聖女の伝説(69)
「姉ちゃん、また手紙書いてんの?」
マメだなあ。姉ちゃんは。
「これが大切なのよ。身を守るために必要なのはいつも積み重ねだわ」
……相変わらず、姉ちゃんの発言は重い。真理だ。
そんで手紙は誰に……って、またかよ。
「また枢機卿? もう何回目だよ?」
「何回も、何回も、積み重ねることに意味があるわ」
「学園に配置してくれてる聖騎士たちのことでのお礼だろ? 一回でいいじゃん」
学園の警備という名目で配置された聖騎士たちは、さりげなく姉ちゃんに脳筋マーズの動きなどを知らせてくれて、こちらを助けてくれている。
姉ちゃんは聖騎士のそういった行動で助けられる度にユーグリーク枢機卿にお礼の手紙を送っていた。ちくせう、あのくそジジイめ。姉ちゃんから何回も直筆の手紙をもらいやがって許さん!
「でもそれなら宛先は教皇聖下じゃないの、姉ちゃん?」
「……違うわ、アイン。あれは、ユーグリーク枢機卿が配置して下さった部隊よ。隊長があいさつの時にそう言っていたわ。それに、聖下ではなく、枢機卿猊下に送ることが重要なの」
「ふーん……」
特にその重要性が何なのか、思い浮かばなかったおれはなんとなく聞き流したのだった。
「それよりも、アイン」
「何?」
「トリコロニアナの王都に行きたいわ」
「はい?」
これはまた、唐突なお願いで。
でもまあ、姉ちゃんのお願いは可能な限り叶えるんだけどさ。
「なんでまた、そんなところに?」
「あそこ、ハラグロが支店を出さなかったらしいの」
「ああ、そういえば……」
そういう話をガイウスさんから聞いた覚えがある。王家との取引に問題があって、結局、支店は出さずにクレープ屋だけを営業させてるとかなんとか……って、姉ちゃん、まさかクレープの食べ比べに行きたいとか? そんな理由?
「確かクレープ屋だけは出店したって聞いてるけど、まさかクレープが食べたいの?」
「……アインってば時々本当に馬鹿だわ。そんな訳ないでしょう。でも、行ったらもちろんクレープは食べるけど」
食べるんじゃん! やっぱ食べるんじゃん! 結局食べるんじゃん!
「行くのは情報収集のため」
「なんで? ハラグロの報告書があるのに?」
「何ていうか、今の、そのままの情報が知りたいの」
「ああ、うーん……」
何となく、言いたいことはわかる。
報告書を読んでわかることと、現地で自分が感じることには、どうしても誤差があるもんな。
最新情報とはいっても、少し前の話だったりするし。
でもなぁ。
トリコロニアナの王都は……。
「……リタウニングの転移ポイントじゃねぇんだよなぁ」
「でも、何とかできるわよね? アインなら?」
「そりゃ……」
できなくはない。
というか、そのためのアイテムは確保できてはいる。
「なら、黄の新月の長休みはトリコロニアナの王都へ行くわ。これは決定よ、アイン」
「はいはい。わかりましたよー」
「だから、その間のダンジョンアタックの割り振りはみんなに指示しておいてね」
わあっ、けっこー面倒な仕事割り振ってきやがったな、姉ちゃん!?
まあ、いいけど。
そういや、なんで王都は省いてやってきたんだったっけ……メフィスタルニアの一件でそのままケーニヒストルータを目指したからだったかな? あれ? 何か、重要なことをうっかり忘れてるような……。
そんなこんなで黄の新月の13日からは姉ちゃんの要望に応えてトリコロニアナ王国の王都トリコロールズを目指す。
ま、たどり着いてしまえば、帰りの心配はいらないので、そこはいいとして。
トリコロールズ自体は転移ポイントになっていない。だからできるだけ近くの町へとリタウニングで一度飛ぶ。
「というワケで、今から空を飛びます」
「……そう。不思議だわ。驚くべき内容だという感じがするのにアインが言うとびっくりしないんだもん」
「どーゆー意味だよ、姉ちゃん……」
おれはドラゴン退治の経験値稼ぎで入手していたレアドロップアイテム『飛行石』をストレージから取り出す。
「何、それ?」
……別に黒っぽくて、そこに何かの紋章が描かれてて、青い光を放つ、などというようなことはないし、この石を使ったペンダントか何かを付けた女の子が空から降ってくることもない。
見た感じは大きなダイヤモンドみたいな感じの石だ。
ゲームでの買取価格は1500万マッセ。この世界でうれるのかどうかはわかんねぇので売る気はないけどな。
ゲームでの販売価格? 知らねぇよ。だって、おれが知ってる範囲では売ってなかったからな。
「ドラゴンを倒すと、ごくごくたま~にドロップするアイテムで『飛行石』だよ」
「飛行石……」
「空を飛んで、かなり速いスピードで移動ができるんだけど」
「うんうん」
ちょっと姉ちゃんが目を輝かせてる! え、なになに? かわいいな姉ちゃん……。
空が飛びたいのか? 飛びたいんだな? 今から飛ぶぜぃ!
ていうか、怖くはないんだな、姉ちゃん? ある意味すげぇな……。
「途中、モンスターとエンカウントしたら強制的に地上へと復帰します」
「え? 空から落ちたら危ないわ?」
「そこは大丈夫。ゆっくりと下ろしてくれるから」
「へえ……」
「エンカウントするのは飛行タイプのモンスターか、地上なら遠距離攻撃ができるモンスターだけ。弓とか魔法を使うタイプな。ボア系統とかどれだけ途中にいても問題ない」
その代わり魔法系のモンスターが一度でもこっちを攻撃したら終了。地上に強制的に着地させられ、戦闘開始だ。それだけで1500万マッセがパーだよ。
「……誰かに飛んでるところを見られても大丈夫? リタウニングみたいに?」
商業神系魔法のリタウニングやリタウニングフルメンは指定した町などの入口に転移するけど、その場に突然現れるはずなのに、周囲の人間の認識は『はじめからそこにいた』ようになる、という不思議効果がある。魔法ってそーゆーところが意味不明だ。そもそもゲームだしな。
残念ながら転移後に入門するので通行料は必要だけどな。残念ながら。
「いや、できれば見られたくない」
「え?」
「人はフツーは空を飛ばないからな、姉ちゃん」
「……知ってるわよ、そんなこと」
「トリコロールズの門の前まで飛んだら、そのまま衛兵に連れられてどっかで色々と聞かれることは間違いなし。だから、ほどほどの距離で、目立たない林か何かに着地して、あとは歩く」
「わかったわ」
姉ちゃんが納得したので、飛行石を使用する。
おれと姉ちゃんの体が地上を離れて浮かび上がっていき、だいたい地上から20mくらいだろうか、そんくらいの高さで一度止まる。
飛行石は使用者とそのパーティーに効果が及ぶ。つまり、おれと姉ちゃんだな。
そして、使用者の意思で動ける。
では、王都トリコロールズを目指して、レッツゴー!
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