アインの伝説(4)
会談はおれが動揺しているうちに、シルバーダンディと姉ちゃんが徹底的に教皇を批判し、何か賠償を、という方向に進んでいた。
おれとしてはこのとんでもチートジョブの『神々の寵児』と、それにともなう闇の女神系魔法スキルというゲームにはなかった……いや、正確にはゲームではプレーヤーが使えなかったスキルの取り扱いについて、少々……あ、うん。正直なところ、かなり……混乱していた。
……これ、検証しようと思ったら、数年かけてどっかの子どもをおれと同じような状況に育成しないとダメだよな? しかも、いくつの系統のジョブを神級までとか、パターン分けして? あ、いや、そんな人体実験できるはずもないけどな? ないけども? セーブデータの使い回しとかで対応できねぇし?
それと……とにかく闇の女神系魔法スキルはやべぇしまじぃよな? 魔族や魔物が使う魔法スキルが使えるとか大問題になるよな? うん、なる……のか? このへんでそんな魔法使ってくるようなモンスターいねぇな、そういや? あれ? ならない?
いや、神殿の伝承関係であるかもしれねぇし、油断は禁物? どうだろ?
「……子爵、レーゲンファイファー子爵?」
……とにかく、すでにいろいろと目立ってるんだから、これ以上、変に目立つのは避けた方がいいとして、でも、スキル自体はかなり使えたら有効だから、どっかで鍛えないと。
あと、古代神殿の制覇は、盾術と槍術だけでいいのか、いいとしてもスキル熟練度を上げていかないと上位スキルはまだ伏字ばっかだしな。もし、これまでに制覇した古代神殿ももう一回ってことになったら、まあ、それは時間をかければいけるから……。
「レーゲンファイファー子爵っ!」
「……へっ?」
「……どうした、君らしくもない」
ふと振り返ると、シルバーダンディがおれを見ながらため息をついていた。
「天職が何かわからず、動揺しているのは理解できるが、少し心配だね。まぁ、こんな状態なら、ますます教皇聖下を許す訳にはいかないとも言えるが……」
「申し訳ございません……」
……なんか、すんません。ジョブがわかった結果としてめっちゃパニメダってましたけど、そこは言えないんで、マジですんません。
そっか、おれ、パニメダってたのか。
いや、混乱すんだろ、さすがに。いろいろあり過ぎだもんな、このジョブ?
……落ち着け、おれ。落ち着くんだ、おれ。
繰り返すな、おれ。
「それで、今は……」
「ケーニヒストルータの神殿に対する10分の1税は廃止を要求したが、神殿の撤退まではこちらも望まないからね。50分の1税までの減額で手を打ったところだ。そこで、君、被害を受けた本人が望む賠償はないか、という話になった」
……それはもう、めっちゃダメージ、与えてるよな? 去年から20分の1税にまで値切ってたような気もするけどさ?
世界最大の経済都市からの10分の1税は、ソルレラ神聖国にとって極めて重要な収入源だ。それが大幅に減額されてる。孤児院を潰したりして、寄付も減らしてるし。
……ん? 思えば、全部おれのせいか? あ、いや、おれに関係してるってだけで、減額については神殿側の自業自得だけどな。
「アラスイエナは教皇批判を正面から行っている。余程今の聖下が気に喰わないみたいだね」
……去年の手を握られたこと、まだ根にもってんだな。もちろん、それはおれも許す気はねぇけどな? 今年はリンネの手まで握りやがって!
「……ずいぶんと強気な交渉ですが?」
「今までになく、大神殿に要求しやすい状態だろう? 我が領は聖女や聖騎士を何人も抱え、学園でも聖騎士団に次ぐ人数が通って影響力を高めている。アラスイエナに心服している者は学生のみならず、教師を務めた神官や護衛にあたった聖騎士たちにまで及んでいる。大神殿はケーニヒストル侯爵家をどうあがいても無視することはできん状態だからね」
「それを相手に聞こえるように言わなくても……」
「これも交渉術のひとつさ」
にっこりと笑うシルバーダンディと対照的に憮然とした表情の教皇を名乗るジジイ。
「それで、レーゲンファイファー子爵さまは何を賠償として望まれますか?」
ユーグリーク枢機卿が問い掛けてくる。憮然としている教皇のジジイではなく。
この場はユーグリーク枢機卿が提案して設けた話し合いの場だ。姉ちゃんの教皇批判を一部の者の間で収めつつ、はっきりと教皇のミスを追及して賠償を行う。教皇を助けると見せかけて落とすというユーグリークの離れ業だ。
……天職を見落としてわからなくなった賠償ねぇ。
実際のところ、タッパで確認できてるから被害はゼロ。でも、大神殿から何かをむしり取るチャンスと言えばそれもそうか。シルバーダンディはめっちゃ都合よくむしってるしな。
何かあるか? 神殿にしてほしいこととか? 教皇の退位と交代なんて、はっきり求めるんはちょっと問題だろ? 姉ちゃんもはっきりと批判しても、退位しろなんて絶対に言わない。攻撃して、あとは大神殿で判断しやがれって感じだ。
「……お望みであれば、どの御業が使えるのか、確認することで天職を確定させることができるかもしれませんが」
「ユーグリークさま、それはできませんわ」
「なぜです? アラスイエナさま?」
姉ちゃんとユーグリークの仲良しアピールです、はい。名前で呼び合うってところです、はい。でも仲良しだとは思ってねぇけどな、おれは。思ってねぇけども!
「……レーゲンファイファー子爵は元々、洗礼前からいくつもの神々の御業をお使いですもの。だからこその『竜殺し』ですわ」
「なんと……」
そして、重要な秘密をここでぶっこんでいく、と。
大神殿側のお偉いさんたちがざわついて、口々に何かを話し合う。
まあ、まとめると、洗礼前からの御業使いは貴重な天職になることが多い、と。その天職を見落としたとなるとそれはより一層問題が大きいのでは、と。
教皇の失墜を狙う姉ちゃんとユーグリークにとって、狙い通りの流れ。
「馬鹿な! そのようにたくさんの御業を洗礼前から使える者などと……」
教皇が否定的な見解を述べようとして……。
「レーゲンファイファー子爵は、去年の決闘騒ぎで、洗礼で聖騎士となった者を木の枝で倒した『竜殺し』ですわ。もちろん洗礼前ですのに。いくつもの御業を使える方が自然でしょう?」
……即、姉ちゃんが潰しにいく。
「天職を子爵が使える御業で確認するなど、何の賠償にもなりませんわ」
親しいユーグリークの提案を潰しているんだけど、その瞬間は教皇の発言の後にわざわざもっていくという徹底ぶり。
姉ちゃん、おそろしい子……。
室内は静かになっていく。
まあ、それはともかく。
何を要求しようか?
うーん。
……あ!
「それなら……」
おれが口を開くと、一気に注目が集まる。
思わず周囲を見回してしまう。
「……どうぞ、発言なさってください、レーゲンファイファー子爵さま」
ユーグリークがおれの言葉の先を促す。
「……今後、神殿での洗礼で、寄付を受け取らない、というのはどうでしょうか? 洗礼の無償化というか、そういう感じで? 誰もが洗礼を受けられるみたいな?」
おれ発言に教皇が目と口と鼻の穴まで大きく開いて絶句していたが、実は隣のシルバーダンディも顔色を変化させていた。
あれ?
なんか、やっちゃったか?
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