聖女の伝説(31)



 手探りではあるけど、確実に領地経営は進められていると感じている今日この頃。


 先月の村の収入は、並肉254、毛皮37、キバ71、ツノ111、ヒダマリソウ97、サカイモ24のうち、サカイモ以外をハラグロ商会に売却、サカイモについては酒造りの準備として村で買い上げた。

 もちろん、ハラグロ商会だったらこの金額で買い取るという額で。サカイモの買取価格は75マッセだそうだ。


 総計23900マッセ。五公五民で村に11950マッセ、村人9人に一人あたり1327マッセの配当となった。端数の7マッセは村に入る。


 1日平均だと、並肉14、毛皮2、キバ4、ツノ6ぐらいか。ヒダマリソウとサカイモのリポップはどちらも20日で、先月はヒダマリソウの採集を2回、サカイモの採集を1回、行った。ヒダマリソウは1回でおよそ50、サカイモはおよそ25ぐらいか。


 安全マージンをとってこれだから、レベルが上がればまだイケる。狩場も全部を使えてるワケじゃないし。


 でも人手は足りない。人を増やすと、分け前は減るかもしれない。難しいところだ。


 収入が増えて、村人の笑顔も増えるのは、けっこー、嬉しいもんだった。


 1か月の計算ができたので、村人には、一か月定額収入で支払を受けるか、今までのように、とれた分だけ売り払って計算して人数で割るか、どっちがいいか聞いてみた。


 よく理解できなかったようなので、大雨とか、祭りをするとか、狩りができない時があったとしても、確実にお金が貯まるのが定額収入で、計算しての人数割は、その月のドロップ次第で多くなることもあれば少なくなることもあるやり方だと説明した。


 一人一人がどっちかを選ぶのは、はっきり言って面倒くさいので、村人で話し合って、どっちかひとつに決めてくれ、と。


 話し合った結果、定額収入よりも、結果次第の人数割で、ということになった。意外と村人たちはギャンブラーだったと領主は知ってしまった。


 実はレベルが上がると、適正レベルよりも弱いモンスターからのドロップは、ドロップ率が下がるので、定額プランは1年後ぐらいの救済措置のつもりだったんだけどな。


 今は低レベルドロップバブルみたいなモンだ。

 まあ、来年、もう一度話を振ってみることにする。


 きっとその時には、あん時定額にしとけば……みたいな感じになってると思うけどな。


 村の子ども育成計画は始動したのでいろいろと指導もした。


 予定通り、10歳以上の子どもたち5人に、まずは弓の指導から。相変わらず、姉ちゃんが指導するとすんなりダンツが使えるから早い。

 余ってる狩場でツノうさ何回か狩って、その日のうちにビグボを1頭、狩った。

 たぶん、一気にレベルは上がったはず。筋力よりも器用さとかの方がステ値は上がってそうだけどな。


 2日目には中級スキル、トライダンツが使えたので、レベ5以上は確定。

 女の子は姉ちゃんから槍の指導、男の子はおれが剣の指導に入る。

 戦闘メイド部隊の時みたいに、格段にレア度の高い装備を使わせたりはしない。あくまでもはがねレベルの装備で。はがねの槍とはがねの剣だ。

 それでも、おれやレオンと比べたらいい武器でやらせてる。


 だって、おれなんて木の枝だったからな? レオンは銅のつるぎだったし。


 14歳の少年2人、ひとりがスラー、もう一人がオルドガ。

 呪文詠唱のリピートアフターミーで、スラーはひとつも魔法スキルを身に付けられなかった。オルドガはボックスミッツを身に付けた。

 この二人は新年を迎えたら洗礼を受けさせて、来年の今ごろは学園だ。


 スラーは、「……おれは強くなりたいし、早く稼ぎたい」と言って母親をちらりと見てた。母子家庭の子だ。しかも成人目前のほぼ大人で、スーパー思春期。

 こりゃ、執事ィズが母ちゃんとむにゃむにゃなのはわかってて、すんげぇ複雑な感じなんだろうな、と。おれの稼ぎで母ちゃん体売らなくてもいいようにって。

 剣技は誰よりも早く身に付けたから、わかりやすい「力」に対する思いが強いんだろう。盾も使ってみたいと言うので小盾も貸し与えている。

 盾術はおれが身に付けたくないから教えられないんだけどな。盾の使い方自体は常識だろ。攻撃を防ぐ。基本はそれ。


 オルドガは賢い感じ。すぐボックスミッツが使えたからな。物理攻撃はおっかなびっくりだったけど、それでも女の子たちを守るように近接戦闘では頑張ってた。

 いや、女の子たちも前に出すんだけどな、修行なんだからさ。

 いつか執事になりたいって。イゼンさんに話したら、家からの通いで執事見習いとして勉強させてくれるってさ。ただし無給で。

 ちょっとブラックだけど、学ぶ機会の価値は給与どころの騒ぎじゃない、ということらしい。

 うちのメイド見習いは給与、あるんだけどな? 聞いてみたら住み込みは違うんだと。不思議だ。


 10歳の女の子、エイミーちゃんがなんと鍛冶神系特殊魔法初級スキル・メンテシュシュを身に付けた。身に付けてしまった。やべぇ! 萌える!

 うちの村、女鍛冶師じゃん!

 今回の育成計画最年少だったんだけどな。いや、弓と槍もスキル持ちになってるから、洗礼で『鍛冶師』になるとは限らないんだけどな。

 とりあえず、毎日夕食後に領主館でメンテシュシュを使わせることは決定した。

 呪文はリピートアフターミーで、起句だけはエイミーちゃんだけに言わせる。もちろんノータッチ! あ、ノーロリータだけどな!


 13歳の女の子ナルハと12歳の女の子ローラは、うん、やっちゃった。

 また、うちの村の極秘事項が増えたよ。二人そろって、医薬神系特殊魔法初級スキル・メディスメディオスを発動させちゃった。

 あははー、やっちまったぜベイベー。

 いやあ、必要な人材だとは思ってたけどさ。一気に二人かよ。これはライポの卸売りが増え……ないんだな、これが。

 おれと姉ちゃんはもう熟練度が上がってて材料の必要数が減ってるから。

 でも、この子たちに作らせて熟練度上げていかないといけないから、どうしてもライポの作成数は減ってしまうワケで。まあ、しょうがねぇか。

 戦闘メイド使って、村人たちが使ってない狩場のヒダマリソウを回収するっきゃねぇな。ヒダマリソウ3本でライポ1本だから、最初は。

 クールタイムの5日が明けたら領主館に夕食後に来て、呪文部分をリピートアフターミーで、起句だけは自分で。この子たちの分のヒダマリソウはハラグロ通さねぇようにすっか。


 マジでこの子たちの誘拐対策とか考えとかないとな。


 まあ、フツーに鍛えていけば、誘拐されないくらい強くなるし、自分で自分を守れるとは思うけどな。


 初めて弓でダンツが使えた時、子どもたちはめっちゃ感動してた。

 槍や剣ではそれほどでもなかったけど、やっぱ魔法スキルが使えるようになった4人は、その瞬間の目がすごかった。

 感動とか、通り越した何かがあったんじゃねぇかなって思った。


 とりあえず部隊名はピンガラに決定。隊長はスラー。副隊長はオルドガだ。


 ピンガラ隊と戦闘メイド隊には稼いでもらわないと困る。


 先月の村の収入としては、11957マッセ。男爵家の使用人だけで毎月42800マッセ必要なんだからそこだけだと大幅に赤字だ。


 村人たちの休日となる3、6、9の付く日にピンガラ隊と戦闘メイド隊は狩りに出る。白の新月はピンガラ隊の育成中心だから赤字でもしょうがねぇけどな。

 まあ、ハラグロとの独占販売で年額10万マッセがあるから、単純に2か月は問題ないけど。いや、はっきり言えばポケットマネーから出せば、余裕なんだけどな。


 ピンガラ隊を育成しながらの戦闘メイド部隊の白の新月の稼ぎは、毛糸407、繭45、フライセ75のうち50を売り出し、並肉246、ヒダマリソウ128のうち80を売り出し、毛皮12、キバ25、ツノ32、蜘蛛の糸62、毛布8だった。

 たぶん足りないだろうから、おれがフライセを並ワインにして5本売り出し。

 その総計が44785マッセだった。育成中ということで、9割は男爵家へ、残りを分配する。


 子どもたち1人あたり344マッセの配分。もちろんメイド見習いにもな。男爵家には40313マッセであと2500マッセほど赤字。


 そんで、女の子二人が作ったライポ合計32本を1本600マッセでハラグロ商会に卸して、19200マッセ、男爵家の収入に追加して、これで黒字化、のように見える。


 実際には育成とか戦闘メイド部隊の狩りでスタポやマジポの消費があるから、たぶん、本当のところはまだ赤字だろうと思う。


 とりあえず村と男爵家の収入を合わせて71470マッセ。そこから使用人の給与を引いて28670マッセ。

 そんで、使用人の生活費がここから、がさっ、と出費されちゃうからな。特に衣類大事。メイド服! マジ重要!


 そう考えると領地経営の黒字化って、実は果てしない道のりなのでは……。






 白の半月の1日に合わせて、ハラグロ商会が石垣作りの職人と働き手、ワイン造りの職人をフェルエラ村へ送り込んでくれた。


 石垣の建築資材は、ハラグロの奴隷職員がボックスマックスから次々と運び出させている。


 石垣については、モンスターがポップしない範囲で可能な限りの広さを縄張りしてわかるようにしてある。

 今の人口だとかなり広いけど、石垣の外壁の内部に畑もできるし、悪いことではない。あと、領主館の周囲にも最終防衛ラインとして石垣の縄張りはしてある。


 ワイン造りの職人は、さっそく村の女性陣にワイン造りを指導してもらう。なんだか女性がいっぱいなので職人さんがちょっとにやにやしてるけどな。


 狩りは午前中が基本だから、こういうのは午後になる。


 早くフライセからワインを造れるようになるといいなぁ。なんて、平和な願いだよな。


 戦闘メイド部隊が、ビグボの狩場付近で、男を一人捕まえて、領主館の地下牢へ。

 石垣づくりの作業員の一人だった。


 作業場と村内以外への立ち入りは禁止しているので尋問。


 侯爵家からの諜報員だってことは、ハラグロ商会から前もって知らせてもらってるから、本当は尋問するまでもないんだけどな。


 あえて諜報員を引き込んで、そして捕えて、帰さない。


 その方が怖くないか?


 あと、二人。諜報員が紛れ込んでいる。

 いつ動き出したとしても、同じ目に遭うだけなんだけどな。


 侯爵家との暗闘がめっちゃ面倒くさい感じだ。


 でも、ハラグロのやり方がどぎつい。わざと諜報員を雇っておいて、連れて来て、そこで捕まえて牢屋行きとか、マジえぐい。


 そもそもフェルエラ村までやってくるような人は皆無だから、侯爵家としてはこういうのに諜報員を紛れ込ませるしかない。

 だから、ハラグロの事前チェックで発見されてしまう。でも、ハラグロはそのまま連れてきて、何かをさせて捕まえさせるのだ。やっぱエグい。


 逆に言えば、こういう職人とか人手とかをきちんと見ていれば、今の状況なら諜報員は防げる。シャットアウトだ。


 ……ていうか、そのうち、どこかの誰かがやってきてくれるような領地になりたいんだけどさ、おれがおかしいんだろうか?


 フェルエラ村の来客ゼロ記録は続く。ただし、働く人は除く。あれは客ではない。うちからお金をまき上げていくカツアゲ集団に違いない。


 ……まあ、金額的に言えば、別におれの懐が痛むほどでもないんだけどさ。





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