聖女の伝説(60)



 フェルエラ村に戻って、姉ちゃんとのんびり……というほどでもないけど、そこそこゆっくりと過ごす。


 のんびりできないのは、領主館の地下牢がいっぱいになるくらい、密偵さんたちが捕まるからだ。

 頑張ってるのはピンガラ隊と孤児の中でもイゼンさんに認められた年上の子たち。とにかく、立ち入り禁止区域に侵入したら退治。そんで捕まえて地下牢へ。


 以前と違って、フェルエラ村にはもう外壁が完成している。

 正直、モンスターのスタンピードのために用意した外壁だったんだけど、間引きの成果でスタンピードが起きなくなったもんだから、実はいらない壁なのかも、とか思ってた。でも、今の状況だと、やっぱ外壁大事。


 外壁があるから村への出入りは門だけだ。

 門では村人以外の出入りが簡単に確認できるし、入村税も確保できる。

 これが意外といい金額になる。ハラグロ商会目当てでたくさん来るからな。

 入村税はちょいと高め設定にしてあるけど、うん、これはあれだ、山の頂上の自動販売機とか、スキー場の自動販売機とかがびっくりするような値段でジュースを売ってるのと一緒。

 だって、ウチの村、僻地だからな。自慢じゃないけどさ。


 そして、出入りを把握できることで、その行動の監視も簡単。村人以外の出入り口はひとつだけだからな。最果ての村だもん。


 村の中は監視の目だらけだし、村から出て街道を外れたら、それはもうおかしいからな。このへんにはウチの村しかねぇから!

 外壁の上からおかしな行動をする人物を発見したら、すぐにスキル持ちの子たちが動いて確保だ。


 フェルエラ村の洗礼の結果がそこそこ広まってるみたいで、いろんなところからスパイさんたちがやってくる。そして、地下牢がパンクしそうになってる。


 おかけでイゼンさんから言われて、何人か処刑することになったよ……。


 しょうがねぇんだけど、後味悪いよな、こういうのは。


 まあ、頭で理解はできるけど、心で納得まではいかない。慣れるしかないんだろうけど。


 地下牢にいた期間が長い人から順に、はい、さよなら。


 基本的人権って、よくわかってなかったけど、めっちゃ大事なんだってわかったよ、マジで。ここには人権なんてないからな?

 スパイの疑いがある、立ち入り禁止にしている場所に入った、または入ろうとした。それだけ。それだけで命を失うことになる。

 もちろん、取り調べは拷問が基本。そんでしゃべったことが事実かどうかはよくわかんなくても関係なし。というか、いろいろと白状しても、結局は解放できなくて地下牢に閉じ込めたままになってて、そんで、場所が足りないから長い人は処分するかって、そんな感じで処刑だからな?

 いや、そういう裁判権は領主であるおれのものなんだけどさ。そうなんだけども。


 疑わしきは処刑する、が当然の世界だからな。


 姉ちゃんが鑑定でレベルを判定できるようになったから、育成は次へのステップの目安がはっきりして安全性が高まった。

 レベル5まではツノうさ、レベル5からはビッグボアだ。

 ビッグボアを狩り続ければいずれはレベル25までたどり着く。

 姉ちゃん調べによると、元々の村人たちや執事ィズをはじめとする使用人たちはスキルなしだけどレベル25に到達してるし、初期の移住者たちもレベル20を超えている。

 よそではレベル5が一番上なんだと考えると、フェルエラ村は異常だ。『国境なき騎士団』強過ぎ問題が発生中。

 ちなみにセラフィナ先生も「アインさまは非常識です!」とか言いながらユーレイナに連れ出されて狩りには参加させられてるからな。先生もレベルはすでに20を超えてた。


 元聖騎士見習いの二人も、もうレベルは15を超えて、上級スキルが使えるようになったし、連続技の訓練も積み重ねてる。

 この子たちは14歳だから、ゲームとだいたい同じぐらいの育成期間なんだよな。でも、『はじまりの村』よりもビッグボアがいるおかげで経験値効率がはるかにいいから、育成はずいぶん楽だ。


 姉ちゃんの希望を叶えるために、カリンとエバには剣術、槍術を身に付けさせて、月の女神系回復魔法もリピートアフターミーで初級スキルのレラサが使えるようにさせたし、盾術は教えないけど盾は持たせて戦わせてる。


 これでレベルとスキルの熟練度を上げられるだけ上げておけば、洗礼で『聖騎士』になる確率はどんどん高くなるはず。この二人、お祈りは日常的にやってるしな。さすが元聖騎士見習い。


 セーブアンドロードはできないから、必ず『聖騎士』にするってワケにはいかないけどさ。でも、かなりの確率で勝負できる。


 この二人、おれと洗礼の年が同じになるんだよな。


 この二人以外におれと洗礼の年が同じになるのは、リンネとヴィクトリアさんだろ。もちろん、レオンも同じだな。あとは、ティアマト隊のレーナ、ゼナ、イシュタル隊のエイカ、シトレ、ピンガラ隊のローラだ。おれの学園生活、姉ちゃんよりも人が増えるな?


 地下牢希望者が増加していること以外はいたって平穏なフェルエラ村。


 驚いたのはハラグロ情報網から、トリコロニアナ王国の洗礼で400年ぶりの『聖騎士』が出たというニュースが届いたりしたくらいか?

 これでカリンとエバが来年『聖騎士』になっても、そこまで話題にならないかもな。ま、別に話題になりたいワケでもないんだけどな。ないんだけども。


 ……そういう知らせが入ってくるってことは、ソルレラ神聖国の聖都での洗礼で『聖女』が出たってことも、いろんなところに広まってるんだろうな、と。

 当然のことだと思いながら、そのせいで春からの学園生活で面倒が増えるんだろうなと……。


 今の平穏って、嵐の前の静けさなのかもな?


 青の半月の30日に学園を卒業したスラーとオルドガがイゼンさんの魔法で村に戻って、聖都の屋敷は一時閉鎖に。


 それから指揮官としてスラーとオルドガの訓練が続いて、二人のストップしていたレベル上げも進んだし、やっぱ洗礼で補正もらってる奴はレベルが並ぶと強いわな、そりゃ。


 スラーとオルドガはこの先2年間、もしくはそれ以上の期間、『国境なき騎士団』の団長と副団長としてフェルエラ村の村民の狩りローテを管理・運営しなければならないし、スキル持ち部隊でダンジョンの間引きもしなきゃいけない。

 まあ、スラーは堅さがあるし、オルドガは執事見習いの修行もしてたから領地経営についても色々とイゼンさんたちから学んでるし、なんかハラグロ商会との関係もうまくやってるみたいだし? 任せても大丈夫そうなんだよな。うん。


 白の新月の10日にはイゼンさんがティアマト隊を含む使用人たちを連れて聖都へ先行し、屋敷の受け入れ態勢を整える。


 そして、スラーたちとの引継ぎを済ませて、白の新月の20日に、姉ちゃんを筆頭に今年の学園に通うメンバーが聖都へと移動する。


 もちろん、おれは護衛騎士の一人として、参加しますよ?


 ちなみにリンネとヴィクトリアさんは侍女として姉ちゃんに付く。メイドじゃなくて侍女な。なんかよくわかんないけど、ちょっと違うらしい。

 セラフィナ先生による説明を解釈すれば、なんか使用人以上友人未満みたいな感じ?

 家事はしない。でも姉ちゃんのお世話はするし、話し相手になるし。

 うーん、メイドとの違いは家事をしないってとこぐらいか? よくわかんねぇな。フツーに妹として付いて行けばいいのでは?


 ま、そんなこんなで。


 いよいよ学園編へ突入するのか……。


 ………………姉ちゃん、何しでかすんだろうなぁ?





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