聖女の伝説(34)
おれのリタウニングフルメンで古き神々の古代神殿へと飛ぶ。
……姉ちゃんに使わせたら、あ、間違ったわ、とか言って地の神の古代神殿へ転移しそうな気がしたとかは、言わない。言ってはいけない。口に出すのも怖ろしい。でも、たぶんその可能性はゼロではなかったはず。姉ちゃん怖い。
農業神ダンジョンで食材と調味料を、医薬神ダンジョンで高級、最高級の薬草を、鍛冶神ダンジョンで武器と防具と、お小遣いを。
ボスも含めて狩り倒す。とことん狩り倒す。姉ちゃんが八つ当たりのように農業神ダンジョンで暴れている。どうしてもハチミツを落とさないわ、と小さくつぶやいていたが聞こえなかったことにしようと思う。いや、した方がいいに違いない。
そんで1泊する。
翌朝、テツコの庭とは反対側の、海が見える断崖絶壁の方へと出て……。
姉ちゃんと二人で、ドラゴンを狩る。
ここは『竜の庭』だ。
初めてこの古代神殿に来た時には、絶対にこっち側には出ないようにしてたけど、ついに、ここで狩りをする日がきたのか、と感慨深い。
現れたのはグリーンドラゴン。風属性のドラゴンだ。
この『竜の庭』に入ると、ドラゴンがポップする。というか、ドラゴンがどこかから飛んでくるように見えるんだけどな。
地属性のイエロードラゴン、水属性のブルードラゴン、火属性のレッドドラゴン、風属性のグリーンドラゴンのどれかがポップして、HPは15000、20000、25000のどれかになる。
別に色で強さが違うということではなく、ランダムでHPがどれかになり、HPが多い方が強い。出てくる色もランダム。
全色倒すと、ブラックドラゴンとシルバードラゴンとゴールドドラゴンがランダムポップの中に追加される。ブラック、シルバー、ゴールドは、HP20000、25000、30000のどれかになる。
どの色のドラゴンでも、ずっと経験値が入る。どんなレベルになっても、ここのドラゴンを狩れば必ず経験値が入る。
まあ『竜の庭』ってのは、ドラゴンとの戦闘訓練ができる広場、経験値付き、という感じの場所だ。ここでレベ上げをするってことは、もう他ではレベルが上がりそうにない、ということでもある。まだワイバーンなら少しは経験値も入るんだろうけどな。
ただし、効率は悪い。
利用は一日、一回だけ。
このグリーンドラゴンをしとめたら、今日はもうドラゴンはリポップしない。
倒し方はワイバーンと同じ。翼を奪って、地上で殴る。
ワイバーンと違って、地上に落ちても動きはけっこー速いんだけどな。
あと、ノックバック耐性があるから、これも面倒だ。
おれが弱点属性の火の神系魔法スキルの連打でタゲ取りして、姉ちゃんの弓術スキルとおれの太陽神系貫通型魔法スキルで翼を奪い、今はもう地上戦だ。
地上戦はおれが前衛、姉ちゃんが後衛で、おれのトロアで攻める。
で、トロアの連続技の最後、カッターでノックバックが取れなかった時に、グリーンドラゴンから一撃もらうワケなんだよな。で、ドラゴンの一撃はノックバック付き。
自分はノックバック耐性ありで、こっちはノックバックを喰らうんだからな。ドラゴンって面倒なんだよ。
あと、ボス戦ではないのでHPバーが見えなくて、残りどんくらいかがまったくわかんねぇってのも、けっこー辛いかもな。
そんなワケで、今、一撃もらって、ノックバック。でも、自分の中の元の位置に戻ろうとする無意識に逆らって、ノックバックで飛ばされた方向にそのまんま自分の意思で足を動かす。
そうやって、ノックバック後にドラゴンと距離を取ることで、二撃目を空振りさせて離脱。
これを覚えないと、ドラゴンとは近接では戦えない。というか、ノックバック効果を攻撃時に発揮するモンスター全般に言えることだけどな。
一撃もらうと、姉ちゃんが月の女神系回復魔法を使うので、タゲ取りしてしまって、おれが火の神系魔法スキルの連発でタゲ取りし直すという中距離インターバルが入る。
とにかく、そういう繰り返しが続き、たまに……。
「姉ちゃん、ブレス!」
「わかったわ!」
おれと姉ちゃんが左右に分かれて逃げる。
ブレス攻撃の予備動作を見抜き、こうやって二人の間を広げておくことで、狙われた方だけがブレス攻撃のダメージを受けるようにする。
もちろん、おれがタゲ取りしてる瞬間の方が多いから、基本、ブレスを浴びるのもおれの方だ。
それで、姉ちゃんから回復もらって、姉ちゃんがタゲ取りして……の繰り返し。
必要なのは集中力。
おれと姉ちゃんには倒すだけの力がすでにある。
だから、確実に、作戦を実行して、積み重ねていくだけ。
でもドラゴン、かってぇーーーっの!! ダメージがあんま通らないの! 超カタいっ!!
だから、時間がかかるという難点もある。
でも、まあ……。
「倒した、わ」
「そうだね、姉ちゃん」
「ワイバーンよりもはるかに大変だったわ」
「その通りだよ、姉ちゃん」
おれと姉ちゃんは座り込んで、背中と背中を合わせて支え合っていた。
「これが本当の『竜殺し』だからな」
「……本当の、の意味がよくわかったわ」
……時間さえかければ、倒せるのだということは間違いない。
まだ戦闘メイド部隊にこれはさせられないけどな。
特上肉20と、竜の鱗10、竜の爪5、竜の牙2は確定ドロップ。
竜骨がひとつ、これはラッキー。船を造る素材になる。
逆鱗!!! 超レアドロップ! 今回が初回討伐だからかも!?
竜玉も出た。これもレアドロップだ。グリーンドラゴンの緑の竜玉はすばやさのステ値を1から3、アップさせる。ちなみに赤は筋力、黄は耐力、青は器用さ、黒は魔力がアップする。銀はMP、金はHPが10か、20か、30、アップする。残念ながらSPをアップさせる竜玉は知らない。
あと、狙っていたモノをゲット。
ドラゴン退治のレアドロップ、飛行石だ。
簡単に言えば、空を飛べるようになる石。一度飛んで、着地するまで使える。着地すると消えてなくなるというアイテム。
ただし移動時のみ。戦闘中は使えないし、飛行石で飛んで移動している時にモンスターにエンカウントすると、強制的に着地させられる。
効果は飛行石ひとつでひと組のパーティーが飛べる。
徒歩旅も、馬車旅も、行動範囲を広げたい今はやっぱり時間がかかるからな。
たまにはここでドラゴンを狩って、この飛行石の在庫を増やさないとな。
姉ちゃんのリタウニングフルメンでケーニヒストルータへ飛ぶ。
そして、南門の一般の入口で、きちんと通行料を納めて、中へと入る。侯爵家からのいろいろは使わずに、フツーに入る。これはガイウスさんからのアドバイスでもある。
……侯爵家のもろもろを使うと、こっちのケーニヒストルータの出入りが丸分かりだからな。
だけど、一般人として出入りすれば、毎日大量に出入りしている人たちに紛れることができる。
ただし、入るまでにけっこー長い待ち時間があるけどな。
そのまま宿屋にチェックイン。
いつものように安い部屋を使い、居場所を確保すると町に出ていく。
もうこの町のゴンドラの利用も慣れたものだ。
「まずは……」
「本当に、孤児院へ行くつもり?」
「まあ、それしか思いつかなかったというか……」
「……色々と経験してきて、しかも先生にも教えられた今だから、わかるわ。あたしたちのような力は、使うべき時と、使うべき相手がわからない者には、過ぎたものだわ」
「姉ちゃん……」
「単に、スキルを身に付けさせられる年齢だからといって、孤児を連れてきて、それでスキルを身に付けさせたとして、その子は本当にその力を正しく使えるの、アイン?」
……痛いところを突かれた。正直なところ、そういう危険性は否定できない。
「今の子たちは、まだ、アインがいろいろと目標とか、誇りとか、そういうものが持てるように育ててきたから、きっと大丈夫だろうと信じてはいるけど……」
戦闘メイド部隊は、メフィスタルニアで起こったあの事件のことから。
フェルエラ村の子どもたちは、反逆の領地と言われてきた、あの村の特殊性から。
それぞれの生きる理由、生き抜く理由、または果たすべき目標。
そういったもののために、と。
スキルを使うことで自分を守るだけでなく、大切なものを守れるように、と。
そういうことを伝えながら、やってきた。
姉ちゃんがメイド見習いたちに、いろいろと話してくれてるってのも、わかってる。知ってる。
でも。
孤児院の子どもたちを引き受けて、その子たちが同じように。
大切な誰かを守るため、みんなで暮らす村のため、村の生活を守るため、またはメフィスタルニアをいつか取り戻すため。そういったことに何かを感じて、本当の意味でスキルを正しく使えるのか、と言われると。
どこから教育していけばいいのか、見当もつかない。
「姉ちゃん。いつか、きっと、あの時の魔族みたいなのが、攻めてくると思う」
「……あたしもそう思うわ」
「小川の村が滅ぼされた時以上に、強い魔物が、あの時以上の数でやってきて、今のティアマト隊、イシュタル隊、ピンガラ隊とおれたちとで、フェルエラ村を守り通せると思う?」
「あの時と同じ魔物が同じ数で襲ってくるのなら、魔物は、全く問題ないわ」
「魔物は、ね」
「それは、そう思うのも仕方ないわ。だって、あたしが知ってる中で……アインが負けたことって、あの時だけだわ……あいつが来たら、どうなるかなんて、わからないわ。でも、必ず倒してやるとは思ってるわ……」
そういえば、そうだよな。
おれ、あいつにだけは勝ててねぇな。
ビエンナーレ……見逃し侯爵……いや、ここでは男爵を名乗ったんだったっけ。
あいつが敵になる可能性も考えておかないと……って、あれ?
「……姉ちゃん。やっぱ、孤児院は見に行く」
「アイン?」
「でも、スキルを身に付けさせるかどうかは、村での生活次第かな。村にやってきたら、安心できる生活、少なくともおなかいっぱい食べられる生活をさせて、その上でイゼンさんとか、セラフィナ先生の教育を受けて、あの二人が許可した子どもだけ、その時点から引き抜いて戦士として育成する。あと、他にも、みんながもっと今の自分に、自分たちに誇りを持てるようにさせる何かも、ちゃんと考えとくから」
「……わかったわ」
姉ちゃんが何かをあきらめたようにため息をついて、そっと手を差し出した。
おれはその手をとって、それから再び歩き始めるのだった。
孤児院へ。
兄妹か、姉弟を、探しに。
ある意味では、見逃し仮面に対する最大の防御力となるはずの、子どもたちを。
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