聖女の伝説(30)



 さてと、領地経営だ。


 前にも言ったけど、この世界って文明的にはわけわかんねぇくらい複雑な感じで進んでるけど、うちの村が頑張るのは狩猟と採集の生活だ。縄文時代だ! なんでだ? いや、それはモンスタードロップという生産活動なのだ!


 というワケでメインは狩り。

 そんで、狩って空いた狩場での採集。


 例えば、ビグボ……大猪の狩場ではライフポーションの材料となる薬草のヒダマリソウが生えてた。だからビグボを狩って、リポップするまでの期間に採集する。ヒダマリソウも、間をおけばリポップするしな。


 だから、村周辺の狩場の地図とにらめっこして、いつ、どの狩場を狩っていくか、採集していくか、そういう日程づくりをする。


 それが、おれのできる領地経営だ。

 もちろん、村人たちが命を落とさずに済むよう、安全に。ご安全に!


 そういう意味では、武器や防具の傷み具合をチェックして、装備の補修や追加購入なんかも大切になる。


 売る、という点については、ハラグロ商会のおかげで問題なしのもーまんたいだ。これは本当に助かる。めっちゃ助かってる。


 うちの村人の大人は、父、母、父、母、父、母、母、母、母で9人。これに安全のために執事を1人ずつ付けて4人パーティ3つで大盾3、槍1で構成する。一応、ビッグボア1頭、問題なく狩れた。もちろん、ツノうさ3羽の狩場も大丈夫だった。


 狩場は、ツノうさ1の狩場が29、ツノうさ2の狩場が22、ツノうさ3の狩場が14で、ビッグボアの狩場が18ある。今のところ、そのさらに外にある里山の森とか、小さな林とかの狩場はカウントしない。


 ツノうさはリポップに1日、ビッグボアはリポップに5日、かかる。


 ツノうさ1の狩場は29÷3で9か10だな。ツノうさ2の狩場は22だから7か8、ツノうさ3は14で4か5か。あとはビグボが6ずつ。


 いや、全部狩り尽す計画にしなくてもいいか、まだ、今は。


 ビグボを狩り続けて、レベルが上がったところで修正って感じか。二か月……いや、区切りがいいから白の月が3つとも終わったところで修正を入れようか。


 それにSPも計算しないとな。安全マージンとって、戦える分はどんだけか、考えとかないと。だから予想で、だけどSPがどれくらい必要か、計算してから……。


 ま、しばらくは無理なく割り当てる方向で。半年、6か月後には挑戦していけるか?


 1日でビグボ2か所で2頭、ツノうさ3を3か所の9羽、ツノうさ2を5か所で10羽、ツノうさ1を8か所で8羽、合計でビグボが2、ツノうさ27、かな。うん、午前中で終わるだろ。午後から別のことができるし。


 これで並肉と、毛皮、ツノ、キバがどんくらいドロップするか、だな。ドロップは運もあるから、1日ごとの結果を残して、1か月の合計を平均して、収穫予想を立てるか。


 カレンダーは……123は狩って4採集5休み、678狩って9採集の10休みとか? いや、12狩って3休み、45狩って6休み、78狩って9採集、10休みで回してみようか? ヒダマリソウはリポップが20日だし、ビグボの狩場をぐるぐるローテさせて……。どの狩場を割り振ったら、効率よく回れるかな?


 うん。狩りや採集は朝から、ノルマ終了で終わり、目標は午前中ってとこだな。


 あとは、執事ィズか。こいつらをずっと狩りに付き合わせるのもなぁ。

 もともとは文官だしさ。そのうち、3人パーティーにするか?

 そうすると母子家庭の母ちゃんたちが、どっかの夫婦にプラス? なんか、人間関係を崩しそうな気もするよな……。

 やっぱ執事ィズがいるかな? それとも、日によってパーメンを動かす?

 固定した方が安全性は高いと思うけど? 執事ィズのレベルアップも村の戦力として考えたら、無駄どころか重要だし……。


 あと、ヒダマリソウ以外にも、なんかないか調べないとな。まだまだやれることはありそうだし。


 イゼンさんが戻ってくるまでに調査とか、計画とかは大枠で決めて、悩んでるとこは、相談して動かしてみる。それでいくか。






 そういうワケで、農業神系特殊魔法初級スキル・ハダッドヌールを久しぶりに使用。


 ビグボの狩場で、ヒダマリソウ以外にないかな~、と。


 小川の村の近くの森だと、最高級薬草に次いでフライセがあったからな。魔法使わなくても、姉ちゃんなら発見できるみたいだけどな! だけども! こっちの里山でフライセ見つけたの姉ちゃんだけども!


 その場でもっとも価値ある採集可能な素材を光らせるハダッドヌール。

 今回は、地面の方が光ってる。


 なんか、蔓っぽい草と一緒に光ってる。


 蔓を引っ張ってみるけど抜けないので、蔓の根元を丁寧に掘りかえしていく。


 いも発見。


 なんでイモが? ここで一番価値ある素材?


 とりあえずアイテムストレージに収納してアイテム名をチェック。


『サカイモ』


 ……お酒の材料? またかよ。ポーションになるヒダマリソウより価値あるんだ、このイモ。ていうか、アルコール関係の価値が高すぎるのでは?


 サカイモのことは執事ィズその2が知ってた。生まれ育った故郷で収穫できたらしい。

 やっぱりお酒にするイモとのこと。


 故郷に詳しい職人がいるので、呼んで話を聞くか、そのまま技術指導を頼むか、それとも収穫した物を材料として売るか。売る場合にはハラグロ案件になるな。


 フライセといい、サカイモといい、お酒絡みは価値がある。

 ま、もうかるならば良しとしよう。


 それにしても、里山の森とか、小さな林とか、さらにはダンジョンとか、まだ手を出せないところがある。


 戦力が欲しい。力も数も足りてない。


 もっと欲を言えば。

 いつか来る激動の魔王侵攻にも対応できる戦力が欲しい。


 もう、小川の村のようなことには……。


 このモンスター異常地帯なら。

 周辺でレベル25まで上げて、あとはダンジョン探索結果次第か?


 でもダンジョンの探索もまだ2層だしなあ。

 圧倒的に人手とその力量が足りない。


 ……やっぱ、子どもに手を延ばすか。もともとそれは考えてたことだし。小川の村で手を伸ばさなかったから、ビエンナーレを追い返せなかったのかもしれねぇし。うん。これは禁句だったな、ごめん。


 あ、勘違いするなよ? 別にロリじゃないからな、ロリじゃないから! 子どもに手を延ばすってそういうイエスロリータノータッチとかじゃねぇから! ノータッチだと伸ばさねぇけどな!


 というワケで、うちの村の子どもたち。


 14歳の男子2人、13歳の女子1人、12歳の女子1人、10歳の女子1人。これより下の子はまだダメだ。ステ値が低すぎて、育成中のもしもがけっこー怖い。レベル1上がったら、かなりマシだけど。


 うーん、5人か。

 5人でパーティ組ませるか?


 でも、14歳は急ぐよな、来年は洗礼だし。あ、学園行かせると、パーティは一時解散じゃん。


 うーん、分業は考えないとして、まず弓矢、次に女の子は槍、男の子は剣かな。男の子はやっぱ剣でしょ、剣。銅のつるぎほしいよな? な?


 ……あとは、ボックスミッツに挑戦させて、と。身に付けられなかったら、そこからは、どれか、地の神、風の神、水の女神、で。そんで1人、鍛治神、いっとく? 村に鍛冶屋があると将来的にはいいよな、たぶん。いや、医薬神か……。


 どうだろ。

 まずいか、ポーションは?

 でもなあ、今、ポーションが高すぎるのは作り手がいないからだろ?


 でも5人じゃなぁ。

 やっぱり人が足りない、戦力が足りない。せっかくの狩場が全て回せない。


 今はまだいい。元々少ない人数だったし。


 だけど、姉ちゃんの学園には、おれも護衛として付いていくし、戦闘メイド部隊からもメイドを派遣させることになる。同い年で洗礼を受けさせるメイド見習いを中心に連れて行くとして、ちゃんとしたメイドとしてメイド長にも同行して欲しいしな。


 そうすると、やっぱり村の狩場を回す人数が足りないし、戦力的にも不安になるよな。ここ、モンスター異常地帯だし。スタンピードは間引きで防げてると思うんだけど……。


 うーん、どう考えても人手が足りなくなる。

 学園の休暇は戻ればいいと言えばその通りなんだけど。


 やっぱ、引き抜きだな。

 でも、ケーニヒストル騎士団とかはまずい、さすがに。


 けどなぁ、ほとんどの大人は、スキルが使えないんだよな。結局、レベ上げでステ値は伸びるからビグボみたいな単純な動きのモンスターならなんとかなるだろうけど……。


 じゃあやっぱ、どっかから子どもを連れてきて鍛えるパターンだよな。戦闘メイド部隊で、やや反省点はあるけど……うん、レベル上げにキャップを、上限を決めればいい……って、ステータスが見えないから正確なレベルがわかんねぇんだけど、どうすっか。


 HP300の相手でそのレベルアップ上限だから、レベル25か? ちょっと高いような気もするけど、イゼンさんがリタウニングもボックスマックスも使えるようになってるから、最低でもレベル25だよな。これ、ワイバーンでパワーレベリングしたからだけど……。


 ということは、ワイバーンとかは、狩りをやらせない。それで対策できるか?


 完璧とは言えないけどな。


 レベル25じゃ、ビエンナーレはたぶん無理だ。まぁ、あいつを仮想敵にするのが間違ってるのか、あいつを仮想敵にするなら別の対策をした方が早いし……。


 いやでも、魔王が動いて魔物が活性化したらどうする? 基本的なモンスターのランクが上がったら、この周辺のモンスター異常地帯は、本当にレベル25で生き抜けるのか? ビエンナーレみたいな魔族を相手にしてもなんとかなるぐらいの方がいいのかな?


 とりあえず、早くイゼンさん、帰ってきてくんないかなぁ……。


 そんなことを思いつつ、待ちわびていたら、白の新月の5日に、イゼンさんがリタウニングでフェルエラ村に戻ってきた。およそ半月ぶりのイゼンさん。


「無事、戻りました、アインさま」

「ええ、良かったです。でも、帰りは一瞬だったのでは?」

「まさに……驚くべき御業にございます。ハラグロ商会はこれを使ってのし上がったのでしょう」

「そうかもしれませんね」


「いくつか、ご報告を。まず、予想通りではありますが、護衛騎士の食費を含む生活費は、通常の範囲の金額の支給をして頂けることになりました。もし、食費がかさんだら、本人の給与から差し引いておくとのことです。今回の分は、予算からですが……」


「笑われたでしょう?」

「それはもう、ずいぶんと。もちろん、苦笑いの方も多くおりましたが」


「その、本人……ユーレイナですが、ウチに取り込むことになりました。詳しくは、契約書と命令書を作成する時に説明します」

「なんと……騎士団の序列2位を口説き落されるとは、さすがはアインさまでございます」


「騎士団に籍を残したまま、です。あっちへ報告する時には、イゼンさんから指導を。情報の取捨選択は任せます」


「はい。お任せを。ああ、それと、侯爵閣下が、アインさまとの面会を求めていらっしゃいました。白の半月の10日、20日、30日のいずれかで、ケーニヒストルータまで来てほしいとのことです。アラスイエナさまも一緒にと。断ることも認めるが、できればなんとか都合をつけてもらいたいと、侯爵閣下より、直接お言葉を賜りました。いかがされます?」


 侯爵直々にお呼び出しですか? はて?


「行った方がいいと思われますか、イゼンさん?」

「おそらく。侯爵閣下に貸しがつくれるのではないかと」

「侯爵に?」

「あちらで集めた情報によると、ハラグロ商会と対立して、侯爵家はかなり苦労しているようです」


 本当に何やってんだ、ハラグロ!? ちょっとガイウスさん!? 大丈夫なの、それ?


「それで、ハラグロ商会との仲立ちを依頼されるのではないかと愚考いたしました。アインさまがハラグロ商会と良好な関係にあることは侯爵閣下もご存知のようでしたので」


「……ハラグロ商会に話を聞いて、少し考えてみましょう。返事はいつまでに?」

「白の新月の25日までならば問題ありません」


 うーん。

 ケーニヒストルータで人集めでもするか? そのついでに面会しとく?


 こっちから面会予約を入れると時間がかかるからな。

 こういう機会にいろいろと用件を詰め込んだ方がいいだろ、たぶん。


 なかなか会えない人だし、侯爵さま。


「……イゼンさん、ケーニヒストルータには、孤児院がありますよね?」

「はい? ええ、神殿が孤児院を併設しておりました」


「子どもを引き取って、この村で育てたいんですけど、可能でしょうか?」

「それは……いえ、大丈夫です。何人でもアインさまの思った通りに」


「家庭教師に、その子たちの読み書きとか、頼むのは変ですかね?」

「……かなりの高給で雇っておりますので、事前に説明して、準備して頂いておけば、特に問題はないかと。ただ、孤児に勉学というのは珍しい話ではあります」


「そっかぁ。まあ、読み書きは基本だし、頼む方向で考えとこうか……」

「あとは、報告書にまとめておきます。御前、失礼いたします」

「ああ、はい。ご苦労様でした」


 深々と一礼して、筆頭執事のイゼンさんが執務室を出ていく。


 ……侯爵さまから、呼び出し、ねぇ。





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