アインの伝説(3)
聖堂内のざわつきが激しくなっていく。
くそうシルバーダンディのヤツめ、余計なことを……。
「何という乱暴な言葉を……」
「聖下に向かってあのような……」
「とんでもない無礼者ではないか……」
「あれが『竜殺し』か、ただの乱暴者なのではないか?」
「あのような『勇者』などいるはずがない」
……あれ?
このざわつきって、おれに向けた批判じゃね?
ちらり、と教皇の様子を確認してみる。
……顔を真っ赤にしてぷるぷると小刻みに震えていらっしゃる、と。そうですか。そんな感じですか。そうでしたか。お怒りですね、はい。わかります。わかりますとも。その顔を見れば。
だがしかし! 駄菓子はお菓子でいとおかし!
ここで『勇者』なんて役割を押し付けられるワケにはいかんのでごわす!
それは遺憾にございまする!
でも言葉遣いはちょっとだけ気をつけてっと……。
「洗礼における天職の見落としなどあってはならぬ失態である! これは大神殿の! 教皇の責任問題だ! そして、その見落としを隠し、『勇者』を捏造するなど、神々への反逆にも等しい! それが神々にもっとも近いとされる教皇の地位にある者がすることか!」
教皇の顔がさらに赤くなる。
……え? あれ? 言葉遣いは気を使ったつもりだけど? くそじじいとか言わなかったしな? 内容? 内容は事実じゃん? 事実は曲げらんねぇよな? あ、敬語? 敬語がいる? でも敬語でクレームつけんのって難しくね?
「聖下! 今、レーゲンファイファー子爵が言ったことは本当なのか!」
壇上にのぼってくるんじゃね? という勢いでシルバーダンディがおれを援護。
おお! いいぞ、シルバーダンディ! よし、おれも敬語で追い打ちを!
「本当です! 本当ですよ、侯爵閣下! 上ばっか見てて、侯爵閣下に言われて宝珠を見て、その瞬間に「しまった、消えてる? どうしよう?」って顔してましたから! めっちゃしてましたから!」
「し、しておらん! そのような顔など……」
「そんな顔をしていましたっっ! はっきり見ましたっっ! 一生に一度しかない人の洗礼を何だと思ってるんだっっ!」
「ぐっ……」
くくくっ、追い詰めたぜ……。
そこで姉ちゃんが席を立ってシルバーダンディに並んだ。
「聖下はどうも信用ができませんわ。
私、この一年間、学園で本当に困っておりましたのに、何度ご相談申し上げても、学園のことは学生で解決せよ、とのことでした。
王族を相手に学生が何をできると言うのでしょうか。
今も、侯爵家の期待を背負った『竜殺し』の天職の見落としなどと、そのようなとんでもないことを……しかも、そこで『勇者』などという捏造を!
私、もはや聖女として聖下を信じることができそうもありませんわ!」
……え? ここで姉ちゃんそんなのぶっこんできちゃうの? まさか、まだ教皇の引きずり下ろしを?
「落ち着いてくだされ!」
壇上のすぐ下から、大きな声がする。見てみると、ユーグリーク枢機卿が進み出てきた。
「この場で興奮したまま話しても何も解決いたしません! 別室で話し合うべきでしょう!」
……何この、この流れを逃すなイッツビッグウェイブみたいな感じは? しかもユーグリークのヤツ、姉ちゃんと阿吽の呼吸みたいな感じで合わせてきやがって? しめるぞゴラァ!
というワケで、別室にて会談中。
あ、いや、何がどういうワケなんだかおれにもよくわかんねぇけどな。わかんねぇんだけども。
……これって、いわゆる宗教会議みたいな感じか? でも信仰の内容とかじゃねぇし? どっちかっつーと、教皇の進退問題だよな?
とりあえず、こういうのはシルバーダンディが激強だからお任せで。でも姉ちゃんめっちゃ教皇を攻撃してるけどな。してるけども。それはそれで別にいいんだけども!
おれは、こっそりタッパの表示に目を落とす。
そこにはSQ、ストーリークエストの表示がある。
『SQ 世界を救え! 全ての神殿を制覇せよ』
残り2年359日23時間12分45秒、4秒、3秒、2秒、1秒……。
……って、これ、カウントダウン入ってるよな? 何コレ制限時間付きクエスト? ゲームじゃそんな設定はなかったけど?
あ、いや、ここがゲームっぽくても現実なら、クエストの時間制限は当たり前なのか? でも制限時間3年ってのもゆとりがあるような、ないような?
この『神殿』って、神殿のことじゃなくて、たぶん『古代神殿』の方だよな? でないと『制覇』とかできねぇし?
いやでも、古代神殿の制覇って、魔法系はともかく、物理系は完全に無理じゃね? 戦の女神イシュターの神殿のアレだろ? スキルなしには制覇なんて無理だし?
あ、いや、クエストも気になるとはいえ、それよりも、おれのジョブの方か。
ステータス画面に移動して、再確認。
……やっぱり知らねぇジョブのまんまだしな。うん。変わるとは思ってなかったけどな。思ってなかったけども。
それにしてもジョブ名は『神々の寵児』って……。
それって仕事なの? ねぇ仕事なの? なんかニートっぽいよな? ニートの臭いがするよ? 気のせいかな?
働かなくても生きていけそうなめちゃめちゃ運がよさそうな感じが気のせいじゃないような気がする? でも実は運が悪いっていうオチまでありそうな?
あ、鑑定あるはずだからタッパのヘルプ機能が……。
ぽちっと『神々の寵児』と書かれているところに触れて、ヘルプ画面を出してっと。
『特殊ジョブ『神々の寵児』とは。
あまりにも多くの神々から神級スキルを授かっていたため、スキルを与えていない神々も競うように洗礼において我も我もとスキルを与えてくるようになり、その結果として全ての神々のスキルが使えるようになるという究極の特殊ジョブ。
まさに神々に愛されていると言えるだろう。
さあ、君は全てを手にすることができるか!?』
……って、は?
ウソ? マジ? ていうか最後のそれ、いるの? いらねぇだろ?
タッパ操作でスキルリストを表示させる。
……マジか? 盾術も、槍術も、下位スキルの熟練度の関係で伏字になってる上位スキルはあるけど、それでも全部スキルが生えてきてるな?
あれ? これなら古代神殿の制覇も可能? っていうか、それ、このジョブになったおれ以外には絶対に不可能だよな?
聖堂に響くような神託出しといて、おれをピンポイントで狙ってるよな? いや、このジョブがクエスト発動条件なのか、ひょっとして?
あー、これ、マジなチートジョブなのか。魔法スキルは……。
……あ、魔法スキルの賢者用の複合魔法スキルも使え、る、って、え? 何、コレ? どういうこと?
魔法スキルのリストの中に、賢者用の複合魔法スキル以外にも、新しく闇の女神系回復魔法スキルと闇の女神系阻害魔法スキルが追加されていた。
……エナジードレインのララサとか、スリープのララバイとか、それって、魔族とか、モンスター側が使うヤツじゃん!? 闇の女神ララの魔法スキルじゃん!?
なんで?
これって、いったいどういうことなんだよーーーーーーっっっ!!!
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