聖女の伝説(21)
はがねの大盾とはがねの槍を用意して、執事ィズと姉ちゃんと、村の東側へ向かう。
街道側だ。
こっちにはツノうさしかいない。
もう、戦闘メイド部隊にはツノうさを相手にさせていないから、数は十分余っている。
それでも、戦い慣れていない3人の部下執事ィズは、おっかなびっくり、ツノうさと向き合う。
イゼンさんは少なくともレベル5だ。商業神の御業持ちということはそういうことだ。だから戦闘経験は他の3人よりも間違いなく多い。
最初はイゼンさんが槍で、後の3人が大盾。
はがねの大盾で防御姿勢をとっていれば、ツノうさから受けるダメージは1だ。
だから、ほぼ確実に死なない。
それでも戦いにビビるのは、慣れてなければしょうがないこと。
そして、はがねの槍なら、通常攻撃の1撃でツノうさを倒せる。
3人がかりで大盾でツノうさを受け止めて、イゼンさんが槍を一突き。はいおしまい。
「こ、こんなに簡単に……」
「もう倒したのか?」
「見ろ、肉が!」
感動している部下執事ィズ。
「できるってわかったと思いますから、今の組み合わせで続けて狩っていきましょう」
そうして、8羽のツノうさを狩った。
「明日は役割を交代して、挑戦してみましょう。大丈夫です。ツノうさの強さは今日と同じですから」
部下執事ィズが力強くうなずいていた。
翌日。
部下執事ィズその1が槍、あとは大盾で10羽。
3日目。
その2が槍で10羽。
4日目。
その3が槍で12羽。
「こ、こんなに簡単なことをなぜ今まで……」
……勘違いしてほしくないのは、簡単にできる武器と防具をそろえてるからってところ。
「明日から、ツノうさは2対1で戦いましょう。一人が大盾、一人が槍です。大丈夫、できます。初日よりも今、確実に強くなってますから」
イゼンさん以外の部下執事ィズの3人はね。
5日目。
イゼンさんとその1でひとペア。
その2とその3でひとペア。
大盾と槍は1回ごとに交代して戦う。
どっちも10羽ずつ、問題なく狩れた。
「では、明日は、槍だけで、一人で戦ってみましょう。大丈夫です。今ならツノうさに一撃もらったとしてもほとんど問題ないですから」
6日目。
まずはイゼンさんが挑戦。
問題なく、5羽、ツノうさをしとめた。
その1は2回、ツノうさから攻撃を受けたが、5羽、しとめた。姉ちゃんから『レラサ』をかけてもらって、ぺこぺこお礼を言ってた。
その2は、なかなかセンスがよく、無傷で5羽。
その3は1回、やられたけど、もちろん、5羽。
「今から、ツノうさが3羽の狩場に行きます。3人が槍で、1人が大盾で戦います。誰かがツノうさの攻撃を受けたら、大盾が一時的にその相手を交代してください。大盾なら安心でしょう?」
わかってると思うけど、もちろん、ツノうさ3羽の狩場でも特に問題はなかった。攻撃を受けて大盾が対応するのも問題なし。別のツノうさを倒した者が、大盾で抑えているツノうさにとどめを刺す。
ツノうさ3羽の狩場を8か所経験して、全く問題なしのもーまんたいで狩りを終えた。
「今日までの並肉と毛皮、ツノで、それなりに稼げていることがわかりますよね?」
「……ええ。アインさまがおっしゃる可能性というものが、理解できた気がします」
「こんなに簡単なことだとは思いませんでした」
部下執事ィズ3人のコメントは似たよーなもんだった。
「明日は休みとしますが、村人とよく話してください。そして、村人にもツノうさは安全に狩れるということを伝えて、説得してください。できるなら、女性も、です。私と姉が生まれ育った村では、女性もツノうさより強い森猪を狩っていましたから」
「女性もですか?」
「はい」
これは、事実であるので、はっきりさせておく。
レベルとステ値に男も女もないのだから。
「ただし、村人たちとみなさんとで、勝手に狩りに出ることは禁止します。説得に応じて、やってみるという村人の方と一緒に、明後日、ツノうさを狩ってみましょう」
そうして、今度は執事ィズに、教え方、を学んでもらわなければならない。言わないけどな。
執事ィズのお休みの日。
前日まで本業であるメイド見習いとして屋敷で働いていたメイド見習いたちを招集し、しばらく放置してリポップしたビッグボアを狩り尽していく。
この子たちの育成は4種類のポーションを使って進めた。姉ちゃんやレオン、シャーリーを育てた時よりも詰め込んだし、効率も良かった。アオヤギと戦うタイミングの運もよかったしな。
さらにダンジョンへと踏み込み、1層のアオヤギの群れをふたつ潰しておく。
里山では蜘蛛や毛虫を狩って、フライセを収穫していく。
そういや、メイド見習いは休みがなかったのでは?
そこに気づいてみんなの表情を見るが、楽しそうに狩りを進めている。
メイドという本業に対して、趣味みたいなもんなんだろうか?
苦手だった蜘蛛や毛虫も、レベルが上がって槍カッターや槍スラッシュなら1撃だ。
鑑定があればステ値やレベルがはっきりわかるんだけどな。
まあ、もうHP300では1撃殺ということだけで、今は十分だろう。
ランエンでワイバーンが出たら逃げるということだけは徹底して命じておくけどね。
さて。
どれだけ村人が集まるのか。
そう思って待っていたら、全員やってきた。子どもまで。
いや、子どもはダメだよ。
その子たちには、別の道があるんだからな。
おれより年上の子もいるけど、とりあえず子どもたちは見学で。
子どもたちの安全のために戦闘メイド第1部隊ティアマトの4人を招集し、護衛に確保。
あ、女シェフのゾーラさんも嬉しそうな顔してやってきたからな。
「自分で狩った獲物で料理するんだ。2倍楽しいに決まってるさね!」
なんか、空から女の子が落ちてくるめっちゃ有名なアニメに出てくる海賊? 空賊? のおばさんみたいに見えてきたんだけど……。
ツノうさ狩りは、執事ィズ2人と、村人2人を組み合わせて、4対1の狩りからスタート。
うちの村人、ツノうさの怨敵とか、呼ばれるかもしれない。
この日、40羽のツノうさがその命を散らし、並肉や毛皮、ツノとなって消えていった。
女性陣がすごい。
母は強しって感じだ。度胸ならお父さんたちよりよっぽどイケてる。
「みなさん、ツノうさを狩るのは、『装備がきちんと整っていればっ!』、それほど難しくはないということがわかりましたでしょうか?」
みんなうなずいている。
おれが強調した部分にちゃんと意識がいっているといいんだけどな。
「自分たちで勝手に狩ろうとすることは禁止します。何が起こるか、わからないのが狩りです。ツノうさをしとめようとした瞬間に、飛竜が襲ってくるかもしれない。絶対に、自分たちだけで狩りに出てはいけません。これは、領主としての命令です」
4日後にもう一度、みんなでツノうさ狩りをすることを約束して、この日の夕食はダンスホール横の大きな庭でバーベキューとなった。
バーベキューの発案は筆頭執事のイゼンさんからだ。
「この村のこれからには、明るく、楽しいことが必要だと思うのです」
確かに。
そういや、反逆の領地とか言われてたしな。
「師匠が、私には冷たい気がするのだが……」
「アインさまは、この村を完全に造り変えようとしているように思えます。イエナさまの家庭教師と思っていたら、メイド見習いたちに読み書きを教えるようになっていますし……いえ、不満はないのですよ、給金もたくさん頂いてますし。レーナが教えるのは手伝ってくれますしね」
「それは、師匠が私に冷たいこととどう関係があるのだろうか?」
バーベキューパーティーの真っ最中のこと。
護衛騎士と女教師が、最近、わざと聞こえるように何か言ってくるんだけどさ?
そもそもユーレイナはほぼ同居状態だからな?
おれと姉ちゃんが暮らす民家には、護衛としてユーレイナとメイド見習いの誰かが一人、毎晩泊まっていく。
実際のところ、護衛の方が弱いので、護衛の意味はあんましないんだけど。
なんか、姉ちゃんの作る晩御飯を食べられるってんで、ユーレイナは毎日にこにこしてやがる。姉ちゃんが作る晩御飯はうまいからな。肉は特上肉だし。
それにはちょっとムカついてんだけどさ。
別に冷たくしてはない。
ただ、あえて何かを教えようともしてないけどな。
だって、こいつ、護衛なのにダンジョン行ったらウズウズしてきて、姉ちゃんにアオヤギと戦う許可を求めてくるんだぞ? もはやそれ、護衛のすることじゃねぇだろ?
待てができない犬とか、てんでダメだからな。
……所属がケーニヒストル侯爵家の騎士団ということ自体、おれからするとある意味監視対象なんだよ。早く気づけっての。
裏切って、こっちに付くなら……な。
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