聖女の伝説(26)
一応、というか。
騎士団から派遣された護衛騎士ということで、ユーレイナは地下の牢屋は牢屋でも、貴賓牢にいれられていた。
なんか、不思議なんだけど、ガイウスさんがよく使うスイートルームみたいな部屋だ。
どこが牢屋? みたいな感じ。
地下だから窓とかないけどな。閉じ込められてるのは確かなんだけど。なんだけども。
入口のドアに外からカギをかけて、中からは開けられないというだけで、ホテル泊のような感じに思える。
やっぱり女騎士は牢屋で鎖につながれて、くっころしないとダメだろ。
まあ、そうそう「くっ、殺せ……」なんて誰も言わないとは思うけどな。思うけども。
さて。
まずは使用人たちに確認から。
いつ、誰が、なぜ、そしてどのように、ユーレイナを地下貴賓牢に放り込んだのか。
そういう説明を求める
答えてくれたのは執事ィズその1の執事長だ。イゼンさんがいない今、おれが不在の時は領内の暫定トップとなる。
「領内情報保護、及び管理のため、でございます」
語り始めはそんなところからだった。
「アインさま、イエナさまが出発されたその日に、レーナたちメイド見習いによって拘束、収監しました。主家であるケーニヒストル騎士団の騎士であり、イエナさまの護衛でもあるので貴賓牢にて対応しております」
レーナたちに捕まったというのは予想通りだ。というか、レーナたち以外には無理だろ、そりゃ。あんなんでも一応、HP300クラスを狩ったこともあるヤツだしな。
「領内情報保護? もう少し詳しくお願いします。ユーレイナが何をどのように漏らそうとしたのか」
「はい。イエナさまが姿を隠されてすぐ、動揺したユーレイナさまはハラグロ商会に馬を借り受けようと要求し、ハラグロ商会がこれを拒否すると、馬を奪い、領都ケーニヒストルータを目指すつもりのようでした。ユーレイナさまの動きを追っていたレーナたちメイド見習いは、ハラグロ商会からの現場での要請に従い、馬泥棒の容疑にてユーレイナさまを捕まえ、連行した次第にございます」
馬に乗ってケーニヒストルータに行って、この村のことをぺらぺら話すだろうってことか。
容疑は馬泥棒か。タテマエとしては十分かもな。
「馬の件については、ユーレイナさまは領内騎士団特殊徴発を主張されましたが、これはアインさまがお持ちの赦免状によって拒否できるものなので問題ありません。ハラグロ商会からの要請は正当なものであると考えています。
ユーレイナさまはレーナたちに包囲されてもなお馬を奪おうとしたため、レーナたちは攻撃を開始し、ユーレイナさまの降伏によって、武装解除の上、捕縛、領主館へ連行いたしました。
領主館にて、騎士団特殊徴発を主張しましたが、先程の説明の通り、赦免状によって拒否できる上に、ユーレイナさまの徴発理由が護衛対象の危機ということでしたので、お二人は少し旅に出ているだけで10日もすれば戻られると連絡を受けています、ということを説明して、そもそも騎士団特殊徴発を行う事由自体がない、と結論付けました」
うちの村は、赦免状というものを侯爵閣下から出されていて、納税、法令順守の義務等を、侯爵勅令によって免除されている。
もちろん、だからといって何でもしていいワケじゃねぇからな?
例えば、今行っている騎士団員の捕縛と収監なんかは、それ相応の理由がないとな。
理由がちゃんとしてないと、侯爵から免除されているけど、場合によっては反逆扱いか? まったくなんて面倒な。
「商家に対し、剣を抜いての金品の強要ですので、今回の馬泥棒は強盗にあたるかと。領内判例であれば死刑も考えられます。ただ、処刑は執事の領主不在時代行権限を超え、領主裁判権の侵害になる可能性が高いため、あくまでも収監に留めました」
領内の裁判権は領主である男爵のおれにある。執事長では越権行為だ。ただし、筆頭執事のイゼンさんならば処刑も可能になるけどな。今、いないけど!
「それで、ユーレイナは何を漏らそうとした、と判断したんですか?」
「この領内にてユーレイナさまが知り得た全てのことが漏れる可能性があると判断しました。ただ、先程も申し上げましたが、直接の逮捕事実は馬泥棒……いえ、強盗です。機密情報保護というのは、こちらの事情にすぎません」
「機密、情報、ですか」
「はい。イエナさまを伴い、アインさまが着任されてから、人の出入りはハラグロ商会の者のみ。彼らはアインさまと大変友好的な関係にあり、情報漏洩の心配はそこまでしておりません。聞くところによると、ハラグロ商会とケーニヒストル侯爵は対立しているようですし」
そうなの? マジで? ハラグロ何やってんだ?
「今回、領都にイゼンさまが出向かれましたが、イゼンさまならば出すべき情報、伏せるべき情報も問題ないでしょう。しかし、そこに別の情報源が割り込んでくると、さすがにイゼンさまも……」
「ああ、よくわかりました。そうですね。村でやっていること、やろうとしていることは、簡単に流していい情報ではないですし、イゼンさんに無駄な苦労をかけることもないです」
「イゼンさまならば、アインさまのための苦労は喜んで引き受けると思います」
何ソレ? 怖いんですけど……。
「今回の件、問題がありましたら、私がどのような処罰も……」
「まあ、ユーレイナの話も聞いて判断しますが、その対応で特に問題はありません」
問題なしのもーまんたいだ。
「ユーレイナは強盗の疑いで逮捕、収監。騎士団員ということで配慮しての貴賓牢。とてもよい判断と対応でした。ありがとうございました。処刑については、必要になれば侯爵閣下に報告した上で、行うことになるでしょう。あまりに露骨にやるのも、なんですから」
「はい。あとは、アインさまにお願いしたいと思います」
そんじゃ、ユーレイナに会うとするか。
領主館の地下へと下りて、ろうそくの明かりを目指して通路を進む。
扉の前に、メイド見習いのリエルが立っていて、おれを見つけて一礼し、そのまま扉のカギを外して扉を開けてくれた。
開いた扉にノックをしてから、レーナの声でどうぞと聞こえてきたので、中へと入る。着替え中とかのラッキースケベイベントはなさそうだ。
中のレーナが一礼して、視線を動かす。
その視線の先に、ユーレイナがいた。絨毯の範囲外の、石の床の部分で、部屋の隅。そんな端っこで体育座りをしてうつむいているユーレイナがいた。
……なんだそりゃ。
レーナが扉を閉める。外でリエルがカギをかける音が聞こえた。
壁際の隅っこ、冷たいところで暗い顔してうつむいての体育座り。すねてる女子か? かまってちゃんか? 死刑寸前だからか?
ユーレイナといえばバリバリのヅカ的な男役のはず!? こんなユーレイナはユーレイナじゃねぇよな?
まさか……レーナたちにあっさりやられそうになって降伏したのがショックとか?
ありうる!
めっちゃそんな気がしてきた!
でも、もし、そうだとしたら……。
こいつ、今の状況をなんも理解してねぇんじゃねぇのかな? まさかな?
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