聖女の伝説(15)
戦闘メイド育成計画はさらに進展させていく。
ツノうさ相手では磨けない連携技、クールタイムスイッチだ。一撃殺の相手ではスイッチする必要性が全くないからな。
だから、食後の訓練で、おれを相手に2対1、3対1、4対1での、クールタイムスイッチの訓練をさせている。
ただし、武器は鉄の槍、武器補正30までランクを落とさせてるけどな。
「……この子たちと同じ年頃から師匠に学んでいれば!」
もはやつぶやきとは言えない声量で声をもらしている護衛の女騎士ユーレイナ。
クールタイムスイッチには、どこか思うところがあるらしい。
メフィスタルニアで教えるまで知らなかった連携技だもんな……。
「よ、4対1でも、なんという余裕のある姿……男爵は非常識? いえ? 非常識が男爵? わからない? 何がなんだか、もうわからなくなってきました……」
またしても、女教師はなんかおもしろい感じに仕上がってる。ムフフ。
馬車での移動中も、女教師とは会話が弾む。
おれも、ついに女性慣れしてきたか? このまま今世では「ディー」の名を捨てられるように頑張りたい気もしまくりだけどな!
「ふ、フェルエアインさま? メイドたちは御業使いになりましたけど、まさか洗礼を受けさせようなどとお考えではないでしょうね?」
「え? 当たり前じゃないですか」
「そ、そうですか。安心しました。そうですよね、メイドが洗礼を受けるなんて、ありえないことですから。当たり前ですよね」
「え、そうなんですか? 洗礼は絶対必要だと思ってたんですけど?」
「はぁ!? ……し、失礼しました。ふぇ、フェルエアインさま、その……」
「先生、アインでいいです。その方がお話もしやすいと」
「は、はい。ありがとう存じます。では、アインさまは洗礼にどのくらいお金がかかるか、ご存じないのではないでしょうか?」
「……そういえば、知りません。どのくらいなんですか?」
……聞いたことない。いくらかかるんだ?
「洗礼を受けるだけでも、金貨1枚から5枚は必要です。8人となると、40枚必要になることも考えられます。神殿に寄付を納めなければ洗礼は受けられないのです」
「そうなんですか? 安いもんですね!」
「や、安い? 金貨が? え? え? あの、メイドは使用人ですよ? アインさま?」
「はい。大切な我が家の一員ですよね」
「え、ええと、その……男爵の常識は私が教えて差し上げなければ……使用人は、あくまでも使用人でございますよ、アインさま?」
「そんな! 私にとって、もう先生は少し歳の離れた姉のようだと感じておりましたが……」
「あ、姉? わ、私を姉……? アインさまが……?」
……痛い。姉ちゃんがつねってくる? 何? ヤキモチなの? 見えないようにつねるのやめてほしいんだけど? もう侯爵令嬢なんだからな?
いやでも、ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいんだよな。嬉しいんだけどな。嬉しいんだけども! とにかく痛いってばっ!
「アインさまが弟……アインさまが弟……かわいい弟……」
なんか女教師がぶつぶつ言ってるけど、よく聞こえないな? 痛みのせいかな?
「それで先生、洗礼は金貨5枚あれば問題なく受けられるんですね?」
「……あ、あああ、は、はい。アインさま。ただし、洗礼を受けた後、ソルレラ神聖国の学園へ入学するというのであれば、その程度では済みません」
「学園も? 学園は無料なのでは?」
ゲームでは無料だった気がするけどな?
「いいえ。学園は、貴族であればだいたい金貨300枚から500枚、1年間で必要です。平民が優秀だと認められて学園に通う場合や貴重な職を得た場合など、負担を軽くしてもらえることもあったようですが、それでも金貨100枚は必要だと言われています」
……ゲームの無料は違ったのか。なんでだろ?
でも、なんだ、問題ないじゃん。アイテムストレージに金貨だけで500万枚以上残ってるし? 1万人学園に通わせられるよな?
あれ? 1万人参加MMOイベント『王都解放』に対応できちゃうのか?
まあ、金貨なんてアトレーさまんトコでボス周回の合間に鍛冶神ダンジョン4層で戦えばすぐ貯まるし?
戦闘メイド部隊8人で最大でも金貨4000枚? 余裕じゃん。あ、ひょっとして、食費とか宿泊費とかがさらに必要なのかな?
「それに加えて、生活費が必要なんですね?」
「いいえ。先ほど説明した金額には学園の寮費が含まれておりますので、生活費は特に必要ありませんよ?」
「なら、大した額じゃないですね」
「大した額じゃない!? あの、だいたい金貨2500枚くらいは必要なんですよ? 8人だと?」
「……半年で金貨4000枚ほど、収入があるようなので、全く問題ないですね」
「は、半年で金貨4000枚ぃぃぃっ???」
……ハラグロ商会のガイウスさんに追加投資で預けたままだけど、また半年後には、それくらいは稼いでくれそうなんだよな。
ハラグロ商会、なんかいい感じみたいだし。
「……お、お金持ちの、かわいい、弟、アインさま……お金持ちのかわいい弟、アインさま……お金お金お金お金お金がいっぱい4000枚、金ピカまんまる金貨が4000枚……」
女教師が馬車の外、どこか遠くを見ながら、ぶつぶつと何かを口走っているけど、声が小さすぎてよく聞こえないな?
まぁ、顔がなんか面白可愛い感じになってるから、いっか。
学園の話、ビュルテさんからは学園生活のことばっかり聞いてたから、こういう費用面とか、勉強になる。
さすがは女教師! 雇って良かった!
さて。
レベルが伸び悩むのなら、熟練度上げとして戦うのは当然なんだけど、それだけじゃ時間も惜しい。
『われ栄えし商業神に……』
「「「「ワレサカエシショウギョウシンニ・・・」」」」
『……乞い願う……』
「「「「……コイネガウ……」」」」
槍をおれに向かってかまえた戦闘メイド見習いたちが、おれの呪文をリピートアフターミーしている。
せっかくだから魔法スキルも身に付けさせようと、考えたワケだ。
選んだのはまず商業神系特殊魔法初級スキル・ボックスミッツだ。レベル5なら、生産系魔法初級スキル獲得の条件は満たせている。
おれに槍を向けさせてるのは戦闘状態を維持させるため。これは魔法スキルを発動させることができた場合の裏ワザのためでもある。もちろん、修行もさせるけどな。
姉ちゃんも戦闘メイド見習い側で参加している。
『仲間と共に……』
「「「「ナカマトトモニ……」」」」
『その荷を背負うことを……』
「「「「ソノニヲセオウコトヲ……」」」」
姉ちゃんに教える時のように、一文字ずつゆっくり、リピートさせるのではなく、それなりのセンテンスでリピートさせる。
身に付いたらラッキー、程度の部分はある。
『ボックスミッツ』
「「「「ボックスミッツ」」」」
おれと姉ちゃんの横に、魔法の3段ボックスが出現する。
同時に戦闘メイド見習いのうち、エイカとリエルの横に3段ボックスが出現していた。二人はうまく呪文がリピートできたようだ。後の者は、どこかで噛んだり、間違ったりしたんだろうな。
うわぁ、とか、すごいっ、とか、ちょっと戦闘メイド見習いたちが興奮する。
「静かになさい。レーナとキハナは私の横の魔法棚から回復薬をどんどん取り出しなさい。ダフネとゼナはそれを受け取って、エイカとリエルの魔法棚へと移すのです。入り切らなくなったら、ダフネとゼナは入れた物を取り出し、レーナとキハナでエイカとリエルの魔法棚の中身を入れ替えなさい。エイカとリエルはアインへ槍を向けながら集中して! 戦闘状態を途切れさせてはいけません! シトレとウィルはアインへクールタイムスイッチを仕掛けて!」
「「「「はい! イエナさま!」」」」
姉ちゃんの指示に従って、戦闘メイド見習いたちが動き出す。
おれはシトレとウィルの槍カッターをバッケングラーディアスの剣でさばきながら、クールタイムスイッチを受け止める。
ボックスミッツの3段ボックスを戦闘中にひたすら熟練度上げする裏ワザだ。せっかく使えるようになったのなら、一気に熟練度3まで上げてしまえばいい。そうすると3000個入るしな。
「レーナとキハナは交代してクールタイムスイッチへ! シトレとウィルは下がって、魔法棚の入れ替えを!」
「「「「はいっ」」」」
姉ちゃんの指示にいい返事で動く戦闘メイド見習いたち。
うん。
いい感じだ。
これでポーター役ができたし、次はヒーラーかな? 攻撃魔法はどうすっか? 火の神系を身に付けさせるのは悩むとこだよなぁ。
この子たち女の子だから聖女の可能性が0じゃねぇし。デバフ解除を考えたら水の女神系がいいかも。でも水の女神系は攻撃力が1段階低いんだよな……。
交代したレーナとキハナの槍を捌きながら、そんなことを考えて、戦闘メイド部隊の育成計画を修正していく。
「しょ、商業神の御業? 商業神の御業? なんでなんでなんで?? そんなことってある? ありえないありえないありえない……男爵は非常識? これは夢? そうよ、きっと夢に違いないです。そう、こんなの夢みたいです……」
「あれが我らの師匠、アインさまとイエナさまなのだ。早く慣れるべきだぞ?」
「あ、あなた、護衛でしょう? し、師匠? どうなってるんです? ここは、いったい何なのです?」
離れたところで、女教師と女騎士が仲良さそうに話してる。内容は聞こえないけどな。
なんか、ああいうのも、イイよな!
忙しなく3段ボックスのところで動く戦闘メイド見習いたちを見ながら、おれは剣で槍を弾く音をのんびりと楽しんでいた。
頑張る女の子たちって、最高っっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます