聖女の伝説(50)



 おれは今、古き神々の古代神殿、農業神ダンジョンにいる。


『ドウマラ、ドウマラ、ドウマラ、ドウマラ、ドウマラ……』


「『ネンブツ』10回でマジポとスタポを飲むから、数はしっかり確認するよ~」


 周辺警戒は姉ちゃん。

 モンスターの押さえはおれ。


 そして、『ネンブツ』で地の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ドウマラの熟練度上げをしているのは、リンネだ。


 すでに風の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ザルツラと水の女神系単体型攻撃魔法初級スキル・リソトラは熟練度2で詠唱省略まで到達済み。

 もともと火の神系単体型攻撃魔法初級スキル・ヒエンガは火の魔導師バルサから習得していたので、ドウマラが詠唱省略可能な熟練度2まで上がれば、地水火風の四種の魔法スキルを扱えるようになる。


 リンネの育成方針は、『賢者』もしくは『大賢者』、または『大魔導』のいずれかだ。


 レオンの勇者パーティーから『聖女』がなくなると考えた時に、リンネをどう育成したらマシなバランスになるかと考えてみると、ダブル『賢者』という『賢者』二人体制なら後衛魔法アタッカー兼ヒーラーとして、ある意味ではバランスも取れるのではないかと思ったんだよな。


 まあ、あのおじさん『賢者』をパーメンにするのはあきらめて、他のヒーラーを探し求めさせてもいいかもしれないし。『大魔導』になったら、まさにそれ。リンネがヒーラーになれないから、レオンにはパーメンからおじさん『賢者』を外して、専門のヒーラーを加えてもらうか、4人パーティーではなく5人パーティーとしてヒーラーを追加するか、対応させなきゃならない。


 アニメの勇者パーティーは、『勇者』レオンと『光の聖女』リンネの双子に、『重装騎士』の王子さまとおじさん『賢者』の4人パーティーだった。


 ま、『勇者』、『重装騎士』、『賢者』×2という、ダブル『賢者』はありなんだけど、おれ、自分ではゲームで『賢者』を育てたこと、ないんだよなぁ。だから微妙。『聖女』とか、『勇者』とか、『魔法剣士』とかの育成に比べると自信があんましねぇんだよな。


 だから、『大賢者』なんて激レアはなれればラッキー。『大魔導』になってくれたら、フェルエラ村での魔法スキル育成が超ラクになるし。『賢者』、『大賢者』、『大魔導』という3つのジョブのどれかになれるように、地水火風の魔法スキルをなんとか上級まで、しかも範囲型が使えるように、鍛えないといけない。


 物理攻撃スキルは身に付けさせない。完全に後衛。そうすれば最低でも『魔法使い』は確定だ。


 後衛魔法アタッカータイプのジョブだと、うろ覚えだけど、最高は『大賢者』で、月、地、風、水が確定で、太陽と火のどちらか1つの系統がジョブスキルに加わり、地、風、水の複合魔法も使える。

 あとはMPとか魔力に補正と、単体型攻撃魔法ダメージにプラス補正だったかな。補正の細かい数値までは自信ないというか覚えてない。


 次点は『賢者』で、月が確定で、あとは太陽と火のどっちか1つと、地、風、水からどれか2つの系統がジョブスキルに加わり、複合魔法が1系統だけ使える。補正は、数値は下がるけど『大賢者』と同じところにかかる。

 まあ、それとは別に『商人賢者』ってのがあるけど、こっちはネタ職っぽいのでスルーだな。


 あとは『大魔導』だ。地、風、水、火の4つの系統の魔法スキルがジョブスキルとして確定。MPと魔力に補正が入り、地、風、水、火の魔法スキルの指導ができる。

 ゲームでは『魔法使いの弟子と秘密の部屋』とか、『めざせ魔法使い』とか、『少女は魔法使いを夢見た』とかの、魔法スキルの指導が必要なイベント・クエストがいくつかあったので、『大魔導』がパーティーにいるとそういうイベがこなせた。

 報酬アイテムはかなりレアだったからな。

 それ以外では魔法スキルの指導ってのは役に立ってなかったけど、ゲームのようでゲームではないこの世界なら、『大魔導』はウェルカム最高大歓迎だろ?

 15歳までにめっちゃ弟子を育てられるんだぞ? 村に『魔法使い』軍団が誕生しちゃうよ!


 まあ、物理攻撃スキルが加わると、『魔法剣士』みたいな、魔法○○系ジョブになる可能性が出てくるので、どうせなら『大魔導』狙いかな、と。


 そんなことを考えていると、リンネがついに詠唱省略でドウマラを発動させた。


「あっ……やった~、できた~」


 そう、そんな感じでリラックスして、のんびりとしゃべって、にへら、と笑うリンネ。最近、表情がどんどん柔らかくなってきたのだ。


 ……妹、尊し。






 リンネをリタフルの転移で連れ歩き、ダンジョンでレベル上げを進めて魔法スキルを鍛えつつ、カモフラージュで馬車を移動させているユーレイナたちのタイミングに合わせて、フェルエラ村へと戻る。


 東側の外壁が完成していた。まるで、城塞都市のように見える……んだけども、実は南北の外壁はまだ途中までのコの字型の外壁なので、残念な感じ。


 で、門がまだ完成してないので素通りだしな。


 門を付ける予定の空間を抜けると、メインストリートの両サイドに、ハラグロ商会が建設予定だった建物がでーんと鎮座していた。


 いや、完成ではなく、7割くらいって感じではあるけど、急いで造ってんだろーな。


 まっすぐ進んで領主館へと向かうと、領主館を取り囲む外壁もかなり完成に近づいていた。


 さて、領主館では執事ィズがせかせかと働いていて、ダンスホールからは孤児たちの声が聞こえる。


 ダンスホールは孤児たちの遊び場兼食堂兼男子部屋となっている。今んところ。女子部屋は客室をひとつ、用意した。

 ちょっとせまいんじゃねぇかな、とか思ってたら、シスターにはとんでもない、と言われた。ちなみにシスターは大き目の使用人室をひとつ割り当てられている。


 孤児院の建設……というか、最終的には、それ、騎士団寮みたいなのになっちゃいそうな気もするんだけど……については、これもまた、ハラグロ商会が請け負ってくれている。


 ハラグロ商会が建設中の二つの建物のうち、どちらかが完成した時点で、すぐに取りかかってもらえるらしい。


 筆頭執事のイゼンさんは出張中。出張先はソルレラ神聖国だ。リタウニングの行先を増やすことはもちろんだけど、聖都でハラグロ商会のガイウスさんが用意してくれた屋敷及び使用人の確認と、今後、聖都との行き来を楽にするための出張だ。


 フェルエラ村には特に、問題は発生していない。ただし、領主館の地下には、密偵さんがちょっとだけ増えている。密偵さんというより、立ち入り禁止区画への立ち入りという違反によって捕まった者、としておこうか。


 ま、密偵さんだと思うし、それはほぼ間違いないけど。ないけども。


 夏の盛りのフェルエラ村は、次のフェーズへと進む途中にあった。






 あれから4か月。


 毎年2回発生していたというフェルエラ村への魔物の襲撃は発生しませんでした、はい。


 これは予想通りだったけどな。

 イゼンさんは泣いてたよ、うん。この人、本当に感動しぃだからな。


 リンネの後衛魔法アタッカー型育成計画は順調なのでそこまで詳しい特記事項はなし。


 たぶん、魔力がめっちゃ高い感じがする。鑑定できねぇから本当のところはわかんねぇんだけど。


 もう上級スキルの中の範囲型攻撃魔法も使えるので、レベル20以上が確定している。


 戦闘メイド部隊とか、ピンガラ隊とかに同行しても大活躍だ。

 もうちょっとしたらワイバーンの間引きに行ってもいいかもな。


 不思議なことに、ケーニヒストルータの神殿から、孤児たちの見舞いに、という名目で、神官が食べ物とかのお土産を持って、2か月に1度ぐらい、フェルエラ村までやってくる。


 面会予約は姉ちゃん宛てなんだよな。


 もちろん、領主として、おれにもあいさつはあるんだけどな? あるんだけども。


 まあ、神殿が姉ちゃんに怯えているとすれば、これも不思議でもなんでもないのかもしれない。


 ……とある神官の不正蓄財として闇に葬られた一件が本当はどうだったのか。神殿としては誰にも知られたくはないみたいだし?


 まあ、辺境だから、どんな来客でも、ありがたいと言えば、ありがたい。


 あまり気にしないことにしている。うん。


 ハラグロ商会からの情報によると、メフィスタルニア奪還に動いたトリコロニアナ王国のメフィスタルニア伯爵につながる貴族たちの騎士たちは、全滅したらしい。


 どんな風に全滅したのかは誰も知らない。


 誇張でもなんでもなく、純粋に誰一人生き残らなかったから、わからないだけなんだけどさ。


 シルバーダンディの名前で、おじいちゃん執事からお礼の手紙が届いた。騎士団を送り込まなくて済んだのでとても助かったとのこと。


 トリコロニアナ王国ではメフィスタルニア伯爵の影響力が急速に低下したそうです、はい。エイフォンくん、跡継いでもすっごく大変そうだよな。跡継げるかどうかわからんけどな。わからんけども。


 今日は、ピンガラ隊の隊長であるスラーとオルドガがソルレラ神聖国へと向けて出発する。

 ハラグロの馬車で行くんだけど、同行者に執事ィズから一人と、姉ちゃんが助けたというか引き取ったというか、あの時の元孤児の使用人見習い……とはいっても、もう見習いじゃねぇかな。うん。

 まあ、イエスロリータ猛タッチ軍団被害者の会の女性のうちの二人がメイドとして、ソルレラ神聖国へとついて行く。

 別にスラーたちの専属メイドってことじゃないけどな?


 この移動に護衛は不要。というか、スラーとオルドガは自分たちが同時に護衛役だと理解している、はずだ。執事とメイド二人の方が要保護対象だよな。まあ、執事もレベルだけはそこそこあるから、正直問題は何もないと思う。


 新年を迎えたら15歳になるスラーとオルドガは、このフェルエラ村の子。


 今回、レーゲンファイファー子爵家の家臣としてソルレラ神聖国の聖都の大神殿での洗礼を受ける。そんでジョブがついたら、そのまま学園に通う。このタイミングでソルレラ神聖国へと出発するとちょうどいいんだよな。


 一般的には、ジョブによって学園に行かないことも多いらしいんだけど、ゲーム通り、ステータスアップをする場だったら超もったいないので、この二人はどんな職になっても学園へと入学することになっている。

 もちろん、文字の読み書きなんかはセラフィナ先生のご指導によりばっちりだ。最近は孤児たちにちょっとしなる棒を振るいながら、楽しそうに指導している。

 こっちの世界って、体罰ありなんだよな。まあ、怪我をしないような感じのヤツなんだけどさ。


 もちろん、洗礼も、学園の費用も全てレーゲンファイファー子爵家の負担だし、この二人は学園の寮には入らず、うちの聖都のお屋敷から通うことになっている。

 ちなみにオルドガの執事見習いとしての教育は同行する執事ィズが担当するので、オルドガは、日中は学園に通い、その他の時間は執事見習いとして修行を積む。

 けっこーブラックだよな? これ?


 引き抜きに関することは、筆頭執事のイゼンさんから徹底的に叩き込まれているらしい。


 何をしたのかは知らないんだけど、イゼンさんは「あの二人がアインさまを裏切ることはありえませんから……」と言いながら不敵な笑いを浮かべてたよ……。






 3か月ほど前にハラグロの本店がフェルエラ村で開店して、初めて余所から商人がやってきた。


 もう外壁も完成していたから、かなり驚いてたけどな。こんな辺境に! って感じで。いや、辺境だからこそ、本当は防壁がいるのかもしんねぇけどさ。


 その商人はソルレラ神聖国の商人で、ハラグロ商会の本店で買い物を20000マッセ以上の買い物をして、並ライポを5本、1本1000マッセで合計5000マッセ、合わせて25000マッセのお買い上げとなった。

 もちろん、ハラグロが経営している宿にも泊まったので、25000マッセ以上の売り上げになってるとは思うんだけどな……。


 その商人が旅立っていって、かなり長いこと商人はやってこなかったんだけどさ。


 つい1か月前、ケーニヒストルータの商人が7人くらい一気にやってきた。


 で、ハラグロの本店で20000マッセのお買い物と。


 ……ここからがヒドい。本当にヒドい。


 その商人たちはこれでライポが買えると思ってたんだよな。ソルレラ神聖国の商人から確かな情報を得てさ。だって実物のライポがあるんだもんな。見せられたら信用するよな、その情報。


 当然、ライポを売ってほしいと言い出したんだけど。


「回復薬はただいま品切れでございます」


 と、あっさりそう言ったらしい。店に出てた奴隷職員の一人が。


 いつ入荷するんだ、と詰め寄られても……。


「大変貴重な品でありまして、いつ入荷するかは検討もつきません」


 とまあ、取り付く島もない。


 腹を立てた1人の商人が20000マッセのお買い物を返品して、返金を要求したら、にっこり笑って返品に応じ、20000マッセを返して……。


「では、当店では二度とお客様との取引を行いませんので」


 だって。

 残りの6人のうち、同じように返品しようとした男は動きを止めて、返品するのをやめたという。


 返品した商人が激高したんだけど、あっさり奴隷職員に本店からつまみ出されたそうだ。

 まあ、あの人たち、物理攻撃スキルがないだけで、レベルは常識外れに高いからな。

 実は一般人の中なら無双できるし、物理攻撃スキルがある騎士とかを相手にしても十分戦えたりするんだよな。単純なレベル差によるステ値の高さで……。


 その次の日には3人の商人があきらめてケーニヒストルータへと帰り、あとの3人は宿屋に滞在していた。


 3日経ってさらに1人が宿を引き払ってケーニヒストルータへと戻っていき、さらに5日経ったところで、残った2人のうちの1人が本店をのぞいた時に……。


「回復薬が5本、入荷しておりますが、いかが致しますか、お客さま?」


 と、声をかけた。


 買わせてくれ、と商人が叫んで答える。


「では、20000マッセほど、店内の商品をお買い上げ願います」


 にっこり笑ってそう言ったらしい。


 その商人はひきつった笑みを浮かべて20000マッセ分の商品を買い求め、さらに5000マッセでライポを5本購入すると、宿はすぐに引き払ってケーニヒストルータへと戻っていったという。


 あ、残った一人の商人は、まだ宿屋に滞在しているそうだ。


 ちなみに、本店をのぞくだけで何も買わない商人に対して、回復薬が入荷しました、という声がかかることはない、らしい。噂じゃなくて、実際そうなんだけどさ。


 ……あくどい。いや、実に腹黒い。まさにハラグロ。真っ黒けだ。


 でもまあ、ケーニヒストルータへ帰れば、回復薬は1本あたり4000マッセから5000マッセで売れる。それに20000マッセで買い取ったものをケーニヒストルータや別のどこかで売りさばけば、別に赤字ではない、と思う。宿代分の赤字は出るかもしれないけどな。


 そして、ケーニヒストルータへと戻った商人が回復薬を売りさばけば、次の商人たちがまたフェルエ村を目指してやってくるんだろうと思う。そういう作戦なんだよ、これは。


 そのへん、絶妙なバランスでやってるから心配はいらないそうです、はい。


 いや、別に、心配とか、してねぇんだけどさ。


 それよりも心配してるのは、赤字確実だと思われる3つのお店だ。


 ハラグロの本店がある4階建ての建物は、1階が貸し店舗……ハラグロ商会が自分で借りてるけどさ……で、2階がハラグロ商会の本店、3階が集合住宅で、4階はいつもガイウスさんが泊まるスイートルームみたいな部屋がある。というか、ガイウスさんが来たり、会頭が来たりしたら、ここに泊まるらしい。

 まだ来たことないけど、どっちも。本当に来るのか、あの人たち……。


 その1階の貸し店舗で営業している店が菓子店舗……。


 クレープ屋とパンケーキ屋とピザ屋なんだよ! あ、ピザ屋は菓子じゃないかもだけどな! ないかもだけど!


 このフェルエラ村であんな高いモン、誰が食うんだよ! あ、姉ちゃんは大丈夫だけど! でも姉ちゃん以外いねぇだろ!


 そう思っていたら、クレープ1つで100マッセ、銀貨1枚……メフィスタルニアの5分の1の価格で売ってやがったんだよ……。


 ちなみにパンケーキはケーニヒストルータの店より安いし、ピザは聖都の店よりも安い。


 ……絶対、利益を度外視してやってやがる、こいつらは。


 いや、100マッセなら、かなり安くなってはいる。かなーり安い!


 でも、それでも、そう簡単には村人にとっては出せる額じゃない!


 まあ、姉ちゃんは3日に1度はリンネを連れて食べに行くんだけどさ……。


 つまり、毎日だからな? わかる? 毎日だから!


 1日目はクレープ、2日目はパンケーキ、3日目はピザ! もちろん4日目はクレープだよ!


 それを見慣れた村人の中で、まずは先生だよ、先生。高給取りだからな、あの人は。セラフィナ先生が月に2回くらいのペースで、3つの店のうちのどれかに行くようになって。


 次いでユーレイナがやっぱこいつも高給取りだからな、二重スパイの二重給与で、この店に行くようになってさ。

 姉ちゃんの護衛で行っても姉ちゃんとリンネが食べてるのを見てるだけだもんな。


 そんでメイド長とか家政婦長とかも月イチぐらいで、あとは回復薬待ちの商人が顧客で。


 ダンジョンのアオヤギ討伐とか、里山頂上のボスのモスラ討伐とかでボーナスが出た戦闘メイド部隊の子たちが行ったりとか。


 意外と客が増加中だ。そのうち、村人も2か月に1度くらいのペースで、行くようになるのかもしれない。


 でも、絶対、赤字だろ?


 ガイウスさんに、赤字ですよね? って言ったら……。


「本店の方で、ずいぶんと儲けさせて頂いておりますので、問題ありません」


 とのこと。確かにそっちは超ぼったくりだとは思うけどな! 思うけども!


 スイーツ系は問題大アリ! 資金提供者としては完全にアウトだよ! でも姉ちゃんが喜んでるから何も言えねぇ! それどころかピザの日には姉ちゃんからハチミツ要求されてんだけど!?


「そのうち、フェルエラ村を訪れる人は増えます。そうすれば、格安のあの店は、それだけでフェルエラ村に人を呼ぶ店となるでしょう」


 ……ガイウスさん。いくらあなたでも、その予言は信じられませんから。


 あ、でも。


 夏の間に、シルバーダンディの寄子の貴族たちの間で、青系統のドレスが大流行して、それについてはハラグロ商会がめちゃめちゃ稼いだらしいけどな……。


 あ、関係ないけど、姉ちゃんもリンネも、食べても太らないタイプみたいだから……。






 年末、おじいちゃん執事から、新年になったらケーニヒストルータへ来てくれないだろうか、というお誘いの手紙が届いた。


 返事は、ノーだ。


 ヴィクトリアさんが、あくまでも姉ちゃんに、会いたがっているらしい。


 あの夜会で、姉ちゃんが騒ぎを起こしてくれたおかげで、なんか、色々とうやむやになってたことが頭の中をマラソンみたいにぐるぐる回る。


 何をどうしたらいいのか、わかんないから。


 うかつに何かをするよりも、フェルエラ村に引きこもって……実際にはいろいろなところにリタウニング関係で飛んでるけど……いた方が無難だしな。


 そうして新年を迎え、イゼンさんがソルレラ神聖国へと一瞬で出張に行く。リタウニングが使えるからな。そのまま10日ほど、スラーたち二人の洗礼に執事ィズとともに付き添ってから、フェルエラ村に戻ってきた。


 あの二人、スラーは『重装騎士』という、ゲームやアニメならレオンの勇者パーティーで王子サマがやる役どころのジョブになって、オルドガは『冒険者』というジョブになった。


 ゲームでは珍しくもない感じのジョブだったのに、こっちではかなりのレアジョブだったようで、洗礼が行われた直後に大神殿が騒然となり、大神殿を出るまでにいくつかの貴族家だけでなく神殿からもすぐに引き抜きをかけられたという。


「レーゲンファイファー子爵家は、二人を手放すつもりはありません。これ以上は、ケーニヒストル侯爵家を通して頂きたい」


 そうイゼンさんが大きな声で宣言すると、正面からの引き抜きは皆無になったそうだ。虎の威を借る狐……シルバーダンディの家名を借りるアイン、だな。さすがはケーニヒストル侯爵家。ありがたやありがたや。


 裏からの引き抜き? スラーも、オルドガも、応じるつもりなんかないらしいけどな? 力技なんかだったら逆襲しておしまいだろ? スラーたちの方がはるかに強いし?

 イゼンさんが言うにはあの二人は早くフェルエラ村に戻って修行がしたいと言っているそうだ。留学は約1年3か月だから我慢してほしい。


 ええと、『重装騎士』は剣、槍、盾という3つの系統のジョブスキルが伸びるかなりの当たりジョブで、めっちゃタンクだ。まさに壁役。

 HP、SP、耐力に補正が加わり、しかもパッシブで物理防御×2の堅さ。スラーはうちの村の防壁に決定。


 そして、オルドガの『冒険者』だな。商業神系魔法スキルと、適性のある物理攻撃スキルが1系統、伸びるジョブ。

 HP、SP、筋力にある程度の補正あり。

 洗礼前のオルドガはレベル15以上が確定で、剣術系スキルと弓術系スキルをどっちも上級スキルまで習得させてたんだけど、洗礼で残ったのは弓術の方だった。

 この先、剣術はもうこれ以上伸びないけど、上級まで使えれば連続技『サワタリ・トロア』ができるんだから大して問題はない。

 熟練度が上がらないから追加ダメージがこれ以上増えないってことくらいか。

 筋力は伸びるし、レベルが上がればまた違うだろ。

 それに、実は洗礼によってジョブスキルとしてリタウニングが使えるようになったことをイゼンさんが確認している。

 一度、フェルエラ村まで戻れば、後は飛べるってことだしな。これはでかいよな。


 まあ、スラーとオルドガのペアなら前後衛がはっきりしてよかったんじゃねぇかな?


 とっとと春が来て、二人から学園についての生情報がほしいんだよな。


 そんなこんなで、ガイウスさんが予言してたようにフェルエラ村を訪ねてくる人が増えておれが驚いたりとか、村の移住者が班分けされて狩りの効率が上がったりとか、ハラグロ商会との間でなかなかヘビーな独占買取契約更改交渉があったりとか、いろいろあったけどさ、青の新月も終わって、青の半月の半ばになって……。






 ……フェルエラ村に、ヴィクトリアさんがやってきたのだ。


 もちろん、護衛のビュルテさんと、他にも女騎士が一人いるし、あと、専属のメイドのセリアさんと、もう一人のメイドもいて、執事はおじいちゃん執事ではない若手の執事が一人。


 そう。

 そして、姉ちゃんと、リンネと、ヴィクトリアさんとの、ちょっと不思議な辺境村生活が始まった。






 ……という感じですが、改めまして、みなさん。


 私、フェルエアイン・ド・レーゲンファイファー子爵と申します。13歳です。親しい方は、アインと呼んでくださいます。


 ここはケーニヒストル侯爵領の最西端の辺境にある、フェルエラ村。


 今、私は、領地経営に精一杯取り組んでおります。


 長々と、これまでのことを語ってきたけどさ、語ってきたんだけども。語ったんだけどな?


 それでもやっぱり、よくわからない。







 ………………どうしてこうなった!?





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