん、と姉ちゃんのおでこがソファに座り込んでいるおれのおでこに当たる。そのまま姉ちゃんの黒い瞳が閉じる。ちょっと姉ちゃん? ドキドキしちゃう感じですけども?
「はぁ……そりゃね、あたしだって、アインがなけなしの勇気を振り絞って、成人したこの機会にシャーリーを迎えに行くという大胆な行動をとったことは心から称賛してるわ。してるの。してあげるわよ。
大切な約束を守ろうとする心根も認めてあげるわ。
でもね、その結果として、シャーリーが引っ越してて会えなかったからって、そこまで魂が抜かれたみたいに腑抜けることはないんじゃない?
アインってば本当に馬鹿だわ、もう」
……いや、確かにあれは、うん、ちょっと……いや、正直に言えば、かなり、落ち込んだというか、気合を消耗したというか、エネルギーを失ったというか、この世の全ては空回りなからくり人形のようだったというか、とにかく何というか、だけど。
姉ちゃんがすっとおれから距離をとって、ずばんっとおれを指差す。
「そんなに会いたいなら、あの時ポゥラリースまで飛べば良かったのよ! それをしないって決めたのはアインだわ! だからいい加減、しゃきっとしなさい!」
「……おれ、そんなに腑抜けてた?」
「完全にダメな人間みたいになってたわ。息をしてるかどうかもあやしいぐらいに。後で執務室の机を見なさい。どれだけ書類が積まれてると思ってんの、もう。そろそろイゼンさんも我慢の限界よ」
ええ? 執務室の机の上?
……そういや、領地からの書類って、最近見てない、のか? あれ?
……マジか。
そうか、おれ。そこまで落ち込んでたのか? 古き神々の神殿でのダンジョンアタックで気持ちを切り替えたつもりだったんだけどな。だったんだけども。
「ガイウスさんから聞いたけど、そろそろレオンがフェルエラ村に着くんでしょ? リンネをびっくりさせるって言ってたクセに。このままじゃ、間に合わないわよ?」
そう言った姉ちゃんはおれの手を引いて、ソファから立ち上がらせる。
「とにかく動く。動けば変わるわ。もっと忙しくして、今は忘れなさい、アイン」
そう言ってそっとおれを抱きしめてから、姉ちゃんが離れていく。
これは気合を入れなおさないとな。
おれは頑張ろうと心を奮い立たせて……。
……執務室の机の上を見てすぐに心を折ったのだった。
まあ、それでもなんだかんだでやるべきことを終わらせて、フェルエラ村へ。
予定通りなら、2日後にレオンとアンネさんが到着する。
イゼンさんを通じて、村に勇者がやってくるヤァヤァヤァとは広まっているけど、その勇者が実はレオンだということは秘密にしてある。
レオンと会ったらリンネはびっくり間違いなし。サップラーイズ! もちろんレオンにも知らせてないのでこっちも同じ。
あと2日ということでどっかに転移して、というヒマもなく、戦闘メイド部隊やピンガラ隊を率いて里山ダンジョンへアタック。
そんで槍とか盾とかのスキルの熟練度を上げるためにおれも懸命に動く。
ふと見ると、戦闘メイド部隊の女の子たちがきょとんとした顔でおれの方を見ていた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ、その、アインさま、槍と盾の御業をお使いになってらっしゃるようなのですが?」
隊長のレーナが代表して答える。
「ああ、洗礼で、使えるようになったから、熟練度を上げたくて」
「洗礼で? では、アインさまの天職は、あの場で見落としがあってわからなかったということですが、『聖騎士』などの騎士系統なのではございませんか? 槍と盾の御業が使えるというのは騎士系統かと」
そんなレーナの一言で戦闘メイド部隊やピンガラ隊のメンバーたちが、聖騎士か、いや、魔導騎士じゃないか、などとおれのジョブを考察し始める。
……しまったかも。この子たちにすら、見せてはまずかったのでは?
「……しかし、そうなると、アインさまが使うことができない御業はないのでは?」
「あ、確かにそうかも」
それに気づいたのはダフネだった。相槌を打ったのはキハナだ。二人は既に学園を卒業して、スキルに関する知識も色々と学んでいるからこそ気づく真実。
「元々、大神の御業は6柱全てお使いでしたし、剣と弓と、体術でしたか。あと、アトレーさまの眷属神の御業も全て。そこに槍と盾ですから、全ての神々の御業……」
「そうなると、アインさまの天職が何か、全くわからなくなりますね」
「……全部使えると天職を限定できない、ということか」
「……」
「イエナさまなら、見て、わかるのでは?」
「あたしが見えるのは自分よりも弱い相手だけだわ。残念だけど、アインはただ一人、あたしが見えない相手だわ」
「そうなると、やはりアインさまの天職は不明なままですか。大神殿の落ち度は許せませんね」
色々と考察が進んでいく。シトレだけはうなずいてる感じで言葉は発してねぇけどな。あとレーナ。さりげなく大神殿をディスるのはやめときなさい。
やはり騎士系統の天職の可能性が高いのではないか、というのが議論の中心だ。違うんだけどな。違うんだけども。ジョブが何かはおれは知ってんだけども!
その過程で、やはり闇の女神のスキルについては話に出てこない。わかってはいたけど、それだけは出てこない。
槍と盾はもうやっちゃったからしょうがないとして、闇の女神のスキルは、どこでどうやって熟練度を上げようか? ソロプレイはほとんどする機会がないか? 古き神々の古代神殿で姉ちゃんと別行動する時ぐらいか?
「全ての神々のスキルが使えるって、本当にお義父さまが言った通りだわ」
「侯爵さまが? 何かおっしゃっていたのですか?」
「ええ。アインのことを『神々に愛されているとしか思えないね』なんて言ってたわね」
……そういや、いつだったか、えっと、確かヴィクトリアさんの洗礼の時だったかな? なんか、そんな感じのことをシルバーダンディに言われた記憶があるな? まんまそんな名前のジョブになったけどな。なったけども。
アレか? アレがフラグだったのか!?
シルバーダンディの立てたフラグで『神々の寵児』なんてモンになっちゃったのか!? いや、別にいいんだけどな? とんでもなくチートなジョブだとは思うけど、究極の器用貧乏かもしれないけど、とにかく全部のジョブが使える可能性があるってのはプラスでしかない。加護もめっちゃかかってるし!?
なんか色々と考察しながらダンジョンで狩りができるなんて、みんな、ワケわかんねぇくらい強くなってきてんだよな。
言うまでもなくそん中で一番強いのはおれだけどな。おれなんだけども……。
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