聖女の伝説(67)
ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』には、制作会社の公式サイトにプレーヤー対戦が可能な『闘技場』が用意されていた。
その名も『レジェンド・ファイター』……なんでこんなネーミングなんだろうな?
基本的には提供アイテムと希望アイテムと対戦日時を指定して、条件が合うプレーヤーがいれば闘技場でプレーヤー対戦が可能になる、というシステムだった。
要するに何かを賭けて決闘するワケだな。
ただし、ずる賢く使うこともできた。ゲームのMMOイベントでフレンド登録できているプレーヤーやまたはリア友との間で、アイテムを融通するために使えるからな、この機能。
それでいて、相手からうまいこと貴重なレアアイテムを掠め取ろうとする連中もいて、決闘サギとかも横行してたんだよ……。
ま、希望する条件が整えば、決闘はできるんだけど、並ライポ1本を提供アイテムとして武器補正850もある炎の剣を希望したって、相手はまず見つからないよな、フツー。
だから事前にフレンドメールとかで連絡し合って、もう一人は並ライポ1本と雷の剣とかで対戦希望を出して、実は炎の剣と雷の剣を交換するために、お互いにワザと負けるって方法でアイテムを交換するってやり方だ。
でもそれで自分がほしい物を確保した後で、提供する分の時にワザと負けずにほしい物だけ奪っていくのが決闘サギってことだな。ひどいヤツがいたもんだ。人間関係崩してまでアイテムほしいかね?
ま、ちょっと話はズレたけど。
そんな感じで、この世界には決闘で望むものを手に入れる、というしくみが実はある。
ただし、基本は等価交換だ。少なくとも決闘する者が等価だと考える内容で契約して、決闘は行われる。決闘は契約した本人ではなく、その代理人が戦うことも可能、と。
……なるほどね。それでレベル17の護衛騎士を連れてんのか、マーズのバカは。
シルバーダンディを通じて王太子との婚約を申し込んだけどあっさり断られたもんだから、学園の方で実力行使ってことか、いちおー、合法の範囲内だよな? システム的なモンだし?
まあ、あっちが理解してないのは、たかがレベル17で姉ちゃんに勝てる、もしくは姉ちゃんの護衛騎士に勝てる、などという甘い考えをしたところだろう。
それに……。
そもそも、姉ちゃんが決闘を受けるだけの交換条件を提示しなくちゃ、話にならない。
「……殿下。申し訳ありませんが、決闘などお断りでございます。私、殿下と婚約を結び、いずれ結婚するなどと、考えたこともございませんわ。ですから、この決闘、お受けする気はございません」
……そうなんだよな。でも、これ、姉ちゃんの恩情だからな。
トリコロニアナ王家は、何も知らない。もちろん、ケーニヒストル侯爵家も、ソルレラ神聖国も、知っていてもその情報を出せない。漏らせないからな。
姉ちゃんがどんだけ強いか、ということは。
だって、それって自分のとこの騎士団がぶっ潰されたって赤っ恥の話だからな? わざわざ誰かに吹聴して回ることじゃねぇもんな?
トリコロニアナ王家の、姉ちゃんを……聖女を王国に取り込もうという策が、その行きつくところがこの決闘による婚約の成立なんだとしたら、それは前提条件がもう間違ってる。あいつらまったくわかってない。可哀そうなくらいに。
連中がどうあがいたって、姉ちゃんには勝てないってことに。
これでどんな条件を出したとしても、それは姉ちゃんの一人勝ちだ。だから、この決闘をお断りするのは姉ちゃんの恩情以外の何物でもない。
……とはいえ、情報がないトリコロニアナは、どんどん条件を出して、しかも吊り上げていくんだろうなぁ。
「交換条件なら、そちらが望むものを用意しよう。王国にある王家直轄地の中でオレの所領になっている町をまるごとひとつ差し出しても構わん。こちらの要求は聖女たるそなたとオレとの婚約だけだ。ただし、婚約から1年以内に結婚することは条件に加えさせてもらうがな」
はい、婚約からの結婚のコンボに対して、町ひとつ、頂きました。これ、姉ちゃんが決闘を受けたらマジで町ひとつ、トリコロニアナ王国は失うからな? でも、そんな町とか別にいらねぇんだけどさ。
「……何度も申し上げるのも心苦しいのですが、決闘はお断り致しますわ。そのような異国の町など頂いても何の役にも立ちませんもの」
そうそう、その通り。
決闘には、それに見合った交換条件がないとね~。
でも、この反応にはトリコロニアナ側が驚いていた。
あいつらからしたら、婚約と結婚のコンボに対して、王子領の町ひとつで十分だったらしい。
馬鹿なの?
それ、負けても聖女の領地が国内の、しかも元王家直轄地という都合のいい場所にできるから、実はそっちのメリットでしょ? そんな条件にウチの姉ちゃんが騙されるとでも?
「……本当に、そのようなくだらないものしか用意もできずに決闘を申し込んでくるとは、神々のお心も知らず暢気なこと。私の結婚がその程度だとはずいぶんと安く見られたものですわね」
「わ、我が領たる町をくだらぬものだと!」
……あれ、姉ちゃん? ねえ、ちょっと? 何で煽ってんのさ?
「くだらぬ町ではないと言うのであれば、私がよく知る、我が領都、ケーニヒストルータに匹敵するような町なのでしょうね?」
ごくり、とマーズ脳筋王子殿下が唾を飲み込む音が聞こえた。側近の文官も目を見開いている。
それはそうだ。ケーニヒストルータは世界最大の経済都市。前世で言えば、ニューヨークとか上海とか東京とか、そういう町だからな。
トリコロニアナ王国に、ケーニヒストルータに匹敵する町など、ふたつしかなかった。今ではもうひとつしかない。
そのうちひとつは交易都市と呼ばれたメフィスタルニア。だが、メフィスタルニアは既に失われ、死霊に占領されている。
残るひとつは……。
「……あら、私、地理の先生からはケーニヒストルータに匹敵する町について学びましたけれど、殿下はご存知ありませんの?」
にっこりと笑う、黒髪黒瞳の、この上なく美しい、おれの姉ちゃん。実に堂々としていて、超かっこよくてそれでいて超カワイイ!
でもなんで煽ってんの? ねえ、姉ちゃん? なんで煽るの? 煽り運転は危険だからな? 危ないからな?
「私と決闘がしたいのならば、王子領の町などではなく、王都を差し出されるがよろしいかと。それならば一考致しますわ」
王都を差し出すと言ったとしても、考えてみるだけだけどね~、とマイシスターセッズ。姉ちゃんは言った。言ったのさ、そう、言ったのさ~。
マーズに理解できたかどうかは知らないけどな! 知らないけども!
完全にトリコロニアナの王都のこと馬鹿にしてんじゃんっっっ!!!
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